73 / 146
73話 シャーリー
しおりを挟む
◆ ◆ ◇ ◇ シャーリー
「わたしが取り調べ?どうしてそんなことしないといけないのかしら?」
オズワルドとゆっくり過ごしているところに執事がそんなことを言って来たの。
執事見習いのジミーが捕まった。
子供に薬物を使用して殺そうとした疑いで。
夫も何度も辺境伯領の騎士団に呼ばれている。この領地に商会を出店させた責任者として。
なんだかとっても嫌な気分だわ。街は不穏な空気が流れているし、わたしの友人達も落ち着かない感じだし、屋敷の中の使用人たちもざわついているようだわ。
「ねえ、屋敷の中をきちんと整えるのも貴方の仕事よね?使用人たちの私語をどうにかしなさい。うるさくて仕方がないわ、オズワルドも不安みたいですぐ不機嫌になってしまうわ」
執事にそう告げると「申し訳ございません、ジミーの事件で皆が不安になっております」
「それをなんとかするのが貴方のお仕事でしょう?」
オズワルドがおもちゃで遊んでいるのを横目で見てため息が出た。
最近はわたしに懐いてニコニコ笑って手を出して抱っこをねだったり、一緒にお昼寝をしたりして『可愛い』と感じるようになった。
リオも仕事ばかりしてわたしに構ってくれなかったけど、最近はわたしのために時間をとってくれる。
やっと家族として上手くやっていけるようになったのに、こんな事件が起きて可愛いオズワルドに少しでも影響があったら嫌だわ。
もうなんだかイライラしちゃうわ。
リオがわたしの護衛として雇われた時、『リオ』に惹かれて行った。
わたしにはもともと婚約者がいた。
その婚約者はわたしの友人を好きになった。そして『婚約解消して欲しい』と言ってきたのだ。
わたしはまだ純粋で彼だけを愛していた。
二人でのデートにドキドキして頬を染めることも。手を繋ぐだけで幸せで、彼の声を聞くだけで心がポカポカする。
そんな可愛らしい初恋を婚約者に対して想っていた。
このまま二人は結婚して幸せに暮らしていくのだろうと。
だけど婚約者はわたしの友人を好きになった。
友人は幼馴染で婚約者とも何度か会うことがあった。一緒にお茶をしたり三人で会話することもあった。素直だったわたしはそこに違和感なんて感じていなかったのよね。
二人がわたしの屋敷で……わたしが席を離れている間に……キスをして抱きしめあっている姿を見るまでは……
いつも優しく囁いてくれたあの声で彼はわたしではない友人にキスをして『愛している』と言って抱きしめていたのだ。
わたしはそんな二人を見て、体が小刻みに震え涙が潤んでポロポロと泣き出した。あの頃のわたしは可愛かったわ。
『すまない、シャーリー。僕は彼女を愛してしまったんだ』
『シャーリーごめんなさい。貴方の婚約者だと知りながらわたしも彼を愛してしまったの』
まるでわたしが悪女で二人の愛を邪魔しているように振る舞うのをみて、呆然として何も言い返せなかった。胸が痛い、悲しい、そんな思いだったわ。
二人がわたしに色々話しかけてくるのに何も耳に入らなかった。
何故?わたしは貴方を愛しているのに。
何故?親友だと思っていた貴女がわたしの婚約者と抱きしめあっているの?
わたしは言葉を発することなくその場で崩れるように倒れた。
それからのことはあまりよく覚えていないの。
ただ『婚約解消して欲しい』とわたしに言ってきたことだけは今も覚えている。
とてもすまなそうに言ってたけど、わたしは彼らを許すことはできなかった。だけど追い縋るなんてプライドが許さなかった。
だってわたしも愛していたもの、友人だと思っていたもの。
だから『あら?お似合いの二人だわ。どうぞお幸せに』と言って笑って婚約解消をして別れた。
それからしばらくは王都から離れてこのコスナー領で過ごしたわ。
王都にいればみんなから好奇な目で見られてしまうし、わたしが悪者のように言われるのは我慢できなかったもの。
お父様はとてもお怒りで婚約者の家への融資は一切取り止めた。友人の家との仕事の付き合いは全て切った。
我が家は伯爵家とはいえ、かなりの資産家だ。二人の実家はお父様の怒りを買い、落ちぶれて今は借金に苦しみながらの生活をしていると聞いている。
まだなんとか貴族として頑張ってはいるらしいのだけど。
ふふ、一度だけ元婚約者がわたしに泣きついてきたわ、あれは滑稽だった。
『お願いだ、お父上に我が家に融資をしてくれるように頼んでくれないか?』
疲れ切った顔でわたしに懇願する姿。
『貴方は誰かしら?』
そう言って追い返してやったの。
彼のおかげで純粋だったわたしは、とても性格が悪くなったわ。人って平気で裏切るものだと知ったから。
わたしは彼に全てを捧げたのに。純潔も愛も。
それを簡単に切り捨てたのは元婚約者の方なのに、何故わたしが悪いかのように見られるの?
友人が、か弱そうな可愛らしい姿だからかしら?
人って見かけだけで全てが決まるのかしら?
