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125話
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◆ ◇ ◆ グレン
屋敷に帰るとアルは楽しそうに使用人達と遊んでいた。
「アル、ただいま。ラフェは?お母さんは何処にいるんだ?」
「おかあさん……つかれて、ねてる」
さっきまで笑っていたのに俺の言葉を聞いて顔を曇らせたアル。
俺はすぐに執事を呼んだ。
「何かあったのか?アルの様子が変だ。それにラフェが寝てるとは?医者は呼んだのか?」
「あっ、いえ、午前中にイリア様が突然来られたのです、そしてアレックス様もおいでになり、ラフェ様はお疲れになったのだと思います」
「イリアがなんでここに?」
「…………ラフェ様とグレン様の結婚が許せなかったらしく、キツイ言葉をラフェ様に仰っておりました」
「どう言うことだ?詳しく話してくれ」
執事に話を聞いて俺は頭を抱えた。
イリアは俺にとって妹のような存在だ。マキナのことも姉のように慕っていた。
だがまさかラフェに直接会いにきて、そんなことを言うなんて思ってもみなかった。
「ラフェは?寝ているのか?」
「メイドが顔を見にいったのですが、ベッドで眠られていてよくわからなかったそうです。声をかけたのですが返事がなかったみたいです」
「……そうか」
「イリア様達が帰られてすぐは必死で笑顔で過ごされていたんです。でも昼食も摂られず気分が悪いと言って部屋に入られたっきり出て来ません」
ラフェの眠る寝室へ向かった。
まだ夕方で外は明るいはずなのに部屋の中はカーテンで閉め切られ真っ暗だった。
「ラフェ?」
小さな声でラフェに声をかけた。
やはり返事はなかった。
彼女の顔を覗くと小さな寝息が聞こえてきた。
そして………その寝顔には……涙のあとがあった。
ラフェを傷つけた。それは俺の不注意だ。
マキナの両親に挨拶をしておけばなんとかラフェを守れたと思っていた。
だけどこの領地にはラフェにとって頼れる味方はいない。
アレックス様や顔見知りの騎士達はいても、ラフェが自分から頼っていける人はいないのに、おれは来たそうそうラフェを置いて元妻の両親に会いに行き、元妻の墓参りなんかしていた。
そこさえ済ませればラフェはもうこの領地で気兼ねなく暮らせるなんて馬鹿なことを思っていた。
「ラフェ、ごめんな。お前は俺のためにこんな辺境地までついて来てくれたのに。領民のために頑張ると言ってくれたのに、傷つけてすまなかった」
眠るラフェの髪を優しく撫でた。
本当ならすぐアレックス様のところに向かい話をしに行きたかった。
だけど、今はラフェのそばにいてやりたい。
また感情だけで動けばラフェが目覚めた時寂しい思いをする。それだけは避けたかった。
メイド長に声をかけた。
「ラフェが目覚めた時お腹が空いているだろうから何か食べるものを用意しておいてくれ」
「いつでも出せるようにしております。みんな腹が立っているのです!あんな酷いことを言われて!
それでも毅然とした態度でラフェ様は対応しておりました」
「そうか……」
「イリア様はラフェ様のことを平民だとか子供を押し付けたとか酷いことばかり………「やめなさい」
執事が横から入って来た。
「メイド長、それ以上は言ってはだめだ」
「いや、いいんだ」
「失礼いたしました」
「来たばかりのラフェのために怒ってくれてありがとう」
「わたしは……ラフェ様の作られた騎士服をたくさんこちらで見させていただきました。騎士達が皆動きやすいように驚くほど丁寧に縫われております。
男の人たちは動きやすくていいとしか思わないかもしれませんが、女の私達にはわかります。
ひと針ひと針相手のことを思い遣って縫っていることが。細かいところに気を遣わなければあんなに丈夫で動きやすく縫うことはできません。
縫った人の…ラフェ様の、為人がわかるのです」
「そうなのか……ありがとう、メイド長。その言葉が嬉しいよ、ラフェはずっと苦労してきたんだ、俺は彼女を幸せにしてやりたい。
だが俺は粗雑で女の気持ちがわからないところがある。だから、俺が気が付かないところは教えて欲しい」
「もちろんです。私たちの大切な奥様になられるのですから」
メイド長はそう言うと頭を深々と下げた。
執事に向かってボソッと言った。
「なぁ俺ってほんと駄目だな。マキナのことは忘れたわけではない。だけどマキナのことは大切な思い出として心にしまって、今はラフェ達大切にしたいんだ。
それはいけないことなのか?一生マキナだけを思い暮らしていくべきだったのか?
