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ずっと、ずっと、好きな人がいる。
その人の隣に並んでいたくて苦手なダンスもピアノも勉強も頑張った。
本当は馬に乗るのが怖い。だけど必死で乗馬も覚えた。
初めて会ったのは、お父様にせがんで仕事について王城へ行った6歳の時。
「ここで待っててね」お父様の言葉に「うん」と返事をすると「すぐに戻るから」と言うとわたしの頭を優しく撫でてくれた。
急足で去っていくお父様の背中を見送り一人でベンチに座った。周りにはパンジーやビオラがたくさん植えられていた。
その花を座ってじっと見つめていると目にはいっぱいの涙が………
「……うっ…お父様……」
近くには護衛についてくれているトムがいる。トムは心配そうにわたしを見ているけど「わたしはそばに来ないで」とお願いしたので遠くからそっと見守ってくれていた。
だって、一人で泣きたいんだもの。
お父様にここに置いていかれただけなのに……ただ少し待っているだけなのに……悲しくて……寂しくて…そんな泣き顔を人に見られたくはない。
お母様が亡くなってからお父様がいなくなるのがとても不安で。でもずっと我慢していた。
でも6歳の子供にだってプライドだってあるし、大好きなトムの前で泣いている姿は見せたくないもの。
お子ちゃまみたいに思われるなんて嫌!
「ねぇ?どうして泣いているの?」
目の前に影が……
ーー誰?
俯いていた頭を上げた。
「………泣いてなんていないわ」
真っ赤な目をしているであろうことはわかっているのに、恥ずかしさとほっといてくれないの?と言う腹立ちさから不機嫌に答えた。
「えっ?泣いてるよね?」
もう一度改めてわたしの顔を覗き込んでじっと見てから男の子が言った。
「………泣いてない!」
ムキになって答えると
「やっぱり泣いてたんだ。ここは王城だよ?子供が一人でいるなんて変だよ、それに泣いているし」
男の子の瞳は吸い込まれそうなほどの綺麗な紫色で、その瞳で見られると思わず恥ずかしくなってしまった。
「あ、あの、お父様がお仕事で呼び出されて、ここで待っててと言われたの。それに一人ではないわ。向こうに護衛がちゃんといるもの」
わたしがトムへ視線を向けると男の子もそちらを向いた。
「なんだ、一人じゃないんだ。迷子か捨てられたのかと思ったよ」
「違うわ!」
「じゃあどうして泣いていたの?」
ーーもう!何があっても泣いていたことを認めないといけないのね!
「………今日はお父様と一日中ずっと二人で過ごす約束だったの……なのにお買い物の途中でお仕事で急遽呼び出されて……一日一緒にいられなくなってしまったの」
今日はわたしの誕生日。塞ぎがちのわたしを心配して忙しい仕事の合間になんとか休みを取って1日わたしと一緒にいてくれると約束していた。
別にドレスや宝石、おもちゃや小物が欲しいわけではない。ただ、お母様が亡くなってから家族で過ごすことがなかったからお父様といたかっただけ。
「ふうん、君のお父さんって名前は?」
「ハロルド・ジャワー」
「ジャワー宰相?君、宰相の娘のアーシャ嬢?」
「……うん、お父様をご存知なの?」
「父上が知り合いなんだ」
「あなたのお父様?だからわたしの名前を知っているの?」
「宰相がよく娘の話をしてくれるから。僕の3歳下のアーシャ嬢のことを」
「お父様が?どんなことを話すの?」
「うーん、そうだね。君はピーマンとセロリが嫌いなんだろう?その二つが出るとこっそりハンカチに隠して後で飼っている犬のヨゼフに無理やり食べさせているんだろう?」
「ど、どうしてお父様は知っているの?」
こっそりバレないようにしているのに。
「それに、毎日屋敷の庭園に出て、天気のいい日は木陰で昼寝をしているらしいね?」
「だって……せっかくのいい天気なのよ?もったいないもの。木陰は気持ちがいいし、あそこには精霊たちがたくさん集まっているから落ち着くの」
「へぇアーシャ嬢は本当に精霊が見えるんだ?」
「わからないの?今もここに精霊がいるわ、だけどお父様はいないの」
精霊たちが優しくわたしの頬を撫でてくれた。
「ここに?どこ?」
キョロキョロ見渡す男の子。
「ほら、今わたしの手のひらに乗っているわ」
両手を男の子に見せた。
わたしの手をじっと覗き込む男の子は大きなため息をついた。
「そんなの見えないよ」
「どうして見えないのかしら?こんなに可愛いのに」
小さくて羽の生えた可愛い精霊たち。
たくさんの精霊が今飛び回っている。多分この男の子のことを気に入っているのだと思う。
「ふふふっ、あなたの頭の上に座っている子もいるし髪の毛を引っ張っている子もいるわ。あなたは精霊に好かれているのね?
