【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ

文字の大きさ
上 下
95 / 146

95話  ラフェ

しおりを挟む
 ◇ ◇ ◇  ラフェ


「おかあしゃん、おじちゃんとあそんできてもいい?」

 部屋にじっといたアルバードは退屈になってアーバンのいるリビングに走っていった。

「走らないで!」

「わかったぁ!」返事だけはとってもいいのだけどもう走ってる。

 ここに住み始めて1週間が経った。

 お義父様もアーバンも今仕事を休んでこの家に居てくれる。



 アーバンが家に着いた日にすぐにここで暮らし始めなければいけない理由を説明をしてくれた。

「ラフェとアルはまだ狙われているんだ。だからアレックス様の屋敷からこちらに来てもらった。実は今グレン様が狙われているんだよ。そのため君達がグレン様のそばにいると、弱い君達が一番に狙われてしまうんだ」

 頭では理解出来るけどわたしの中ではよくわからない説明に眉を顰めた。

「グレン様が狙われている?彼はとても強い人よ?そんな彼を狙う人がいるの?それに彼を狙うのにどうしてわたし達が関係あるのかしら?
 もちろんそんな状態の時にグレン様の近くにいるのは迷惑になることはわかるわ、それにグレン様がアルをとても可愛がってくださっていることは周囲も知っていることだし確かに困らせることはできるもかもしれないわ。
 まさか……今回のアルの事件は……」

 今回のアルバードの事件の理由がわたしにはまだよくわかっていなかった。

 辺境に近い地でアルバードが飲まされた麻薬が売買されて犯人が捕まったとは聞いていた。
 だけどどうしてアルバードが狙われたのか誰に聞いても『わからない』と言われた。
 ただまだ狙われるかもしれないからと安全のためとアルバードの療養のために屋敷で過ごさせてもらっていた。

 だけど、何事もなく落ち着いてきたし、これ以上迷惑はかけられないと思っていたところだった。

 だけどまさかまたアーバンやお義父様と暮らすことになるとは思わなかった。

 二人とも働かないで大丈夫なのかと心配したら
「実はラフェ達を守るのが今は仕事なんだ。だから安心して守られて欲しい。それならラフェも気を遣わないだろう?」
 とアーバンが申し訳なさそうに言ってくれた。

 アーバンがこんな言い方をしたのは、わたしが気を遣わないようにしてくれているからなのはわかる。

「それにラフェの手料理が食べられるし可愛いアルといられるし俺的には助かってる、な?父上?」

「わたしはアルと会うのは久しぶりだからな、こんな時間を持てるなんてとても有難いと思ってるよ」

 お義父様はアルバードと絵本を読んだり絵合わせのカードゲームをして遊んでくれる。

 でも二人はニコニコしているのにふと鋭い視線を外に向けている。
 夜中も交代で起きてわたし達のことを守ってくれていた。だけど気づかれないようにしてくれているのがわかるので、わたしは敢えて気づかないフリをしていた。

 タウンハウスの屋敷でも同じような空気の中で過ごしたので気がついたのだ。

 彼らにとってわたし達を守るのは、元家族としての情でもあるけど、仕事でもあるのだと思う。だからわたしは気づかないフリをして出来るだけ外出をせずこの家の中で過ごすようにしている。

 アルバードは外に出られないストレスを発散するためにアーバンやお義父様と庭に出ることはあっても家の敷地から外には出ていない。

 表面的にはおだやかな時間を過ごしている。


 だけど縫い物をしながらやはり考えるのはグレン様のこと。

 何故彼が狙われているのか?

 大丈夫なのかな?怪我などしていなければいいけど。

 口が悪くて豪快で、なんにも気にしない性格で、だけど本当は誰よりも優しくて情のある人。

 すぐ揶揄ったり意地悪を言うけど、それは本当の自分を見せないようにするため。

 アルバードも何か察知しているのか絶対に『グレン様』のことを聞いてきたりしない。

 だけど夜寝ている時に寝言で

「ギュレン……あいたい」
 と言ったのを聞いて、アルバードなりに我慢しているのだと思った。

 わたしも……元気なグレン様に会いたい。

 今なら理由があってだとわかるけど、屋敷で避けられていた時は、本当はとても寂しかった。

 迷惑ばかりかけたので嫌われているのかもしれないと思っていた。

 わたしと距離を置くためだったと今ならわかるけどーーわたしはグレン様に惹かれている。

 アルバードがいるのに、恋愛なんてしてる場合じゃないのに、まともに子育てもできないわたしが恋愛にかまけてる場合じゃないのに。

 アルバードがスヤスヤ眠る姿を見ながら眠れぬ夜をわたしが唯一出来る縫い物をしながら過ごしていた。


 すぐそこに怖い人達がわたし達親子を襲いにきていることも知らずに。

 アーバンとお義父様、そして周囲で見守っていてくれる騎士達が必死で闘っていた。


 外の騒がしい音に気がついたわたしは、アーバンとの約束通りクローゼットにある床の隠し扉からアルバードを連れて地下へと隠れた。

『もし誰かが襲ってきたらここに逃げて』

 アーバン達に迷惑はかけられない。

 わたしは窓を開けてそこから逃げたように見せかけて急いで地下の隠し部屋に隠れた。

 そこには常に水と食料、着替えなどを用意してあった。

 わたしには力がない。出来ることは周りにこれ以上迷惑をかけないこと。みんなの邪魔にならないように何も知らずにスヤスヤ眠るアルバードを抱っこしたまま時が過ぎるのをじっと待つしかなかった。




しおりを挟む
感想 473

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

愛してくれない婚約者なら要りません

ネコ
恋愛
伯爵令嬢リリアナは、幼い頃から周囲の期待に応える「完璧なお嬢様」を演じていた。ところが名目上の婚約者である王太子は、聖女と呼ばれる平民の少女に夢中でリリアナを顧みない。そんな彼に尽くす日々に限界を感じたリリアナは、ある日突然「婚約を破棄しましょう」と言い放つ。甘く見ていた王太子と聖女は彼女の本当の力に気づくのが遅すぎた。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

助けた青年は私から全てを奪った隣国の王族でした

Karamimi
恋愛
15歳のフローラは、ドミスティナ王国で平和に暮らしていた。そんなフローラは元公爵令嬢。 約9年半前、フェザー公爵に嵌められ国家反逆罪で家族ともども捕まったフローラ。 必死に無実を訴えるフローラの父親だったが、国王はフローラの父親の言葉を一切聞き入れず、両親と兄を処刑。フローラと2歳年上の姉は、国外追放になった。身一つで放り出された幼い姉妹。特に体の弱かった姉は、寒さと飢えに耐えられず命を落とす。 そんな中1人生き残ったフローラは、運よく近くに住む女性の助けを受け、何とか平民として生活していた。 そんなある日、大けがを負った青年を森の中で見つけたフローラ。家に連れて帰りすぐに医者に診せたおかげで、青年は一命を取り留めたのだが… 「どうして俺を助けた!俺はあの場で死にたかったのに!」 そうフローラを怒鳴りつける青年。そんな青年にフローラは 「あなた様がどんな辛い目に合ったのかは分かりません。でも、せっかく助かったこの命、無駄にしてはいけません!」 そう伝え、大けがをしている青年を献身的に看護するのだった。一緒に生活する中で、いつしか2人の間に、恋心が芽生え始めるのだが… 甘く切ない異世界ラブストーリーです。

処理中です...