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番外編 ラフェ③
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わたしが参加したことある夜会は、高位貴族なら侯爵家、だけど大体は伯爵家からのお呼ばれが多かった。
エドワードのお義父様の実家のバイザー家の関係者からは親戚なので呼ばれるだけだったし、エドワードの付き合いで参加することが多かった。
結婚して一年と少しだけ貴族として生活しただけだったわたしにはあまりご縁はなかった。
だから王家主催の夜会はあまりにも華々しく豪華絢爛で息を呑むものであった。
みんなが着ているドレスは有名なデザイナーが作ったものばかり。
周りの婦人同士が『あれはどこのブランドよ』と互いのドレスを見てはコソコソ話をしているのが耳に入ってくる。
王都に来ていくつかの有名ブランドのお店に行ってみて、金額と使われている生地、装飾品に目が奪われた。
田舎者になってしまったわたしにはとても手が出せない。
だけど辺境地で飼われた羊の毛で出来たウールは最近上質だと言われるようになった。
さらに、蚕の飼育をして糸作り、そして生糸を使用して編まれた絹(シルク)の加工までしている。
その自慢の布やレースを使って仕上げたドレスをわたし達辺境伯領の夫人達がそれぞれの個性に合わせて着ることにした。
たくさんの人の目に触れれば、わたし達の手掛けている服飾の販路を広げることができる。
領民達が豊かになるためにみんなで協力して夜会でアピールするつもりだ。
なのに今夜のわたしは貧血気味で立っているのが辛い。グレン様はたくさんの人たちに囲まれて仕事の話。
「ラフェすまない。キツくなったら誰かに声をかけて俺を呼んでくれ。出来るだけ早く仕事の話は終わらせる。早めに帰ろう」
そう言ってわたしを壁際に連れていってくれた。
わたしは壁際にある椅子に座り、華やかな夜会をまるで観劇を見ているかのような気持ちで、のんびりと見ていた。
ミリア様達もわたしを心配して時々声をかけに来てくれる。だけど「大丈夫です」と気を遣わせないように笑って返事をした。
今夜は新しい生地で作ったドレスのお披露目の場所でもある。ここで勢いに乗れば辺境伯領の新しい産業として雇用がさらに生まれる。
女性目線で出来る改革は少しずつだけど成功しつつある。今が、頑張りどころ。
だからわたしも!と思っていたのに、妊娠した身体は思ったようには動いてくれなかった。
「少し外の空気を吸ってこよう」
中庭に出て少しだけ歩いた。
明るく照らし出された庭園はため息が出てしまうほど綺麗だった。
薔薇園は離れていても目がそこへ行ってしまうほど大きく綺麗に咲き誇っていた。
他の花々も色とりどりに咲いている。全て計算されて今夜のために花が咲いていた。
その花々を地面からの灯りが照らし出していた。
「綺麗………」思わず見惚れていると、わたしに話しかけてきた婦人がいた。
「貴女のドレスはどこで作られたのか教えていただきたいの。とても素敵なドレスで気になっていたのよ」
着ている服はかなり高価なものに見えた。身につけている宝石もダイヤをふんだんに使っている40代くらいに見える。
わたしなんかよりかなり高位貴族の奥様だろう。所作がとても綺麗だ。
「ありがとうございます。わたしはラフェ・ノーズと申します」
「まぁ、グレン様の奥様ね?……うん?ラフェ……ミュラー伯爵のご令嬢じゃないの?」
「父をご存知なのですか?」
「もちろんよ。もう随分前にお亡くなりになって廃爵されてしまったけど、とても優秀な方だったわ……貴女のお母様は商売に長けていたから、もし生きていたらこの国で大きな商会を作っていたかもしれないわね」
わたしの姿をまじまじと見つめて言った。