たまにお気に入りのものが失くなったり、落とし物が突然見つかったりしない?」
「えっ?」
すっごく驚いた顔をした。
「なんで知ってるの?」
「だって精霊が自分たちに気がついて欲しくてこっそり隠したり、あなたが困っているのを知って落とし物を探して見つけてくれたりしているわ」
精霊たちが嬉しそうに羽をパタパタさせて飛び回る。
「君って不思議な子なんだね」
寂しくて泣いていたわたしはその男の子のおかげで涙も止まりお父様が戻ってくるまで男の子とお話をして過ごした。
「アーシャ!待たせてごめん!」
駆け足でお父様がわたしのそばにやってきた。
隣にいる男の子を見てお父様は驚いた顔をして立ち止まり頭を下げた。
「王子殿下にご挨拶申し上げます」
「やあ、宰相、アーシャ嬢と話をしていたんだ」
「アーシャが殿下にご迷惑をおかけしていませんでしたか?」
「お父様、わたし何もしていないわ、お喋りしていたの。でも……王子殿下って……ええっ?王子様?」
「名のり損ねてごめん。僕の名前はシルヴァ・グロス」
王子様なんて知らなくてわたしはシルヴァ様にくだらない話をたくさんしてしまった。
そんな話を隣でニコニコと微笑みながら聞いてくれた。
わたしの初恋の優しい王子様。
そんな彼が今わたしの目の前で………
「君との婚約は破棄させてもらう。僕の愛する人はミランダだけなんだ」
殿下はわたしに婚約破棄を告げミランダ様の腰を引き寄せ優しく抱きしめていた。
二人は微笑み合いわたしを冷たく見下ろした。
「この女を地下牢へ」
その人の隣に並んでいたくて苦手なダンスもピアノも勉強も頑張った。
本当は馬に乗るのが怖い。だけど必死で乗馬も覚えた。
初めて会ったのは、お父様にせがんで仕事について王城へ行った6歳の時。
「ここで待っててね」お父様の言葉に「うん」と返事をすると「すぐに戻るから」と言うとわたしの頭を優しく撫でてくれた。
急足で去っていくお父様の背中を見送り一人でベンチに座った。周りにはパンジーやビオラがたくさん植えられていた。
その花を座ってじっと見つめていると目にはいっぱいの涙が………
「……うっ…お父様……」
近くには護衛についてくれているトムがいる。トムは心配そうにわたしを見ているけど「わたしはそばに来ないで」とお願いしたので遠くからそっと見守ってくれていた。
だって、一人で泣きたいんだもの。
お父様にここに置いていかれただけなのに……ただ少し待っているだけなのに……悲しくて……寂しくて…そんな泣き顔を人に見られたくはない。
お母様が亡くなってからお父様がいなくなるのがとても不安で。でもずっと我慢していた。
でも6歳の子供にだってプライドだってあるし、大好きなトムの前で泣いている姿は見せたくないもの。
お子ちゃまみたいに思われるなんて嫌!
「ねぇ?どうして泣いているの?」
目の前に影が……
ーー誰?
俯いていた頭を上げた。
「………泣いてなんていないわ」
真っ赤な目をしているであろうことはわかっているのに、恥ずかしさとほっといてくれないの?と言う腹立ちさから不機嫌に答えた。
「えっ?泣いてるよね?」
もう一度改めてわたしの顔を覗き込んでじっと見てから男の子が言った。
「………泣いてない!」
ムキになって答えると
「やっぱり泣いてたんだ。ここは王城だよ?子供が一人でいるなんて変だよ、それに泣いているし」
男の子の瞳は吸い込まれそうなほどの綺麗な紫色で、その瞳で見られると思わず恥ずかしくなってしまった。
「あ、あの、お父様がお仕事で呼び出されて、ここで待っててと言われたの。それに一人ではないわ。向こうに護衛がちゃんといるもの」
わたしがトムへ視線を向けると男の子もそちらを向いた。
「なんだ、一人じゃないんだ。迷子か捨てられたのかと思ったよ」
「違うわ!」
「じゃあどうして泣いていたの?」
ーーもう!何があっても泣いていたことを認めないといけないのね!
