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78話 ラフェ
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◇ ◇ ◇ ラフェ
「アル?良い子ね」
意識のない息子の頬を優しく触りながら話しかける。
わたしはアルバードの眠るベッドのそばに椅子を置き、アルバードのそばに出来るだけいることにした。
まだ意識が戻らないアルバード。
このまま衰弱して死んでしまうか、薬が間に合うか。
死なないと信じていても不安になる。
ずっと苦しんでいるのにそばにいてあげられなかった酷い母親でやっと会えたのに、アルバードが死んだと思って気を失うなんて。
アルバード、ごめんね、何度も強くなろうと、強くならないといけないと思ってるのに。
弱くて力のない母で、ごめんなさい。
メイドさんが部屋にお茶を持ってきてくれた。
「ラフェ様、お茶を持ってきました。少しだけでも甘いものを食べてください。料理長がラフェ様ようにラズベリーと苺のタルトを焼いたんです」
「ありがとうございます。いつも差し入れでいただくタルトですね?アルが大好きなんです」
食欲なんて殆どない。
警備隊に捕まっている間、無理やり口に食べ物を詰め込んで飲み込む作業しかしていなかった。何度も吐いて、それでもアルバードにあった時心配させないように必死で食べていた。
この屋敷に来てからも倒れてしまい食事は殆どスープのみ。
だけど……このタルトは、アルバードが大好きだったもの。
だからなのかお茶を飲みながら無理やり流し込まなくても、不思議に口が受け付けてくれた。
「………美味しい、で、、す」
「よかったぁ、料理長が喜びます。ラフェ様の姿を見てお痩せになっていたのでとても心配していたのです。
いつもお二人が喜んでくれて食べていると報告があったタルトなら食べられるかもしれないと思って。みんなで考えたんです」
「みんなで?」
「私たち使用人は、あまり近寄らないご主人様のアレックス様とグレン様がこんなに王都に居てくれたのは、ラフェ様とアル様のおかげだと思っているんです。お二人に出会ってから二人はとても楽しそうで。
私達使用人は雇われてこのタウンハウスを守っていますが、普段は何もすることがなくて……お二人がいなくても毎日ラフェ様達のために何かできることがあるのは、仕事をしている私たちにとって楽しみだったんです」
「いつもありがとうございました。皆様からの優しさと気遣いのおかげでわたし達親子は生きて来れました」
「わたし達は主人の命令で出来ることしかしていません、ただそこにこっそり気持ちが入り込んでしまって、お二人の喜ぶ顔を見るのが楽しみになっていたのです」
メイドさんは優しく微笑んでくれた。
「ありがとうございます」
タルトのお礼を言いながら
「図々しくも皆さんの好意に甘えて、わたしが捕まっている間もアルバードの看病をしてもらっていたのにお礼を言わずすみませんでした」
「みんな可愛いアル様に夢中なので、誰が面倒をみるか順番を奪い合っていたんです、あ、ごめんなさい、元気が一番なのに、失礼なことを言いました」
「いいえ、捕まっている間、アルバードの体のことは心配でしたが、皆様にお任せしていたので安心しておりました」
わたしはお茶をいただきながらメイドさんとお話をした。
ここのタウンハウスの使用人さん達は平民でしかないわたしたち親子にとても優しく接してくれる。だからアルバードのことも心配でたまらなかったけど、ここに預けていたのでそれ自体は安心していた。
もしこれがうちの家にアルを置いて捕まっていたら、わたしは心配で気が狂っていたかもしれない。
近所の人はいい人たちだけど、やはり平民では診てもらえるお医者様は限られているし薬や治療にも限界がある。
平民と貴族の社会を行ったり来たりして暮らしてきたわたしだからわかる。
やはりこの社会は平民では生きにくい。
ただ縛りのない平民の生活は自由だし、貴族のようにしがらみや本音と建前なんて必要はない。そんな意味ではとても幸せに暮らせる。
だけど、女一人が乳飲み子を抱えて暮らすのはとても厳しかった。
そんなことを考えていると、突然、いつも冷静で笑顔が絶えない優しい執事さんが部屋に飛び込んできた。
「ラフェ様、薬が届きました」
「えっ?まだグレン様が旅立って4日しか経っていないのに?遅くとも一週間はかかると思っていたのに……」
「グレン様はこちらに向かっていると思います。とりあえず2日分の薬を伝書鳥が運んできました。今お医者様をお呼びしております」
「…………あ…りがとう……ござい…ます」
「アル様の生きようとする力が運を引き寄せたのですよ。薬があってよかったですね」
「………はい」
わたしは体から力が抜けそうになるのを必死で耐えた。
「アル?良い子ね」
意識のない息子の頬を優しく触りながら話しかける。
わたしはアルバードの眠るベッドのそばに椅子を置き、アルバードのそばに出来るだけいることにした。
まだ意識が戻らないアルバード。
このまま衰弱して死んでしまうか、薬が間に合うか。
死なないと信じていても不安になる。
ずっと苦しんでいるのにそばにいてあげられなかった酷い母親でやっと会えたのに、アルバードが死んだと思って気を失うなんて。
アルバード、ごめんね、何度も強くなろうと、強くならないといけないと思ってるのに。
弱くて力のない母で、ごめんなさい。
メイドさんが部屋にお茶を持ってきてくれた。
「ラフェ様、お茶を持ってきました。少しだけでも甘いものを食べてください。料理長がラフェ様ようにラズベリーと苺のタルトを焼いたんです」
「ありがとうございます。いつも差し入れでいただくタルトですね?アルが大好きなんです」
食欲なんて殆どない。
警備隊に捕まっている間、無理やり口に食べ物を詰め込んで飲み込む作業しかしていなかった。何度も吐いて、それでもアルバードにあった時心配させないように必死で食べていた。
この屋敷に来てからも倒れてしまい食事は殆どスープのみ。
だけど……このタルトは、アルバードが大好きだったもの。
だからなのかお茶を飲みながら無理やり流し込まなくても、不思議に口が受け付けてくれた。
「………美味しい、で、、す」
「よかったぁ、料理長が喜びます。ラフェ様の姿を見てお痩せになっていたのでとても心配していたのです。
いつもお二人が喜んでくれて食べていると報告があったタルトなら食べられるかもしれないと思って。みんなで考えたんです」
「みんなで?」
「私たち使用人は、あまり近寄らないご主人様のアレックス様とグレン様がこんなに王都に居てくれたのは、ラフェ様とアル様のおかげだと思っているんです。お二人に出会ってから二人はとても楽しそうで。
私達使用人は雇われてこのタウンハウスを守っていますが、普段は何もすることがなくて……お二人がいなくても毎日ラフェ様達のために何かできることがあるのは、仕事をしている私たちにとって楽しみだったんです」
「いつもありがとうございました。皆様からの優しさと気遣いのおかげでわたし達親子は生きて来れました」
「わたし達は主人の命令で出来ることしかしていません、ただそこにこっそり気持ちが入り込んでしまって、お二人の喜ぶ顔を見るのが楽しみになっていたのです」
メイドさんは優しく微笑んでくれた。
「ありがとうございます」
タルトのお礼を言いながら
「図々しくも皆さんの好意に甘えて、わたしが捕まっている間もアルバードの看病をしてもらっていたのにお礼を言わずすみませんでした」
「みんな可愛いアル様に夢中なので、誰が面倒をみるか順番を奪い合っていたんです、あ、ごめんなさい、元気が一番なのに、失礼なことを言いました」
「いいえ、捕まっている間、アルバードの体のことは心配でしたが、皆様にお任せしていたので安心しておりました」
わたしはお茶をいただきながらメイドさんとお話をした。
ここのタウンハウスの使用人さん達は平民でしかないわたしたち親子にとても優しく接してくれる。だからアルバードのことも心配でたまらなかったけど、ここに預けていたのでそれ自体は安心していた。
もしこれがうちの家にアルを置いて捕まっていたら、わたしは心配で気が狂っていたかもしれない。
近所の人はいい人たちだけど、やはり平民では診てもらえるお医者様は限られているし薬や治療にも限界がある。
平民と貴族の社会を行ったり来たりして暮らしてきたわたしだからわかる。
やはりこの社会は平民では生きにくい。
ただ縛りのない平民の生活は自由だし、貴族のようにしがらみや本音と建前なんて必要はない。そんな意味ではとても幸せに暮らせる。
だけど、女一人が乳飲み子を抱えて暮らすのはとても厳しかった。
そんなことを考えていると、突然、いつも冷静で笑顔が絶えない優しい執事さんが部屋に飛び込んできた。
「ラフェ様、薬が届きました」
「えっ?まだグレン様が旅立って4日しか経っていないのに?遅くとも一週間はかかると思っていたのに……」
「グレン様はこちらに向かっていると思います。とりあえず2日分の薬を伝書鳥が運んできました。今お医者様をお呼びしております」
「…………あ…りがとう……ござい…ます」
「アル様の生きようとする力が運を引き寄せたのですよ。薬があってよかったですね」
「………はい」
わたしは体から力が抜けそうになるのを必死で耐えた。
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