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11話
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ギルは騎士学校の医務室にいるらしい。
王宮内の馬車乗り場へ行き騎士学校へと向かってもらった。
医務室に行くとブルダがギルのベッドのそばに居た。
わたしもギルの近くへ行くと頭を包帯で巻かれ真っ青な顔をして眠っているギルがいた。
「ブルダ、ギルはどう?」
「オリエ様、ご心配をおかけして申し訳ありません。鍛錬中に木刀が頭にあたり脳震盪を起こしたみたいです、ふらついて倒れて意識を失ったようです」
「怪我の状態は?」
「八針ほど縫いました。まだ意識を取り戻してはいないのですが生命には危険はないと言われました」
「良かった……」
「はい、ほんとバカな奴です」
「ギルは頑張り屋さんよ?」
「理由を聞いて……ギルらしいと思いました。でも馬鹿です」
「理由?」
「……ギルは……腹を立てたんです。そして弱いくせに教官に向かっていって惨敗したんです」
「何かあったのね?ギルが腹を立てるなんて滅多にないわ。どうしても我慢できないことを言われない限りギルが相手に向かっていく訳がないわ」
「はい……」
「理由を教えて」
ブルダは話すことを躊躇っていた。
でもギルは暴力を自ら振るう子ではない。
だからこそ理由を知りたかった。
「………本人に聞いたわけではありません。ギルの仲の良い子がその時の状況を話してくれました……オリエ様のことをたかが女騎士とか顔だけで騎士になって陛下たちに気に入られているとか、嫁にもいけない女だとか、生徒達の前でオリエ様の悪口を言ったらしいのです。ギルがオリエ様と仲が良いことは教官は知らなかったみたいで突然怒って食ってかかってきたギルに対してみんなへの見せしめで、ギルを木刀で殴りつけたらしいです」
「………名前は?」
「え?」
「その教官の名前は?」
「クラウス・ベニングという名前らしいです。伯爵家の次男で28歳だと聞きました」
「わかったわ」
心当たりがあった。以前付き合って欲しいと纏わりついてきたしつこい男。
ハッキリと断った。だからわたしの悪口を生徒たちの前で言っていたのね。
ギルはわたしの悪口を聞いて怒ってくれたのね。確かにギルが教官へ怒って向かっていくのは駄目だと思う。だけど教官ならギルを怪我させないように相手をするのは簡単なはず。
それなのにこんな大怪我をさせるなんて……
「ギルが目が覚めたらブルダがいないと心細いと思うの。そばに居てあげてね」
「オリエ様、貴女もそばに居てあげてください」
わたしは首を横に振ってブルダに微笑んだ。
「わたしはわたしのやるべきことをするわ」
「やめてください!ギルはオリエ様に理由を知られるのは嫌だと思います」
「うん、わかってる。わたしね、自分のことなら悪口なんていくら言われても平気。女騎士だからと甘く見られたり馬鹿にする奴もいる。でも気にしていないわ。だけどわたしの大切なギルが怪我をさせられた落とし前はつけてくるわ」
「貴女は普段はそれこそ怒らない。だけど怒ると後先考えないで行動するのは悪い癖です。ギルより子供ですよ?」
「だから?何?子供でもいいの!ギルをこんな酷い目に合わせたのだから今度はわたしがこの手で酷い目に合わせてやるわ!」
「だから、そんなことしたらギルが悲しみます。自分の所為でオリエ様が罰を受けることになるのですから!」
「だけど悔しいじゃない。わたしはもう騎士の仕事辞めてもいいの」
「オリエ、いい加減に子供みたいなことを言ってブルダを困らせるな」
わたしの背後から声が聞こえてきた。
「イアン様?それに……お父様?」
「暴力に暴力で返してどうする?」
お父様が呆れながらわたしを見た。
「だって、ギルが……」
「ギルの事はこちらできちんと調べて対処する。だから今はオリエはギルのそばに居てあげてくれないか?」
イアン様も手をギュッと強く握りしめていた。
悔しいのはわたしだけではない。ブルダだってイアン様だって腹を立てている。
なのにわたしだけ感情的にクラウス・ベニングを責めようとしていた。
「……クラウス・ベニングはしつこく交際を迫ってきたの。だからハッキリと断ったの。たぶんわたしに対して恨みを持っているからわたしを貶める為に生徒たちの前で悪口を言ったのだと思う」
「振られたら潔く諦めればいいのだ」
お父様が吐き捨てるように言った。
「諦められないからとオリエのことを貶めるなんて同じ男として最低だ」
イアン様もかなり怒っていたけど
「俺なら諦めずにずっと思い続けるけど」
とボソッと付け加えていた。
ーーそれはまだわたしのことを?
