【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ

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108話  ラフェ

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 ◇ ◇ ◇  ラフェ

 寂しくも穏やかな日々。

 グレン様達から会いにきたいと言うのを断り続けたら連絡すら来なくなった。

 みんなそれぞれの生活に忙しいのだろう。

 アルバードも最近はグレン様達のことを言わなくなった。わたしがいつも困った顔をするので、アルバードなりに気を遣ってあるのだろう。

 少しずつエドワードのことも受け入れられるようになった。納得したわけではない。だけどアルバードを殺そうとしたのはエドワードではない、わたしのことを苦しめようとしたわけでもない。

 彼は彼なりに新しい生活を始めた。たまたまわたし達はその事件に巻き込まれて彼もたまたま関わっただけ。

 こうして納得できないながらも、自分なりに納得させて暮らしていく。これがわたしの暮らし。

 最近はアーバンや兄さんもアルバードに会いにくる。

 だけど、アルバードはいつも待っている。どんなにみんながアルバードを可愛がってくれても………やっぱり、グレン様が来るのをずっと待っている。

 わたしには我慢しているけど。

 そんな時、国中が悲しみに包まれた。

 王妃様が病気で亡くなられた。

 わたし達には遠い存在だけど、幼い頃貴族として過ごした時、何度か王城で子供達が集まってお茶会があった時に王妃様の姿を見た記憶がある。

 とても美しい人。そしてとても優しい人。

 子供ながらに思わず王妃様の美しさに見惚れてしまった記憶がある。

 近所のおじちゃんやおばちゃん達もみんな悲しんだ。

「まだお若いのに」
「早過ぎだ」

 わたしもお会いしたことがあるだけに悲しい。

 グレン様もアレックス様も高位貴族なので、何かと動かないといけなくて今は大変なのかもしれない。

 アルバードが「おかあしゃん、おさんぽ、いこう」と誘って来た。

 今日は誰も来ないから二人っきりで過ごした。流石に退屈だったのだろう。
 グレン様に渡せずにいるアルバードの書いた手紙が今日もまた増えた。

「アル、お手紙まとめて渡そうね」

 わたしは決心してお散歩がてらアレックス様のタウンハウスへ行くことにした。

 アルバードからの手紙をグレン様に渡す。

 そしてアレックス様にも謝りたい。

 二人はとても良くしてくれたのに、わたしは自分の気持ち精一杯で、良くしてくれた人達を無碍にしていた。アルバードだってわたしの顔色を窺って何も言えなくなって、ずっと大好きなグレン様に会わせてあげられなくて、わたしってほんと大人気ない。

 アルバードと手を繋いで久しぶりに外を歩いた。

 途中道に咲いていた花に目がいったアルバードは、花の前に行くとしゃがんでじっと見ていた。

「おかあしゃん、このはな、きれいね」

「ふふ、その花は昼咲き月見草って言ってね、道端によく咲いているお花なの。お母さんもそのピンクの可愛いお花が子供の頃は大好きでよく見ていたわ」

「おかあしゃんも好きだった?」

「うん好きだった、せっかくそこで頑張って咲いているお花だから見るだけね?採ったら可哀想だから」

「いたい?おはなさん?」

「みんなに見てもらいたいと思って咲いているからそのままにしておいてあげようね?」

「わかった!おはなさんバイバイ」

 アルバードと歩いていると普段当たり前過ぎて何気なく見逃していることに気がつく。

 雲の形。
 青い空。
 ちょっとした街の風景。
 お家の屋根の色。
 道に落ちている石の形。
 優しいおじさん。
 手を振ってくれる人。
 アルを見て何気にニコッと微笑んでくれる人。

 ずっとお話ししながら手を繋いで歩く。

「おかあしゃん、くもがね、アルについてくるの、ほら!」
 空を見上げながら雲を指差すアルバード。

「ほんとだね、アルとお散歩したいのかしら」

「うん、アルもね、くもさんと、おさんぽ、たのしい」
 ニコニコ笑いながら雲を楽しそうに見ている。

 不思議に心はどんどん軽くなった。

 そしてアレックス様のタウンハウスに着くと、門番さんがわたし達親子を見て、嬉しそうに笑った。

「アル、久しぶりだな。元気にしていたかい?」

「うん、ギュレンにね、おてがみ、書いたの、みて、みて!」

 アルバードはお手紙という絵を広げて門番さんに見せた。

「アルは、グレン様が好きなんだな」

「うん!おともだちなの。ギュレン、いる?いない?」

「今日はいるよ、今は必死で机の前にしがみついて書類と向き合ってると思います」
 わたしの顔を見て言いながら、思い出し笑いをしている騎士さん。

「お忙しいのならこの手紙だけでもお渡しいただけたらと思って立ち寄りました。また後日ご連絡してから伺います」

「待って待って。今グレン様に連絡してるから。そろそろ休憩の時間だと思うので会えると思いますよ。アルも元気そうだな!剣の練習はしてるか?」

「してるよ!えいって!」アルバードが剣を振る真似をして見せた。

「おっ、頑張ってるな。またいつでも練習に付き合うからな」

「ありがと」

 アルバードが門番の騎士さん達と仲良く話しているのを微笑ましく見ていると、屋敷から走ってくるグレン様が見えた。

「ラフェ!アル!」

「あっ!ギュレン!」

 アルバードはグレン様の姿が見えた瞬間走り出した。
「ギュレン!あいたかったの」

 駆け寄ってそのまま抱きついた。グレン様もアルバードを抱きしめた。

 ああ、二人は親子ではないけど、お互いとても大切なんだと感じた。

 アルバードを抱っこしてわたしのそばにやって来た。

「ラフェ、会いに来てくれてありがとう」

 グレン様に声をかけられた瞬間、何故か涙が溢れた。

「ごめんなさい、何度も訪ねてくれたのに会わなくて。グレン様は何も悪くないのに」

「いや、俺は君に話さなければいけないことがある」

「はなし?」

「ああ、聞いて欲しい。それで……俺を嫌いになって怒っても、俺はラフェから逃げない」

 グレン様がこんなに真剣な顔をしてわたしを見たのは初めてで、聞くのが怖かったけど、もう自分だけ何も知らないのは嫌だった。

「はい、聞かせてください」










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