【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ

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65話

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 ◆ ◇ ◆  グレン


「ここか?」

 場所を聞いて鍵は(脅して)貰った。

 鍵を静かに回した。

 そして……

 俺は扉をノックするかそのまま開けるか一瞬悩んだ。


 が………「ラフェ!」と叫んで扉を一気に開けた。

 そこにいたのはベッドに腰掛けてただ座っているだけの可哀想なくらい痩せこけたラフェだった。

 一瞬ラフェとわからないくらい出会った頃よりもさらに細くなっていた。やっと少し太らせて抱きやすい体にしたのに。(抱いてねぇけど)

 俺の方をチラッと見たラフェは驚いて目を丸くして固まっていた。

「おい、なんだその小汚い服は!そんな青白い顔をして貧相なのにさらに見れねぇくらい痩せて、お前そんなんじゃ男に抱いてもらえねえぞ」

 俺の言葉にさらに固まって表情すら動かない。

「おい、ラフェ?生きてるのか?ここを出るぞ!アルがお前に会いたがってるんだ!」

 俺の言葉を理解していないのか?

 言葉を発しようとしない。

「おい?」

 ラフェのそばに寄ると小さな声で………

「ち、近寄らないでください」

「はっ?」

「わたしは小汚い……のでしょう?」
 涙目で俺を見上げて、手で俺を退けた。

「アルバードに……早く……」

 そう言うとラフェは一人でベッドから立ちあがろうとした。

 なのに立ちあがろうとした瞬間力なくフラッとなって床に崩れ落ちた。

「……だ、だい……じょ……ぶ」

 たぶん何日も話す相手がいなくて言葉を発していなかったのだろう。

 言葉が上手く出てこなかった。

 それに狭い部屋に入れられていたので、あまり歩くこともなく、さらに食事もまともに摂っていなかったのだろう。体力もなくなっているようだ。

「ったく、歩けないなら最初から言え!何が近寄るなだ!お前を抱っこするのは俺の仕事なんだ!いつでも甘えろと言っているだろう?」

「……肝心…な時に…いなかっ…たじゃ……ない」

「…………あーーー……すまない。ほんと、俺、一番いてやらないといけない時にそばにいてやれなかった。守ると決めてたのに……ラフェすまない。だが今度は必ず守るから俺に黙って抱っこされてくれ」

 そう言ってラフェを抱っこするとラフェは周りに見られるのが恥ずかしいのか俺の胸に顔を埋めてしまった。

 そんな仕草すら可愛くて

「ラフェ、帰ったらアルと三人でピクニックに行こう。おいしい弁当を持って、広い太陽の下で走り回ろう。アルなら喜んでくれるはずだ。なっ?そしてまた言いたいこと言ってやりたい事して楽しく暮らしてぇな」

「アルバードは?今どうしてるの?」

「………薬は飲んだ。あとは本人の体力と気力らしい……だから今ラフェが必要なんだ。アルはお前を待ってる」

「死なない?」

「死ぬわけないだろう?助かるに決まってる」

「………早く連れて行って」 

「ああ、急ごう」

 馬車に乗せて座らせると安心したのか少しだけ顔色が良くなった気がする。

 ただ話す気力はまだないみたいだ。ぐったりとしている。とにかくアルに会わせたらラフェも治療をしないと、こいつの方が死んでしまうかもしれない。

 あのコスナー領での事件とアルの薬の事件は絶対に繋がってる。二人は犠牲者だ。

 俺は二人から離れたことを後悔しながら、もうラフェが俺のことを必要としていなくても、俺が勝手に二人のそばに居ようと決めた。

 ま、完全にフラれてラフェを守る男が現れるまでは俺がそばにいてやるよ。

 彼女の頭をよしよしと子供のように撫でた。



 ◇ ◇ ◇  ラフェ

 グレン様が助けてくれた。

 ずっと助けて欲しいと願ってた。だけど無理なのはわかってた。
 辺境地にいるグレン様が態々わたし達のために王都に戻ってくるわけがないと思っていた。なのにグレン様に心の中で何度も助けて欲しいと言い続けていた。

 馬車の中にいる自分はなんだか現実味がなくて、アルバードに会える喜びと不安でどうしたらいいのかわからない。

 それにグレン様に『小汚い』と言われたのもかなりショックだった。

 この豪華な馬車に乗るのも本音は抵抗があった。
 あの部屋に入れられてから、着替えることもお風呂に入ることも出来なかったのでわたしは確かに小汚かった。

 一応タオルで体は拭いていた。

 女性が食事を運んできてくれた時に、こっそり濡れたタオルも一緒に手渡してくれた。

 あの中でこっそりとしてくれた優しさは疲弊したわたしの心にとても温かく感じた。

 でも今は格好なんてどうでもいい。アルバードに会える。高熱を出してぐったりして死にかけていたアルバード。
 薬を飲んだから少しはいいみたい。だけどみんなが良くなったとは言ってくれない。
 それはまだかなり悪いのだろうか?



 馬車がアレックス様のタウンハウスに着いた。

 わたしはまだまともに歩くことができなくてグレン様がさっきみたいに抱っこして馬車を降りた。

 恥ずかしさで顔を隠してしまう。だけど抵抗はしなかった。
 まともに歩けないのだから頼るしかない。
 今は少しでも早くアルバードのところへ行きたい。





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