「今ヴァレンシュタイン辺境伯領で、様々な改革が行われていると聞いたわ。養蚕農家から工房まで立ち上げて、良質な絹を作っていると聞いているわ、それを手掛けたのが貴女なのね?さすがメルリス商会の孫娘ね?」
「母は幼い頃亡くなっているのであまり記憶がないのです。わたしはすぐに平民になって暮らし始めたので……でも両親を覚えてくださっている方がいて嬉しいです」
「ふふ、貴方のお父様とは幼馴染だったのよ、シエロは私達に頼ろうともせずさっさと廃爵して平民なってしまうものだから助けることもできなかったの。その後もシエロに援助を申し出たけど断られたのよ。使用人達のあとをお願いしたい、なんてそんなことしか頼まれなかったの」
「そうなんですね」
「それからはシエロは私達に関わろうとしなかったから会うことがなかったの……あの子は平民になり頑張っていたの。貴女のことも気になってはいたけど、シエロが引き取ったと聞いていたから安心していたの」
ーーーまさか兄さんに放置されていたとは思わないわよね。
わたしは苦笑いしながら夫人の話を聞いていた。
「あっ、いけない。わたし名乗るのを忘れていたわね。わたしはカリナ・アストロと言うの。貴女達のドレスにとても興味があるの、少しだけど協力できると思うわ」
「アストロ……公爵夫人?」
高位貴族だとは思っていたけど、まさかの公爵夫人……それもかなりの財産家として有名な人。
「あら?知っててくれたのね?うん?顔色が悪いわね?体調が良くないの?引き止めてしまってごめんなさい」
「あっ、いえ、違うんです。今…妊娠中で軽いめまいがあったので、休んでいたんですが、体調が落ち着いたので外の空気を吸いたくて出てきていたんです」
「そう……誰か護衛はついていないの?」
「はい……黙って出てきました」
「王城の中とはいえ、何かあったらいけないから常に護衛にはついてもらっていないと危ないわ。待ってて」
そう言うと後ろを振り返った公爵夫人。
「ノーズ夫人のために椅子を用意してちょうだい」
「はい」
公爵家の護衛騎士が椅子を持って来てくれた。
「ーーーエドワード……」
エドワードのお義父様の実家のバイザー家の関係者からは親戚なので呼ばれるだけだったし、エドワードの付き合いで参加することが多かった。
結婚して一年と少しだけ貴族として生活しただけだったわたしにはあまりご縁はなかった。
だから王家主催の夜会はあまりにも華々しく豪華絢爛で息を呑むものであった。
みんなが着ているドレスは有名なデザイナーが作ったものばかり。
周りの婦人同士が『あれはどこのブランドよ』と互いのドレスを見てはコソコソ話をしているのが耳に入ってくる。
王都に来ていくつかの有名ブランドのお店に行ってみて、金額と使われている生地、装飾品に目が奪われた。
田舎者になってしまったわたしにはとても手が出せない。
だけど辺境地で飼われた羊の毛で出来たウールは最近上質だと言われるようになった。
さらに、蚕の飼育をして糸作り、そして生糸を使用して編まれた絹(シルク)の加工までしている。
その自慢の布やレースを使って仕上げたドレスをわたし達辺境伯領の夫人達がそれぞれの個性に合わせて着ることにした。
たくさんの人の目に触れれば、わたし達の手掛けている服飾の販路を広げることができる。
領民達が豊かになるためにみんなで協力して夜会でアピールするつもりだ。
なのに今夜のわたしは貧血気味で立っているのが辛い。グレン様はたくさんの人たちに囲まれて仕事の話。
「ラフェすまない。キツくなったら誰かに声をかけて俺を呼んでくれ。出来るだけ早く仕事の話は終わらせる。早めに帰ろう」
そう言ってわたしを壁際に連れていってくれた。
わたしは壁際にある椅子に座り、華やかな夜会をまるで観劇を見ているかのような気持ちで、のんびりと見ていた。
ミリア様達もわたしを心配して時々声をかけに来てくれる。だけど「大丈夫です」と気を遣わせないように笑って返事をした。
