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89話  エドワード

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 ◆ ◆ ◆  エドワード

 初めて訪れた辺境地は険しい山々の中にありながらも、平地に大きな街が作られ賑わいを見せていた。
 山の恵みのキノコや山菜、その時々の季節の栗や柿、山葡萄などたくさんの食べ物にも恵まれていると店の人が話してくれた。
 他の領地からの物資の流通のための道も整備されて辺境地とは思えないほどの豊かさがそこにあった。

 俺は思わずしばらく街を散策してしまった。

 これだけの人々が暮らせるように出来たのは、ここを治める領主が有能なのだろう。有能な人は、必ず物事に意味を持たせて行動し、意味が無い行動はしない。 全ての局面において戦略的思考で行動するものだ。だからアレックス様はこの土地で、辺境伯として高い名声を得ているのだろう。

 この国で国王陛下にも一目置かれているお人だ。

 俺はアレックス様に謁見を申し込んでいたので時間になる前に城へと向かった。


 もっと無機質で人を寄せ付けない構えの城だと思ったが、たくさんの騎士達の声や使用人達の声がにぎやかに聞こえてくる思った以上に温かみのある城だった。

 作りはもちろん敵が来た時のために城壁はかなり高く中に入るのにも厳重にチェックされたが、中に入ってしまえば堅苦しさなどなかった。

「どうぞこちらに」

 にこやかな笑顔で案内してくれた騎士は途中俺の名を聞いた瞬間不機嫌になった。

 いや、不機嫌な顔を隠そうともしなかった。

 そして「貴方が……」と一言漏らすと後は黙ったままアレックス様のいる客間へと案内された。

 部屋に入るとがっちりとした体の大きな男がにこやかに立っていた。

「貴方がリオ・コスナー殿ですね?ようこそ辺境地に」

 そういうと座るように勧められて彼の前のソファに腰掛けた。

 メイドがお茶を運んでくれた。

 ふと気がつくと周りは俺に対して冷たい視線を送っていた。

 会ったこともない俺に対しての態度に違和感しかなく、居心地の悪さと逆に苛立ちを覚えた。

 ーーーいったいなんなんだ!こいつらの態度は!客に対する態度じゃないだろう!

 そう思っているのが顔に出ていたのか、アレックス様は俺を見てにこやかに笑いながら

「うちの騎士達はこの辺境地で暮らしているので無骨で荒くれ者が多いんですまない。
 ただ義理人情にはとても厚く、一度懐に入れた者に対してとても大切にするんです」

 ーーー何が言いたいんだ?

 俺は眉をピクッとさせた。

 それを見てから、アレックス様はにこやかな笑顔から嘲るような笑顔に変わった。

「俺は君の顔を一度見てみたかった」
 突然言葉遣いも表情も変わった。

 射るような目は思わずたじろいでしまう。

 ーーーなんでこんな目を向けられなければいけないんだ?

「君はここに来てからとても嫌な気分になっていると思う。うちの者達の君への態度はとても失礼だと思う、先に謝らせてもらう、すまない」

 そういうと真面目な顔をして頭を下げてきた。

 俺は訳がわからなかった。

 この人は一体何を考えているのか?

 返事もできずにアレックス様を見ていた。

「まず、先に説明させてもらう。それが君が知りたい話と同じだろうから」

 ーーー同じこと?



 その話はーーー


 うちの騎士達は俺と共に王都のタウンハウスへ行くことがある。その時に必死で貧しくとも頑張って生きているラフェとアルと知り合った。
 たまたま破落戸達に絡まれていたラフェを助けたんだ。それからは痩せこけて体調を崩したラフェを俺たちは気にかけて過ごした。

 ラフェの兄は俺の同級生で友人だったから、ラフェのことも多少は知っていたしな。
 グレンはもちろんうちの者達はみんな頑張るラフェと明るくて人懐っこいアルを見守ってきた。
 俺が領地に戻っても交代で二人を見守ってきたんだ。なのにアルは怪しい薬を飲まされて死にかけた。俺たちが数日目を離した隙に。

 俺たちは毎日差し入れをすれば気を遣うからと少し時間を空けようと言ってちょうど顔を出していない時だった。

 アルの熱が続き町医者では治すことが出来なかった。ラフェはタウンハウスにやって来て、アルを助けて欲しいと頼みに来たんだ。

 どんなに苦しくても人に頼ることが出来ないラフェが必死でな。

 そしてわかったのが、あんたのところの領地にある商会が売った薬のせいで死にかけてるとわかった。

 医者は国に報告する義務があった。

 そしてラフェはアルのそばにいてあげることが出来ず警備隊に連れて行かれて軟禁された。まともな食事も与えてもらえなかったらしい。

 俺が知って出すように動く前にグレンが先に動いたが、ラフェをそんな状態にするようにしたのはあんたの義父のコスナー伯爵だ。

 へえ、そのことは知ってるんだな?
 あんた顔に出過ぎ。

 じゃあ、理由はわかるか?




 アレックス様は俺を試すように聞いて来た。


「わかりません……その答えが知りたくてここに来ました」

「ふうん、何故自分で答えを探しに行かない?」

「流石に領地での仕事を放棄して王都へは行けませんので」

「違うだろぉ?あんたは現実から逃げてるんだ。記憶が戻ったらどうしていいかわからないから、今更どの面下げて会えばいいのかわからないんだろう?」

「…………」

 俺は両手の拳を握りしめて俯いたまま顔を上げることが出来なかった。







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