一瞬、馬鹿なことを思ったけどそんな事あるわけない。それよりも今はギルのこと。
「イアン様、ギルが受けた暴力、きちんと調べて対処してください。お願いします」
わたしは自分が動いて問題を大きくするよりもきちんと対処してくれる人にお願いすることにした。本当は自分がやっつけたいけど。
「オリエ、わたしからも口添えしておく。これはシャトナー国の留学生に対しての暴力行為だからな。きちんと然るべきところに話しておこう」
「然るべきところ?」
「もちろんだ。陛下に問題提起するつもりだ」
「……それこそ大きな問題になりそう」
「ま、国際問題に成りかねないからね、陛下の耳に入れておくのは仕方ないことだと思うよ。オリエのことを悪く言いふらすし留学生にこんな酷い暴力を振るったんだ」
イアン様もそう言った。
「……わかったわ、ではお二人ともよろしくお願いします」
わたしは自分が動くのは諦めてギルのそばにいることにした。
ギルの寝息を聞きながらブルダと小さな声で話をした。
ギルがどうしてもこの国に来たがったこと。
わたしのことをとても心配して会いたがっていたこと。
イアン様とは実は仲が良くてよく彼の執務室へ遊びに行っていたこと。
この話は初耳でだからギルはイアン様の家に居候したんだとわかった。
「ギルは親が金銭的に大変なのでイアン様のところに居候させて欲しいと言ったのよ?」
わたしがブルダにそう言うと慌てて否定した。
「わたしも妻も働いています!公爵様からはしっかりお給金もいただいております」
「そうよね?そこまで安い給金ではないわよね?」
「ほんとギルの奴恥をかかせやがって!ギルはイアン様がオリエ様のことを諦めきれないことを知っているから自分がなんとかしようと思っているんですよ」
「はあ?何それ?」
「ギルはイアン様にかなり懐いているんですよ。オリエ様のことももちろん大好きですし。お互いまだ好き合っているくせにくっつかないから『ここは俺が一肌脱がなきゃ』と言ってオリソン国に来たんですよ」
「もうギルったら、何勝手なこと言ってるの?」
わたしはブルダの話を聞いて呆れてしまった。
「ま、わたしもギルなら二人を本当にくっつけてしまうんじゃないかと期待して送り出したんですよ。もちろんマチルダも」
ブルダがそう言って笑った顔はやはりギルに似ていて親子だなと思ってしまった。
王宮内の馬車乗り場へ行き騎士学校へと向かってもらった。
医務室に行くとブルダがギルのベッドのそばに居た。
わたしもギルの近くへ行くと頭を包帯で巻かれ真っ青な顔をして眠っているギルがいた。
「ブルダ、ギルはどう?」
「オリエ様、ご心配をおかけして申し訳ありません。鍛錬中に木刀が頭にあたり脳震盪を起こしたみたいです、ふらついて倒れて意識を失ったようです」
「怪我の状態は?」
「八針ほど縫いました。まだ意識を取り戻してはいないのですが生命には危険はないと言われました」
「良かった……」
「はい、ほんとバカな奴です」
「ギルは頑張り屋さんよ?」
「理由を聞いて……ギルらしいと思いました。でも馬鹿です」
「理由?」
「……ギルは……腹を立てたんです。そして弱いくせに教官に向かっていって惨敗したんです」
「何かあったのね?ギルが腹を立てるなんて滅多にないわ。どうしても我慢できないことを言われない限りギルが相手に向かっていく訳がないわ」
「はい……」
「理由を教えて」
ブルダは話すことを躊躇っていた。
でもギルは暴力を自ら振るう子ではない。
だからこそ理由を知りたかった。
「………本人に聞いたわけではありません。ギルの仲の良い子がその時の状況を話してくれました……オリエ様のことをたかが女騎士とか顔だけで騎士になって陛下たちに気に入られているとか、嫁にもいけない女だとか、生徒達の前でオリエ様の悪口を言ったらしいのです。ギルがオリエ様と仲が良いことは教官は知らなかったみたいで突然怒って食ってかかってきたギルに対してみんなへの見せしめで、ギルを木刀で殴りつけたらしいです」
「………名前は?」
「え?」
「その教官の名前は?」
「クラウス・ベニングという名前らしいです。伯爵家の次男で28歳だと聞きました」
「わかったわ」
心当たりがあった。以前付き合って欲しいと纏わりついてきたしつこい男。
ハッキリと断った。だからわたしの悪口を生徒たちの前で言っていたのね。
ギルはわたしの悪口を聞いて怒ってくれたのね。確かにギルが教官へ怒って向かっていくのは駄目だと思う。だけど教官ならギルを怪我させないように相手をするのは簡単なはず。
それなのにこんな大怪我をさせるなんて……
