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129話  最終話

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 7年ぶりの王都。

 少しだけ変わった風景。

 列車が通り駅が出来てその周りにはたくさんの新しい店が出来ていた。

 道も舗装されて馬車が走りやすくなっていた。

 友人のお店も建て直して店が大きくなっていた。辺境伯領で縫った服はこのお店にも卸している。わたし達のお得意さんでもある。

 兄さんの職場も新しい場所に移転していた。

 会計事務所になり数人の従業員も雇い忙しそうに働いている。
 だけど家の場所は変わっていない。

「ラフェが遊びに来た時、帰る場所は変えたくなかったんだ」

 兄さんは照れながらそう言った。

 お義姉さんは「まだ嫁にも行ってないんだもん。ここから今度はちゃんと嫁に出さないといけないからね」と気まずそうに言う。

「2度目の嫁入りはもうないと思うけど」
 苦笑するしかなかった。

 アルバードは二人にすぐ懐いた。
 王都にはたまにグレン様に付いて来ていたので、何度か顔は出していたらしい。

 グレン様はわたしと別れてからもアルバードとの友人関係は続けてくれた。そしてわたしとも友人として接してくれている。

 次の日、アレックス様の屋敷に行く前にわたしはアルバードを連れて以前住んでいた家に向かう。

 そこには別の家族が住んでいた。

 全く知らない人達。近所の人と楽しそうに話している姿を見て懐かしさと寂しさを感じてしまった。

 まだ距離が少し離れていたわたし達を見つけた隣のおばちゃん。
「ラフェ?」と大きな声でわたしを呼んだ。

「あっ、はい!」思わずわたしも大きな声で返事した。

「隣にいるのはアルかい?」
「アル?うわぁ、大きくなったな」
「本当だ、久しぶりだな!」

 みんな覚えていてくれた。

 すぐにわたし達の周りには人溜まりができた。

 アルバードの手を握り涙ぐむ隣のおばちゃんとおじちゃん。

 ここにもアルは何度か来ているらしい。会うたびにこうして喜んでくれるとアルバードが教えてくれた。



 お世話になった人達が変わらずこの場所に居てくれた。
「あんた、あのグレン様と再婚しなかったって?」

 ズバズバとおばちゃんが言ってくる。

「あはは、なんかそんなことになってしまいました」

「おばちゃん、グレン様とは友達として仲良くしてるよ」

 アルバードが横から話に入ってきた。

「あら?別れたんじゃなくて?まぁグレン様は諦めないだろうね、あれだけあんたに惚れてたからね」

 ーーーそんなに?

「そうそう、馬鹿みたいに通ってきてたからね。まぁ最初は本人も自覚なかったみたいだけど」

「確かに。アルに会いにきてるだけってよく言ってたもんな。そのわりにラフェのこと目で追ってたけど」

「アルが変な薬を飲まされたときは、グレン様怖かった、徹底的にこの辺を調べ上げてたもんな」

「グレン様ほどラフェを思っている人はいないと思うぞ、多分今もそうなんじゃないのか?」

「………わかりません」

 ーーーそうわからない。
 7年の時が愛から友情へと変わっていったのかもしれない。もう今は互いにそんな話にはならない。

 たまにお茶を一緒に飲んだり、たわいもない話をするだけの関係。なのに周りはいまだに放っておいてくれない。

 苦笑いをしているとおばちゃんに背中をバンッと叩かれた。

「ラフェ、あんたの気持ちはあんたのものだ。だけどあんたは笑ってる方がいい。そんな顔しないでおくれ」

「…そんな顔?」

「アルの前でもそんな寂しそうな顔してたら、アルが気を遣うだろう?ねぇアル?お母さんが笑ってくれるのが一番だよね」

「うん!お母さんは……グレン様が来ると嬉しそうな顔をするのに帰る時は寂しそうな顔をしているんだ」

 ーーーうそ……わたしそんな顔してたの?

