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10話

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 ニコラスと軽い口喧嘩になってからお互い気まずい。
 一緒に組むことが多いだけに話さないで過ごすのは疲れる。だけどニコラスは話しかけるなオーラが出ていてわたしから話しかけるのも難しい。

「ね、ねぇニコラス?」

「……………なんでしょう?」
 ーー返事が無愛想。

「今日の仕事なんだけど……シャトナー国のバーグル公爵の護衛じゃない?」

「はい、オリソン国とは友好国で我が国との物流も盛んに行われていると聞いています。今回は視察で来られました」

「ええ、そうね。その公爵なんだけど……「オリエ様!」

 人がせっかくニコラスに話しておこうと思っていたのに後ろから久しぶりの声が聞こえてきた。


 振り向いて仕方なく返事をした。
「ブルダ?久しぶりね」

「はい、今回は旦那様の護衛としてついてきました。息子がご迷惑をかけていませんか?」

「ふふ、そんなことないわ。ギルは素直で可愛くていつまで経ってもわたしの可愛いギルよ?」

「先輩?」
 ニコラスが私たちの会話を聞いて驚いていた。

「あ……ごめんなさい。ニコラス、こちらはさっき話していたバーグル公爵の護衛騎士をしているブルダと言うの」

「オリエ様がお世話になっております。今回はお二人とお仕事をご一緒させていただきます。よろしくお願い致します」

「ニコラス、説明しようとしていたの。驚かせてごめんなさい。バーグル公爵はわたしのお父様なの」

「……オリエ先輩の父上?」

「そうなの」

「イアン様はイアン・シャトナー…………シャトナー国の王族ですか?」

「元王太子です」ブルダが答えてくれた。

「……だからお二人は昔からの知り合いだったんですね」

 ニコラスが納得してくれたのでこれ以上の説明はしなかった。と言うかわたしとイアン様が元夫婦だった事は流石に話すべきことではないと思っている。

 ニコラスが納得したのか少しだけ刺々しいわたしへの態度も柔和された気がする。
 だけど逆に少し距離が開いた気はする。

「オリエ先輩、失礼な態度をとって申し訳ありませんでした。公爵令嬢だとは知りませんでした」

「ニコラス、わたしはオリソン国ではただのオリエでしかないの。お願いだから今まで通り接して欲しいの。はっきり言って仕事がやりにくいわ、わたしは女だとか令嬢だったとか関係なく騎士として真剣に仕事をしてきたつもりなの。態度を変えられたくないから誰にも話していないわ。でもニコラスとは一緒に仕事を組む相方だと思っているから話したの」

「……わかりました、オリエ先輩が話してくれて嬉しかったです」

 ーーあ、いつものニコラスの笑顔が。

 彼の笑顔を見てホッとした。

 一緒に仕事をしていて重たい空気の中は疲れる。






「オリエ!ブルダ!」
 お父様の護衛につき今日一日の仕事もあと少しの時間……と思っていたらイアン様が血相を変えて走ってきた。

「どうしたのですか?」

 わたし達が驚きながら聞くと

「ギルが学校で大怪我をしたらしい。俺はまだどうしても手が離せない仕事があるんだ。よかったらギルのところに行ってくれないか?どちらか一人だけでも」

「ブルダ、イアン様に頼んで馬車をだしてもらってギルのところへ行って!わたしも護衛の仕事が終わったら向かうから」

「しかしわたしの仕事は旦那様をお守りすることです」

「わたしは大丈夫だ。護衛は頼んで他の者たちを付けてもらうようにするから。ギルのところへ行ってやってくれ」

「ありがとうございます」ブルダはイアン様について行った。

「バーグル公爵、ありがとうございます」

 お父様に対して頭を下げてお礼を言うと

「君も行くといい。護衛は他の者たちに頼むから、行きなさい」

「オリエ先輩、もう側近の人たちが他の護衛に声を掛けたから行ってください」

 ニコラスが後ろを指差した。
 仲間がこちらに向かってきていた。

「ニコラス、ありがとう。公爵この場を離れることを許していただきありがとうございます」

「いいから行きなさい。ギルはわたしにとっても可愛い息子だ」

 わたしはもう一度お父様の方を振り向き頭を下げた。

 まだ一度も「お父様」と呼ばない親不孝な娘に優しい表情で見つめてくれるお父様。今日一日護衛としてそばに居させてもらえてお父様の仕事ぶりを見て、尊敬できる人だと改めて思った。
 自分の公爵としての地位や他国の貴族だとひけらかすこともせず、相手に対して真摯な態度で対応する姿は好感を持てた。

 そしてギルのことも「可愛い息子」だと言ってくれた。ブルダはずっとわたしの護衛としてついてくれた。ギルもいつもわたしから離れない可愛い弟分だった。わたしが居なくなってからお父様とギルに接点があったのかもしれない。

 お父様を誤解していた日々もあった。わたしは公爵家の為に政略結婚をさせられたと思っていた。離縁して使い道のなくなったわたしは用無しだとさえ思ったこともあった。

 今ならわかる。お父様はわたしのことを愛してくださっていた。護衛についている間、お父様の優しい眼差しに見守られて一日過ごした。
 とても温かくて離れ難くなる、そんな優しさが伝わってきた。

 次は護衛としてではなくて娘としてお父様の前に立ちたい。

「お父様、後日娘として伺っても宜しいでしょうか?」

「………当たり前だ。お前はわたしの大切な娘なんだ」

 わたしはもう一度頭を下げてギルの所へ向かった。

 









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