139 / 146
番外編 ラフェ②
しおりを挟む
「なあ、ラフェ」
「何?グレン様?」
二人で夕食を食べているとグレン様がポツッと話し出した。
フォークにくるくるパスタを絡めて、口に入れるグレン様。屋敷を出てこちらに住み始めてからは料理はわたしが作っている。
ただ向こうの屋敷もそのままにはして置けないので週に一度は向こうに顔を出している。その時料理長は嬉しそうに腕に縒りをかけておいしそうなご馳走を作ってくれるのが楽しみになっている。
「今度王都に行かないか?」
「うん?」
「王家主催の夜会がある。夫婦で参加するのが義務なんだ」
「結婚したんだもの。もちろん出席するわ」
「すまない、王都に行くとアルに会える……けど、その後が寂しくなってしまうな」
「うん、だけど子離れしなきゃいけないもの………それに……グレン……わたし………アルの弟か妹がお腹にいるみたいなの」
「えっ?」
「もう33歳だから…諦めていたのに…本当はもう少し安定してから言おうと思ったのだけど……夜会の話が出たから早めに伝えておいた方がいいと思ったの」
「ラフェ、夜会は欠席しよう!仕事は……しばらく休むか?もう何人かの生徒達が先生としてお前の代わりになれるはずだ!ああ、この家ももう少し大きくして、子供と過ごしやすくしなきゃいけないな」
「ちょっと、待って!グレン!夜会は出席できるわ。病気ではないもの」
「しかし……マキナの時……あっ、すまない」
グレン様がマキナ様の名を口にして慌てて口を閉じた。
「グレン様が心配なのはわかってるわ。だけど今は列車が通っているので行き来も楽になったわ。それにわたしの体はそんなに弱くないわ、心配しないで、貴方の妻として夜会に参加させて欲しいの」
「わかった、無理はしないでくれ」
「もちろんよ」
一月後、アレックス様夫婦とご一緒に王都へと向かった。イリア様ご夫婦は後から来ると言っていた。
広いアレックス様のタウンハウスでしばらく過ごさせてもらう。
この屋敷にはグレン様専用の部屋がありわたしもそこでしばらく過ごすことになった。
お腹の赤ちゃんはまだ4ヶ月なので、あまりお腹は目立たない。着いたその日に学校が終わると急いでアルバードがタウンハウスへとやって来た。
タウンハウスによく顔を出しているアルバードはここでもみんなから大切にしてもらっているようだ。
騎士団のみんなを始め使用人のみんなもアルバードが遊びに来ることを楽しみにしてくれているとみんなから教えてもらった。
ほんとみんなに感謝しかない。
「アル、皆さんにはお世話になっているのだからいつでも感謝を忘れないでね」
「はい、お母さん!」
子供から青年へと成長していく年頃。後2年もすればこの国では成人とみなされる。そうなれば責任を伴う。まだまだ子供なのに……つい親としては心配でたまらない。
そばに居てあげたい。だけど辺境地で困った人たちの助けになってあげたい。
やっとみんなの技術が上がり安定した収入を得ることができ始めた。
さらに教育にも力を入れて計算や字を覚えて、少しでも生活を向上させていきたい。
イリア様やアレックス様の奥様達と、女性目線で領地改革を始めている。今わたしが抜けることはできない。
「アル、そばに居てあげられなくてごめんね」
「お母さんは僕が居なくて寂しい?」
「当たり前じゃない。ずっと寂しくていつも貴方と別れる時泣いてしまうわ」
その言葉にアルバードは嬉しそうに笑った。
「僕もとても寂しいです。だけどまた会えると思ったら待つ時間も最近は楽しいなと思ってます」
「うーん、そうね、確かにアルに会えるのを指折り数えるのも楽しみだわ」
「お母さんに紹介したい友達もできました。今度会って欲しいな」
ーーーえっ?女の子?
驚いて思わず返事をするのを忘れていると……
「お母さん?大丈夫ですか?キズリーと言って伯爵令息なんだけどすっごい良い奴なの」
「キズリー様……わかったわ。ぜひ一度お会いしたいわ」
ーーーあっ……アルバードに大切な報告をしなくっちゃ……
「アル、あのね、お母さん…のお腹にね、今、赤ちゃんがいるのよ。アルはお兄ちゃんになるの」
「………えっ?」
アルバードの目が驚きを隠せなかった。固まったままのアルバードにわたしはなんて言っていいのかわからなかった。
ーーーショックだったのだろうか?嫌だった?
