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番外編 ラフェ②
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「なあ、ラフェ」
「何?グレン様?」
二人で夕食を食べているとグレン様がポツッと話し出した。
フォークにくるくるパスタを絡めて、口に入れるグレン様。屋敷を出てこちらに住み始めてからは料理はわたしが作っている。
ただ向こうの屋敷もそのままにはして置けないので週に一度は向こうに顔を出している。その時料理長は嬉しそうに腕に縒りをかけておいしそうなご馳走を作ってくれるのが楽しみになっている。
「今度王都に行かないか?」
「うん?」
「王家主催の夜会がある。夫婦で参加するのが義務なんだ」
「結婚したんだもの。もちろん出席するわ」
「すまない、王都に行くとアルに会える……けど、その後が寂しくなってしまうな」
「うん、だけど子離れしなきゃいけないもの………それに……グレン……わたし………アルの弟か妹がお腹にいるみたいなの」
「えっ?」
「もう33歳だから…諦めていたのに…本当はもう少し安定してから言おうと思ったのだけど……夜会の話が出たから早めに伝えておいた方がいいと思ったの」
「ラフェ、夜会は欠席しよう!仕事は……しばらく休むか?もう何人かの生徒達が先生としてお前の代わりになれるはずだ!ああ、この家ももう少し大きくして、子供と過ごしやすくしなきゃいけないな」
「ちょっと、待って!グレン!夜会は出席できるわ。病気ではないもの」
「しかし……マキナの時……あっ、すまない」
グレン様がマキナ様の名を口にして慌てて口を閉じた。
「グレン様が心配なのはわかってるわ。だけど今は列車が通っているので行き来も楽になったわ。それにわたしの体はそんなに弱くないわ、心配しないで、貴方の妻として夜会に参加させて欲しいの」
「わかった、無理はしないでくれ」
「もちろんよ」
一月後、アレックス様夫婦とご一緒に王都へと向かった。イリア様ご夫婦は後から来ると言っていた。
広いアレックス様のタウンハウスでしばらく過ごさせてもらう。
この屋敷にはグレン様専用の部屋がありわたしもそこでしばらく過ごすことになった。
お腹の赤ちゃんはまだ4ヶ月なので、あまりお腹は目立たない。着いたその日に学校が終わると急いでアルバードがタウンハウスへとやって来た。
タウンハウスによく顔を出しているアルバードはここでもみんなから大切にしてもらっているようだ。
騎士団のみんなを始め使用人のみんなもアルバードが遊びに来ることを楽しみにしてくれているとみんなから教えてもらった。
ほんとみんなに感謝しかない。
「アル、皆さんにはお世話になっているのだからいつでも感謝を忘れないでね」
「はい、お母さん!」
子供から青年へと成長していく年頃。後2年もすればこの国では成人とみなされる。そうなれば責任を伴う。まだまだ子供なのに……つい親としては心配でたまらない。
そばに居てあげたい。だけど辺境地で困った人たちの助けになってあげたい。
やっとみんなの技術が上がり安定した収入を得ることができ始めた。
さらに教育にも力を入れて計算や字を覚えて、少しでも生活を向上させていきたい。
イリア様やアレックス様の奥様達と、女性目線で領地改革を始めている。今わたしが抜けることはできない。
「アル、そばに居てあげられなくてごめんね」
「お母さんは僕が居なくて寂しい?」
「当たり前じゃない。ずっと寂しくていつも貴方と別れる時泣いてしまうわ」
その言葉にアルバードは嬉しそうに笑った。
「僕もとても寂しいです。だけどまた会えると思ったら待つ時間も最近は楽しいなと思ってます」
「うーん、そうね、確かにアルに会えるのを指折り数えるのも楽しみだわ」
「お母さんに紹介したい友達もできました。今度会って欲しいな」
ーーーえっ?女の子?
