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90話
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◆ ◆ ◆ エドワード
俺は悔しかった。誰も俺の気持ちなんかわからないだろうに、何故そんなに責められないといけないのか。
「貴方に何がわかるというのですか?記憶がなくなった時の絶望、自分が誰かもわからず周りからいいように利用されていてもわからずに言われるがままに過ごさなければいけなかった。
やっと自分の意思で愛する人を見つけ守っていこうとしたのに……それすらも作られたものだった」
「へぇだからなんだ?記憶がなくてもあんたが自分で選んだんだろう?辛かったのはあんただけじゃない。
ラフェはあんたが死んだと思ってから妊娠に気がついた。それでも子供を守るために必死で生きた。
あんたは母親に嘘をつかれて追い返されたかも知れないがラフェは乳飲子がいるのに屋敷を追い出された。それもお前が死んだと思われて貰えるはずのお金を全て義母に奪われて、必死で働く場所もないのに友人のツテを頼ってなんとか生きてきたんだ」
「………周りはいつもそのラフェさんのことを話しますが、俺にとっては記憶がないので全く知らない人でしかないのです。大切なのは今の家族です」
俺はアレックス様の顔を見てハッキリと言い切った。
「ならば伯爵に利用されようと俺のところに来る必要はなかったんじゃないか?」
冷たい目が俺を射抜く。
「アルバード君が殺されかけたと聞いています。それも俺のせいで………それは流石にわたしも気になって……」
俺は強気で話そうと思っていたのに、やはりこの人の持つ迫力に圧倒されて気圧されてしまう。
「はっ、あんたはアルのことを知ってどうするんだ?愛しているのは今の家族なんだろう?」
「そ、それは……そうですが……」
「まあ、どっちにしろコスナー伯爵の罪を暴けばあんた達は没落するんだ。あんたにチャンスをやるよ。伯爵の金の動きの帳簿を王都へ行って探して来い。
理由は……辺境伯領と美味しい商売が出来そうだと言え。辺境地の鉱山で見つかった鉱石を加工して売る権利をもらえるかもしれないと義父に伝えて話でもして来い。その間に屋敷で奴の隠している証拠を探して来い」
「わたしに盗みを働けと言うんですか?」
俺が驚いて聞くと
「それが出来ればあんた達親子も贅沢はできなくても生きてはいけるようにしてやるよ。
それとも処罰を受けて鉱山で働きながら嫁は男達の玩具にされるか?
あんたの嫁は娼婦くらいしか金を稼げないだろう?賠償金を稼ぐにはあんたの嫁はそれくらいしか役に立てないからな」
「な、何を言ってるんですか?」
ーーーはっ?何を言ってる!
俺は目を吊り上げた。
「自分もわかってるんだろう?このままお咎めがないなんてあり得ない。領民の健康を害して国にも多大なる恐怖を与えたんだ。コスナー伯爵は完全に黒だ。
あんたの嫁のシャーリーも本人は無自覚かもしれないが犯人の一人だ。そしてあんたは領主代理として責任を負わなければいけない。
ならば今あんたが出来るのはコスナー伯爵の罪をきちんと探し暴き出す事だ。それが唯一出来る贖罪だ、これ以上コスナー伯爵のせいで被害者を出すな」
「…………出来るだけのことはします」
目を逸らしていた現実を突きつけられた。
俺たちはもう今の生活をすることは出来ない。
それでも生きていかなければいけない。
ならば足掻くしかない。俺は記憶を失う前の家族へのことよりも『今』を選んだんだ。
俺は結局知りたかったことは教えてもらえずに一度コスナー領へ帰ってから王都へ向かうことにした。
シャーリーは相変わらず俺に甘えてくる。この妻を俺は守ると決めたんだ。そう強く思う。
何も知らずに「オズワルドと待っているわね」と微笑んで見送ってくれた。
◆ ◆ ◇ ◇ アレックス
「アイツはコスナー伯爵の証拠を何かしら探してくるだろう」
俺は部下にそう言うと
「見つけたからと言って罪を軽くするんですか?」
「はっ?俺にそんな権限はない」
部下は呆れて苦笑した。
「グレンからの報告が来た。俺も王都へ向かう。グレンだけじゃ王妃に太刀打ち出来ないだろう。
コスナー伯爵は確かに黒だが、一番真っ黒なのは王妃だ。王妃は常にグレンの動きを見ている。あれは異常だ、グレンは憎まれていると思ってるかもしれないが、王妃はグレンを憎んで恨んでいるがそれ以上に泥々に愛しているんだ、陛下から愛されなかった愛を歪ませて我が子と変わらない歳のグレンに執着してる。
だからグレンが愛し始めたラフェを狙ったんだ。グレンが苦しむのを楽しむためにな。
あの伯爵は色々悪い噂が絶えない男だから王妃が脅すかオイシイ話でもして良いように使っていたんだろう。
何かあれば全て伯爵の所為にして切ることが出来るからな。
それに伯爵は娘可愛さと自分にとってエドワードは良いように使えるから手元から逃したくないだろうからラフェ達親子を消したいだろう」
「グレンは陛下に似ていらっしゃいます。グレンの実の母親は陛下の最愛の人でしたから、王妃様からしたらかなりの憎悪とそして……歪んだ愛が生まれてしまったのでしょうね」
「そろそろ陛下も決断する時だ」
