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63話  グレン

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 ◆ ◇ ◆  グレン


「お時間を取っていただきありがとうございました」

 俺は陛下に頭を下げた。

「頭を上げよ、グレン・ノーズ子爵。約束もなく急遽来たのにはもちろん理由があるのだろうな?」

 椅子に座ったまま俺を冷たい目で見下ろす陛下に頭を上げて返事をした。

「はい、辺境伯地に近いコスナー領で今麻薬に近い薬が隣国の商会の手によって広がり始めておりました。それを先日摘発し捕まえました」

「その話は耳に入っている。その報告をするためにお前がわざわざ来たのか?」

「はい、そうです。
 証拠は揃っております。捕まえた者達を今から取り調べて報告書をまとめる予定です。ところで……その薬がこの王都で初めて使われたようなのです」

「まだそんな報告はあがっていない、取り調べ中なのだろう」

「3歳になったばかりの子供に誰かが薬を与えて飲ませたようです。死にかけていて辺境から持ってきた治療薬を飲ませてなんとか命を繋いでいる状態です」

「そうか、とうとう王都にも被害者が出てしまったのか」

 眼光が鋭くなり周りの空気が冷たくなるのを感じた。

「その子供の母親が警備隊に捕まったままなのです」

「ほお、犯人は母親なのか?」

「違います。平民の貧しい母親がそんな高価な薬を買うことなんてできるわけがありません。それに殺すのにそんな高いお金を使うわけがありません」

「なるほどグレン・ノーズ子爵は冤罪で捕まった母親を助けたくて態々ここに来たのか?」

「………私情は確かにありますが、冤罪なので釈放していただきたいのです」

「それは警備隊の隊長と話すべきことであってここに持ってくる話ではないだろう?」

「普通ならば。
 警備隊がほぼ冤罪とわかっているのにそのままにしているのは、コスナー領の領主であるコスナー伯爵の力が働いているのではと考えております。
 わたしの子爵の力ではすぐに釈放させることはできません。子供は弱っていて薬が効いたとしても助かるか分からない状態です。母親に会いたがっております、母親に会わせてあげればもしかしたら助かる可能性が少しでも上がるかもしれません。
 それにその親子の夫は行方不明で死亡したとされているのですが、コスナー伯爵の娘婿のことだったんです」

「ほお?」

「数年前の辺境伯領周辺での戦いの時に行方不明になった男が記憶を失くし新しい名を名乗り、コスナー伯爵の娘婿になっているんです。コスナー伯爵の娘はその問題の商会を領地に出店をと、旦那と親に願った張本人です。
 伯爵家は騙されて出店したのか娘の意思で出店したのかわかりませんが、王都で薬で苦しむ子供はその娘婿の子供です。
 母親が釈放されない理由はそのコスナー伯爵のせいではないのかと疑っております」

「確かにまだこちらの王都までは来ていないはずの薬を、それも小さな子供はまだ飲んだと言う症例は聞いたことがないのに、一人だけ飲まされているのはおかしいな」

「これから向こうで捕まえた商会の者達を徹底的に調べ上げて王都の子供の事件との繋がりを調べます。
 なので陛下の力で素早く母親を釈放して欲しいのです。わたしの力では警備隊に話してもお役所仕事なので手続き上、数日の時間がかかってしまいます。それに伯爵に邪魔されるかもしれません。その間にもし子供が亡くなって冤罪がわかればさらに問題が大きくなることでしょう」

「その親子はグレン・ノーズ子爵にとって大切な者達なのか?」

「はい、命より大切な二人です。何があっても助けたい、守ってやりたいと思っております」

ーー貴方のように子供を捨てる人とは違う。

「………わかった」


 陛下にはまた事件が解決したらきちんとした報告書を提出すると話して、その場を離れようとした。

 俺自身、この人とこれ以上会話をする気はなかった。ラフェをいち早く助けるためにこの人を利用しただけなのだから。


「……グレン……大切な者を全力で守れたらいいな……また何かあったら言ってきなさい」

「ありがとうございます、陛下が話を聞いてくださったおかげです」
 俺は全く心のこもっていない言葉だけのお礼を言った。

 俺は陛下に書いてもらった書簡を持ってラフェの元へ急いだ。






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