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51話  アーバン

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◇ ◆ ◇  アーバン

 隠れて様子を窺っているとその男は俺のところにふらっとやって来た。

 俺がいるのを最初からわかっていたかのように。

「おい、あんた、何で隠れてこっちをずっと見てたんだ?」

 ニタっと笑った顔は本当は笑っていない。俺のことを上から下まで全て舐め回すように見て俺を睨み上げた。

「その体、どこの者だ?」

「はっ?」

 俺が答える前に男は俺の腕を捻り上げて壁に押さえ込んだ。

 男一人の相手など大したことないはず。なのにこの男の力はとてつもなく強くて振り払うこともやり返すこともできなかった。
 しっかり急所を押さえられていて身動きが取れなかった。

「誤魔化すなよ?
 その体つき腕の筋肉、どう見ても騎士だろう?なんでこんなところで隠れて俺の様子を窺っていた?答えろ!」

 耳元でドスを効かせた声は相手を怖がらせて萎縮させるため。
 この男は一体誰なんだ?こっちこそ聞きたい。その辺の騎士なんか相手にならない。かなりの手練だ。


「俺の名前はアーバン。今は王都で第3部隊の騎士として働いています………貴方は……」

 髭が生えてボサボサの頭、眼光はかなり鋭く俺から目を離さない。

 ーーどこかで会ったことがある?
 つい考えこんで思わず言い淀んでいると

「ふーんなぜ話すのやめたんだ?
 お前は観光にでも来たと言いたいのか?いや、お前どこかで会ったことがないか?」

 俺が思っていたことを、相手も同じように会ったことがあると思っているようだ。

「貴方こそどこの騎士ですか?……………辺境伯?いや、あのお方はもう少し年上のはず……グレン団長?……ですか?」

 そうだ、この方はグレン様だ。あの辺境の土地を守る荒くれの騎士達を纏めている団長でこの国一番の剣士と言われているお方だ。

「失礼いたしました」
 俺はすぐに膝をついて頭を下げた。

「怪しい動きをしている男が目について薬を売買していたので気になって様子を窺い見ていました」

「団長!怪しいって!」
「もうこれは犯罪者一直線ですね?」
「この人中々鋭いですよ」

 さっきまで静観していた薬を買っていた男達が笑いながら俺に声をかけて来た。

「なかなか勘のいい人だな」
 漢が俺の肩をボンっと叩くと
「団長!どうします?」
 と団長に聞き始めた。

「あんた悪い奴ではないみたいだが、王都の騎士団員のあんたがこんな田舎に一人でウロウロしてるのはなぜなんだ?」

「…………貴方こそ……」

 ひとまずここで詳しく話すことはできないと言われ、俺はグレン様に何故か娼館に連れてこられた。

 中に案内されると店の者が、奥の部屋に案内した。

 そこは他の似たり寄ったりの扉とは違い豪華な木彫りが施された扉の前だった。

「一緒に入るぞ」
 グレン様に言われ中に入るとグレン様が厳しい顔つきになった。

「ここは娼館だがここなら話が漏れずにゆっくりと話せる場所なんだ、期待させて済まなかった」
 また小馬鹿にしたようにニヤッと笑う。

「期待なんてしておりません」

 この人を食ったような態度に腹が立った。
 ムスッとしていると
「そんな不機嫌にならないで話をしよう」
 と言いながら、店の者が持って来てくれたお茶を「まあ飲め」と差し出された。

 怪しい薬じゃないかと警戒していたが、
「これは普通の紅茶だ」と言ってグレン様が飲み始めた。

 ずっと歩き回っていたところにグレン様達の件があって、流石に喉が渇ききっていた。

俺が紅茶を飲んでいると

「このピンクの粉薬のことで調べに来ているのか?」と徐に聞かれた。

「違います。ただ何度かそんなやり寄りをしているところを見たので気になったんです、特に貴方の様子が一番怪しく感じました」

「俺?」

「はい、格好ももちろんですが、その独特の雰囲気が犯罪者に近い空気を醸し出していました。だから思わず見入ってしまいました」

「まあ、ちょっとあんたに色々言いたいことは増えたが、それよりもあんたの目的は?場合によってはしばらく牢にでも入ってもらう事になるぜ」

ーーなんで牢に?この人達はこの領地で何か人知れずしているのは犯罪?

「おっと、俺のことを怪しんでるのはわかる、だがこちらもあんたのことを怪しんでいる。なんでうろうろ聞き回っているんだ?」

ーー俺の動きも知っていたのか……


「諸事情でここの領主代理のことを調べてるんです」

「リオ・コスナー?」

さらにグレン様の目つきは鋭くなった。




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