【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ

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120話  

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 ◇ ◇ ◇  ラフェ

 聞くに耐えない話。

 陛下は誰かに話したかったのだろう。自分の懺悔を。

 だけどどうしてわたしなの?

 わたしはこれ以上聞きたくなかった。聞いても同情なんてできない。
 だけど怖くて声すら出せなかった。

 その時………


「もういい加減にやめろ。ラフェに話すことじゃないだろう?ラフェが俺の嫁になるからってなんでそんな話をするんだ?」

 グレン様が走って隣に来て肩を抱き寄せた。

「……グレン様」

「………すまない…………誰にも言えない話を誰かに話して少しでも気持ちが軽くなりたかった。
 わたしは……どうすればいい?フランソアが目の前で飛び降りる姿を見てから、毎晩眠れない。わたしの愚かな行動がフランソアを苦しめた。
 そして罪人になり死なせることになった。だがわたしは自らの命を断つことはできない。わたしが苦しみながらも生き続けることが贖罪なんだ、だが限界だ」

 陛下は力なく崩れて地面に顔を突っ伏した。

 汚れるなんて気にもしていない。

「だからなんだ?あんたの辛さなんて知ったことじゃない。ラフェはただ王妃に手を合わせに来ただけだ。俺は来る気はなかった。だけど…なんか嫌な予感がしたんだ。だからしばらく離れて待っていたけどここに来た」

 わたしの肩に置いたグレン様の手に力が入った。

「はあー、来てよかったよ。ラフェ、すまなかった」

「あっ、う、うん、大丈夫……」

 こんな時なんて返事をしたらいいのかよくわからない。

「貴方はまだこの国の王なんだ。ミハイン殿下が継ぐまでは頑張ってもらうしかないんだ。
 王妃は俺にとっては最悪な人だったが国民にとっては何よりも慕われていた人だ。この国を愛しこの国のために生きてきた人だ。
 ラフェが墓に参りたいと言ったのだって、恨みだけ心に残して生きたくなかったからだ」

「グレン様、か、帰りましょう」

 グレン様が陛下に対して感情を抑えられないでいた。


 ◆ ◇ ◆  グレン

 なんなんだ。

 この無様な男は。

 ラフェは戸惑い青い顔をしていた。

 何も言い返せないラフェに何を言っているんだ!

 俺はこの人と向き合うつもりなんてもうなかった。
 もうすぐミハインが国王になる。この人は退位して幽閉されるだろう。もちろん死ぬことは許されない、悔やんで生きればいい。

 だがこの人は俺とラフェが王妃の墓に来ることを知ってここに態々顔を出した。
 俺は王妃に手を合わせる気はなかったので、近くで待機していた。まさかこんなことになっているなんて……

「グレン、帰るな。頼む、わたしを楽にさせてくれ」

「俺に頼るな。あんたが生き続けることが贖罪なんだ、楽になんてさせない、苦しめばいい」

「眠れないんだ、毎日、フランソアが目の前で死んでいく。毎日だ……」

 だからなんだ!

「俺に国王を殺せと言うのか?」

「…………すまない……」

「あんたは死んで楽になるかもしれないが俺は国王殺しとして捕まる。ふざけんな!
 あんたの甘さと弱さが王妃を苦しめた。そして生まれてきた俺も。しっかり向き合えよ、もう逃げて目を逸らすのはやめろ」

 腹が立った。こんな男が国王だったなんて。最後まで自分勝手で自らの罪にすら向き合おうとしない。

「……わたしを責める者はいない。ミハインはわたしを見ようともしない。お前なら……そう思ってここに来たらラフェさんがいた。わたしの懺悔を誰かに聞いて欲しかった、もしかしたら近くにお前がいるかもしれないと思ったから……」

 もっと近くにいればよかった。後悔しかなかった。そうすればこの人がラフェに近づくこともなかったのに。

「あんたの懺悔なんて誰も聞きたくない。自分だけ楽になろうなんて思わないで欲しい、最後までそんな惨めな姿を俺に見せないでくれ。もうこれ以上関わりたくない」

 吐き捨てて俺は「行こう」と言ってラフェとこの場を後にした。




 ◇ ◇ ◆ ◆  国王


 惨めな姿か……

 フランソアが飛び降りる夢を見る。なのに彼女はわたしに一度も恨み言を言わない。死ぬ前に微笑むんだ。

 苦しい、辛い。

 グレンが王妃の墓に来ると聞いて体が勝手に動いた。ラフェさんがいるのがわかり近くにいるであろうグレンに、そして人の良さそうなラフェさんに、わたしは誰にも話したことがない話をした。

 グレンが聞いていればわたしを殴ってくれるかもしれない。もしくは殺してもらえるかもしれない。

 グレンを犯罪者にしたいと思ったわけではない。グレンになら殺されてもいいと思った。

 浅はかだった。だがもう正常な判断が出来ないでいる。

 死にたい。
 苦しい。
 辛い。
 眠れない。
 フランソアに会いたい。


 あんなに愛したセリーヌ。なのに今思い出すのはフランソアのことばかり。

 一人取り残されたわたしのそばに、離れて待っていた近衛騎士達がやって来た。
「陛下、お立ちください」
「部屋に帰りましょう」

 わたしは返事もせずフラフラと立ち上がり部屋に帰る。
 政務はミハインが行っている。わたしは部屋にまた閉じ籠りじっとしているだけ………

 今夜もまた眠れない夜がやってくる。




 ◆ ◇ ◆  グレン

 王城を後にして馬車に乗って帰路を急いだ。


「ラフェ、ごめんな。嫌な思いをさせて。近くにいたのに気がつかないで」

「グレン様が何かしたわけではないわ。………陛下は……王妃様を愛していたのね、そして王妃様も。あまりにもすれ違い歪んで……グレン様…貴方が生まれたことが罪だなんて思わない。生まれて来てはいけない人なんていないわ」

 ラフェが俺を見て優しく微笑んだ。

「グレン様を必要としてくれている人はたくさんいるわ。貴方の義両親だってアレックス様だって。タウンハウスのみんなも、そして騎士団の人たちも。わたしはまだ会ってはいないけど辺境伯領の民だってグレン様が必要だと思うわ、そしてみんながグレン様を大切に思っているわ」

 ラフェが俺の顔に手を近づけた。

「グレン様……泣かないでください」

 俺は泣いているのか?

 自分でも気がつかないうちに……

「わたしとアルは貴方を愛しています。貴方が生まれて来てくれてそしてわたし達を選んでくれてありがとうございます。知り合ってたくさんいろんなことがあったけど……もう前を向いて生きていきたい。貴方と共にこれからは生きていきたい」

「そうだな……俺もお前とアルと共に生きたいと思う。過去をいい思い出になんて出来ないけど過去ばかり振り返って恨んだり悲しんだりせず、前を見て生きていけたらいいな」

 もうあの人のことは忘れよう、あの人はこれから過去と生きていかなければいけない。俺に助けを求めても俺は何もしてあげられない。
 俺が許したところであの人がしたことは許されない。




 俺は次の日、ラフェとアルと王都を旅立った。










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