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50話
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◆ ◇ ◆ グレン
最近は売人としての仕事も板についてきた。
もちろん売る奴は俺の部下やその家族だ。おかげで薬は回収できるし被害が少しでも減ってくる。
今は俺以外の売人も見つけ出して、そいつらを泳がしている。買った奴らはその後捕まえて辺境伯領の病院へと連れて行った。
軽い症状ならすぐに薬を抜くことができる。
中毒になっている奴らはそのまま逃げ出さないように薬を抜くために牢にぶち込んだ。
一番の治療は薬から離れること。それでも症状が酷い人にはその症状に対処した薬を与えた。
サリナル商会の店主は、俺が元金持ちで落ちぶれた男だと思っている。だからそれなりにいい金蔓の知人がいて俺がうまくカモにしていると思っているようだ。
ピンクの粉の薬を使った者はとても体調が良くなるらしい。そして依存して薬から抜け出せなくなる。
麻薬ほど強い効果があらわれ廃人になるわけではない。ずっと依存し続け、いつの間にか抜け出せなくなる。飲まなければ体が重かったり頭痛が出たり。
ただ量を増やせば症状はひどくなる。高熱や倦怠感、人への暴力、幻覚妄想など一般的な麻薬と同じ症状が出てくる。
人によってはたくさん飲んで重度な中毒症状が出ている者が増えている。
「そろそろあの商会潰すか」
「団長、ここの領主代理も動き出したらしいです」
「遅いな、自分の嫁が仕出かしたことを今頃知って動き出したのか?」
「領主代理はリオ・コスナーと言って娘婿らしいです。領地改革に力を入れている優秀な人らしいのですが、嫁には頭が上がらず、今回のことも嫁に頼まれて商会に店を出す許可を出しているので、その辺はあまり強く出れないようで嫁に任せて口出ししないでいたらしいです。情報もリオ氏には入らないようにしていたようですね」
「へぇ、ここの領主代理に興味はないな。あっちが今頃動き出して、泣いてこっちに頼ってきても放っておけ。自分が大切にしているはずの領地の民を苦しめたんだ。協力するつもりはない。こちらはこちらで動く、助けるつもりはない」
「わかりました」
いくら優秀でも領地に実際出て今どうなっているのかきちんと把握できていなければ意味がない。
紙面上でだけきちんとできていればいい訳ではない。人は常に生きて動いているんだ。いろんなことが起こり目に見えないこともたくさん起きている。全ては把握できなくても自分が決めた事には責任を負うのは当たり前だ。嫁に尻に敷かれているからと口出しできないなんて、馬鹿だとしか思えない。
だから俺は最初からこの男のことは一切興味を持たなかった。部下が態々言ってくるくらいだから慌てているのだろうがどうでもいい。
こちらはもうあらかた証拠を集めているのだから。
◇ ◆ ◇ アーバン
コスナー領へやって来た。
とりあえず宿屋に泊まり観光をして回る事にした。
兄が娘婿になり領主代理をしている領地。
『リオ』と言う名を名乗りここで新しい家族と幸せに暮らしていると聞いた。
俺は宿屋の女将に朝食を出して貰いながら話しかけた。
「ここの領地は最近観光に力を入れていると聞きました。どこに行ったらいいですか?」
「そうなんだよ、今ここの領主代理のリオ様がいろんな改革をしてくださってたくさんの観光地があるんだよ。ここから南に行けば大きな湖があってそこに家族連れで遊べるようにボートがあったりたくさんの花を見て回れる場所があったり、ゆっくりお茶を飲めるカフェも作られているんだよ。
あそこは彼女を連れていくにはおすすめの場所だよ」
「へぇ、他には?」
「街の公園も整備されて周辺には新しい店がたくさん出来たんだ。他国のお店も出店して珍しいモノもたくさん売っているよ。もちろんここで採れる宝石を加工していろんな小物も売ってるしね」
「じゃあこの活気はその『リオ様』のおかげなんだ」
「みんなそう言ってるよ。領主の娘のシャーリー様はほんといい旦那さんを捕まえたと思うよ。シャーリー様は遊んで回っても怒らないしね、あんな優しい人はいないよ」
「シャーリー様はじゃあ幸せなんだ」
「そりゃそうだよ、文句も言わず馬車馬のように働くし、優しいし、カッコいいし、仕事をさせれば優秀だし。息子のオズワルド様のことも溺愛していると有名だし、シャーリー様の我儘も全て受け入れて愛してくれる出来た旦那様だと思うよ」
「そうなんですね」
兄の評判はとても良い。家族仲もいいらしい。ーー俺はそんな話を素直に聞き入れられないでいた。
そして兄の話は街を回っていても耳に入って来た。
そんな時、たまたま怪しい動きをしている男を見てしまった。
ピンクの粉の入った瓶を若い男に売っている少し疲れた感じの、だが眼光が鋭い男。
