【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ

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62話  グレン

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 ◆ ◇ ◆  グレン


「すまない、馬車を頼む」

 馬丁に頼んで至急馬車を用意してもらった。

 俺は私服から騎士服に着替えて急ぎ馬車に乗り込んだ。

 向かった先は王宮内。


「陛下にお会いしたい」

 王宮騎士団の団長に声を掛けた。

「グレン殿、前触れもなく突然来られてもお会いできるかどうかわかりません」

「急ぎ陛下に話したい。いや、息子として話しを聞いて欲しいと言ってくれませんか?」

「………わかりました」

 俺が息子として陛下に会いたいと言ったのはこれが初めてだ。

 辺境伯領の騎士団長としてお会いしたことは何度もある。だが息子として会ったことはないし、そのことを口にしたこともない。

 もともとこのことを知っているのは限られた者だけだ。
 母親は陛下の愛妾として過ごしていた。
 そして俺を産んですぐに命を落とした。

 そして俺は母親の親戚の辺境伯領地の一部を担っている子爵家に引き取られ息子として育てられた。

 ノーズ子爵家の母はアレックス様の乳母として仕えていた。陛下の隠し子と知らずに育てられた俺はアレックス様のそばで一緒に教育をされ共に育った。

 俺はずっとアレックス様の部下として暮らし続けると思っていた。

 そのために俺は勉強も剣術もそれ以外のことも誰にも負けないように努力してきた。

 14歳の時に母が病で倒れた。そして母が病気で亡くなる前日、俺が陛下の息子であることを告げられた。

 確かに両親には似ていないと思ってはいた。だけど髪の色だけは母に似ていたしたくさんの愛情ももらい育てられたので疑うことはなかった。

 父は騎士団で副団長をしていて俺に対して厳しく接してきた。そして母が俺の出生の秘密を打ち明けた後、地面に膝をつき頭を下げた。

「グレン様、貴方はこの国の王子です。わたし達は貴方をお守りするために過ごしてきたのです、ですがその御身を守る為にも貴方に厳しい態度を取ってきましたことをお詫び申し上げます」と、突然他人のような態度を取られた。

 今にも死にそうな母、突然父だったはずなのに臣下になった父の態度。

 俺は一瞬で家族を失いショックだった。

 母が亡くなってから俺には家族がいなくなった。父も兄も俺を家族として接することはなくなった。

 婚約者だったマキナと18歳の時に結婚してやっと幸せな家庭を持てたと思ったのに二人を失った。

 何もなくなって空っぽになった俺の心にアルとラフェの存在は大きかった。

 あの二人をマキナ達と重ねることはもうない。似ていると思ったのは最初だけ。

 ラフェは弱々しいし体も痩せ細っていつ倒れるか心配なのに、……なのにあいつは強い。

 母としてアルを一人で守ってきた。心がとても強くてあったかい。
 それに人に頼ることが苦手で人との付き合いも苦手で、不器用で、だけど一生懸命で、周りはつい守ってやりたくなる。

 近所の人たちもアルが可愛いのは確かだが、ラフェを守りたいとつい思ってしまうのだろう。

 アレックス様もいくら友人の妹とは言えあれだけ気にかけるのはやはりラフェの健気な態度と人を頼らない頑張る姿に、つい手助けしたくなったのだろう。

 俺もラフェにきつい言葉を言ってしまうけど、本当は心配で、だからこそ腹が立っていた。

 もっと人に頼ればいいのに。少しくらい甘えてくればいくらでも甘やかしてやるのに。

 今頃、ラフェは泣いているだろうか?

 待ってて、もうすぐアルと会わせてやるから。


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