113 / 146
113話 エドワード
しおりを挟む
◆ ◆ ◆ エドワード
毎日の仕事に追われ疲れて家に帰るとオズワルドがいない。
『とおたま』
俺の顔を見ると嬉しそうに走って抱きついて来た。
淋しいなんて言ってはいけない。
俺があの子を孤児院に預けたんだから。
シャーリーは最近家を空けることが増えた。
酒に溺れ外に出て回っている。
お金は俺が管理しているので飲んで回る金はないはず。なのにいつも酒の匂いがする。
「どこで酒を飲んでいるんだ?」
「どこでもいいじゃない!オズワルドをわたしから取り上げて!わたしは淋しいの。お酒でも飲まないと生きていけないの!」
ポロポロ涙を流すシャーリー、以前の俺なら彼女の涙にすぐ騙されていた。
「オズワルドが帰って来たら君はちゃんとするのか?」
「当たり前よ!わたしの可愛いオズワルド!返して!」
「俺が仕事に行っている間、きちんと食事をさせて世話をして風呂にも入れてやれるのか?殴ったり泣いているからと放置しない?」
「す、するわけ、ないわ」
酒のせいなのかそれとも俺の言葉に動揺しているだけなのか、目を逸らす。
「オズワルドは君のおもちゃではない。それにそんなに毎日外に出て酒ばかり飲んでいるのにオズワルドの世話なんて出来るわけがないだろう?」
「淋しいの。辛いのよ。何もかもなくなったの。お金も家も地位も、そして友人すら……母も弟もわたしを捨てていなくなったわ。お父様は……もうすぐ処刑されるわ。わたしはどうしたらいいの?」
「俺とオズワルドと三人で慎ましく暮らそうとは思わなかった?」
「無理よ。慎ましくなんて出来ないわ。料理も掃除もしたことがないししたいとも思えない。オズワルドは可愛いけどずっと世話をするなんて出来ないわ。
わたしはずっとお姫様のように生きていたいの」
シャーリーは贅沢な生活から抜け出せない。現実を受け入れられない。
俺たちは毎日のようにこんな言い合いをする日々が続いた。
そして……シャーリーが突然帰らなくなった。
またどこかで酒を飲んで酔っ払って寝てしまったのだろうと思っていた。だけど何日も帰ってこない。
流石に心配になって休みを取りシャーリーが行きそうな場所を探して回った。
お金のないシャーリーは、飲み屋に客として行きそこで知り合った男達に奢ってもらっていると聞いた。それを何度もやめろと言ったが彼女は言う事を聞かなかった。
「いいじゃない、奢ってくれるんだもの」
「男が女に奢ると言うことは何か見返りを求めているんだ。シャーリーお願いだからやめてくれ」
だが、喧嘩になるだけで言う事を聞かない。彼女は俺が仕事に行けば、自由に行動してしまう。
そして、シャーリーは俺たちを捨てて、金のある男とこの街から出て行った。
家に帰ると、「疲れた」そんな言葉がポツリと溢れた。
なんのために必死で働いているのか。もちろん賠償金の返済のためではある。だけど少しでも節約して少しでもお金を貯めて、オズワルドを引き取りたいと思っていた。
今は手が掛かるからオズワルドを家に置くことはできない。だけど手がかからなくなればシャーリーの負担も減るし、シャーリーもイライラしなくなり、オズワルドがシャーリーに手をあげられなくて済む。
そう思っていた。
だからシャーリーに少しずつでも家事の仕方を教えて、いずれは三人で仲良く暮らしたい。
本当はそんなの勝手な自分だけの思い込みだとわかっていた。シャーリーがこんな貧しい生活に満足しないことも、もう夫婦生活が破綻していたこともわかっていた。
だけどそれを認めたくなかった。
それでも俺は働くしかない。
先の見えない賠償金を払い続けるために。それが俺が領民を苦しめた罰なのだから。
シャーリーがいなくなってから、もう探すのはやめた。どこで何をしているのか、今更知ってどうなる。俺たちを捨てたのは彼女なんだ。
俺は役所に離婚届を提出した。
シャーリーが以前泣きながら「こんな生活なんて嫌なの!リオと離婚するわ!」と言って離婚届を置いて家出した時のものだ。
その時は数日で帰って来た。
「やっぱりリオしかいないわ」そう言って謝って来た。
オズワルドもまだいたし、シャーリーが不安定な気持ちでいることも仕方がないと思って、その時は彼女を受け入れた。
だけど今回は男と家を出て3ヶ月過ぎたが帰ってくることはない。