驚いて思わず返事をするのを忘れていると……
「お母さん?大丈夫ですか?キズリーと言って伯爵令息なんだけどすっごい良い奴なの」
「キズリー様……わかったわ。ぜひ一度お会いしたいわ」
ーーーあっ……アルバードに大切な報告をしなくっちゃ……
「アル、あのね、お母さん…のお腹にね、今、赤ちゃんがいるのよ。アルはお兄ちゃんになるの」
「………えっ?」
アルバードの目が驚きを隠せなかった。固まったままのアルバードにわたしはなんて言っていいのかわからなかった。
ーーーショックだったのだろうか?嫌だった?
アルバードに返事を聞きたいのに怖くてこれ以上話しかけられなくて、アルバードを見つめていた。
「おい、アル、何か言ってやれよ!」
アレックス様が部屋に入って来ていたみたいで苦笑いしながらアルバードに話しかけた。
「あっ………驚いただけだよ。お母さん……ありがとう。僕嬉しいよ!」
「アルが喜んでくれるのが一番嬉しい」
グレン様は親子の会話に口を挟まないで見守ってくれていた。アレックス様だから声をかけてくださった。
わたしはアレックス様に向かってペコッと頭を下げた。
「アルは兄ちゃんになるのか……そうか、もうそんな歳なんだな……ハアー、グレン、お前らの子供と俺の孫の歳が同じだ」
もうすぐアレックス様の息子さんのところも赤ちゃんが生まれる。
今は奥様は実家に帰っているらしい。
「アレックスさまが……おじいちゃん…?」
わたしは想像して、なんだかつい楽しくてクスクスと笑い出した。
そんなやり取りを見ていたアルバードが、グレン様に「少しだけお時間ありますか?お話ししたいことがあります」と言ったことをわたしは知らなかった。
二人はそっと中庭へと足を運んでいたけど、そのことに気がついたのはアレックス様くらいだろう。
わたしはアレックス様と久しぶりに楽しく会話をしていた。アレックス様がわざとしているとも知らずに。
ーーーー
番外編もあと少しです。
もう少しだけお付き合いくださいね。
「何?グレン様?」
二人で夕食を食べているとグレン様がポツッと話し出した。
フォークにくるくるパスタを絡めて、口に入れるグレン様。屋敷を出てこちらに住み始めてからは料理はわたしが作っている。
ただ向こうの屋敷もそのままにはして置けないので週に一度は向こうに顔を出している。その時料理長は嬉しそうに腕に縒りをかけておいしそうなご馳走を作ってくれるのが楽しみになっている。
「今度王都に行かないか?」
「うん?」
「王家主催の夜会がある。夫婦で参加するのが義務なんだ」
「結婚したんだもの。もちろん出席するわ」
「すまない、王都に行くとアルに会える……けど、その後が寂しくなってしまうな」
「うん、だけど子離れしなきゃいけないもの………それに……グレン……わたし………アルの弟か妹がお腹にいるみたいなの」
「えっ?」
「もう33歳だから…諦めていたのに…本当はもう少し安定してから言おうと思ったのだけど……夜会の話が出たから早めに伝えておいた方がいいと思ったの」
「ラフェ、夜会は欠席しよう!仕事は……しばらく休むか?もう何人かの生徒達が先生としてお前の代わりになれるはずだ!ああ、この家ももう少し大きくして、子供と過ごしやすくしなきゃいけないな」
「ちょっと、待って!グレン!夜会は出席できるわ。病気ではないもの」
「しかし……マキナの時……あっ、すまない」
グレン様がマキナ様の名を口にして慌てて口を閉じた。
「グレン様が心配なのはわかってるわ。だけど今は列車が通っているので行き来も楽になったわ。それにわたしの体はそんなに弱くないわ、心配しないで、貴方の妻として夜会に参加させて欲しいの」
「わかった、無理はしないでくれ」
「もちろんよ」
一月後、アレックス様夫婦とご一緒に王都へと向かった。イリア様ご夫婦は後から来ると言っていた。
広いアレックス様のタウンハウスでしばらく過ごさせてもらう。
