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20話
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「オリエ様!これ、これがいい!」
「うーん、だけど、こんなに買ってもわたし作れないと思うの」
「やってみないとわからないじゃん、これ買おう」
ギルが欲しがっているのは鶏肉。
わたしとしてはとりあえず野菜を切ってサラダ。ハムを切って卵を茹でてサンドイッチ。
ジャガイモと玉ねぎとベーコンでクリームスープくらいで勘弁して欲しいのに、……鶏肉。
姿そのままの鶏肉をわたしにどうしろと言うの?
まともに包丁も持ったことがないのに。いくらメルーさんが料理を教えてくれるからと言っても初心者には初心者なりの物から始めないといけない。
「む、無理。生のそのままのお肉なんて触れないわ」
首を横に振って尻込みした。
「お姉ちゃん、これ朝捌いたばかりだから新鮮だよ!ほらそこにまだ頭と足が残っているだろう?」
そう言われてお店の中の調理場に目を遣ると……
「「ぎゃっ!」」
わたしもギルも叫んでしまった。
「お、おれ、やっぱりいいや。ハムがとってもたべたくなった」
「なんだお兄ちゃん、ビビリだな」
店主が豪快に笑った。
とりあえずハムとついでにベーコンを買って帰ることにした。
「あれは無理ですね」
ギルがボソッと呟いた。
「……うん」わたしも小さく頷いた。
二人でなんとなく無口になりながら帰っていると後ろからドンっと体当たりされた。
「えっ?」
いきなりだったので前に転んでしまった。
そしてわたしが持っていた買い物した食べ物を無理矢理奪われた。
「こらっ!やめなさい!返して!」
ギルが奪って走り去ろうとした男の子の服を掴んで、捕まえた。
「駄目でしょう?人のモノを奪ったら!」
立ち上がりながら怒ると
「離せ!これは俺のものだ!退け!」
男の子はギルに捕まっているのに暴れてなんとか逃げようとしていた。
「警備隊の所へ連れて行ってほしいの?」その言葉にピタッと暴れるのをやめた。
「これがあれば腹を空かせた妹達に飯食わせられるんだ!後で捕まってもいいから頼むからこれ俺にくれよ!」
まだ街には貧しい子供達がたくさんいる。出来るだけ孤児院に入れるようにと努力していても、孤児院が合わないからと出ていく子もいるし、孤児院の院長達大人が私腹を肥やし子供達に碌に食事を与えない孤児院もある。
少しずつ改善させて来ていてもまだまだ問題は残っている。
「君は妹達と子供だけで暮らしているの?」
「父ちゃんが病気で働けないから俺が働いているんだ。だけど俺だけの給金じゃ父ちゃんの薬代払うのがやっとなんだ。弟達、もう3日も何にも食べていない。お願いだからこれを俺にくれよ!後で警備隊に行って罪を償うから!」
「どこ?」
「え?」
「おうちはどこ?」
「……あっち」
男の子が震えながら家の方を指さして教えてくれた。
「わかったわ、ギル、お願いがあるの」
ギルにそっと耳打ちをした。「わかりました」と言ってギルは急いで行ってしまった。
「さあ、じゃあ、貴方のお家へ行きましょう。ところで貴方の名前は何?わたしは近衛騎士のオリエよ」
「えっ?騎士?」
男の子は顔色を変えて「俺もういいです帰ります」と逃げようとした。
「逃げないで!助けたいのでしょう?家族を。だったらわたしをお家に連れて行きなさい。これは命令よ」
「………はい」顔を青くした男の子は「トム」と呟いた。
「トム?貴方の名前ね?」
「うん………本当に助けてくれるの?」
「そのつもりよ。だから安心して」
シャトナー国でも貧しい子供達の問題には苦労した。すぐに解決するのは難しい問題。でもだからと言って放っては置けない。
薄暗い脇道に入った。
貧しさがわかる古い建物の家がたくさん現れた。
その中の一軒に案内された。
台所と食事をする部屋、そしてみんなで雑魚寝をする部屋が一部屋だけだった。
古いボロの毛部を掛けて寝込んでいる父親。顔色も悪く動けない。意識はあるがかなり悪そう。
お金がないので病院にすらいけない。気休めの薬を飲ませて誤魔化している状態だ。
「子供達はどこにいるの?」
「たぶん腹が減ってるから井戸に行って水でも飲んでるんだと思う」
「そう……とりあえず今わたしが持っているものだけでも食べてもらいましょう」
野菜や果物を洗って数枚しかないお皿を借りて置いた。
ハムやベーコンも切って、パンに挟んだ。
おやつとしてクッキーを買っていたのでそれもお皿に盛る。
「連れて来ました」
トムが弟達を探して連れ帰って来た。
「すごい、これ、食べてもいいの?」
お腹を空かせていた弟達がトムに聞いた。
「手を洗ったら食べていいわよ」
「うわあ、すごい、クッキーもある」
「りんごだぁ、たべていい?」
恐る恐る手を出す子供達。
「どうぞ」と言うとそっと手を出して周囲を気にしながら食べ始めた。お腹が空いているのだろう。次から次へと食べ物が減っていく。
「トム、貴方もお腹が空いているでしょう?食べなさい」
「俺はいいです。弟と妹達がお腹いっぱい食べてくれたらそれでいいんです」
頑として食べようとしないトム。
「食べないなら警備隊に突き出すわ」仕方なく脅してみた。
「こいつらが食べ終わったら自首します」
「ほんと頑固ね。トムが何したって言うの?たまたまわたしが道を歩いていたらぶつかっただけでしょう?たまたま落ちていたモノを拾っただけ。何も悪いことなんてしていないわ」
「違う、俺は、俺は……」
「違わない、いいから食べなさい。これは命令よ!ここにある物が無くなっても大丈夫。貴方達がお腹が空かないようにするから、安心して食べなさい」
その間にりんごをすり潰して持っていたミルクで煮込んだ。それを冷まして父親に持って行った。
マチルダがわたしが子供の時、熱を出したらよく食べさせてくれた。
「これくらいならわたしでも出来るわ」
ギルに後で食べさせよう。
そう思いながらトムの父親のところへ持って行き
「少しだけでも食べませんか?」と手渡した。
「ありがとうございます」弱りきった声だった。
「子供達のためにも元気にならないと。後でお医者様に診てもらいますのでもう少ししたら移動しましょう」
「駄目です、我が家にはそんなお金はありません」
「お金がなくても診てくれるお医者様はいるんです、もちろんある時払いなので後日元気になったら払ってくださいね」
「そんな医者なんているわけがない」
驚いた顔をした父親。
まだ一般的に知れ渡っていない。やっと始まったばかりの政策。
貧しい人も医者に診てもらえる制度を作ったばかりだ。
みんなお腹を空かせていた。持ってきた食材は全て無くなっていた。
そんな時、「オリエ様!」とギルがやって来た。
ギルがわかりやすいように何箇所かにハンカチを切って木の枝に結んで道標をしていた。
「馬車の用意をして来ました」
それから父親を馬車に乗せて街に新しく出来た治療院へ連れて行った。
ここは医師を目指す若者達が研修を兼ねて病人を診る場所。
病人は安価で診てもらえる。医師を目指す若者は勉強ができる。一石二鳥になるとイアン様とイーサン様が考えた場所。
もちろん一人はきちんとした医師がいて指導している。
父親は風邪から肺炎を起こし衰弱していた。しばらく入院すれば元気になるだろうと言われた。
その間子供達はわたしが通っている孤児院に一時預かりをしてもらうことになった。
「ここは、勉強を教えてくれるの。短い時間だけどここでしっかり文字や計算を覚えなさい。そうすればもっときちんとした所で働けるわ、知識があれば人に騙されたりしなくて済むし、生きていくためにも大切なことなの」
結局わたしの料理の腕は上がらなかった。
トムのことで数日動き回って、休日は疲れてやはり昼まで寝てしまった。
「オリエ様ってやっぱりそんなんじゃお嫁にいけないと思うぜ」ギルが生意気なことを言った。
もうすぐイアン様がオリソン国に帰ってくる。
待ち遠しい……けど、わたしの料理の腕はあがることはない、こんなわたしで大丈夫なのかしら?