彼女が書いた離婚届を俺は提出した。
そして、『リオ』から『エドワード』に戻った。
実は、平民になった頃から少しずつ記憶が戻り始めていた。
そして今は全てを思い出していた。
ラフェを愛していたことも。
俺が記憶を失った時のことも。
助け出されて過ごした日々。
記憶がないのに必死で王都へ向かったことも。
そこで知り合ったコスナー伯爵とシャーリー。
行く当てがない俺は、シャーリーに惹かれシャーリーと結婚した。
そう、全て、俺が選んだこと。
ラフェを愛していた。真面目で頑張り屋で、俺を真っ直ぐ愛してくれた。
なのに記憶をなくした俺は、ラフェと会ったことのない息子……アルバードを窮地に追い込む事をしてしまった。あんな商会を領地に引き込まなければアルバードが苦しまなくて済んだんだ。
それに俺はシャーリーとオズワルドを選んだ。記憶が戻った時、目の前の現実に愕然とした。
ぼんやりと少しずつ記憶が戻っていく中、完全に思い出したのは……平民になった時だった。
それまでは夢だと思っていた。ぼんやり懐かしい気持ちになる夢。その夢が徐々に現実の忘れていた過去だとわかった時、俺は自分のして来た事を呪った。
愛していたラフェを捨てたのだ。苦しめたのだ。
シャーリーを愛した俺とラフェを愛した俺は同じなのに同じじゃなかった。
以前の記憶を取り戻した俺は、シャーリーを心から愛せなくなっていた。だからと言ってラフェたちに会いに行くことも出来ない。
彼女にはもう新しい相手がいることも知っていたから。
なんとか頑張って三人で生きていくつもりだったのに、シャーリーは出て行った。
シャーリーも俺の変化に気がついていたのかもしれない。
俺がどんなに記憶が戻った事をバレないようにしていても、やはり俺自身の行動に変化はあるし、性格も変わってしまった。
記憶を失っていた頃の俺はただ流されるままに過ごしていた。
だけど今の俺は、全てが鮮明で自分が過ごしたこの四年間があまりにも酷いものだと自覚している。
そう、シャーリーに囚われて一途に愛した『リオ』はもういない。
毎日の仕事に追われ疲れて家に帰るとオズワルドがいない。
『とおたま』
俺の顔を見ると嬉しそうに走って抱きついて来た。
淋しいなんて言ってはいけない。
俺があの子を孤児院に預けたんだから。
シャーリーは最近家を空けることが増えた。
酒に溺れ外に出て回っている。
お金は俺が管理しているので飲んで回る金はないはず。なのにいつも酒の匂いがする。
「どこで酒を飲んでいるんだ?」
「どこでもいいじゃない!オズワルドをわたしから取り上げて!わたしは淋しいの。お酒でも飲まないと生きていけないの!」
ポロポロ涙を流すシャーリー、以前の俺なら彼女の涙にすぐ騙されていた。
「オズワルドが帰って来たら君はちゃんとするのか?」
「当たり前よ!わたしの可愛いオズワルド!返して!」
「俺が仕事に行っている間、きちんと食事をさせて世話をして風呂にも入れてやれるのか?殴ったり泣いているからと放置しない?」
「す、するわけ、ないわ」
酒のせいなのかそれとも俺の言葉に動揺しているだけなのか、目を逸らす。
「オズワルドは君のおもちゃではない。それにそんなに毎日外に出て酒ばかり飲んでいるのにオズワルドの世話なんて出来るわけがないだろう?」
「淋しいの。辛いのよ。何もかもなくなったの。お金も家も地位も、そして友人すら……母も弟もわたしを捨てていなくなったわ。お父様は……もうすぐ処刑されるわ。わたしはどうしたらいいの?」
「俺とオズワルドと三人で慎ましく暮らそうとは思わなかった?」
「無理よ。慎ましくなんて出来ないわ。料理も掃除もしたことがないししたいとも思えない。オズワルドは可愛いけどずっと世話をするなんて出来ないわ。
わたしはずっとお姫様のように生きていたいの」
シャーリーは贅沢な生活から抜け出せない。現実を受け入れられない。
俺たちは毎日のようにこんな言い合いをする日々が続いた。
そして……シャーリーが突然帰らなくなった。
またどこかで酒を飲んで酔っ払って寝てしまったのだろうと思っていた。だけど何日も帰ってこない。
流石に心配になって休みを取りシャーリーが行きそうな場所を探して回った。
