上 下
132 / 146

番外編 シャーリー ③

しおりを挟む
 わたしは結局何も持たずに屋敷を出ることにした。

 なのに門番は「お待ちください。ここを出るには許可証が必要です」と言って出してくれない。

「うるさいわね、執事が出て行っていいと言ったの!退いてちょうだい!」

「旦那様からの許可証をお見せください」

 門番は何があっても門を開けようとしない。

 わたしは門にしがみついて開けようとするも、門番に腕を掴まれて阻止された。

「わたしはこの屋敷を出て行くの!第五夫人のシャーリー様の言うことを聞きなさい!」

「はあ?第五夫人?そんなものはありませんよ?あなたは召使いのシャーリーでしょう?」

 馬鹿にするような笑いに、悔しさが募る。

「な、なんで召使いなの?」

「だって給金ももらえないタダ働きのシャーリーでしょう?」

「違うわよ」

 悔しくて腹が立って暴れてやりたくなる。

 みんなに愛されて暮らして来たのに、なんでこんなことになってるの?

 全て悪いのはお父様。そしてリオのせいよ!

 わたしは美しく、いつも周りにたくさんの人がいて、楽しい日々を過ごしてきた。
 好きなものを買って好きなことをして、好きな人と恋をして、わたしの一生は輝かしいものだった。

「さっさと部屋に戻って頼まれた仕事でもしないと今度から飯すら食べさせてもらえなくなるぞ」

「そうそう、第五夫人なんて嘘つかれてこの国にやって来た間抜けなシャーリー。今までは、まだまともな暮らしをさせてもらっていたんだろう?
 もうバレてしまったから旦那様もあんたに優しくすることはないと思うよ」

「どう言うこと?」

「今までも何人かアンタみたいな女がこの屋敷にやって来たが、みんな最後はこき使われて娼館に売られていくんだ」

「うそ、うそよ!そんなことウィリーがするはずがないわ!わたしのことを愛しているのよ!」

「もうそんな妄想はやめて現実を見た方がいいよ」

 門番達は気の毒そうな顔をする。
 わたしが可哀想?そんな女に見えるの?

「さあ、さっさと自分の部屋に帰りな。もうこの屋敷からは一歩も出られないんだ。出られる時は娼館に行く時だからね」

「退いて!わたしは出て行くわ!」

 門番の体に体当たりした。

「はあー、乱暴なことはしたくなかったが、すまないな」
 門番はそう言うとわたしのお腹に拳をあてた。

「ぐっ…」

 痛いっ!

 お腹が痛くて蹲った。あまりの痛みに耐えられなくて涙がでる。

「痛いだろう?もう諦めて屋敷に戻りな。もう一発なぐられる前に」

 わたしは痛みが少し治まってからよろよろと立ち上がった。

 もう今は部屋に戻るしかない。

 ライルに会おう。そして話してみよう。
 彼がわたしを売るなんてあり得ない。

 そうよ、執事の話を真に受けるなんて、間違っていたわ。

 仕方なく部屋に帰ろうと思い屋敷に戻ると

「お早いお帰りで、部屋はあちらですよ」

 執事が言ったのは、いつものわたしの部屋ではなく使用人達が住む北にある部屋の一つだった。

「わたしの部屋は?」

「あなたは一度出て行かれたのです。だからもうありません。この屋敷に置いて欲しければ北の部屋に住むことです」冷たい言葉。

「別にここに置いて欲しいわけではないわ。出て行こうとしたのに許可証がなければ出られないと言われたの。だからライルと話したいと思ったの」

「『旦那様』です。名前を呼び捨てにするなどあってはならないのです。召使いのあなたが」

「め、召使い?違うわ」

「ライルにあわ……「『旦那様』です!何度言ったらわかりますか?」

 ビシッ!

 執事が持っている鞭で手の甲を叩かれた。

「痛いわ!酷い!なんてことをするの?」

「教育です。召使いとしてこれからはきちんと教えて差し上げなければいけませんね。まずは言葉遣い。『旦那様』と言えるようになりましょう」

「ふざけないで!ライルに会わせて!」

 ビシッ!

「もう痛いじゃない!」

「『旦那様』です」

「だ、旦那様に会わせてちょうだい」

「召使いが会えるわけがないでしょう?」

「はああ?なに?せっかくライルのこと旦那様と呼んであげたのに!」

 ビシッ!

「もう痛いじゃない!」

 ーーーこんな生活望んでなかった!

 ちょっと失敗すればこうして鞭で叩かれる。

 部屋も狭いし薄暗くてちょっとカビ臭い。

 ベッドと簡素な棚があるだけ。

 これならリオと暮らしていた方がよっぽどマシだったわ。

 仕事なんてしたこともなかったのに、毎日山のような書類整理をさせられる。適当にすればまた鞭で打たれる。

 誰か助けてよ!

 ライルの姿はたまに屋敷で見るけど近くに行かせてもらえない。

 常に誰かの目があってそこから逃げることができない。

 ライルの第一夫人から第四夫人まではいつも華やかなドレスを着て楽しそうに暮らしているのに……

 わたしは簡素なワンピースを着て朝から晩まで書類と向き合うだけの日々。

 逃げることもできない。


 そんな時、知っている顔を見かけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

私がいなければ。

月見 初音
恋愛
大国クラッサ王国のアルバト国王の妾腹の子として生まれたアグネスに、婚約話がもちかけられる。 しかし相手は、大陸一の美青年と名高い敵国のステア・アイザイン公爵であった。 公爵から明らかな憎悪を向けられ、周りからは2人の不釣り合いさを笑われるが、アグネスは彼と結婚する。 結婚生活の中でアグネスはステアの誠実さや優しさを知り彼を愛し始める。 しかしある日、ステアがアグネスを憎む理由を知ってしまい罪悪感から彼女は自死を決意する。 毒を飲んだが死にきれず、目が覚めたとき彼女の記憶はなくなっていた。 そして彼女の目の前には、今にも泣き出しそうな顔のステアがいた。 𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷 初投稿作品なので温かい目で見てくださると幸いです。 コメントくださるととっても嬉しいです! 誤字脱字報告してくださると助かります。 不定期更新です。 表紙のお借り元▼ https://www.pixiv.net/users/3524455 𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】用済みと捨てられたはずの王妃はその愛を知らない

千紫万紅
恋愛
王位継承争いによって誕生した後ろ楯のない無力な少年王の後ろ楯となる為だけに。 公爵令嬢ユーフェミアは僅か10歳にして大国の王妃となった。 そして10年の時が過ぎ、無力な少年王は賢王と呼ばれるまでに成長した。 その為後ろ楯としての価値しかない用済みの王妃は廃妃だと性悪宰相はいう。 「城から追放された挙げ句、幽閉されて監視されて一生を惨めに終えるくらいならば、こんな国……逃げだしてやる!」 と、ユーフェミアは誰にも告げず城から逃げ出した。 だが、城から逃げ出したユーフェミアは真実を知らない。

終わっていた恋、始まっていた愛

しゃーりん
恋愛
結婚を三か月後に控えた侯爵令嬢ソフィアナは、婚約者である第三王子ディオンに結婚できなくなったと告げられた。二つ離れた国の王女に結婚を申し込まれており、国交を考えると受けざるを得ないということだった。ディオンはソフィアナだけを愛すると言い、ソフィアナを抱いた後、国を去った。 やがて妊娠したソフィアナは体面を保つために父の秘書であるルキウスを形だけの夫として結婚した。 それから三年、ディオンが一時帰国すると聞き、ディオンがいなくても幸せに暮らしていることを裏切りではないかと感じたが思い違いをしていたというお話です。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

処理中です...