「ギルが目が覚めたらブルダがいないと心細いと思うの。そばに居てあげてね」
「オリエ様、貴女もそばに居てあげてください」
わたしは首を横に振ってブルダに微笑んだ。
「わたしはわたしのやるべきことをするわ」
「やめてください!ギルはオリエ様に理由を知られるのは嫌だと思います」
「うん、わかってる。わたしね、自分のことなら悪口なんていくら言われても平気。女騎士だからと甘く見られたり馬鹿にする奴もいる。でも気にしていないわ。だけどわたしの大切なギルが怪我をさせられた落とし前はつけてくるわ」
「貴女は普段はそれこそ怒らない。だけど怒ると後先考えないで行動するのは悪い癖です。ギルより子供ですよ?」
「だから?何?子供でもいいの!ギルをこんな酷い目に合わせたのだから今度はわたしがこの手で酷い目に合わせてやるわ!」
「だから、そんなことしたらギルが悲しみます。自分の所為でオリエ様が罰を受けることになるのですから!」
「だけど悔しいじゃない。わたしはもう騎士の仕事辞めてもいいの」
「オリエ、いい加減に子供みたいなことを言ってブルダを困らせるな」
わたしの背後から声が聞こえてきた。
「イアン様?それに……お父様?」
「暴力に暴力で返してどうする?」
お父様が呆れながらわたしを見た。
「だって、ギルが……」
「ギルの事はこちらできちんと調べて対処する。だから今はオリエはギルのそばに居てあげてくれないか?」
イアン様も手をギュッと強く握りしめていた。
悔しいのはわたしだけではない。ブルダだってイアン様だって腹を立てている。
なのにわたしだけ感情的にクラウス・ベニングを責めようとしていた。
「……クラウス・ベニングはしつこく交際を迫ってきたの。だからハッキリと断ったの。たぶんわたしに対して恨みを持っているからわたしを貶める為に生徒たちの前で悪口を言ったのだと思う」
「振られたら潔く諦めればいいのだ」
お父様が吐き捨てるように言った。
「諦められないからとオリエのことを貶めるなんて同じ男として最低だ」
イアン様もかなり怒っていたけど
「俺なら諦めずにずっと思い続けるけど」
とボソッと付け加えていた。
ーーそれはまだわたしのことを?
一瞬、馬鹿なことを思ったけどそんな事あるわけない。それよりも今はギルのこと。
「イアン様、ギルが受けた暴力、きちんと調べて対処してください。お願いします」
わたしは自分が動いて問題を大きくするよりもきちんと対処してくれる人にお願いすることにした。本当は自分がやっつけたいけど。
「オリエ、わたしからも口添えしておく。これはシャトナー国の留学生に対しての暴力行為だからな。きちんと然るべきところに話しておこう」
「然るべきところ?」
「もちろんだ。陛下に問題提起するつもりだ」
「……それこそ大きな問題になりそう」
「ま、国際問題に成りかねないからね、陛下の耳に入れておくのは仕方ないことだと思うよ。オリエのことを悪く言いふらすし留学生にこんな酷い暴力を振るったんだ」
イアン様もそう言った。
「……わかったわ、ではお二人ともよろしくお願いします」
わたしは自分が動くのは諦めてギルのそばにいることにした。
ギルの寝息を聞きながらブルダと小さな声で話をした。
ギルがどうしてもこの国に来たがったこと。
わたしのことをとても心配して会いたがっていたこと。
イアン様とは実は仲が良くてよく彼の執務室へ遊びに行っていたこと。
この話は初耳でだからギルはイアン様の家に居候したんだとわかった。
「ギルは親が金銭的に大変なのでイアン様のところに居候させて欲しいと言ったのよ?」
わたしがブルダにそう言うと慌てて否定した。
「わたしも妻も働いています!公爵様からはしっかりお給金もいただいております」
「そうよね?そこまで安い給金ではないわよね?」
「ほんとギルの奴恥をかかせやがって!ギルはイアン様がオリエ様のことを諦めきれないことを知っているから自分がなんとかしようと思っているんですよ」
「はあ?何それ?」
「ギルはイアン様にかなり懐いているんですよ。オリエ様のことももちろん大好きですし。お互いまだ好き合っているくせにくっつかないから『ここは俺が一肌脱がなきゃ』と言ってオリソン国に来たんですよ」
「もうギルったら、何勝手なこと言ってるの?」
わたしはブルダの話を聞いて呆れてしまった。
「ま、わたしもギルなら二人を本当にくっつけてしまうんじゃないかと期待して送り出したんですよ。もちろんマチルダも」
ブルダがそう言って笑った顔はやはりギルに似ていて親子だなと思ってしまった。
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