【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ

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番外編   アルバード③

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「お父さん!」
 男の子に「オズワルド!待たせて悪かった。行こう」と声をかける男の人。

 キズリーは「あっ」と声をあげた。

 通り過ぎた僕たちをその親子がじっとみているのがわかった。
 だけど僕は振り返らなかった。

 だってあの男の人、一瞬だけどすぐにわかった。

 やっぱり僕と同じ顔をしていた。

 僕のお父さん………だと思った。
 そして僕になんとなく似てる男の子。

 キズリーは一度後ろを振り返り僕の顔を見て気不味そうに「ごめん」とだけ言った。

 僕は首を横に振った。

 そんな時だった。余所見をしていたキズリーが人相の悪い男の人たちにぶつかってしまった。

「いってぇなぁ!坊ちゃん達!」

「うわぁ、ぶつかった所為で腕が動かなくなった」

「おい、なんとか言えよ、治療費を払ってもらおうか?坊ちゃんたち、なぁ?聞こえてるのか?」

 僕とキズリーは男の人たちに怒鳴られて狼狽えてしまった。
 道ゆく人達はチラチラと気の毒そうに見ているけど助けてくれることはなかった。

 あと少し歩けば馬車が待っている。
 ーーーあの角をまがれば……
 
 そこまで走ればなんとかなるかもしれない。そう思ってキズリーの顔を見た。

 だけどキズリーは動揺して固まってしまっている。

 僕たちはまだ13歳だ。しかもキズリーは伯爵令息で、いつもなら護衛の人に守ってもらっている。今日はどうしても僕と二人で過ごしたいからと馬車で待ってもらっていた。

 ーーーどうしよう……キズリーの手を掴んで無理やり走るべき?でもキズリーがこの状態だと走ることもできずに転んでしまうかもしれない。

 ーーーああ、こんな時グレン様が僕たちの年頃ならどうしたんだろう?かっこよく男の人たちをやっつけてしまうのかな。

 このおじさん達は、僕たちからお金を強請っているようだ。

 キズリーは普段お金なんて持ち歩かない。なんなら今は僕の方が持ってるかもしれない。

 ポケットからお金を出そうか悩んでいた。とりあえず有り金を渡すしかこの場をやり過ごす方法はないかもしれない。

 そう思って仕方なくポケットに手を入れた。

 そしてお金を出そうとしたら、その腕を掴まれた。

「やめなさい」

 男の人の声だった。

「あなた達、大の大人がこんな子供達に不当にお金を請求して恥ずかしくないのか?」

「はあ?あんた一体なんなんだ?」

「うん?待て、こいつこの子の父親なんじゃないか?」

「うわぁほんとだ!やべぇ行くぞ」

「なんで?おいあんた!子供の代わりに金を払ってもらおう」
 するとおじさんが……

「金の代わりに警備隊に連れて行く!」

「はっ、男三人を相手に出来るのかよ?」

「ったく、仕方ねぇなぁ、金を払わないんならやるか」

 男の人達が助けてくれた……多分僕のお父さんに向かって殴りかかろうとした。

 男の子は「お父さん!頑張って!」と全く心配もせず応援していた。

 僕はキズリーの腕を引っ張って邪魔にならないように男の子の横に連れて行った。

「あっ、危ない!!」

 男の人たちと闘うおじさん(お父さん?)が殴られそうになって思わず僕も体が動いて殴ってしまった。

 鍛錬を続けてるから闘いには慣れていた。だけど本気で人を殴ったのは初めてで、ちょっと怖かった。

 そんな喧騒の中、警備隊が駆けつけてきた。そしてキズリーの護衛騎士も騒ぎを聞きつけて慌ててやってきた。

「大丈夫ですか?」

「君たち怪我はない?」

 警備隊が僕たちのそばに来て怪我がないか確認をしていた。

 男の人たちは警備隊に捕まって地面に押さえ込まれていた。

 おじさん(お父さん?)は僕たちをチラッと見て「なんともなくて良かった」とだけ言って自分の息子と二人で警備隊に連れられて行ってしまった。

「あ、あの、おじさんは僕たちを助けてくれたんです!悪いことはしていません」

「そうです。僕があの怖いおじさんにぶつかってしまって絡まれているところを助けてくれたんです」
 キズリーも僕と一緒に言い訳をしてくれた。

「大丈夫だよ、捕まえたわけではなく事情を聞くために詰所に来てもらうだけだからね。あの人は元王宮騎士で僕たちも知ってる人なんだ。とても優秀な人だったんだ」

「へぇそうなんだ、今は騎士ではないんですか?」キズリーは興味が湧いたみたい。

「今は公爵家お抱えの騎士団で騎士をしてるよ、うん、君、バイザー様に顔が似てるね?」

 僕の顔をまじまじと見る警備隊の人に、困った顔をして笑った。

「僕はアルバード・ノーズと言います」

「ノーズ家……バイザー様とは関係ないのか」

「アーバンおじさんと親戚です」と答えた。

「アーバン・バイザー様?じゃあ、やっぱり親戚か」

 妙に納得してくれたけど、それ以上聞かないでくれた。
 僕も確信した。

 やっぱりお父さん……そして弟のオズワルド……

 多分僕のことわかって助けたくれた。

 だけど、お互い名乗ることはなかった。

 この王都にいればまたいつかこうやってすれ違うこともあるかもしれない。

 キズリーは馬車に乗って「あの人……アルの……」と呟いたけど僕は聞こえなかったことにした。







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