少し不安が残る。
「うーん、だけど、こんなに買ってもわたし作れないと思うの」
「やってみないとわからないじゃん、これ買おう」
ギルが欲しがっているのは鶏肉。
わたしとしてはとりあえず野菜を切ってサラダ。ハムを切って卵を茹でてサンドイッチ。
ジャガイモと玉ねぎとベーコンでクリームスープくらいで勘弁して欲しいのに、……鶏肉。
姿そのままの鶏肉をわたしにどうしろと言うの?
まともに包丁も持ったことがないのに。いくらメルーさんが料理を教えてくれるからと言っても初心者には初心者なりの物から始めないといけない。
「む、無理。生のそのままのお肉なんて触れないわ」
首を横に振って尻込みした。
「お姉ちゃん、これ朝捌いたばかりだから新鮮だよ!ほらそこにまだ頭と足が残っているだろう?」
そう言われてお店の中の調理場に目を遣ると……
「「ぎゃっ!」」
わたしもギルも叫んでしまった。
「お、おれ、やっぱりいいや。ハムがとってもたべたくなった」
「なんだお兄ちゃん、ビビリだな」
店主が豪快に笑った。
とりあえずハムとついでにベーコンを買って帰ることにした。
「あれは無理ですね」
ギルがボソッと呟いた。
「……うん」わたしも小さく頷いた。
二人でなんとなく無口になりながら帰っていると後ろからドンっと体当たりされた。
「えっ?」
いきなりだったので前に転んでしまった。
そしてわたしが持っていた買い物した食べ物を無理矢理奪われた。
「こらっ!やめなさい!返して!」
ギルが奪って走り去ろうとした男の子の服を掴んで、捕まえた。
「駄目でしょう?人のモノを奪ったら!」
立ち上がりながら怒ると
「離せ!これは俺のものだ!退け!」
男の子はギルに捕まっているのに暴れてなんとか逃げようとしていた。
「警備隊の所へ連れて行ってほしいの?」その言葉にピタッと暴れるのをやめた。
「これがあれば腹を空かせた妹達に飯食わせられるんだ!後で捕まってもいいから頼むからこれ俺にくれよ!」
まだ街には貧しい子供達がたくさんいる。出来るだけ孤児院に入れるようにと努力していても、孤児院が合わないからと出ていく子もいるし、孤児院の院長達大人が私腹を肥やし子供達に碌に食事を与えない孤児院もある。
少しずつ改善させて来ていてもまだまだ問題は残っている。
「君は妹達と子供だけで暮らしているの?」
「父ちゃんが病気で働けないから俺が働いているんだ。だけど俺だけの給金じゃ父ちゃんの薬代払うのがやっとなんだ。弟達、もう3日も何にも食べていない。お願いだからこれを俺にくれよ!後で警備隊に行って罪を償うから!」
「どこ?」
「え?」
「おうちはどこ?」
「……あっち」
男の子が震えながら家の方を指さして教えてくれた。
「わかったわ、ギル、お願いがあるの」
ギルにそっと耳打ちをした。「わかりました」と言ってギルは急いで行ってしまった。
「さあ、じゃあ、貴方のお家へ行きましょう。ところで貴方の名前は何?わたしは近衛騎士のオリエよ」
「えっ?騎士?」
男の子は顔色を変えて「俺もういいです帰ります」と逃げようとした。
「逃げないで!助けたいのでしょう?家族を。だったらわたしをお家に連れて行きなさい。これは命令よ」
「………はい」顔を青くした男の子は「トム」と呟いた。
「トム?貴方の名前ね?」
「うん………本当に助けてくれるの?」
「そのつもりよ。だから安心して」
シャトナー国でも貧しい子供達の問題には苦労した。すぐに解決するのは難しい問題。でもだからと言って放っては置けない。
薄暗い脇道に入った。
貧しさがわかる古い建物の家がたくさん現れた。
その中の一軒に案内された。
台所と食事をする部屋、そしてみんなで雑魚寝をする部屋が一部屋だけだった。
古いボロの毛部を掛けて寝込んでいる父親。顔色も悪く動けない。意識はあるがかなり悪そう。
お金がないので病院にすらいけない。気休めの薬を飲ませて誤魔化している状態だ。
「子供達はどこにいるの?」
