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番外編 シャーリー ④
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いつもの仕事部屋(執務室もどき)から出て昼食をもらいに廊下を歩いていると、窓の外から見えた姿に思わず立ち止まった。
あれは………
アレックス様?じゃない!
辺境伯の!
コスナー領の近くの!
なんでこの国に?なんでこの屋敷に?
どうでもいい。なんでもいい。
彼に接触しないと。
そうすればこの屋敷から逃げ出せる。
どうしよう。窓を開けて叫ぶ?
それともこのまま走って彼の元へ行く?
すぐに帰るのかしら?
わたしは周りを見渡したが、監視はいない。
今の時間はわたしは女主人がしないといけない書類と帳簿の整理に追われる時間。監視の目が緩んでる。
逃げよう!もう、アレックス様に賭けるしかないわ。
生まれて初めて走った。
貴族令嬢が走るなんてあり得ない。
だけどここでアレックス様を逃したらわたしはこの屋敷から出られない。
もう嫌だ。わたしは自由になりたい。
アレックス様の近くまで走った。
息が切れる。キツイ。
だけど、ここまで来たら女は根性よ!
「ア、アレックス様!」
息を切らしながらもなんとか大きな声を出した。
ヒステリー以外で大きな声を出したのは初めて。
「おーい、アレックス様ぁ!!」
「誰だ?その気の抜けた呼び方をする奴は?」
アレックス様がわたしの方を向いた。
他の人たちもわたしを見ている。
「わたしです!コスナー領に住んでいたシャーリーです!」
「………ふうん、面白いな。なんでお前がここにいるんだ?」
「第五夫人にしてくれるとウィリーが言ったのでこの国に来たんです」
「子供は?旦那は?」
「……………捨てて来ました」
思わず目を逸らしてしまった。
「はっ?お前らしいな。この国に第五夫人なんて名称はない。お前はここで何をしているんだ?娼婦か?」
呆れた声で言われた。
ーーー悔しい。
「ひっどい!わたしはウィリーに愛されて来たのよ!なのに意地悪な執事がわたしを召使いだと言うの!外にも出してもらえないし、ずっと仕事ばかりさせられるのよ!それもほとんど夫人達がしないといけない帳簿や書類ばかりでもう毎日嫌になる!」
「へえ、毎日遊び歩いて我儘ばかりしていたあのシャーリーが毎日仕事?」
「そうよ!……うん?我儘⁈失礼しちゃうわね」
「で、俺になんのようだ?知らない国で知り合いに会えて嬉しくてそんなボロボロの格好で俺に会いに来たのか?」
ーーーボロボロ?
思わず自分の姿を見て……きゃっ、忘れてた!
最近は外にも出してもらえないし、ずっと部屋に篭っていたから質素なワンピースを着てても気にならなくなっていたわ。
アレックス様の周りにいる騎士達が私と目が合って視線を逸らした。
この屋敷の執事はわたしをなんとか止めようとしているのがわかる。だけどアレックス様がそばに居るので何も言えず、イライラしながらわたしを睨みつけている。
このままアレックス様と話を終わらせてしまえば、わたしはこの屋敷でどんな目に遭うかわからない。
だから絶対アレックス様を逃さない。
「うるさいわね!ボロボロなのはこの屋敷でわたしが酷い目にあっているからよ!アレックス様、わたしを助けてちょうだい。こんなところ出て行きたいのに許可証がないと出れないとか言われて出してもらえないの。わたし軟禁されているの」
「な、何を言ってるんです」
執事が慌てて話に割って入ろうとした。
「うるさい!黙っていなさい!わたしはアレックス様と話をしているの!」
おでこの汗を拭きながら執事がわたしを睨みつける。
「勝手にこちらに突撃して来ておいて貴女は何を言い出すかと思えば……ヴァレンシュタイン様に対して有る事無い事失礼なことばかり仰って。ヴァレンシュタイン様申し訳ありません。うちの使用人が厚かましくも話しかけました。おい誰か!この女を連れて行け!」
「い、やあ!アレックス様!助けてよ!こんなところもう嫌なの!」
「証明書。シャーリーが使用人なら雇用証明書くらいあるだろう?」
執事が「へっ?」と声を漏らした。
あれは………
アレックス様?じゃない!
辺境伯の!
コスナー領の近くの!
なんでこの国に?なんでこの屋敷に?
どうでもいい。なんでもいい。
彼に接触しないと。
そうすればこの屋敷から逃げ出せる。
どうしよう。窓を開けて叫ぶ?
それともこのまま走って彼の元へ行く?
すぐに帰るのかしら?
わたしは周りを見渡したが、監視はいない。
今の時間はわたしは女主人がしないといけない書類と帳簿の整理に追われる時間。監視の目が緩んでる。
逃げよう!もう、アレックス様に賭けるしかないわ。
生まれて初めて走った。
貴族令嬢が走るなんてあり得ない。
だけどここでアレックス様を逃したらわたしはこの屋敷から出られない。
もう嫌だ。わたしは自由になりたい。
アレックス様の近くまで走った。
息が切れる。キツイ。
だけど、ここまで来たら女は根性よ!
「ア、アレックス様!」
息を切らしながらもなんとか大きな声を出した。
ヒステリー以外で大きな声を出したのは初めて。
「おーい、アレックス様ぁ!!」
「誰だ?その気の抜けた呼び方をする奴は?」
アレックス様がわたしの方を向いた。
他の人たちもわたしを見ている。
「わたしです!コスナー領に住んでいたシャーリーです!」
「………ふうん、面白いな。なんでお前がここにいるんだ?」
「第五夫人にしてくれるとウィリーが言ったのでこの国に来たんです」
「子供は?旦那は?」
「……………捨てて来ました」
思わず目を逸らしてしまった。
「はっ?お前らしいな。この国に第五夫人なんて名称はない。お前はここで何をしているんだ?娼婦か?」
呆れた声で言われた。
ーーー悔しい。
「ひっどい!わたしはウィリーに愛されて来たのよ!なのに意地悪な執事がわたしを召使いだと言うの!外にも出してもらえないし、ずっと仕事ばかりさせられるのよ!それもほとんど夫人達がしないといけない帳簿や書類ばかりでもう毎日嫌になる!」
「へえ、毎日遊び歩いて我儘ばかりしていたあのシャーリーが毎日仕事?」
「そうよ!……うん?我儘⁈失礼しちゃうわね」
「で、俺になんのようだ?知らない国で知り合いに会えて嬉しくてそんなボロボロの格好で俺に会いに来たのか?」
ーーーボロボロ?
思わず自分の姿を見て……きゃっ、忘れてた!
最近は外にも出してもらえないし、ずっと部屋に篭っていたから質素なワンピースを着てても気にならなくなっていたわ。
アレックス様の周りにいる騎士達が私と目が合って視線を逸らした。
この屋敷の執事はわたしをなんとか止めようとしているのがわかる。だけどアレックス様がそばに居るので何も言えず、イライラしながらわたしを睨みつけている。
このままアレックス様と話を終わらせてしまえば、わたしはこの屋敷でどんな目に遭うかわからない。
だから絶対アレックス様を逃さない。
「うるさいわね!ボロボロなのはこの屋敷でわたしが酷い目にあっているからよ!アレックス様、わたしを助けてちょうだい。こんなところ出て行きたいのに許可証がないと出れないとか言われて出してもらえないの。わたし軟禁されているの」
「な、何を言ってるんです」
執事が慌てて話に割って入ろうとした。
「うるさい!黙っていなさい!わたしはアレックス様と話をしているの!」
おでこの汗を拭きながら執事がわたしを睨みつける。
「勝手にこちらに突撃して来ておいて貴女は何を言い出すかと思えば……ヴァレンシュタイン様に対して有る事無い事失礼なことばかり仰って。ヴァレンシュタイン様申し訳ありません。うちの使用人が厚かましくも話しかけました。おい誰か!この女を連れて行け!」
「い、やあ!アレックス様!助けてよ!こんなところもう嫌なの!」
「証明書。シャーリーが使用人なら雇用証明書くらいあるだろう?」
執事が「へっ?」と声を漏らした。
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