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91話 グレン
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◆ ◇ ◆ グレン
王城に着くと俺の顔を見た門番は中に入れないように止められた。
「朝早いが陛下にお目通りをしたい」
俺は腕につけている紋章の腕輪を見せた。
これは陛下がいざという時に使えるようにと義父に託したものだ。
俺が成人して義父の子爵の爵位を継いだ時に渡された。
使うのはこれで二度目だ。
一度目はラフェを釈放してもらうためだった。
今回は……王妃のことを話すためだ。
早い時間なら王妃と出くわすことはないだろう。前回も運良く会わずに済んだ。
今回も会いたくない。
会って挨拶の為とはいえ頭を下げるのも殴りつけたくなるのを我慢して、あの女の気持ち悪い声で話しかけられるのは嫌でたまらない。
あの目でジトッと見られるだけで鳥肌が立つ。
俺を見下し蔑み、俺に暴言を吐くのを喜びとする女。
あんなのがこの国の王妃だなんて考えられない。
それもこの国では優しい王妃として国民に慕われているのだから、みんな見る目がない。
紋章を見た門番は突然頭を下げて
「どうぞお入りください」と門を通してくれた。
俺の顔をまじまじと見たが、何も聞いてはこない。
中に入ると陛下のいる王宮へと向かった。いくらここに来たくなくても仕事上、辺境地の騎士団長として貴族として嫌でも通うこの場所。
どこへ向かえばいいのかはわかっている。
俺は陛下が寝ていようと叩き起こすつもりで来た。
陛下の休む寝室の近くに行くと
「ここから先は困ります」と近衛騎士達に止められた。
みんな俺の顔も事情も知っている者達だ。
「悪いが急いでいるんだ、陛下を叩き起こしてくれ、出来ないなら俺がする」
「お願いです、もう少しお待ちいただけませんか?」
「俺は待った。夜は明けたんだ、年寄りなんだから目が覚めるのも早いだろう」
俺たちが廊下で大きな声で揉めているのが聞こえてきたようだ。
何人もの人達が覗き込んでこちらを窺う。
「グレン、何か話があるのか?」
「………陛下…」
近衛騎士達は陛下の声に慌てて頭を下げた。
俺も頭を下げた。
「はあーー、グレン。………わたしの部屋に入れ」
陛下は呆れたようにため息を吐いて俺を部屋へと入るように促した。
陛下は寝間着ではなくもうきちんと服に着替えていた。
もうとっくに起きていたのだろう。
俺は部屋に入ると豪華な皮のソファに座った。
すぐに温かい紅茶が侍女により出された。
そして中にいた侍女や騎士達を部屋から追い出し人払いをした陛下が俺に聞いた。
「こんな朝早くから来たのは……あの怪しいと言われた薬、麻薬関係の話だろう?犯人は自殺したらしいな」
「……どこまでご存知なのですか?黒幕が誰なのかわかっておられますか?」
「アレは簡単には証拠は残さないだろう?」
「………この手紙をお渡しします。あの人がこの手紙の存在を知ってしまえばまた何を仕出かすかわかりません。
………そろそろ覚悟していただきたい。
わたしだけならばどんなことでも流してみせましょう。
だがわたしの大切にしている人たちにまで危害を加えるならばわたしは差し違えてでもあの人の暴挙を止めます」
「…………………」
「何故躊躇われる?本当に愛しているのならわたしなどこの世に存在させなければよかった。あの人を狂わせたのは貴方の身勝手な行動です」
俺は陛下に淡々と話した。
感情的にならず自分を押さえて。
「わたしはあの人の罪を、証拠を見つけ出すつもりです。わたしを殺して口を封じたければいつでも受け入れます。しかしわたしの大切な人達を少しでも傷つければわたしは貴方達を全力で潰します」
「……そんな簡単なことではない」
ーーー何がですか?