俺は建物の陰に隠れてその様子を窺った。
最近は売人としての仕事も板についてきた。
もちろん売る奴は俺の部下やその家族だ。おかげで薬は回収できるし被害が少しでも減ってくる。
今は俺以外の売人も見つけ出して、そいつらを泳がしている。買った奴らはその後捕まえて辺境伯領の病院へと連れて行った。
軽い症状ならすぐに薬を抜くことができる。
中毒になっている奴らはそのまま逃げ出さないように薬を抜くために牢にぶち込んだ。
一番の治療は薬から離れること。それでも症状が酷い人にはその症状に対処した薬を与えた。
サリナル商会の店主は、俺が元金持ちで落ちぶれた男だと思っている。だからそれなりにいい金蔓の知人がいて俺がうまくカモにしていると思っているようだ。
ピンクの粉の薬を使った者はとても体調が良くなるらしい。そして依存して薬から抜け出せなくなる。
麻薬ほど強い効果があらわれ廃人になるわけではない。ずっと依存し続け、いつの間にか抜け出せなくなる。飲まなければ体が重かったり頭痛が出たり。
ただ量を増やせば症状はひどくなる。高熱や倦怠感、人への暴力、幻覚妄想など一般的な麻薬と同じ症状が出てくる。
人によってはたくさん飲んで重度な中毒症状が出ている者が増えている。
「そろそろあの商会潰すか」
「団長、ここの領主代理も動き出したらしいです」
「遅いな、自分の嫁が仕出かしたことを今頃知って動き出したのか?」
「領主代理はリオ・コスナーと言って娘婿らしいです。領地改革に力を入れている優秀な人らしいのですが、嫁には頭が上がらず、今回のことも嫁に頼まれて商会に店を出す許可を出しているので、その辺はあまり強く出れないようで嫁に任せて口出ししないでいたらしいです。情報もリオ氏には入らないようにしていたようですね」
「へぇ、ここの領主代理に興味はないな。あっちが今頃動き出して、泣いてこっちに頼ってきても放っておけ。自分が大切にしているはずの領地の民を苦しめたんだ。協力するつもりはない。こちらはこちらで動く、助けるつもりはない」
「わかりました」
いくら優秀でも領地に実際出て今どうなっているのかきちんと把握できていなければ意味がない。
紙面上でだけきちんとできていればいい訳ではない。人は常に生きて動いているんだ。いろんなことが起こり目に見えないこともたくさん起きている。全ては把握できなくても自分が決めた事には責任を負うのは当たり前だ。嫁に尻に敷かれているからと口出しできないなんて、馬鹿だとしか思えない。
だから俺は最初からこの男のことは一切興味を持たなかった。部下が態々言ってくるくらいだから慌てているのだろうがどうでもいい。
こちらはもうあらかた証拠を集めているのだから。
◇ ◆ ◇ アーバン
コスナー領へやって来た。
とりあえず宿屋に泊まり観光をして回る事にした。
兄が娘婿になり領主代理をしている領地。
『リオ』と言う名を名乗りここで新しい家族と幸せに暮らしていると聞いた。
俺は宿屋の女将に朝食を出して貰いながら話しかけた。
「ここの領地は最近観光に力を入れていると聞きました。どこに行ったらいいですか?」
「そうなんだよ、今ここの領主代理のリオ様がいろんな改革をしてくださってたくさんの観光地があるんだよ。ここから南に行けば大きな湖があってそこに家族連れで遊べるようにボートがあったりたくさんの花を見て回れる場所があったり、ゆっくりお茶を飲めるカフェも作られているんだよ。
あそこは彼女を連れていくにはおすすめの場所だよ」
「へぇ、他には?」
「街の公園も整備されて周辺には新しい店がたくさん出来たんだ。他国のお店も出店して珍しいモノもたくさん売っているよ。もちろんここで採れる宝石を加工していろんな小物も売ってるしね」
「じゃあこの活気はその『リオ様』のおかげなんだ」
「みんなそう言ってるよ。領主の娘のシャーリー様はほんといい旦那さんを捕まえたと思うよ。シャーリー様は遊んで回っても怒らないしね、あんな優しい人はいないよ」
「シャーリー様はじゃあ幸せなんだ」
「そりゃそうだよ、文句も言わず馬車馬のように働くし、優しいし、カッコいいし、仕事をさせれば優秀だし。息子のオズワルド様のことも溺愛していると有名だし、シャーリー様の我儘も全て受け入れて愛してくれる出来た旦那様だと思うよ」
「そうなんですね」
兄の評判はとても良い。家族仲もいいらしい。ーー俺はそんな話を素直に聞き入れられないでいた。
そして兄の話は街を回っていても耳に入って来た。
そんな時、たまたま怪しい動きをしている男を見てしまった。
ピンクの粉の入った瓶を若い男に売っている少し疲れた感じの、だが眼光が鋭い男。
俺は建物の陰に隠れてその様子を窺った。
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