アルバードに返事を聞きたいのに怖くてこれ以上話しかけられなくて、アルバードを見つめていた。
「おい、アル、何か言ってやれよ!」
アレックス様が部屋に入って来ていたみたいで苦笑いしながらアルバードに話しかけた。
「あっ………驚いただけだよ。お母さん……ありがとう。僕嬉しいよ!」
「アルが喜んでくれるのが一番嬉しい」
グレン様は親子の会話に口を挟まないで見守ってくれていた。アレックス様だから声をかけてくださった。
わたしはアレックス様に向かってペコッと頭を下げた。
「アルは兄ちゃんになるのか……そうか、もうそんな歳なんだな……ハアー、グレン、お前らの子供と俺の孫の歳が同じだ」
もうすぐアレックス様の息子さんのところも赤ちゃんが生まれる。
今は奥様は実家に帰っているらしい。
「アレックスさまが……おじいちゃん…?」
わたしは想像して、なんだかつい楽しくてクスクスと笑い出した。
そんなやり取りを見ていたアルバードが、グレン様に「少しだけお時間ありますか?お話ししたいことがあります」と言ったことをわたしは知らなかった。
二人はそっと中庭へと足を運んでいたけど、そのことに気がついたのはアレックス様くらいだろう。
わたしはアレックス様と久しぶりに楽しく会話をしていた。アレックス様がわざとしているとも知らずに。
ーーーー
番外編もあと少しです。
もう少しだけお付き合いくださいね。
「何?グレン様?」
二人で夕食を食べているとグレン様がポツッと話し出した。
フォークにくるくるパスタを絡めて、口に入れるグレン様。屋敷を出てこちらに住み始めてからは料理はわたしが作っている。
ただ向こうの屋敷もそのままにはして置けないので週に一度は向こうに顔を出している。その時料理長は嬉しそうに腕に縒りをかけておいしそうなご馳走を作ってくれるのが楽しみになっている。
「今度王都に行かないか?」
「うん?」
「王家主催の夜会がある。夫婦で参加するのが義務なんだ」
「結婚したんだもの。もちろん出席するわ」
「すまない、王都に行くとアルに会える……けど、その後が寂しくなってしまうな」
「うん、だけど子離れしなきゃいけないもの………それに……グレン……わたし………アルの弟か妹がお腹にいるみたいなの」
「えっ?」
「もう33歳だから…諦めていたのに…本当はもう少し安定してから言おうと思ったのだけど……夜会の話が出たから早めに伝えておいた方がいいと思ったの」
「ラフェ、夜会は欠席しよう!仕事は……しばらく休むか?もう何人かの生徒達が先生としてお前の代わりになれるはずだ!ああ、この家ももう少し大きくして、子供と過ごしやすくしなきゃいけないな」
「ちょっと、待って!グレン!夜会は出席できるわ。病気ではないもの」
「しかし……マキナの時……あっ、すまない」
グレン様がマキナ様の名を口にして慌てて口を閉じた。
「グレン様が心配なのはわかってるわ。だけど今は列車が通っているので行き来も楽になったわ。それにわたしの体はそんなに弱くないわ、心配しないで、貴方の妻として夜会に参加させて欲しいの」
「わかった、無理はしないでくれ」
「もちろんよ」
一月後、アレックス様夫婦とご一緒に王都へと向かった。イリア様ご夫婦は後から来ると言っていた。
広いアレックス様のタウンハウスでしばらく過ごさせてもらう。
この屋敷にはグレン様専用の部屋がありわたしもそこでしばらく過ごすことになった。
お腹の赤ちゃんはまだ4ヶ月なので、あまりお腹は目立たない。着いたその日に学校が終わると急いでアルバードがタウンハウスへとやって来た。
タウンハウスによく顔を出しているアルバードはここでもみんなから大切にしてもらっているようだ。
騎士団のみんなを始め使用人のみんなもアルバードが遊びに来ることを楽しみにしてくれているとみんなから教えてもらった。
ほんとみんなに感謝しかない。
「アル、皆さんにはお世話になっているのだからいつでも感謝を忘れないでね」
「はい、お母さん!」
子供から青年へと成長していく年頃。後2年もすればこの国では成人とみなされる。そうなれば責任を伴う。まだまだ子供なのに……つい親としては心配でたまらない。
そばに居てあげたい。だけど辺境地で困った人たちの助けになってあげたい。
やっとみんなの技術が上がり安定した収入を得ることができ始めた。
さらに教育にも力を入れて計算や字を覚えて、少しでも生活を向上させていきたい。
イリア様やアレックス様の奥様達と、女性目線で領地改革を始めている。今わたしが抜けることはできない。
「アル、そばに居てあげられなくてごめんね」
「お母さんは僕が居なくて寂しい?」
「当たり前じゃない。ずっと寂しくていつも貴方と別れる時泣いてしまうわ」
その言葉にアルバードは嬉しそうに笑った。
「僕もとても寂しいです。だけどまた会えると思ったら待つ時間も最近は楽しいなと思ってます」
「うーん、そうね、確かにアルに会えるのを指折り数えるのも楽しみだわ」
「お母さんに紹介したい友達もできました。今度会って欲しいな」
ーーーえっ?女の子?