わたしはおかげで人間不信になってしまったの。
「わたしが取り調べ?どうしてそんなことしないといけないのかしら?」
オズワルドとゆっくり過ごしているところに執事がそんなことを言って来たの。
執事見習いのジミーが捕まった。
子供に薬物を使用して殺そうとした疑いで。
夫も何度も辺境伯領の騎士団に呼ばれている。この領地に商会を出店させた責任者として。
なんだかとっても嫌な気分だわ。街は不穏な空気が流れているし、わたしの友人達も落ち着かない感じだし、屋敷の中の使用人たちもざわついているようだわ。
「ねえ、屋敷の中をきちんと整えるのも貴方の仕事よね?使用人たちの私語をどうにかしなさい。うるさくて仕方がないわ、オズワルドも不安みたいですぐ不機嫌になってしまうわ」
執事にそう告げると「申し訳ございません、ジミーの事件で皆が不安になっております」
「それをなんとかするのが貴方のお仕事でしょう?」
オズワルドがおもちゃで遊んでいるのを横目で見てため息が出た。
最近はわたしに懐いてニコニコ笑って手を出して抱っこをねだったり、一緒にお昼寝をしたりして『可愛い』と感じるようになった。
リオも仕事ばかりしてわたしに構ってくれなかったけど、最近はわたしのために時間をとってくれる。
やっと家族として上手くやっていけるようになったのに、こんな事件が起きて可愛いオズワルドに少しでも影響があったら嫌だわ。
もうなんだかイライラしちゃうわ。
リオがわたしの護衛として雇われた時、『リオ』に惹かれて行った。
わたしにはもともと婚約者がいた。
その婚約者はわたしの友人を好きになった。そして『婚約解消して欲しい』と言ってきたのだ。
わたしはまだ純粋で彼だけを愛していた。
二人でのデートにドキドキして頬を染めることも。手を繋ぐだけで幸せで、彼の声を聞くだけで心がポカポカする。
そんな可愛らしい初恋を婚約者に対して想っていた。
このまま二人は結婚して幸せに暮らしていくのだろうと。
だけど婚約者はわたしの友人を好きになった。
友人は幼馴染で婚約者とも何度か会うことがあった。一緒にお茶をしたり三人で会話することもあった。素直だったわたしはそこに違和感なんて感じていなかったのよね。
二人がわたしの屋敷で……わたしが席を離れている間に……キスをして抱きしめあっている姿を見るまでは……
いつも優しく囁いてくれたあの声で彼はわたしではない友人にキスをして『愛している』と言って抱きしめていたのだ。
わたしはそんな二人を見て、体が小刻みに震え涙が潤んでポロポロと泣き出した。あの頃のわたしは可愛かったわ。
『すまない、シャーリー。僕は彼女を愛してしまったんだ』
『シャーリーごめんなさい。貴方の婚約者だと知りながらわたしも彼を愛してしまったの』
まるでわたしが悪女で二人の愛を邪魔しているように振る舞うのをみて、呆然として何も言い返せなかった。胸が痛い、悲しい、そんな思いだったわ。
二人がわたしに色々話しかけてくるのに何も耳に入らなかった。
何故?わたしは貴方を愛しているのに。
何故?親友だと思っていた貴女がわたしの婚約者と抱きしめあっているの?
わたしは言葉を発することなくその場で崩れるように倒れた。
それからのことはあまりよく覚えていないの。
ただ『婚約解消して欲しい』とわたしに言ってきたことだけは今も覚えている。
とてもすまなそうに言ってたけど、わたしは彼らを許すことはできなかった。だけど追い縋るなんてプライドが許さなかった。
だってわたしも愛していたもの、友人だと思っていたもの。
だから『あら?お似合いの二人だわ。どうぞお幸せに』と言って笑って婚約解消をして別れた。
それからしばらくは王都から離れてこのコスナー領で過ごしたわ。
王都にいればみんなから好奇な目で見られてしまうし、わたしが悪者のように言われるのは我慢できなかったもの。
お父様はとてもお怒りで婚約者の家への融資は一切取り止めた。友人の家との仕事の付き合いは全て切った。
我が家は伯爵家とはいえ、かなりの資産家だ。二人の実家はお父様の怒りを買い、落ちぶれて今は借金に苦しみながらの生活をしていると聞いている。
まだなんとか貴族として頑張ってはいるらしいのだけど。
ふふ、一度だけ元婚約者がわたしに泣きついてきたわ、あれは滑稽だった。
『お願いだ、お父上に我が家に融資をしてくれるように頼んでくれないか?』
疲れ切った顔でわたしに懇願する姿。
『貴方は誰かしら?』
そう言って追い返してやったの。
彼のおかげで純粋だったわたしは、とても性格が悪くなったわ。人って平気で裏切るものだと知ったから。
わたしは彼に全てを捧げたのに。純潔も愛も。
それを簡単に切り捨てたのは元婚約者の方なのに、何故わたしが悪いかのように見られるの?
友人が、か弱そうな可愛らしい姿だからかしら?
人って見かけだけで全てが決まるのかしら?
わたしはおかげで人間不信になってしまったの。
57
お気に入りに追加
3,819
あなたにおすすめの小説

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~
夏笆(なつは)
恋愛
ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。
ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。
『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』
可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。
更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。
『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』
『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』
夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。
それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。
そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。
期間は一年。
厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。
つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。
この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。
あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。
小説家になろうでも、掲載しています。
Hotランキング1位、ありがとうございます。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ
ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる