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37話
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◆ ◇ ◆ グレン
「最近、コスナー領に怪しい男達が出入りしている噂が入っているんだが知っているか?」
アレックス様が書類仕事をしながら上も向かずに話し出した。
「あー、辺境伯領から入るのが難しいからと遠回りして隣の国の奴らが警備の緩い領地から入り込んでいるって言う話でしょう?」
俺も書類をパラパラめくりながら答えた。
「そうだ、それが今目に見えて顕著なんだ」
「へえー、何かやらかしてるんですかね?」
「あそこの領地は今、娘婿がしっかりと仕切っているので安定した領地だと聞いている。
だからこそつけ入れられているのかもしれない」
「と言うのは?」
俺は書類を見るのをやめてアレックス様に目を向けた。
「婿はしっかりしているのだが、領主の娘である嫁が、まぁ、少し問題があるようだ」
「問題?」
「フラフラと出歩き、お嬢様らしく人に騙されやすい。悪い奴らに声をかけられて何かしているらしい」
「どこからその話し仕入れてきたんですか?」
「うちに来る商人はお前も知っているだろう?」
「………でしたね」
商人は辺境伯家の『影』として国中を回っている。いろんな情報を集めて王家には知らされない最新の情報もここに集まってくる。商会が回っているのは数カ国に及び、商会での売り上げはこの辺境伯の収入源でもあり、情報源でもある。
それくらいの情報力がなければこの国を守ることはできない。
「グレン、数人連れて探ってこい」
普段そんな単純な仕事を俺に頼む人ではない。
だからこそ何も聞かずに頷いた。
「今すぐにですか?それとも目の前の書類だけでも終わらせますか?」
「……出来ればそこにあるのは全て終わらせておいてください」
アレックス様は俺の書類を見て「……残して行くな」と目が訴えていた。
「急ぎます。情報をまとめた紙は?」
「うん?そこに置いてる」
テーブルにしっかり必要な金と一緒に紙が置かれていた。
ま、最初から行かせるつもりなんだ。
どう動くかは後で読めばいい。とりあえず仕事に集中した。
ラフェとアルにまだ返事は書いていない。
コスナー領はわりと栄えている町が多い。何か珍しいものでも買えたら送ってやろう。
………もし休みがもらえたら王都に会いに行こう。
◆ ◆ ◆ エドワード
記憶は戻らないが自分が誰なのかわかった。
わかってからは領地の仕事も集中出来ないでつい色々考えてしまう。
俺の妻だったと言うラフェ。
詳しい話はアダムさんには聞いていない。仕事の合間で会える時間があまりなかったのでゆっくりと話すことは出来なかった。
どんな人なんだろう。
好きで結婚したのか、それとも政略結婚なのか?
今はあの屋敷で暮らしているのだろうか?
アルバードと言う息子はどんな顔をしているのだろうか?
俺のことを、父親のことを求めているのだろうか?寂しい思いをさせていないのだろうか?
考えると眠れない。
領主の娘婿なんて名前だけで自由に時間は取れないし、金もそんなに自由に使えない。
それでも何かの為にと貯めてあったお金を引き出して、屋敷で口の堅い男と言われている執事見習いに仕事と称して王都に調べに行ってもらうことにした。
「これは俺の私事なんだが、どうしても調べて欲しいんだ。王都の市場調査だと言って俺から頼まれたと言うことにして調べてきて欲しい。俺の本当の名前であるエドワード・バイザーのことを」
俺は詳しく説明した。
執事見習いのジミーは俺の仕事補佐としていつも一緒に働いてくれている。何より信頼している相手だ。
彼も俺の話しを聞いて
「わかりました、急ぎ調べてきます」と言ってくれた。
結果がわかるまでにはまだしばらく時間はかかるだろう。
最近のシャーリーはなんだがそわそわして落ち着きがない。
オズワルドには俺がいない時に会いに行ってはいるらしい。少し母性が戻ってきたのだろう。
それだけでもホッとする。
シャーリーは、妻であり母親のはずなのだが、いつまでも独身気分で俺とも恋人のような気分で過ごしていた。
俺が昼間忙しく仕事をしていることが寂しいらしい。だから外に出て誰かと会ったり話したりして寂しさを紛らわしているのだと言われた。
ーーそれは甘えではないのか?
ーー言い訳だろう?
そう思っても、シャーリーの激しい性格にあまり強く言えない。今はオズワルドに会う時間を作り始めた。それだけでも母親として一歩前進したのだと思う。
この幸せな時間を壊すことが怖い。
俺は過去を知って、どうするのだろう。
どうしたいのだろう。
だけど、知らずにはいられない。
“ラフェ”
この名前の女性のことを考えるたびに焦燥感とグッとくる切なさで、胸が苦しくなる。
忘れてしまった過去を、俺は思い出したい。
だけど目の前にある幸せを………選ぶことができるのだろうか。
「最近、コスナー領に怪しい男達が出入りしている噂が入っているんだが知っているか?」
アレックス様が書類仕事をしながら上も向かずに話し出した。
「あー、辺境伯領から入るのが難しいからと遠回りして隣の国の奴らが警備の緩い領地から入り込んでいるって言う話でしょう?」
俺も書類をパラパラめくりながら答えた。
「そうだ、それが今目に見えて顕著なんだ」
「へえー、何かやらかしてるんですかね?」
「あそこの領地は今、娘婿がしっかりと仕切っているので安定した領地だと聞いている。
だからこそつけ入れられているのかもしれない」
「と言うのは?」
俺は書類を見るのをやめてアレックス様に目を向けた。
「婿はしっかりしているのだが、領主の娘である嫁が、まぁ、少し問題があるようだ」
「問題?」
「フラフラと出歩き、お嬢様らしく人に騙されやすい。悪い奴らに声をかけられて何かしているらしい」
「どこからその話し仕入れてきたんですか?」
「うちに来る商人はお前も知っているだろう?」
「………でしたね」
商人は辺境伯家の『影』として国中を回っている。いろんな情報を集めて王家には知らされない最新の情報もここに集まってくる。商会が回っているのは数カ国に及び、商会での売り上げはこの辺境伯の収入源でもあり、情報源でもある。
それくらいの情報力がなければこの国を守ることはできない。
「グレン、数人連れて探ってこい」
普段そんな単純な仕事を俺に頼む人ではない。
だからこそ何も聞かずに頷いた。
「今すぐにですか?それとも目の前の書類だけでも終わらせますか?」
「……出来ればそこにあるのは全て終わらせておいてください」
アレックス様は俺の書類を見て「……残して行くな」と目が訴えていた。
「急ぎます。情報をまとめた紙は?」
「うん?そこに置いてる」
テーブルにしっかり必要な金と一緒に紙が置かれていた。
ま、最初から行かせるつもりなんだ。
どう動くかは後で読めばいい。とりあえず仕事に集中した。
ラフェとアルにまだ返事は書いていない。
コスナー領はわりと栄えている町が多い。何か珍しいものでも買えたら送ってやろう。
………もし休みがもらえたら王都に会いに行こう。
◆ ◆ ◆ エドワード
記憶は戻らないが自分が誰なのかわかった。
わかってからは領地の仕事も集中出来ないでつい色々考えてしまう。
俺の妻だったと言うラフェ。
詳しい話はアダムさんには聞いていない。仕事の合間で会える時間があまりなかったのでゆっくりと話すことは出来なかった。
どんな人なんだろう。
好きで結婚したのか、それとも政略結婚なのか?
今はあの屋敷で暮らしているのだろうか?
アルバードと言う息子はどんな顔をしているのだろうか?
俺のことを、父親のことを求めているのだろうか?寂しい思いをさせていないのだろうか?
考えると眠れない。
領主の娘婿なんて名前だけで自由に時間は取れないし、金もそんなに自由に使えない。
それでも何かの為にと貯めてあったお金を引き出して、屋敷で口の堅い男と言われている執事見習いに仕事と称して王都に調べに行ってもらうことにした。
「これは俺の私事なんだが、どうしても調べて欲しいんだ。王都の市場調査だと言って俺から頼まれたと言うことにして調べてきて欲しい。俺の本当の名前であるエドワード・バイザーのことを」
俺は詳しく説明した。
執事見習いのジミーは俺の仕事補佐としていつも一緒に働いてくれている。何より信頼している相手だ。
彼も俺の話しを聞いて
「わかりました、急ぎ調べてきます」と言ってくれた。
結果がわかるまでにはまだしばらく時間はかかるだろう。
最近のシャーリーはなんだがそわそわして落ち着きがない。
オズワルドには俺がいない時に会いに行ってはいるらしい。少し母性が戻ってきたのだろう。
それだけでもホッとする。
シャーリーは、妻であり母親のはずなのだが、いつまでも独身気分で俺とも恋人のような気分で過ごしていた。
俺が昼間忙しく仕事をしていることが寂しいらしい。だから外に出て誰かと会ったり話したりして寂しさを紛らわしているのだと言われた。
ーーそれは甘えではないのか?
ーー言い訳だろう?
そう思っても、シャーリーの激しい性格にあまり強く言えない。今はオズワルドに会う時間を作り始めた。それだけでも母親として一歩前進したのだと思う。
この幸せな時間を壊すことが怖い。
俺は過去を知って、どうするのだろう。
どうしたいのだろう。
だけど、知らずにはいられない。
“ラフェ”
この名前の女性のことを考えるたびに焦燥感とグッとくる切なさで、胸が苦しくなる。
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