驚いて思わず返事をするのを忘れていると……
「お母さん?大丈夫ですか?キズリーと言って伯爵令息なんだけどすっごい良い奴なの」
「キズリー様……わかったわ。ぜひ一度お会いしたいわ」
ーーーあっ……アルバードに大切な報告をしなくっちゃ……
「アル、あのね、お母さん…のお腹にね、今、赤ちゃんがいるのよ。アルはお兄ちゃんになるの」
「………えっ?」
アルバードの目が驚きを隠せなかった。固まったままのアルバードにわたしはなんて言っていいのかわからなかった。
ーーーショックだったのだろうか?嫌だった?
アルバードに返事を聞きたいのに怖くてこれ以上話しかけられなくて、アルバードを見つめていた。
「おい、アル、何か言ってやれよ!」
アレックス様が部屋に入って来ていたみたいで苦笑いしながらアルバードに話しかけた。
「あっ………驚いただけだよ。お母さん……ありがとう。僕嬉しいよ!」
「アルが喜んでくれるのが一番嬉しい」
グレン様は親子の会話に口を挟まないで見守ってくれていた。アレックス様だから声をかけてくださった。
わたしはアレックス様に向かってペコッと頭を下げた。
「アルは兄ちゃんになるのか……そうか、もうそんな歳なんだな……ハアー、グレン、お前らの子供と俺の孫の歳が同じだ」
もうすぐアレックス様の息子さんのところも赤ちゃんが生まれる。
今は奥様は実家に帰っているらしい。
「アレックスさまが……おじいちゃん…?」
わたしは想像して、なんだかつい楽しくてクスクスと笑い出した。
そんなやり取りを見ていたアルバードが、グレン様に「少しだけお時間ありますか?お話ししたいことがあります」と言ったことをわたしは知らなかった。
二人はそっと中庭へと足を運んでいたけど、そのことに気がついたのはアレックス様くらいだろう。
わたしはアレックス様と久しぶりに楽しく会話をしていた。アレックス様がわざとしているとも知らずに。
ーーーー
番外編もあと少しです。
もう少しだけお付き合いくださいね。
74
お気に入りに追加
3,813
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の立場を捨てたお姫様
羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ
舞踏会
お茶会
正妃になるための勉強
…何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる!
王子なんか知りませんわ!
田舎でのんびり暮らします!
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
【完結】これからはあなたに何も望みません
春風由実
恋愛
理由も分からず母親から厭われてきたリーチェ。
でももうそれはリーチェにとって過去のことだった。
結婚して三年が過ぎ。
このまま母親のことを忘れ生きていくのだと思っていた矢先に、生家から手紙が届く。
リーチェは過去と向き合い、お別れをすることにした。
※完結まで作成済み。11/22完結。
※完結後におまけが数話あります。
※沢山のご感想ありがとうございます。完結しましたのでゆっくりですがお返事しますね。
【完結】4公爵令嬢は、この世から居なくなる為に、魔女の薬を飲んだ。王子様のキスで目覚めて、本当の愛を与えてもらった。
華蓮
恋愛
王子の婚約者マリアが、浮気をされ、公務だけすることに絶えることができず、魔女に会い、薬をもらって自死する。
裏切りの代償~嗤った幼馴染と浮気をした元婚約者はやがて~
柚木ゆず
恋愛
※6月10日、リュシー編が完結いたしました。明日11日よりフィリップ編の後編を、後編完結後はフィリップの父(侯爵家当主)のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
婚約者のフィリップ様はわたしの幼馴染・ナタリーと浮気をしていて、ナタリーと結婚をしたいから婚約を解消しろと言い出した。
こんなことを平然と口にできる人に、未練なんてない。なので即座に受け入れ、私達の関係はこうして終わりを告げた。
「わたくしはこの方と幸せになって、貴方とは正反対の人生を過ごすわ。……フィリップ様、まいりましょう」
そうしてナタリーは幸せそうに去ったのだけれど、それは無理だと思うわ。
だって、浮気をする人はいずれまた――
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
婚約者の隣にいるのは初恋の人でした
四つ葉菫
恋愛
ジャスミン・ティルッコネンは第二王子である婚約者から婚約破棄を言い渡された。なんでも第二王子の想い人であるレヒーナ・エンゲルスをジャスミンが虐めたためらしい。そんな覚えは一切ないものの、元から持てぬ愛情と、婚約者の見限った冷たい眼差しに諦念して、婚約破棄の同意書にサインする。
その途端、王子の隣にいたはずのレヒーナ・エンゲルスが同意書を手にして高笑いを始めた。
楚々とした彼女の姿しか見てこなかったジャスミンと第二王子はぎょっとするが……。
前半のヒロイン視点はちょっと暗めですが、後半のヒーロー視点は明るめにしてあります。
ヒロインは十六歳。
ヒーローは十五歳設定。
ゆるーい設定です。細かいところはあまり突っ込まないでください。
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる