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22話
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イアン様が帰ってきてからひと月後、彼の家へ引っ越しをした。
わたし達の世話をしてくれるメイドは、なんとギルの従姉のミーシャだった。幼い頃からギルとよく一緒にいたのでわたしももちろん面識がある。
彼女はシャトナー国だけで過ごすのではなく、外国で暮らしてみたかったらしく、マチルダからの紹介でやって来た。
ミーシャは準男爵の次女で、生活が厳しく貴族の通う学校に行くことが困難だった。
二人で暮らす家は使用人部屋が数室あるので、住み込みで働いてもらうことになった。
狭い家なので、残りの使用人は通いで来てもらう。
ミーシャは、昼間は学校に行くことになった。16歳の彼女にはまだまだ勉強も友人も必要だ、と。
雇うならそれを条件に出すと
「オリエ様、ありがとうございます」と、喜んでくれた。
貴族の学校はお金がかかる、だけどオリソン国には学力とやる気さえあれば平民でも貴族でも通える学校がある。
マーラもそこに通って今は文官として働き出した。
ミーシャにも明るい未来を見つけて欲しい。
カイさんの家を出ていく日、感動の別れになると思ったのに
メルーさんは
「向こうはまだキッチンに何もないはずだからわたしが行って生活しやすいように鍋や調味料を揃えてあげるわ。ミーシャにもわたし直伝の料理を教えないといけないし」そう言って、「さよなら」を言うこともなく一緒に新しい家へ向かった。
マーラは
「オリエ様、部屋が余ってるのなら客間を作ってください。たまにはそっちに泊めて欲しい。仕事で家に帰るのがきつい時は城内にあるお家が楽だもの」
と、自分の私物をいくつか渡された。
枕とかパジャマとか。
カイさんは
「オリエが出て行っても顔出すから心配するな」と言って全く感動の別れなんてなかった。
ギルは
「俺、学校帰りにオリエ様の家に寄ってもいい?」と来る気満々で、
「ミーシャと久しぶりに会える!」とかなりご機嫌だった。
「オリエ、そろそろ行こう」
迎えに来てくれたイアン様と、この数年お世話になった家を出ていく。
イアン様との別れから実家を飛び出して、カイさんの家でお世話になり暮らした。
みんなで笑い合い、辛い時はいつもマーラとメルーさんが抱きしめてくれた。だから頑張れた。カイさんが「お前は俺の娘なんだから」と言って接してくれた。
だから騎士になって、男の人に負けないように必死で頑張れた。
感動の別れはなかったけど、わたしは一度立ち止まり振り返り頭を下げた。
「ありがとうございました」
大きな声でお家に感謝の言葉を言って、馬車に乗り込んだ。
メルーさんは馬車の中で、
「あの家はオリエ様の家でもあるの。いつでも帰って来てね」と言ってくれた。
そして「イアン様が嫌になったり浮気されたら、帰って来れるように部屋はいつでも空けておくから」と、イアン様に微笑んだ。
その笑顔はちょっと怖かった。
「メルーさん、俺、オリエのこと裏切りません!嫌われないように努力します。なあ、オリエ、俺の嫌なところいつでも言ってくれ。料理は苦手だし朝も苦手で、仕事は……かなり忙しくて帰ってこれない時もあるけど、オリエのためなら仕事を放って帰ってくるから!」
イアン様が必死でわたしに言うので可笑しくなって
「わたし何も不満なんてありません。わたしの仕事も理解してくれて、夜勤もあるのに辞めないでまだ働けるので幸せです」
いずれはこの仕事も辞めて家庭に入らないといけない。
イアン様には「一緒に暮らそう」と言われたけどまだ「結婚しよう」とは言われていない。
婚約したわけでもないけど、わたし達は以前結婚していた夫婦。
再婚のことは考えているのかしら?
聞いてみたいけど聞けずにいる。
そして新しい家に着いた。
官僚の家族のための家。二人で暮らして行くには十分すぎる広さがある。
そこにわたしとイアン様が暮らす。
「お帰りなさいませ。イアン様、オリエ様」
ミーシャと新しい使用人達が出迎えてくれた。
わたし達の世話をしてくれるメイドは、なんとギルの従姉のミーシャだった。幼い頃からギルとよく一緒にいたのでわたしももちろん面識がある。
彼女はシャトナー国だけで過ごすのではなく、外国で暮らしてみたかったらしく、マチルダからの紹介でやって来た。
ミーシャは準男爵の次女で、生活が厳しく貴族の通う学校に行くことが困難だった。
二人で暮らす家は使用人部屋が数室あるので、住み込みで働いてもらうことになった。
狭い家なので、残りの使用人は通いで来てもらう。
ミーシャは、昼間は学校に行くことになった。16歳の彼女にはまだまだ勉強も友人も必要だ、と。
雇うならそれを条件に出すと
「オリエ様、ありがとうございます」と、喜んでくれた。
貴族の学校はお金がかかる、だけどオリソン国には学力とやる気さえあれば平民でも貴族でも通える学校がある。
マーラもそこに通って今は文官として働き出した。
ミーシャにも明るい未来を見つけて欲しい。
カイさんの家を出ていく日、感動の別れになると思ったのに
メルーさんは
「向こうはまだキッチンに何もないはずだからわたしが行って生活しやすいように鍋や調味料を揃えてあげるわ。ミーシャにもわたし直伝の料理を教えないといけないし」そう言って、「さよなら」を言うこともなく一緒に新しい家へ向かった。
マーラは
「オリエ様、部屋が余ってるのなら客間を作ってください。たまにはそっちに泊めて欲しい。仕事で家に帰るのがきつい時は城内にあるお家が楽だもの」
と、自分の私物をいくつか渡された。
枕とかパジャマとか。
カイさんは
「オリエが出て行っても顔出すから心配するな」と言って全く感動の別れなんてなかった。
ギルは
「俺、学校帰りにオリエ様の家に寄ってもいい?」と来る気満々で、
「ミーシャと久しぶりに会える!」とかなりご機嫌だった。
「オリエ、そろそろ行こう」
迎えに来てくれたイアン様と、この数年お世話になった家を出ていく。
イアン様との別れから実家を飛び出して、カイさんの家でお世話になり暮らした。
みんなで笑い合い、辛い時はいつもマーラとメルーさんが抱きしめてくれた。だから頑張れた。カイさんが「お前は俺の娘なんだから」と言って接してくれた。
だから騎士になって、男の人に負けないように必死で頑張れた。
感動の別れはなかったけど、わたしは一度立ち止まり振り返り頭を下げた。
「ありがとうございました」
大きな声でお家に感謝の言葉を言って、馬車に乗り込んだ。
メルーさんは馬車の中で、
「あの家はオリエ様の家でもあるの。いつでも帰って来てね」と言ってくれた。
そして「イアン様が嫌になったり浮気されたら、帰って来れるように部屋はいつでも空けておくから」と、イアン様に微笑んだ。
その笑顔はちょっと怖かった。
「メルーさん、俺、オリエのこと裏切りません!嫌われないように努力します。なあ、オリエ、俺の嫌なところいつでも言ってくれ。料理は苦手だし朝も苦手で、仕事は……かなり忙しくて帰ってこれない時もあるけど、オリエのためなら仕事を放って帰ってくるから!」
イアン様が必死でわたしに言うので可笑しくなって
「わたし何も不満なんてありません。わたしの仕事も理解してくれて、夜勤もあるのに辞めないでまだ働けるので幸せです」
いずれはこの仕事も辞めて家庭に入らないといけない。
イアン様には「一緒に暮らそう」と言われたけどまだ「結婚しよう」とは言われていない。
婚約したわけでもないけど、わたし達は以前結婚していた夫婦。
再婚のことは考えているのかしら?
聞いてみたいけど聞けずにいる。
そして新しい家に着いた。
官僚の家族のための家。二人で暮らして行くには十分すぎる広さがある。
そこにわたしとイアン様が暮らす。
「お帰りなさいませ。イアン様、オリエ様」
ミーシャと新しい使用人達が出迎えてくれた。
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