「たぶん腹が減ってるから井戸に行って水でも飲んでるんだと思う」
「そう……とりあえず今わたしが持っているものだけでも食べてもらいましょう」
野菜や果物を洗って数枚しかないお皿を借りて置いた。
ハムやベーコンも切って、パンに挟んだ。
おやつとしてクッキーを買っていたのでそれもお皿に盛る。
「連れて来ました」
トムが弟達を探して連れ帰って来た。
「すごい、これ、食べてもいいの?」
お腹を空かせていた弟達がトムに聞いた。
「手を洗ったら食べていいわよ」
「うわあ、すごい、クッキーもある」
「りんごだぁ、たべていい?」
恐る恐る手を出す子供達。
「どうぞ」と言うとそっと手を出して周囲を気にしながら食べ始めた。お腹が空いているのだろう。次から次へと食べ物が減っていく。
「トム、貴方もお腹が空いているでしょう?食べなさい」
「俺はいいです。弟と妹達がお腹いっぱい食べてくれたらそれでいいんです」
頑として食べようとしないトム。
「食べないなら警備隊に突き出すわ」仕方なく脅してみた。
「こいつらが食べ終わったら自首します」
「ほんと頑固ね。トムが何したって言うの?たまたまわたしが道を歩いていたらぶつかっただけでしょう?たまたま落ちていたモノを拾っただけ。何も悪いことなんてしていないわ」
「違う、俺は、俺は……」
「違わない、いいから食べなさい。これは命令よ!ここにある物が無くなっても大丈夫。貴方達がお腹が空かないようにするから、安心して食べなさい」
その間にりんごをすり潰して持っていたミルクで煮込んだ。それを冷まして父親に持って行った。
マチルダがわたしが子供の時、熱を出したらよく食べさせてくれた。
「これくらいならわたしでも出来るわ」
ギルに後で食べさせよう。
そう思いながらトムの父親のところへ持って行き
「少しだけでも食べませんか?」と手渡した。
「ありがとうございます」弱りきった声だった。
「子供達のためにも元気にならないと。後でお医者様に診てもらいますのでもう少ししたら移動しましょう」
「駄目です、我が家にはそんなお金はありません」
「お金がなくても診てくれるお医者様はいるんです、もちろんある時払いなので後日元気になったら払ってくださいね」
「そんな医者なんているわけがない」
驚いた顔をした父親。
まだ一般的に知れ渡っていない。やっと始まったばかりの政策。
貧しい人も医者に診てもらえる制度を作ったばかりだ。
みんなお腹を空かせていた。持ってきた食材は全て無くなっていた。
そんな時、「オリエ様!」とギルがやって来た。
ギルがわかりやすいように何箇所かにハンカチを切って木の枝に結んで道標をしていた。
「馬車の用意をして来ました」
それから父親を馬車に乗せて街に新しく出来た治療院へ連れて行った。
ここは医師を目指す若者達が研修を兼ねて病人を診る場所。
病人は安価で診てもらえる。医師を目指す若者は勉強ができる。一石二鳥になるとイアン様とイーサン様が考えた場所。
もちろん一人はきちんとした医師がいて指導している。
父親は風邪から肺炎を起こし衰弱していた。しばらく入院すれば元気になるだろうと言われた。
その間子供達はわたしが通っている孤児院に一時預かりをしてもらうことになった。
「ここは、勉強を教えてくれるの。短い時間だけどここでしっかり文字や計算を覚えなさい。そうすればもっときちんとした所で働けるわ、知識があれば人に騙されたりしなくて済むし、生きていくためにも大切なことなの」
結局わたしの料理の腕は上がらなかった。
トムのことで数日動き回って、休日は疲れてやはり昼まで寝てしまった。
「オリエ様ってやっぱりそんなんじゃお嫁にいけないと思うぜ」ギルが生意気なことを言った。
もうすぐイアン様がオリソン国に帰ってくる。
待ち遠しい……けど、わたしの料理の腕はあがることはない、こんなわたしで大丈夫なのかしら?
少し不安が残る。
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