お金のないシャーリーは、飲み屋に客として行きそこで知り合った男達に奢ってもらっていると聞いた。それを何度もやめろと言ったが彼女は言う事を聞かなかった。
「いいじゃない、奢ってくれるんだもの」
「男が女に奢ると言うことは何か見返りを求めているんだ。シャーリーお願いだからやめてくれ」
だが、喧嘩になるだけで言う事を聞かない。彼女は俺が仕事に行けば、自由に行動してしまう。
そして、シャーリーは俺たちを捨てて、金のある男とこの街から出て行った。
家に帰ると、「疲れた」そんな言葉がポツリと溢れた。
なんのために必死で働いているのか。もちろん賠償金の返済のためではある。だけど少しでも節約して少しでもお金を貯めて、オズワルドを引き取りたいと思っていた。
今は手が掛かるからオズワルドを家に置くことはできない。だけど手がかからなくなればシャーリーの負担も減るし、シャーリーもイライラしなくなり、オズワルドがシャーリーに手をあげられなくて済む。
そう思っていた。
だからシャーリーに少しずつでも家事の仕方を教えて、いずれは三人で仲良く暮らしたい。
本当はそんなの勝手な自分だけの思い込みだとわかっていた。シャーリーがこんな貧しい生活に満足しないことも、もう夫婦生活が破綻していたこともわかっていた。
だけどそれを認めたくなかった。
それでも俺は働くしかない。
先の見えない賠償金を払い続けるために。それが俺が領民を苦しめた罰なのだから。
シャーリーがいなくなってから、もう探すのはやめた。どこで何をしているのか、今更知ってどうなる。俺たちを捨てたのは彼女なんだ。
俺は役所に離婚届を提出した。
シャーリーが以前泣きながら「こんな生活なんて嫌なの!リオと離婚するわ!」と言って離婚届を置いて家出した時のものだ。
その時は数日で帰って来た。
「やっぱりリオしかいないわ」そう言って謝って来た。
オズワルドもまだいたし、シャーリーが不安定な気持ちでいることも仕方がないと思って、その時は彼女を受け入れた。
だけど今回は男と家を出て3ヶ月過ぎたが帰ってくることはない。
彼女が書いた離婚届を俺は提出した。
そして、『リオ』から『エドワード』に戻った。
実は、平民になった頃から少しずつ記憶が戻り始めていた。
そして今は全てを思い出していた。
ラフェを愛していたことも。
俺が記憶を失った時のことも。
助け出されて過ごした日々。
記憶がないのに必死で王都へ向かったことも。
そこで知り合ったコスナー伯爵とシャーリー。
行く当てがない俺は、シャーリーに惹かれシャーリーと結婚した。
そう、全て、俺が選んだこと。
ラフェを愛していた。真面目で頑張り屋で、俺を真っ直ぐ愛してくれた。
なのに記憶をなくした俺は、ラフェと会ったことのない息子……アルバードを窮地に追い込む事をしてしまった。あんな商会を領地に引き込まなければアルバードが苦しまなくて済んだんだ。
それに俺はシャーリーとオズワルドを選んだ。記憶が戻った時、目の前の現実に愕然とした。
ぼんやりと少しずつ記憶が戻っていく中、完全に思い出したのは……平民になった時だった。
それまでは夢だと思っていた。ぼんやり懐かしい気持ちになる夢。その夢が徐々に現実の忘れていた過去だとわかった時、俺は自分のして来た事を呪った。
愛していたラフェを捨てたのだ。苦しめたのだ。
シャーリーを愛した俺とラフェを愛した俺は同じなのに同じじゃなかった。
以前の記憶を取り戻した俺は、シャーリーを心から愛せなくなっていた。だからと言ってラフェたちに会いに行くことも出来ない。
彼女にはもう新しい相手がいることも知っていたから。
なんとか頑張って三人で生きていくつもりだったのに、シャーリーは出て行った。
シャーリーも俺の変化に気がついていたのかもしれない。
俺がどんなに記憶が戻った事をバレないようにしていても、やはり俺自身の行動に変化はあるし、性格も変わってしまった。
記憶を失っていた頃の俺はただ流されるままに過ごしていた。
だけど今の俺は、全てが鮮明で自分が過ごしたこの四年間があまりにも酷いものだと自覚している。
そう、シャーリーに囚われて一途に愛した『リオ』はもういない。
144
お気に入りに追加
3,813
あなたにおすすめの小説
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる