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6話

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「オリエ様起きてください!」
 せっかくの休日にドアを叩く音が聞こえて来た。

「うっ…まだ…むり」
 寝ぼけながら返事をすると「開けます」と大きな声。

 バンっと音がしたと思ったら、誰かがドアを開けた。
 ベッドの中からそっとドアの方を見ると
「マーラちゃん?………ギ、ギル?……え?イ、イアン様?」
 ーー何故三人がわたしを起こしに来たの?

「もう約束!今日はみんなでピクニックに行くって前から約束していましたよね?」

 マーラちゃんがわたしに言った。

「誰と?」
 ーーわからないから聞いてみた。

「「え?」」
「みんなで?」
 わたしのキョトンとした顔を見てギルが大きく手を叩いた。
「あ!もしかして話すの忘れたかも⁈」

「「はあ?」」

 イアン様がギルを見て

「お前、オリエが行くから俺にも休みを取れと言ったんだろう」

「うん、俺の頭の中ではオリエ様は了承してたんだもん」
 ケロッと言った。

 ーーギルはわたしがイアン様がいたら行かないって言うのわかってたから何もわたしに伝えないで突撃して来たのね。

「もしわたしが用事があると言ったら?」

「え?ないでしょう?カイさん言ってたもん。『あいつ休みはいつもゴロゴロしてる』って!」
 嬉しそうにわたしを見て「ね?だよね?」とわたしに返事をさせようとするギル。

「わたし今日は用事があるから行けないわ」

「う、嘘だ!何の用事?」

「どうしてギルに言わなきゃいけないの?それにわたしまだ寝起き……なの…………あっ、あ、みんな出ていって!」

 寝巻き姿を思いっきりイアン様に見られてしまった。
 結婚している時ですら見られたことがないのに。

 か、髪の毛は…ぐちゃぐちゃだし……顔も洗ってないし…恥ずかしすぎる。

 わたしとイアン様は16歳で結婚して2年も経たないで離縁した。
 それも白い結婚で、彼には側妃までいた。

 わたしはお飾りの妻でしかなかった。
 手を出してもらえるどころか愛を囁いてももらえない、5歳も年下のお人形さんのような「妻」だった。

「もうギル許さないから!」

 ギルは可愛い!
 だけどギルが現れてからわたしの生活は一変した。

 だってもう終わったはずのイアン様がよく目の前に現れるんだもの。

「ねえ、ピクニックに行こうよ。メルーさんがお弁当いっぱい作ってくれたんだ。俺いっつもイアン様の作った不味い食事ばかりなんだ。この国で頼れるのはオリエ様とイアン様しかいないのに。みんなで遊びに行けると思ったのに……」

「な、俺の不味い食事って……仕方がないだろう。普段食堂で済ませているんだから。ギルのために頑張ってるのに……」
 イアン様はギルの言葉がショックだったみたいでぶつぶつ文句を言っていた。

「ねぇ、オリエ様は今日の用事はすぐに終わらないの?俺はオリエ様とイアン様とメルーさんとマーラさんとみんなで行きたいんだ。ライナ様とバズール様とも待ち合わせしてるんだ。それにカトリーヌ様も遊びに来るって!」

「ギ、ギルはライナ様だけではなくてカトリーヌ様とも仲良くなったの?」

「ライナ様が紹介してくれたんだ。オリエ様を愛でる……んんんっ!」

 ギルの口を塞ぐメルーちゃん。

「愛でる?」

「ふふ、オリエ様は知らなくてもいいの。オリエ様、やはり今日の用事は断れませんか?」

 ーー本当は何も用事なんてない。今日はゆっくり眠って好きな本をたくさん読もうと思っていただけ。
 ギルがわたしの部屋に押しかけて来たからイアン様に寝起きの姿を見られてちょっと意地になってただけなのに。

「うん、わかったわ。久しぶりにゆっくりお会いできるのだもの、お断りなんて出来ないわ。でもねギル前もって話しておくのは常識よ!」

 ギルは舌を出して笑っていた。

 つい甘やかして許してしまうのよね。



 急いで支度をするとメルーさんが「これだけでも少し食べておいてね」とお弁当の残りのサンドイッチと温かい豆のスープを出してくれた。

 薄味で豆の味がしっかりとするスープはつい癖になってしまう。

「美味しい」

「だろう?」ギルがわたしの横で大きな欠伸をしながら一緒にスープを飲んでいた。

「早起きしたから眠たくって」欠伸をしながらわたしを見た。

「じゃあ今日は…「もちろん行くよ!」

 ギルは何があっても行きたいのだろう。

「仕方ないわね」そう言って微笑むと
「オリエ様の優しい笑顔が大好き」と笑い返してくれた。

「オリエはギルに甘すぎだから。だからつけあがるんだ!」

「だってギルはわたしの弟みたいな子だから。どうしても甘くなって……「こいつくそ生意気なこと言ったから。俺だって料理は苦手なのに俺なりに頑張っているのに」

 ーーイアン様が料理……想像出来なくてでも思わず考えていると……

「オリエ、何想像してんの?俺だって料理くらい少しはできるようになったんだ」

「そう……すごいですね……」
 王太子様だったイアン様がお一人で料理。

 とても不思議、そんなことしなくてもいくらでも声をかければ作ってくれそうなのに……
 この前言っていた友人の女性とか。

「また想像しただろう?俺は誰にも教わってない自己流だから」

「だからイアン様の料理は不味いんだ」

「不味いって……ちょっと焦げたり生煮えだったり切るのが面倒でそのままの食材を活かして出しているだけだろう?」

「そのままの食材ってさ、トマトはそのまま、きゅうりは切らないで1本そのまま、チキンは外は焦げてて中は生焼け。あと……」

「も、もういいよ、俺が料理が出来ないのは仕方がないだろう?」


 イアン様も気がついたらわたしの前の椅子に腰掛けて美味しそうにスープとサンドイッチを頬張っていた。


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