62 / 146
62話 グレン
しおりを挟む ◆ ◇ ◆ グレン
「すまない、馬車を頼む」
馬丁に頼んで至急馬車を用意してもらった。
俺は私服から騎士服に着替えて急ぎ馬車に乗り込んだ。
向かった先は王宮内。
「陛下にお会いしたい」
王宮騎士団の団長に声を掛けた。
「グレン殿、前触れもなく突然来られてもお会いできるかどうかわかりません」
「急ぎ陛下に話したい。いや、息子として話しを聞いて欲しいと言ってくれませんか?」
「………わかりました」
俺が息子として陛下に会いたいと言ったのはこれが初めてだ。
辺境伯領の騎士団長としてお会いしたことは何度もある。だが息子として会ったことはないし、そのことを口にしたこともない。
もともとこのことを知っているのは限られた者だけだ。
母親は陛下の愛妾として過ごしていた。
そして俺を産んですぐに命を落とした。
そして俺は母親の親戚の辺境伯領地の一部を担っている子爵家に引き取られ息子として育てられた。
ノーズ子爵家の母はアレックス様の乳母として仕えていた。陛下の隠し子と知らずに育てられた俺はアレックス様のそばで一緒に教育をされ共に育った。
俺はずっとアレックス様の部下として暮らし続けると思っていた。
そのために俺は勉強も剣術もそれ以外のことも誰にも負けないように努力してきた。
14歳の時に母が病で倒れた。そして母が病気で亡くなる前日、俺が陛下の息子であることを告げられた。
確かに両親には似ていないと思ってはいた。だけど髪の色だけは母に似ていたしたくさんの愛情ももらい育てられたので疑うことはなかった。
父は騎士団で副団長をしていて俺に対して厳しく接してきた。そして母が俺の出生の秘密を打ち明けた後、地面に膝をつき頭を下げた。
「グレン様、貴方はこの国の王子です。わたし達は貴方をお守りするために過ごしてきたのです、ですがその御身を守る為にも貴方に厳しい態度を取ってきましたことをお詫び申し上げます」と、突然他人のような態度を取られた。
今にも死にそうな母、突然父だったはずなのに臣下になった父の態度。
俺は一瞬で家族を失いショックだった。
母が亡くなってから俺には家族がいなくなった。父も兄も俺を家族として接することはなくなった。
婚約者だったマキナと18歳の時に結婚してやっと幸せな家庭を持てたと思ったのに二人を失った。
何もなくなって空っぽになった俺の心にアルとラフェの存在は大きかった。
あの二人をマキナ達と重ねることはもうない。似ていると思ったのは最初だけ。
ラフェは弱々しいし体も痩せ細っていつ倒れるか心配なのに、……なのにあいつは強い。
母としてアルを一人で守ってきた。心がとても強くてあったかい。
それに人に頼ることが苦手で人との付き合いも苦手で、不器用で、だけど一生懸命で、周りはつい守ってやりたくなる。
近所の人たちもアルが可愛いのは確かだが、ラフェを守りたいとつい思ってしまうのだろう。
アレックス様もいくら友人の妹とは言えあれだけ気にかけるのはやはりラフェの健気な態度と人を頼らない頑張る姿に、つい手助けしたくなったのだろう。
俺もラフェにきつい言葉を言ってしまうけど、本当は心配で、だからこそ腹が立っていた。
もっと人に頼ればいいのに。少しくらい甘えてくればいくらでも甘やかしてやるのに。
今頃、ラフェは泣いているだろうか?