 アルがそんなこと思っていたなんて知らなかった。




「それは本当なのか?」

 後ろから声が………

「グレン様!」アルバードが嬉しそうに走って行く。

 わたしは恥ずかしさと驚きで思わず後ろに一歩後ずさった。

「えっ?わたし………あ、あの、えっと」

「グレン様、お母さんが話があるみたい。僕はおばちゃん達と家の中に入ってお土産のお菓子でも食べてるから!」

 そう言うとさっさとおばちゃんの家に入っていった。

 残されたわたしはグレン様と二人っきり……


「………………」

「…………ラフェ、よかったら一緒に散歩でもしないか」

「…はい」



 しばらくただ歩いていた。

 昔と変わらない景色を嬉しく思いながら歩いていた。
 王都の中心の街の中とは違い、ほとんど変わっていない風景にホッと心が落ち着く。

「俺は……このままラフェとアルの近くで生きていけたらそれでいいと思ってた。それ以上は求めたらダメだと……」

「わたしもグレン様の近くにいられて嬉しかったです……でももう終わった関係だと思っていました」

「諦めたわけじゃないんだ。だけど、ラフェの気持ちも考えないで無理やり結婚を迫るのはもうやめようと思ったんだ。あの屋敷にラフェが住むのが嫌なら無理して結婚しなくてもいいんじゃないかと思った」

「覚悟がなかったんです。マキナ様の愛した貴方をそしてあの家に住む覚悟が。マキナ様の思い出が残っている大切な屋敷にわたしが簡単に入り込んではいけないと思ったし、入り込めませんでした」

「すまない、そこまで考えていなかった」

「ずるいんです、貴方と別れたはずなのに、アルで繋がっていることにいつもホッとしていました」

「ラフェが狡いのなら俺も狡い男だ。アルに『グレン様とはずっと一緒だよ、それにお母さんを守るのは僕とグレン様の仕事だから』と言われてるんだ。その言葉を今もずっと勝手に言い訳にしてる」

「アルが?」

「俺の屋敷を出たあと、アルが『もうおとうさんってよんだらダメなの?でもずっといっしょ、だよね』と言ってくれたんだ。それからもアルはそう言ってくれる」

「わたし………やっぱり意地っ張りなのかな……」

「俺はずっとラフェを愛してる……だけど無理強いはしたくない……あの屋敷が嫌なら三人だけで暮らせる家を建ててもいい。あの頃のラフェはそう言っても聞き入れてはくれなかっただろうから何も言わなかった」

「うん、無理だった。だって自信がなかっもの」

「今は?」

「わかんない……だけど、グレン様に会えると嬉しい」

「俺はずっとお前に会いたい。ずっと今も愛している」









「ねぇお母さん、あの僕たちが住んでた家、今住んでる人アーバンおじさん夫婦だって知ってた?」

「えっ、嘘?」

「アーバンのお嫁さんと娘さんなんだって!僕のいとこになるんだよね?」

「知らなかった……アーバンとは連絡を取ることもなかったから……エリサがアーバンに貸したのね」
 エリサもわたしもアーバンも同級生なので友人達だもの。そんなこともあるのか。



「僕、王都の学校に通いたい。駄目かな?」

「どうしてそう思ったの?」

「グレン様に何度か王都に連れてきてもらったでしょう?知らない事がまだたくさんあるんだ、この王都でいっぱい勉強したい。そして辺境伯領に戻ってきてグレン様やアレックス様の元で働きたいんだ」


 いつの間にか自分でこれから先の未来を決めていたアルバード。

「兄さんに相談してみる。わたしは一緒に王都には住めないから」

 まだ向こうで生徒が待ってるもの。王都に住むことはできない。

「寮に入りたいと思ってるんだ。学費は成績が優秀だったら免除されると聞いたんだ。だから試験絶対頑張る!お母さんには心配かけないようにするからね」

 アルバードは父親のエドワードに似て成績優秀。
 有言実行するだろう。この子なら。



「お母さんはさっさとグレン様と結婚して幸せになりなよ」

「アル……」

「僕はもう11歳だよ。守られてばかりじゃなくお母さんを守れるようになりたい」

「やだ……アルが離れていくのは淋しいよ」

「……僕も。だから僕がいつでも帰って来れるようにグレン様と二人で待ってて欲しいんだ」





       終わり。






 読んでいただきありがとうございました。













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