この屋敷にはグレン様専用の部屋がありわたしもそこでしばらく過ごすことになった。
お腹の赤ちゃんはまだ4ヶ月なので、あまりお腹は目立たない。着いたその日に学校が終わると急いでアルバードがタウンハウスへとやって来た。
タウンハウスによく顔を出しているアルバードはここでもみんなから大切にしてもらっているようだ。
騎士団のみんなを始め使用人のみんなもアルバードが遊びに来ることを楽しみにしてくれているとみんなから教えてもらった。
ほんとみんなに感謝しかない。
「アル、皆さんにはお世話になっているのだからいつでも感謝を忘れないでね」
「はい、お母さん!」
子供から青年へと成長していく年頃。後2年もすればこの国では成人とみなされる。そうなれば責任を伴う。まだまだ子供なのに……つい親としては心配でたまらない。
そばに居てあげたい。だけど辺境地で困った人たちの助けになってあげたい。
やっとみんなの技術が上がり安定した収入を得ることができ始めた。
さらに教育にも力を入れて計算や字を覚えて、少しでも生活を向上させていきたい。
イリア様やアレックス様の奥様達と、女性目線で領地改革を始めている。今わたしが抜けることはできない。
「アル、そばに居てあげられなくてごめんね」
「お母さんは僕が居なくて寂しい?」
「当たり前じゃない。ずっと寂しくていつも貴方と別れる時泣いてしまうわ」
その言葉にアルバードは嬉しそうに笑った。
「僕もとても寂しいです。だけどまた会えると思ったら待つ時間も最近は楽しいなと思ってます」
「うーん、そうね、確かにアルに会えるのを指折り数えるのも楽しみだわ」
「お母さんに紹介したい友達もできました。今度会って欲しいな」
ーーーえっ?女の子?
驚いて思わず返事をするのを忘れていると……
「お母さん?大丈夫ですか?キズリーと言って伯爵令息なんだけどすっごい良い奴なの」
「キズリー様……わかったわ。ぜひ一度お会いしたいわ」
ーーーあっ……アルバードに大切な報告をしなくっちゃ……
「アル、あのね、お母さん…のお腹にね、今、赤ちゃんがいるのよ。アルはお兄ちゃんになるの」
「………えっ?」
アルバードの目が驚きを隠せなかった。固まったままのアルバードにわたしはなんて言っていいのかわからなかった。
ーーーショックだったのだろうか?嫌だった?
アルバードに返事を聞きたいのに怖くてこれ以上話しかけられなくて、アルバードを見つめていた。
「おい、アル、何か言ってやれよ!」
アレックス様が部屋に入って来ていたみたいで苦笑いしながらアルバードに話しかけた。
「あっ………驚いただけだよ。お母さん……ありがとう。僕嬉しいよ!」
「アルが喜んでくれるのが一番嬉しい」
グレン様は親子の会話に口を挟まないで見守ってくれていた。アレックス様だから声をかけてくださった。
わたしはアレックス様に向かってペコッと頭を下げた。
「アルは兄ちゃんになるのか……そうか、もうそんな歳なんだな……ハアー、グレン、お前らの子供と俺の孫の歳が同じだ」
もうすぐアレックス様の息子さんのところも赤ちゃんが生まれる。
今は奥様は実家に帰っているらしい。
「アレックスさまが……おじいちゃん…?」
わたしは想像して、なんだかつい楽しくてクスクスと笑い出した。
そんなやり取りを見ていたアルバードが、グレン様に「少しだけお時間ありますか?お話ししたいことがあります」と言ったことをわたしは知らなかった。
二人はそっと中庭へと足を運んでいたけど、そのことに気がついたのはアレックス様くらいだろう。
わたしはアレックス様と久しぶりに楽しく会話をしていた。アレックス様がわざとしているとも知らずに。
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番外編もあと少しです。
もう少しだけお付き合いくださいね。
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