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73話 シャーリー
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◆ ◆ ◇ ◇ シャーリー
「わたしが取り調べ?どうしてそんなことしないといけないのかしら?」
オズワルドとゆっくり過ごしているところに執事がそんなことを言って来たの。
執事見習いのジミーが捕まった。
子供に薬物を使用して殺そうとした疑いで。
夫も何度も辺境伯領の騎士団に呼ばれている。この領地に商会を出店させた責任者として。
なんだかとっても嫌な気分だわ。街は不穏な空気が流れているし、わたしの友人達も落ち着かない感じだし、屋敷の中の使用人たちもざわついているようだわ。
「ねえ、屋敷の中をきちんと整えるのも貴方の仕事よね?使用人たちの私語をどうにかしなさい。うるさくて仕方がないわ、オズワルドも不安みたいですぐ不機嫌になってしまうわ」
執事にそう告げると「申し訳ございません、ジミーの事件で皆が不安になっております」
「それをなんとかするのが貴方のお仕事でしょう?」
オズワルドがおもちゃで遊んでいるのを横目で見てため息が出た。
最近はわたしに懐いてニコニコ笑って手を出して抱っこをねだったり、一緒にお昼寝をしたりして『可愛い』と感じるようになった。
リオも仕事ばかりしてわたしに構ってくれなかったけど、最近はわたしのために時間をとってくれる。
やっと家族として上手くやっていけるようになったのに、こんな事件が起きて可愛いオズワルドに少しでも影響があったら嫌だわ。
もうなんだかイライラしちゃうわ。
リオがわたしの護衛として雇われた時、『リオ』に惹かれて行った。
わたしにはもともと婚約者がいた。
その婚約者はわたしの友人を好きになった。そして『婚約解消して欲しい』と言ってきたのだ。
わたしはまだ純粋で彼だけを愛していた。
二人でのデートにドキドキして頬を染めることも。手を繋ぐだけで幸せで、彼の声を聞くだけで心がポカポカする。
そんな可愛らしい初恋を婚約者に対して想っていた。
このまま二人は結婚して幸せに暮らしていくのだろうと。
だけど婚約者はわたしの友人を好きになった。
友人は幼馴染で婚約者とも何度か会うことがあった。一緒にお茶をしたり三人で会話することもあった。素直だったわたしはそこに違和感なんて感じていなかったのよね。
二人がわたしの屋敷で……わたしが席を離れている間に……キスをして抱きしめあっている姿を見るまでは……
いつも優しく囁いてくれたあの声で彼はわたしではない友人にキスをして『愛している』と言って抱きしめていたのだ。
わたしはそんな二人を見て、体が小刻みに震え涙が潤んでポロポロと泣き出した。あの頃のわたしは可愛かったわ。
『すまない、シャーリー。僕は彼女を愛してしまったんだ』
『シャーリーごめんなさい。貴方の婚約者だと知りながらわたしも彼を愛してしまったの』
まるでわたしが悪女で二人の愛を邪魔しているように振る舞うのをみて、呆然として何も言い返せなかった。胸が痛い、悲しい、そんな思いだったわ。
二人がわたしに色々話しかけてくるのに何も耳に入らなかった。
何故?わたしは貴方を愛しているのに。
何故?親友だと思っていた貴女がわたしの婚約者と抱きしめあっているの?
わたしは言葉を発することなくその場で崩れるように倒れた。
それからのことはあまりよく覚えていないの。
ただ『婚約解消して欲しい』とわたしに言ってきたことだけは今も覚えている。
とてもすまなそうに言ってたけど、わたしは彼らを許すことはできなかった。だけど追い縋るなんてプライドが許さなかった。
だってわたしも愛していたもの、友人だと思っていたもの。
だから『あら?お似合いの二人だわ。どうぞお幸せに』と言って笑って婚約解消をして別れた。
それからしばらくは王都から離れてこのコスナー領で過ごしたわ。
王都にいればみんなから好奇な目で見られてしまうし、わたしが悪者のように言われるのは我慢できなかったもの。
お父様はとてもお怒りで婚約者の家への融資は一切取り止めた。友人の家との仕事の付き合いは全て切った。
我が家は伯爵家とはいえ、かなりの資産家だ。二人の実家はお父様の怒りを買い、落ちぶれて今は借金に苦しみながらの生活をしていると聞いている。
まだなんとか貴族として頑張ってはいるらしいのだけど。
ふふ、一度だけ元婚約者がわたしに泣きついてきたわ、あれは滑稽だった。
『お願いだ、お父上に我が家に融資をしてくれるように頼んでくれないか?』
疲れ切った顔でわたしに懇願する姿。
『貴方は誰かしら?』
そう言って追い返してやったの。
彼のおかげで純粋だったわたしは、とても性格が悪くなったわ。人って平気で裏切るものだと知ったから。
わたしは彼に全てを捧げたのに。純潔も愛も。
それを簡単に切り捨てたのは元婚約者の方なのに、何故わたしが悪いかのように見られるの?
友人が、か弱そうな可愛らしい姿だからかしら?
人って見かけだけで全てが決まるのかしら?