「………今日はお父様と一日中ずっと二人で過ごす約束だったの……なのにお買い物の途中でお仕事で急遽呼び出されて……一日一緒にいられなくなってしまったの」
今日はわたしの誕生日。塞ぎがちのわたしを心配して忙しい仕事の合間になんとか休みを取って1日わたしと一緒にいてくれると約束していた。
別にドレスや宝石、おもちゃや小物が欲しいわけではない。ただ、お母様が亡くなってから家族で過ごすことがなかったからお父様といたかっただけ。
「ふうん、君のお父さんって名前は?」
「ハロルド・ジャワー」
「ジャワー宰相?君、宰相の娘のアーシャ嬢?」
「……うん、お父様をご存知なの?」
「父上が知り合いなんだ」
「あなたのお父様?だからわたしの名前を知っているの?」
「宰相がよく娘の話をしてくれるから。僕の3歳下のアーシャ嬢のことを」
「お父様が?どんなことを話すの?」
「うーん、そうだね。君はピーマンとセロリが嫌いなんだろう?その二つが出るとこっそりハンカチに隠して後で飼っている犬のヨゼフに無理やり食べさせているんだろう?」
「ど、どうしてお父様は知っているの?」
こっそりバレないようにしているのに。
「それに、毎日屋敷の庭園に出て、天気のいい日は木陰で昼寝をしているらしいね?」
「だって……せっかくのいい天気なのよ?もったいないもの。木陰は気持ちがいいし、あそこには精霊たちがたくさん集まっているから落ち着くの」
「へぇアーシャ嬢は本当に精霊が見えるんだ?」
「わからないの?今もここに精霊がいるわ、だけどお父様はいないの」
精霊たちが優しくわたしの頬を撫でてくれた。
「ここに?どこ?」
キョロキョロ見渡す男の子。
「ほら、今わたしの手のひらに乗っているわ」
両手を男の子に見せた。
わたしの手をじっと覗き込む男の子は大きなため息をついた。
「そんなの見えないよ」
「どうして見えないのかしら?こんなに可愛いのに」
小さくて羽の生えた可愛い精霊たち。
たくさんの精霊が今飛び回っている。多分この男の子のことを気に入っているのだと思う。
「ふふふっ、あなたの頭の上に座っている子もいるし髪の毛を引っ張っている子もいるわ。あなたは精霊に好かれているのね?
たまにお気に入りのものが失くなったり、落とし物が突然見つかったりしない?」
「えっ?」
すっごく驚いた顔をした。
「なんで知ってるの?」
「だって精霊が自分たちに気がついて欲しくてこっそり隠したり、あなたが困っているのを知って落とし物を探して見つけてくれたりしているわ」
精霊たちが嬉しそうに羽をパタパタさせて飛び回る。
「君って不思議な子なんだね」
寂しくて泣いていたわたしはその男の子のおかげで涙も止まりお父様が戻ってくるまで男の子とお話をして過ごした。
「アーシャ!待たせてごめん!」
駆け足でお父様がわたしのそばにやってきた。
隣にいる男の子を見てお父様は驚いた顔をして立ち止まり頭を下げた。
「王子殿下にご挨拶申し上げます」
「やあ、宰相、アーシャ嬢と話をしていたんだ」
「アーシャが殿下にご迷惑をおかけしていませんでしたか?」
「お父様、わたし何もしていないわ、お喋りしていたの。でも……王子殿下って……ええっ?王子様?」
「名のり損ねてごめん。僕の名前はシルヴァ・グロス」
王子様なんて知らなくてわたしはシルヴァ様にくだらない話をたくさんしてしまった。
そんな話を隣でニコニコと微笑みながら聞いてくれた。
わたしの初恋の優しい王子様。
そんな彼が今わたしの目の前で………
「君との婚約は破棄させてもらう。僕の愛する人はミランダだけなんだ」
殿下はわたしに婚約破棄を告げミランダ様の腰を引き寄せ優しく抱きしめていた。
二人は微笑み合いわたしを冷たく見下ろした。
「この女を地下牢へ」
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