上 下
115 / 146

115話  アーバン

しおりを挟む
 ◇ ◆ ◇  アーバン

 ラフェから話があると言われた。

「グレン様について辺境伯領へ行こうと思うの」

「……そうか。うん、ラフェはやっと新しい幸せを見つけたんだな」

「アーバンとお義父様がアルを大切にしてくれていたのに引き離すことになってごめんなさい」

「いや、俺たちはお前が辛い間何も手助けしてなかった。あんな事件があってやっと会う勇気が出たんだ。男二人じゃどうしていいのか分かんなくてさ。なんとか自分たちが安定したらその時は、なんて言い訳して、きっかけがなければラフェたちに会うことすらできなかった」

「二人がアルをとても可愛がってくれたこと感謝してるわ。アルは二人の家族なのにわたしが頼ろうとしなかったから、わたしこそごめんね」

「グレン様なら安心して二人を任せられるよ。俺の大事な幼馴染と可愛い甥っ子がこれから幸せになるんだ。嬉しいよ」

「ありがとう。お義父様にも挨拶をしたかったんだけど……」

「あの人の仕事は特殊だから。家にいないことも多いんだ………俺も……もうすぐ結婚する予定なんだ」

「おめでとう!」

「どんな子か聞きてくれないの?」

「聞いていいの?」

「いつもパン買いに行くお店の子なんだ。明るくてよく働く子でさ、顔を見るとホッとするんだ」

「ふふっ、幸せそうね」




 激しい恋とかではなく穏やかな関係。
 一緒にいると落ち着く。

 毎日パンを買いに行っていた。特に彼女に興味があったわけではない。単純にパンが気に入っていた。
 数日休みだった彼女。ふと気になり何かあるのかと店の店主に聞くと風邪で寝込んでいたらしい。

 それから「大丈夫だった?」と声をかけてから、なんとなく話すようになって、なんとなく仲良くなって、ふと気がついたら自然に好きになっていた。

 ラフェを好きだった時とも、他の女性たちと付き合った時とも違う。いつの間にか隣に居て当たり前になっていた。

 彼女は兄弟が多く、早くから働きに出ていたらしい。彼女の家に遊びに行くとまだ小さい弟がいて、母親は毎日子育てに明け暮れていた。

 父親は王城で事務の仕事をしている。平民だけどそれなりに収入はあるらしいが、8人兄弟だと子育てにもかなりのお金がかかる。長女の彼女は、家計を助けるために働きに出たと言う。

「働くことも弟や妹の世話をするのも楽しいの!それにね、パンの売れ残りを安く分けてもらえるから家計も助かるしいいことばかりなの!」

 明るく言う彼女。

 そんな彼女と結婚したいと思ったのは、アルのおかげだ。俺も彼女との可愛い子供が欲しい。
 彼女を幸せにしたい。

 そう思えたのはラフェとアルとまた家族として幼馴染として過ごせたからだと思う。

「父上にも紹介して年内に結婚する予定なんだ」




 ラフェは俺の話を聞いて喜んでくれた。

 そして……一番話さなければいけないこと。

「ラフェにはもう嘘をつきたくない。聞きたくないと思ったら言って欲しい。それ以上話さないから」


「わかったわ」

 ラフェから了解を得て話し始めた。


「彼女……名前はアルテと言うんだけど、アルテ達が働く商店街は、月に二回、孤児院に行って炊き出しをしているんだ。

 ラフェは自宅で仕事をしていただろう?だけど片親で働きに出ないといけない人も多い。家で子育て出来ない人達は泣く泣く孤児院に預けて働くしかないんだ。もちろん両親がいないで預けられた子もいる。

 商店街には子供と離れて働く女性も多いんだ。だから、店主達がそれを知って月に二回だけど子供達に少しでも温かい料理を食べて欲しくて通うようになったらしい。
 そこで……兄貴に会ったんだ」


「『リオ』さんに?」「」

「違う、エドワード。記憶を取り戻していた。そしてシャーリーさんとは別れたらしい。ただ……子供……オズワルドって言う名前なんだけど、兄貴も働かなければいけないので孤児院に預けているんだ。そこで炊き出しの手伝いに行って偶然出会った」

「そう……記憶を取り戻したの……」

「兄貴は……ラフェには会いには来ない。いや、来れない。その資格はないと本人もわかってるんだ……それにラフェは、兄貴からの慰謝料を断ったんだろう?」

「そうだね。エドワードが死んだ後アルバードが生まれたと思っていたから彼には……リオさんには関係ないと思ったの。その気持ちは今……聞いても変わらないわ」

「兄貴は……いや、俺が何か言うことじゃないよな。それで………孤児院で会って兄貴と話したんだ。
 息子のオズワルドを引き取るために賠償金を払いながら頑張って働いているらしい。オズワルドを自分が引き取って昼間みてもらうためのメイドを雇うほどの余裕は、今はないらしいんだ。別れたシャーリーさんがあっちこっちで借金をしていてそれを返済したら全くお金がなくなったって力なく笑ってた」

「なんだか大変みたいね」

「そこは自業だと思う。自分が選んだ奥さんだったんだから。
 でも子供には罪はない。2歳のオズワルドは、孤児院に入ったばかりの頃、女の人を怖がっていたらしい。シャーリーさんに虐待されていたみたい。
 ……俺とアルテはその話を聞いて話し合ったんだ。俺たちも協力してオズワルドを育てようと思っているんだ。
 もうすぐ兄貴も俺たちが住んでいる近くに引っ越してきてもらうことになっている」

「オズワルド君は今は?どうしているの?」

「孤児院から引き取って今は兄貴が夜は面倒を見てる。昼間はアルテの母親が弟達と一緒にまとめて面倒をみてくれることになったんだ。俺かアルテが休みの時は俺たちが見るし、兄貴ももちろん休みの時は一緒にいてあげられる」

「はあー、よかった。オズワルド君が辛い思い出は忘れて幸せになってくれたらいいわね」


「ああ、俺もそう思う。ただ……うちにラフェ達が顔を出すと……兄貴と偶然会うことがあるかもしれないんだ」

「うーん、そうだね。今更エドワードに会ってもお互い気まずいし、だけど、アルはアーバンやお義父様には会いたがると思うし……うん、外で会いましょう。だめかな?」

「そうしてもらえると助かるよ。俺たちもアルには会いたいから」

「いつか……オズワルド君とアルバードが兄弟として会えたらいいな」

「うん、いつか……」





しおりを挟む
感想 473

あなたにおすすめの小説

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

処理中です...