「………グレンを頼みます」
部下でありグレンの育ての父親は俺に頭を下げた。
俺は悔しかった。誰も俺の気持ちなんかわからないだろうに、何故そんなに責められないといけないのか。
「貴方に何がわかるというのですか?記憶がなくなった時の絶望、自分が誰かもわからず周りからいいように利用されていてもわからずに言われるがままに過ごさなければいけなかった。
やっと自分の意思で愛する人を見つけ守っていこうとしたのに……それすらも作られたものだった」
「へぇだからなんだ?記憶がなくてもあんたが自分で選んだんだろう?辛かったのはあんただけじゃない。
ラフェはあんたが死んだと思ってから妊娠に気がついた。それでも子供を守るために必死で生きた。
あんたは母親に嘘をつかれて追い返されたかも知れないがラフェは乳飲子がいるのに屋敷を追い出された。それもお前が死んだと思われて貰えるはずのお金を全て義母に奪われて、必死で働く場所もないのに友人のツテを頼ってなんとか生きてきたんだ」
「………周りはいつもそのラフェさんのことを話しますが、俺にとっては記憶がないので全く知らない人でしかないのです。大切なのは今の家族です」
俺はアレックス様の顔を見てハッキリと言い切った。
「ならば伯爵に利用されようと俺のところに来る必要はなかったんじゃないか?」
冷たい目が俺を射抜く。
「アルバード君が殺されかけたと聞いています。それも俺のせいで………それは流石にわたしも気になって……」
俺は強気で話そうと思っていたのに、やはりこの人の持つ迫力に圧倒されて気圧されてしまう。
「はっ、あんたはアルのことを知ってどうするんだ?愛しているのは今の家族なんだろう?」
「そ、それは……そうですが……」
「まあ、どっちにしろコスナー伯爵の罪を暴けばあんた達は没落するんだ。あんたにチャンスをやるよ。伯爵の金の動きの帳簿を王都へ行って探して来い。
理由は……辺境伯領と美味しい商売が出来そうだと言え。辺境地の鉱山で見つかった鉱石を加工して売る権利をもらえるかもしれないと義父に伝えて話でもして来い。その間に屋敷で奴の隠している証拠を探して来い」
「わたしに盗みを働けと言うんですか?」
俺が驚いて聞くと
「それが出来ればあんた達親子も贅沢はできなくても生きてはいけるようにしてやるよ。
それとも処罰を受けて鉱山で働きながら嫁は男達の玩具にされるか?
あんたの嫁は娼婦くらいしか金を稼げないだろう?賠償金を稼ぐにはあんたの嫁はそれくらいしか役に立てないからな」
「な、何を言ってるんですか?」
ーーーはっ?何を言ってる!
俺は目を吊り上げた。
「自分もわかってるんだろう?このままお咎めがないなんてあり得ない。領民の健康を害して国にも多大なる恐怖を与えたんだ。コスナー伯爵は完全に黒だ。
あんたの嫁のシャーリーも本人は無自覚かもしれないが犯人の一人だ。そしてあんたは領主代理として責任を負わなければいけない。
ならば今あんたが出来るのはコスナー伯爵の罪をきちんと探し暴き出す事だ。それが唯一出来る贖罪だ、これ以上コスナー伯爵のせいで被害者を出すな」
「…………出来るだけのことはします」
目を逸らしていた現実を突きつけられた。
俺たちはもう今の生活をすることは出来ない。
それでも生きていかなければいけない。
ならば足掻くしかない。俺は記憶を失う前の家族へのことよりも『今』を選んだんだ。
俺は結局知りたかったことは教えてもらえずに一度コスナー領へ帰ってから王都へ向かうことにした。
シャーリーは相変わらず俺に甘えてくる。この妻を俺は守ると決めたんだ。そう強く思う。
何も知らずに「オズワルドと待っているわね」と微笑んで見送ってくれた。
◆ ◆ ◇ ◇ アレックス
「アイツはコスナー伯爵の証拠を何かしら探してくるだろう」
俺は部下にそう言うと
「見つけたからと言って罪を軽くするんですか?」
「はっ?俺にそんな権限はない」
部下は呆れて苦笑した。
「グレンからの報告が来た。俺も王都へ向かう。グレンだけじゃ王妃に太刀打ち出来ないだろう。
コスナー伯爵は確かに黒だが、一番真っ黒なのは王妃だ。王妃は常にグレンの動きを見ている。あれは異常だ、グレンは憎まれていると思ってるかもしれないが、王妃はグレンを憎んで恨んでいるがそれ以上に泥々に愛しているんだ、陛下から愛されなかった愛を歪ませて我が子と変わらない歳のグレンに執着してる。
だからグレンが愛し始めたラフェを狙ったんだ。グレンが苦しむのを楽しむためにな。
あの伯爵は色々悪い噂が絶えない男だから王妃が脅すかオイシイ話でもして良いように使っていたんだろう。
何かあれば全て伯爵の所為にして切ることが出来るからな。
それに伯爵は娘可愛さと自分にとってエドワードは良いように使えるから手元から逃したくないだろうからラフェ達親子を消したいだろう」
「グレンは陛下に似ていらっしゃいます。グレンの実の母親は陛下の最愛の人でしたから、王妃様からしたらかなりの憎悪とそして……歪んだ愛が生まれてしまったのでしょうね」
「そろそろ陛下も決断する時だ」
「………グレンを頼みます」
部下でありグレンの育ての父親は俺に頭を下げた。
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