今夜は新しい生地で作ったドレスのお披露目の場所でもある。ここで勢いに乗れば辺境伯領の新しい産業として雇用がさらに生まれる。
女性目線で出来る改革は少しずつだけど成功しつつある。今が、頑張りどころ。
だからわたしも!と思っていたのに、妊娠した身体は思ったようには動いてくれなかった。
「少し外の空気を吸ってこよう」
中庭に出て少しだけ歩いた。
明るく照らし出された庭園はため息が出てしまうほど綺麗だった。
薔薇園は離れていても目がそこへ行ってしまうほど大きく綺麗に咲き誇っていた。
他の花々も色とりどりに咲いている。全て計算されて今夜のために花が咲いていた。
その花々を地面からの灯りが照らし出していた。
「綺麗………」思わず見惚れていると、わたしに話しかけてきた婦人がいた。
「貴女のドレスはどこで作られたのか教えていただきたいの。とても素敵なドレスで気になっていたのよ」
着ている服はかなり高価なものに見えた。身につけている宝石もダイヤをふんだんに使っている40代くらいに見える。
わたしなんかよりかなり高位貴族の奥様だろう。所作がとても綺麗だ。
「ありがとうございます。わたしはラフェ・ノーズと申します」
「まぁ、グレン様の奥様ね?……うん?ラフェ……ミュラー伯爵のご令嬢じゃないの?」
「父をご存知なのですか?」
「もちろんよ。もう随分前にお亡くなりになって廃爵されてしまったけど、とても優秀な方だったわ……貴女のお母様は商売に長けていたから、もし生きていたらこの国で大きな商会を作っていたかもしれないわね」
わたしの姿をまじまじと見つめて言った。
「今ヴァレンシュタイン辺境伯領で、様々な改革が行われていると聞いたわ。養蚕農家から工房まで立ち上げて、良質な絹を作っていると聞いているわ、それを手掛けたのが貴女なのね?さすがメルリス商会の孫娘ね?」
「母は幼い頃亡くなっているのであまり記憶がないのです。わたしはすぐに平民になって暮らし始めたので……でも両親を覚えてくださっている方がいて嬉しいです」
「ふふ、貴方のお父様とは幼馴染だったのよ、シエロは私達に頼ろうともせずさっさと廃爵して平民なってしまうものだから助けることもできなかったの。その後もシエロに援助を申し出たけど断られたのよ。使用人達のあとをお願いしたい、なんてそんなことしか頼まれなかったの」
「そうなんですね」
「それからはシエロは私達に関わろうとしなかったから会うことがなかったの……あの子は平民になり頑張っていたの。貴女のことも気になってはいたけど、シエロが引き取ったと聞いていたから安心していたの」
ーーーまさか兄さんに放置されていたとは思わないわよね。
わたしは苦笑いしながら夫人の話を聞いていた。
「あっ、いけない。わたし名乗るのを忘れていたわね。わたしはカリナ・アストロと言うの。貴女達のドレスにとても興味があるの、少しだけど協力できると思うわ」
「アストロ……公爵夫人?」
高位貴族だとは思っていたけど、まさかの公爵夫人……それもかなりの財産家として有名な人。
「あら?知っててくれたのね?うん?顔色が悪いわね?体調が良くないの?引き止めてしまってごめんなさい」
「あっ、いえ、違うんです。今…妊娠中で軽いめまいがあったので、休んでいたんですが、体調が落ち着いたので外の空気を吸いたくて出てきていたんです」
「そう……誰か護衛はついていないの?」
「はい……黙って出てきました」
「王城の中とはいえ、何かあったらいけないから常に護衛にはついてもらっていないと危ないわ。待ってて」
そう言うと後ろを振り返った公爵夫人。
「ノーズ夫人のために椅子を用意してちょうだい」
「はい」
公爵家の護衛騎士が椅子を持って来てくれた。
「ーーーエドワード……」
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