待ってて、もうすぐアルと会わせてやるから。
「すまない、馬車を頼む」
馬丁に頼んで至急馬車を用意してもらった。
俺は私服から騎士服に着替えて急ぎ馬車に乗り込んだ。
向かった先は王宮内。
「陛下にお会いしたい」
王宮騎士団の団長に声を掛けた。
「グレン殿、前触れもなく突然来られてもお会いできるかどうかわかりません」
「急ぎ陛下に話したい。いや、息子として話しを聞いて欲しいと言ってくれませんか?」
「………わかりました」
俺が息子として陛下に会いたいと言ったのはこれが初めてだ。
辺境伯領の騎士団長としてお会いしたことは何度もある。だが息子として会ったことはないし、そのことを口にしたこともない。
もともとこのことを知っているのは限られた者だけだ。
母親は陛下の愛妾として過ごしていた。
そして俺を産んですぐに命を落とした。
そして俺は母親の親戚の辺境伯領地の一部を担っている子爵家に引き取られ息子として育てられた。
ノーズ子爵家の母はアレックス様の乳母として仕えていた。陛下の隠し子と知らずに育てられた俺はアレックス様のそばで一緒に教育をされ共に育った。
俺はずっとアレックス様の部下として暮らし続けると思っていた。
そのために俺は勉強も剣術もそれ以外のことも誰にも負けないように努力してきた。
14歳の時に母が病で倒れた。そして母が病気で亡くなる前日、俺が陛下の息子であることを告げられた。
確かに両親には似ていないと思ってはいた。だけど髪の色だけは母に似ていたしたくさんの愛情ももらい育てられたので疑うことはなかった。
父は騎士団で副団長をしていて俺に対して厳しく接してきた。そして母が俺の出生の秘密を打ち明けた後、地面に膝をつき頭を下げた。
「グレン様、貴方はこの国の王子です。わたし達は貴方をお守りするために過ごしてきたのです、ですがその御身を守る為にも貴方に厳しい態度を取ってきましたことをお詫び申し上げます」と、突然他人のような態度を取られた。
今にも死にそうな母、突然父だったはずなのに臣下になった父の態度。
俺は一瞬で家族を失いショックだった。
母が亡くなってから俺には家族がいなくなった。父も兄も俺を家族として接することはなくなった。
婚約者だったマキナと18歳の時に結婚してやっと幸せな家庭を持てたと思ったのに二人を失った。
何もなくなって空っぽになった俺の心にアルとラフェの存在は大きかった。
あの二人をマキナ達と重ねることはもうない。似ていると思ったのは最初だけ。
ラフェは弱々しいし体も痩せ細っていつ倒れるか心配なのに、……なのにあいつは強い。
母としてアルを一人で守ってきた。心がとても強くてあったかい。
それに人に頼ることが苦手で人との付き合いも苦手で、不器用で、だけど一生懸命で、周りはつい守ってやりたくなる。
近所の人たちもアルが可愛いのは確かだが、ラフェを守りたいとつい思ってしまうのだろう。
アレックス様もいくら友人の妹とは言えあれだけ気にかけるのはやはりラフェの健気な態度と人を頼らない頑張る姿に、つい手助けしたくなったのだろう。
俺もラフェにきつい言葉を言ってしまうけど、本当は心配で、だからこそ腹が立っていた。
もっと人に頼ればいいのに。少しくらい甘えてくればいくらでも甘やかしてやるのに。
今頃、ラフェは泣いているだろうか?
待ってて、もうすぐアルと会わせてやるから。
71
お気に入りに追加
3,820
あなたにおすすめの小説
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

本日より他人として生きさせていただきます
ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

愛してくれない婚約者なら要りません
ネコ
恋愛
伯爵令嬢リリアナは、幼い頃から周囲の期待に応える「完璧なお嬢様」を演じていた。ところが名目上の婚約者である王太子は、聖女と呼ばれる平民の少女に夢中でリリアナを顧みない。そんな彼に尽くす日々に限界を感じたリリアナは、ある日突然「婚約を破棄しましょう」と言い放つ。甘く見ていた王太子と聖女は彼女の本当の力に気づくのが遅すぎた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました
ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」
オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。
「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」
そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。
「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」
このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。
オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。
愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん!
王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。
冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる