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68話  シエロ (ラフェの兄)

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 ◆ ◆ ◇  シエロ

 アレックスのタウンハウスに呼ばれた。

 ラフェがあの警備隊から釈放されたと聞いた。

 俺が何度もラフェの無実を訴えても平民でしかない俺には力はなかった。
 元貴族ではあっても商売が上手くいってそれなりの金が出来ても所詮は平民。

 やはりこの社会は貴族が中心で成り立っていると平民になってつくづく感じた。

 アレックスのところの執事とは昔からの顔馴染みだ。

 彼とは平民になり会うこともなかったが、ラフェのことでアレックスと連絡を取ってくれてラフェとアルバードのために動いてくれた。

 そしてグレンが二人の元へ薬を届けてくれて、ラフェを助け出してくれたと聞いた。

 ただ心配なのはあいつの口の悪さだ。

 あいつは思っていることの反対を言う。慣れている奴はいいけど、ラフェを傷つけているかもしれない。

 そう思いながら仕事を部下に全て押し付けて急いでタウンハウスにやって来た。

 そしたらタウンハウスの中はとても騒がしかった。

「シエロ!アルが大変なんだ!ラフェも!」

 グレンが俺を見ると腕を掴んでそのまま走り出した。

「グレン?何があった?」

「アルが意識がない。薬はだいぶん抜けて効いてるはずなのに、小さすぎて体力がない、抵抗力も落ちて、ダメかもしれない……」

 グレンがボロボロと泣いている。
 いつも豪快でどんな苦境も笑って過ごして来たグレンが泣いたのは……彼の妻と子供を失った時以来だと思う。
 葬儀に参列した時のことを思い出す。



 アルの姿を見ると……

 そこには、動かないでただ死んだように眠り続けるアルバードがいた。
 医者が必死で助けようとしている姿。

 そして傍にラフェが呆然として椅子に腰掛けていた。

「ラフェ?」

「に、いさん?」
 力なく俺に目をやると、わんわん泣き始めた。

「兄さん、アルがアルが死んじゃう!やだよ、アル、助からないのかな?」

「ラフェ、落ち着いて、医者に話を聞きたい。俺たちの母は隣国の大商会の娘なんだ。あそこは薬も色々扱ってる、医者に話を聞きたい。この国にもその商会の分店が最近出来たと聞いた。薬を探してもらえるかもしれない」

「……お母様の?」

「うん、とにかく詳しい話はまたする。待ってて」
 俺は医者に今のアルバードの状態を聞いた。

 やはり薬が完全に抜け切らないでいるうえ、体力も落ちて……このままでは……もたないだろうと言われた。

「何か完全にあの薬を取り除く方法があればいいのですが」

「わかりました」

 俺はグレンの肩をポンっと叩いた。

 グレンもどうすることもできずに椅子に座り俯いていた。

「グレン、お前の力を貸してくれないか?」

「なんでもする!」

「俺たちの母上は隣国のメルリス商会の娘なんだ。父上との結婚を反対されてこちらの国に来た人なんだけど。その商会は薬を専門で扱っているんだ。アルを治す薬がそこならあるかもしれない。この国に唯一その分店がある。サリナル商会なんだ、母上の弟が出したと聞いている」

 グレンは目を大きく見開いて驚きを隠せなかった。
「はっ?あの店主がラフェの叔父?」

「知り合いか?」

「アルを殺そうとした薬を持ち込んだ張本人だ」

「嘘だろう?」

 腹が立った。だが今助けられる可能性があるのはそこにある薬だけだ。そこ以外たくさんの薬を扱っているところはない。


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