わたしはおかげで人間不信になってしまったの。
「わたしが取り調べ?どうしてそんなことしないといけないのかしら?」
オズワルドとゆっくり過ごしているところに執事がそんなことを言って来たの。
執事見習いのジミーが捕まった。
子供に薬物を使用して殺そうとした疑いで。
夫も何度も辺境伯領の騎士団に呼ばれている。この領地に商会を出店させた責任者として。
なんだかとっても嫌な気分だわ。街は不穏な空気が流れているし、わたしの友人達も落ち着かない感じだし、屋敷の中の使用人たちもざわついているようだわ。
「ねえ、屋敷の中をきちんと整えるのも貴方の仕事よね?使用人たちの私語をどうにかしなさい。うるさくて仕方がないわ、オズワルドも不安みたいですぐ不機嫌になってしまうわ」
執事にそう告げると「申し訳ございません、ジミーの事件で皆が不安になっております」
「それをなんとかするのが貴方のお仕事でしょう?」
オズワルドがおもちゃで遊んでいるのを横目で見てため息が出た。
最近はわたしに懐いてニコニコ笑って手を出して抱っこをねだったり、一緒にお昼寝をしたりして『可愛い』と感じるようになった。
リオも仕事ばかりしてわたしに構ってくれなかったけど、最近はわたしのために時間をとってくれる。
やっと家族として上手くやっていけるようになったのに、こんな事件が起きて可愛いオズワルドに少しでも影響があったら嫌だわ。
もうなんだかイライラしちゃうわ。
リオがわたしの護衛として雇われた時、『リオ』に惹かれて行った。
わたしにはもともと婚約者がいた。
その婚約者はわたしの友人を好きになった。そして『婚約解消して欲しい』と言ってきたのだ。
わたしはまだ純粋で彼だけを愛していた。
二人でのデートにドキドキして頬を染めることも。手を繋ぐだけで幸せで、彼の声を聞くだけで心がポカポカする。
そんな可愛らしい初恋を婚約者に対して想っていた。
このまま二人は結婚して幸せに暮らしていくのだろうと。
だけど婚約者はわたしの友人を好きになった。
友人は幼馴染で婚約者とも何度か会うことがあった。一緒にお茶をしたり三人で会話することもあった。素直だったわたしはそこに違和感なんて感じていなかったのよね。
二人がわたしの屋敷で……わたしが席を離れている間に……キスをして抱きしめあっている姿を見るまでは……
いつも優しく囁いてくれたあの声で彼はわたしではない友人にキスをして『愛している』と言って抱きしめていたのだ。
わたしはそんな二人を見て、体が小刻みに震え涙が潤んでポロポロと泣き出した。あの頃のわたしは可愛かったわ。
『すまない、シャーリー。僕は彼女を愛してしまったんだ』
『シャーリーごめんなさい。貴方の婚約者だと知りながらわたしも彼を愛してしまったの』
まるでわたしが悪女で二人の愛を邪魔しているように振る舞うのをみて、呆然として何も言い返せなかった。胸が痛い、悲しい、そんな思いだったわ。
二人がわたしに色々話しかけてくるのに何も耳に入らなかった。
何故?わたしは貴方を愛しているのに。
何故?親友だと思っていた貴女がわたしの婚約者と抱きしめあっているの?
わたしは言葉を発することなくその場で崩れるように倒れた。
それからのことはあまりよく覚えていないの。
ただ『婚約解消して欲しい』とわたしに言ってきたことだけは今も覚えている。
とてもすまなそうに言ってたけど、わたしは彼らを許すことはできなかった。だけど追い縋るなんてプライドが許さなかった。
だってわたしも愛していたもの、友人だと思っていたもの。
だから『あら?お似合いの二人だわ。どうぞお幸せに』と言って笑って婚約解消をして別れた。
それからしばらくは王都から離れてこのコスナー領で過ごしたわ。
王都にいればみんなから好奇な目で見られてしまうし、わたしが悪者のように言われるのは我慢できなかったもの。
お父様はとてもお怒りで婚約者の家への融資は一切取り止めた。友人の家との仕事の付き合いは全て切った。
我が家は伯爵家とはいえ、かなりの資産家だ。二人の実家はお父様の怒りを買い、落ちぶれて今は借金に苦しみながらの生活をしていると聞いている。
まだなんとか貴族として頑張ってはいるらしいのだけど。
ふふ、一度だけ元婚約者がわたしに泣きついてきたわ、あれは滑稽だった。
『お願いだ、お父上に我が家に融資をしてくれるように頼んでくれないか?』
疲れ切った顔でわたしに懇願する姿。
『貴方は誰かしら?』
そう言って追い返してやったの。
彼のおかげで純粋だったわたしは、とても性格が悪くなったわ。人って平気で裏切るものだと知ったから。
わたしは彼に全てを捧げたのに。純潔も愛も。
それを簡単に切り捨てたのは元婚約者の方なのに、何故わたしが悪いかのように見られるの?
友人が、か弱そうな可愛らしい姿だからかしら?
人って見かけだけで全てが決まるのかしら?
わたしはおかげで人間不信になってしまったの。
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