俺もそうしようと思ってきた。だけど……ラフェとアルと知り合って止まっていた俺の心の時がやっと動き出したんだ」
「わたしが語るべきことではないと思いますが、この数年のグレン様は死んだように生きておりました。
やっとグレン様の表情が明るくなったのです。私達はそれだけで十分嬉しく思っております。
ーーそれが答えだと思います」
「…………ありがとう、これからラフェとアルをよろしく頼む。力になってやってくれ」
「もちろんです」
ラフェが目が覚めたらラフェともう一度しっかり話をしよう。
そう思ってラフェが起きるまで俺はこの部屋でラフェを見守ることにした。
屋敷に帰るとアルは楽しそうに使用人達と遊んでいた。
「アル、ただいま。ラフェは?お母さんは何処にいるんだ?」
「おかあさん……つかれて、ねてる」
さっきまで笑っていたのに俺の言葉を聞いて顔を曇らせたアル。
俺はすぐに執事を呼んだ。
「何かあったのか?アルの様子が変だ。それにラフェが寝てるとは?医者は呼んだのか?」
「あっ、いえ、午前中にイリア様が突然来られたのです、そしてアレックス様もおいでになり、ラフェ様はお疲れになったのだと思います」
「イリアがなんでここに?」
「…………ラフェ様とグレン様の結婚が許せなかったらしく、キツイ言葉をラフェ様に仰っておりました」
「どう言うことだ?詳しく話してくれ」
執事に話を聞いて俺は頭を抱えた。
イリアは俺にとって妹のような存在だ。マキナのことも姉のように慕っていた。
だがまさかラフェに直接会いにきて、そんなことを言うなんて思ってもみなかった。
「ラフェは?寝ているのか?」
「メイドが顔を見にいったのですが、ベッドで眠られていてよくわからなかったそうです。声をかけたのですが返事がなかったみたいです」
「……そうか」
「イリア様達が帰られてすぐは必死で笑顔で過ごされていたんです。でも昼食も摂られず気分が悪いと言って部屋に入られたっきり出て来ません」
ラフェの眠る寝室へ向かった。
まだ夕方で外は明るいはずなのに部屋の中はカーテンで閉め切られ真っ暗だった。
「ラフェ?」
小さな声でラフェに声をかけた。
やはり返事はなかった。
彼女の顔を覗くと小さな寝息が聞こえてきた。
そして………その寝顔には……涙のあとがあった。
ラフェを傷つけた。それは俺の不注意だ。
マキナの両親に挨拶をしておけばなんとかラフェを守れたと思っていた。
だけどこの領地にはラフェにとって頼れる味方はいない。
アレックス様や顔見知りの騎士達はいても、ラフェが自分から頼っていける人はいないのに、おれは来たそうそうラフェを置いて元妻の両親に会いに行き、元妻の墓参りなんかしていた。
そこさえ済ませればラフェはもうこの領地で気兼ねなく暮らせるなんて馬鹿なことを思っていた。
「ラフェ、ごめんな。お前は俺のためにこんな辺境地までついて来てくれたのに。領民のために頑張ると言ってくれたのに、傷つけてすまなかった」
眠るラフェの髪を優しく撫でた。
本当ならすぐアレックス様のところに向かい話をしに行きたかった。
だけど、今はラフェのそばにいてやりたい。
また感情だけで動けばラフェが目覚めた時寂しい思いをする。それだけは避けたかった。
メイド長に声をかけた。
「ラフェが目覚めた時お腹が空いているだろうから何か食べるものを用意しておいてくれ」
「いつでも出せるようにしております。みんな腹が立っているのです!あんな酷いことを言われて!
それでも毅然とした態度でラフェ様は対応しておりました」
「そうか……」
「イリア様はラフェ様のことを平民だとか子供を押し付けたとか酷いことばかり………「やめなさい」
執事が横から入って来た。
「メイド長、それ以上は言ってはだめだ」
「いや、いいんだ」
「失礼いたしました」
「来たばかりのラフェのために怒ってくれてありがとう」
「わたしは……ラフェ様の作られた騎士服をたくさんこちらで見させていただきました。騎士達が皆動きやすいように驚くほど丁寧に縫われております。
男の人たちは動きやすくていいとしか思わないかもしれませんが、女の私達にはわかります。
ひと針ひと針相手のことを思い遣って縫っていることが。細かいところに気を遣わなければあんなに丈夫で動きやすく縫うことはできません。
縫った人の…ラフェ様の、為人がわかるのです」
「そうなのか……ありがとう、メイド長。その言葉が嬉しいよ、ラフェはずっと苦労してきたんだ、俺は彼女を幸せにしてやりたい。
だが俺は粗雑で女の気持ちがわからないところがある。だから、俺が気が付かないところは教えて欲しい」
「もちろんです。私たちの大切な奥様になられるのですから」
メイド長はそう言うと頭を深々と下げた。
執事に向かってボソッと言った。
「なぁ俺ってほんと駄目だな。マキナのことは忘れたわけではない。だけどマキナのことは大切な思い出として心にしまって、今はラフェ達大切にしたいんだ。
それはいけないことなのか?一生マキナだけを思い暮らしていくべきだったのか?
俺もそうしようと思ってきた。だけど……ラフェとアルと知り合って止まっていた俺の心の時がやっと動き出したんだ」
「わたしが語るべきことではないと思いますが、この数年のグレン様は死んだように生きておりました。
やっとグレン様の表情が明るくなったのです。私達はそれだけで十分嬉しく思っております。
ーーそれが答えだと思います」
「…………ありがとう、これからラフェとアルをよろしく頼む。力になってやってくれ」
「もちろんです」
ラフェが目が覚めたらラフェともう一度しっかり話をしよう。
そう思ってラフェが起きるまで俺はこの部屋でラフェを見守ることにした。
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