【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ

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123話  ラフェ

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 ◇ ◇ ◇  ラフェ

 目が覚めるともうグレン様は出掛けていた。

 アルバードと二人、食堂で朝食を食べた。

 見慣れた騎士さん達が数人顔を出して挨拶してくれた。

 それだけでホッとする。

 執事さんは、王都のアレックス様のタウンハウスにいた執事さんの弟さんだった。

「初めまして」と言われたとき親近感が湧いた理由がわかって納得。

「今日はグレン様はマキナ様のご実家とお墓参りに行かれたのですよね?」

 グレン様が昨夜そう言っていた。

「はい」

「わたしもいずれお墓参りをさせてもらいたいと思っています。そうしないとここで暮らしていくことはできない気がするんです」

 本当は迷っていた。

 わたしなら?そう考えた。

 だけど、わたしなら………気になるかも。それに……やっぱり……この屋敷で暮らしていくのに、突然来て当たり前のような顔をして女主人にはなれない。

 挨拶だけでもさせてほしい。

 たぶん自己満足なのかもしれないけど。

 グレン様が愛した人。グレン様が忘れることができない人。たぶん一生マキナ様に勝てないし勝とうとも思わない。

 だってわたしはマキナ様を愛したグレン様を愛している。
 だって今のグレン様を好きになったのだから。

 もし、マキナ様が生きていたら、こんな出会いはなかっただろう。

 もし、エドワードが記憶をなくしていなければ、グレン様を愛することはなかっただろう。

 もし、あの時、アレックス様とグレン様が助けてくださらなければグレン様と知り合うことはなかっただろう。

 だけどわたし達は偶然出会い、新しい恋をした。

 この土地で暮らすからこそグレン様にお願いをした。

『お前は気にしなくていいんだぞ』

 グレン様の言葉に、「きちんと挨拶をしたい」とお願いした。

「マキナ様は素敵な人でした。ラフェ様も素敵なお人だと思います。王都にいた時のラフェ様の噂は聞いています。マキナ様はラフェ様になら安心してグレン様を任せられると思っていますよ」
 執事さんの優しい言葉。

「そう思ってもらえるように…努力していこうと思います」

 不安がないわけではない。
 みんなに受け入れてもらえるのか。
 領地運営はしなくても屋敷の采配はわたしの仕事。

 使用人の人達がわたしを女主人として認めてくれるかとても不安だし、これからたくさんの人たちに縫い物を教えていかなければいけない。

 一人いろんなことを考えすぎていたのかアルバードがわたしの顔を覗き込んできた。

「おかあ…さん……なきたいの?いやなこと、あるの?」

「嫌なことなんてないわ。ごめんなさい、お母さんいっぱい考えて、ちょっとだけ、頭の中がいっぱいになっちゃった」

「いっぱい、いっぱい?うーん、わかんないや」

「そうだね。ところでアルは今日は何をしたいの?」

「アルね、けんのおけいこ、するの」

「体を動かしたいわよね。ずっと昨日まで馬車の中だったものね」

「うん、さっき、しようって。いってくれたの」

 挨拶に来た騎士さん達がアルバードに声をかけてくれていた。

「じゃあ、食べ終わったらお洋服を着替えましょう」

「はーい」

 アルバードは嬉しそうにパンをちぎって食べていた。

「おいしいね」と使用人達に声をかけながら。

 今日からわたしとアルバードの新しい人生が始まる。







「お待ちください!イリア様!」

 メイドの一人に屋敷の中を案内してもらっていると大きな声が聞こえた。

 その声の方へ顔を向けると、わたしよりも若い20歳くらいの女性がこちらに向かってやって来た。


「貴女がラフェさん?」

 いきなりのキツい言い方に少し驚きながらも、冷静に答えた。

「はい、ラフェと申します」

「ふうーん、貴女が?思った以上に地味なのね。それにわたしよりもおばさんだし、どこがよかったのかしら?顔はわたしの方が断然かわいいし、体も…わたしの方が女性らしいと思うわ。家柄だって平民の貴女なんかよりずっと上だし?」

「あの、失礼ですが貴女はどちら様でしょうか?」

 グレン様に相応しくないと言われているのはわかる。こんな風に言ってくる女性はエドワードの時から慣れている。

 わたしは平凡だし特別なものは何もない。グレン様のように人を惹きつける魅力も地位もお金もない。

 だけど、彼の横に並んで生きていくと決めた。
 だからわたしが馬鹿にされると言うことは、わたしを選んでくれたグレン様が馬鹿にされると言うことになる。

「名前?どうして貴女なんかに教えなければいけないのかしら?」

「グレン様にこの屋敷の女主人になるようにと任されました。申し訳ございませんが、名も名乗らないお方にこの屋敷を彷徨かれては困ります。もし、グレン様に御用がおありでしたら一度帰られて約束を取り付けてからおいで頂きたく思っております」

「わたしに帰れと言うの?」

 顔色が変わった。怒りを露わにし始めた。

「わたしはこの辺境伯領主の妹のイリアよ!貴女なんかよりずっと地位は上なのよ!そんなわたしに帰れなんてそれこそ失礼ではないのかしら?」

 アレックス様の妹……

「名を名乗られなかったもので失礼いたしました……わたしに何か御用でしょうか?」

「御用って…だから、貴女なんてグレン様に相応しくないと言ってるの!わからないの?」

「わたしはグレン様とこの領地で共に頑張って暮らしていくと誓いました。たしかにまだ相応しくないと言われても仕方がないと思っています。
 この領地のこと、屋敷のこと、知らないことばかりです。でも努力していきたいと思っております」

「口では簡単に言えるわ。この土地はとても厳しい環境なの。頑張るなんて口だけ言ってても生きていけないの。いつ襲ってくるかわからない敵、冬にはかなりの雪が降るし、山が多く、農作物も育ちにくいの。とても厳しいところなの」

「聞いています」

「だったら諦めて帰りなさい」

「わたしはこの場所で自分が出来ることをさせていただくつもりです」

「あんた、ほんと生意気なの…………「イリア!いい加減にしろ!」

 その声は……

「兄さま!」
「アレックス様?」

「グレンが朝うちの屋敷に来たのを聞いたお前がこっちに向かったと報告があって急いで馬を走らせて来たんだ」

「わたしはただ……このラフェさんの顔を見に来ただけだわ」

 アレックス様が来てイリア様の声の勢いが弱まった。

「ラフェはたしかにグレンの嫁として来た。だがな、元々俺が先にこの領地に来ないかと誘っていたんだ。ラフェの縫い物の技術はとても優秀だ。仕事の少ない女子供にその技術を教えて欲しいと以前から声をかけていたんだ」

「兄様が?」

 イリア様がその話を聞くとわたしをキッと睨んだ。










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