そう聞きたかったが、この人は返事をすることはないだろう。
王妃を狂わせたのは自身の過ち。それをわかっているから王妃の行動に目を瞑ってきたのは陛下だ。
王妃は普段皆に慕われ優しい笑顔で接する。彼女の憎悪に満ちた内面を知っているのは本当に一握りの人達だけだ。
あの狂気に満ちた顔を覗かせるのは俺の前と陛下の前だけかもしれない。王太子ですら実の母の歪んだ醜い顔を見たことはないかもしれない。
俺はこれ以上話すこともなく席を立った。
王城に着くと俺の顔を見た門番は中に入れないように止められた。
「朝早いが陛下にお目通りをしたい」
俺は腕につけている紋章の腕輪を見せた。
これは陛下がいざという時に使えるようにと義父に託したものだ。
俺が成人して義父の子爵の爵位を継いだ時に渡された。
使うのはこれで二度目だ。
一度目はラフェを釈放してもらうためだった。
今回は……王妃のことを話すためだ。
早い時間なら王妃と出くわすことはないだろう。前回も運良く会わずに済んだ。
今回も会いたくない。
会って挨拶の為とはいえ頭を下げるのも殴りつけたくなるのを我慢して、あの女の気持ち悪い声で話しかけられるのは嫌でたまらない。
あの目でジトッと見られるだけで鳥肌が立つ。
俺を見下し蔑み、俺に暴言を吐くのを喜びとする女。
あんなのがこの国の王妃だなんて考えられない。
それもこの国では優しい王妃として国民に慕われているのだから、みんな見る目がない。
紋章を見た門番は突然頭を下げて
「どうぞお入りください」と門を通してくれた。
俺の顔をまじまじと見たが、何も聞いてはこない。
中に入ると陛下のいる王宮へと向かった。いくらここに来たくなくても仕事上、辺境地の騎士団長として貴族として嫌でも通うこの場所。
どこへ向かえばいいのかはわかっている。
俺は陛下が寝ていようと叩き起こすつもりで来た。
陛下の休む寝室の近くに行くと
「ここから先は困ります」と近衛騎士達に止められた。
みんな俺の顔も事情も知っている者達だ。
「悪いが急いでいるんだ、陛下を叩き起こしてくれ、出来ないなら俺がする」
「お願いです、もう少しお待ちいただけませんか?」
「俺は待った。夜は明けたんだ、年寄りなんだから目が覚めるのも早いだろう」
俺たちが廊下で大きな声で揉めているのが聞こえてきたようだ。
何人もの人達が覗き込んでこちらを窺う。
「グレン、何か話があるのか?」
「………陛下…」
近衛騎士達は陛下の声に慌てて頭を下げた。
俺も頭を下げた。
「はあーー、グレン。………わたしの部屋に入れ」
陛下は呆れたようにため息を吐いて俺を部屋へと入るように促した。
陛下は寝間着ではなくもうきちんと服に着替えていた。
もうとっくに起きていたのだろう。
俺は部屋に入ると豪華な皮のソファに座った。
すぐに温かい紅茶が侍女により出された。
そして中にいた侍女や騎士達を部屋から追い出し人払いをした陛下が俺に聞いた。
「こんな朝早くから来たのは……あの怪しいと言われた薬、麻薬関係の話だろう?犯人は自殺したらしいな」
「……どこまでご存知なのですか?黒幕が誰なのかわかっておられますか?」
「アレは簡単には証拠は残さないだろう?」
「………この手紙をお渡しします。あの人がこの手紙の存在を知ってしまえばまた何を仕出かすかわかりません。
………そろそろ覚悟していただきたい。
わたしだけならばどんなことでも流してみせましょう。
だがわたしの大切にしている人たちにまで危害を加えるならばわたしは差し違えてでもあの人の暴挙を止めます」
「…………………」
「何故躊躇われる?本当に愛しているのならわたしなどこの世に存在させなければよかった。あの人を狂わせたのは貴方の身勝手な行動です」
俺は陛下に淡々と話した。
感情的にならず自分を押さえて。
「わたしはあの人の罪を、証拠を見つけ出すつもりです。わたしを殺して口を封じたければいつでも受け入れます。しかしわたしの大切な人達を少しでも傷つければわたしは貴方達を全力で潰します」
「……そんな簡単なことではない」
ーーー何がですか?
そう聞きたかったが、この人は返事をすることはないだろう。
王妃を狂わせたのは自身の過ち。それをわかっているから王妃の行動に目を瞑ってきたのは陛下だ。
王妃は普段皆に慕われ優しい笑顔で接する。彼女の憎悪に満ちた内面を知っているのは本当に一握りの人達だけだ。
あの狂気に満ちた顔を覗かせるのは俺の前と陛下の前だけかもしれない。王太子ですら実の母の歪んだ醜い顔を見たことはないかもしれない。
俺はこれ以上話すこともなく席を立った。
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