【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ

文字の大きさ
上 下
35 / 146

35話  ラフェ

しおりを挟む
 ◇ ◇ ◇  ラフェ

「おかあしゃん、ギュレン、こないね」

「うーん、忙しいんじゃないかしら?」

 あれからグレン様は顔を出すことはなかった。辺境伯領へ旅立ったのだ。

 だけど週に一度はグレン様からだと言って食べ物やアルバードに絵本やおもちゃを送ってくれる。
 受け取るのを断ろうとしたのだが、使用人さん達が「返されると困る」と本気で困った顔をされるので、素直に受け取ることにした。

 届けてくれる使用人さんに、グレン様にお礼の手紙をお願いすると、快く「お届けしておきます」と言ってくれた。

 手紙の中身はわたしからの礼状とアルバードの絵なのだけど。

「ギュレンにおてがみ、かいていい?」


 ギュレンげんき~?だいすきぃ~♪♪


 いつもの変な歌を歌いながら紙にぐるぐると丸やギザギザの模様をかいたりして、満足いくと

「おかあしゃん、これ!ギュレンに」
 と、嬉しそうに渡された。

「なんて書いたの?」

「アルげんきぃ!ギュレンげんきぃ!いつくる?」

「そっか、アルバードは元気だと伝えたいのね」

「うん、ギュレンがアルいいこしてたら、くるって!」

「グレン様はアルバードの友達だものね」

「そうなの」

 ーーもう会えないかもしれない。

 人のことなんてお構いなしでやって来るグレン様。
『アル、今日は何しようか?』
 豪快に笑い、アルを軽々と抱き上げ、子供と本気で一緒に遊んでくれる。

 わたしにも気兼ねなく当たり前のようにスッと入り込んできた。

『ラフェ、もっと甘えろ』
『辛い時は辛いと言え!』

『ほら、それも食え!そんな痩せてたら抱き心地が悪いだろう?』

『な、なに、言ってるんですかっ!』

『おう、悪い悪い。俺が抱く訳じゃないぞ、お前の新しい男が!と言う意味だ!』
 そう言って屈託なく笑うグレン様。

 人の心にズカズカ入り込むグレン様は、厚かましいし口は悪いし、最初は苦手だった。

 だけどアルバードを見つめる目はとても優しくて、そしてたまに悲しそうにしていた。
 
 そんなグレン様の様子が気になっている時、アレックス様がボソッと教えてくれた。

『あいつは三年前に嫁さんが出産で命を落としたんだ。お腹の子供も嫁さんも助からなかったんだ。それからはなんに対しても無気力で笑うこともなかった。アルのおかげで生きる気力が湧いてきたみたいなんだ。
 ラフェ、あいつを助けると思って今だけはここに通わせてもらえないか?』

『アルもグレン様のおかげで毎日が楽しいみたいです。ただ……いずれはここを離れてしまうグレン様に懐きすぎるとアルバードがショックを受けると思うのです』

『わかってる。だからお互いが離れられなくなる前に旅立つつもりだ』

『ではそれまでの間だけ』

 だけどやっぱりアルバードはグレン様が忘れられない。

 でも泣いて探し回ったりしないし泣いて駄々をこねることはない。

「ギュレンがいいこしてたら、くるって」
 アルバードはグレン様のその言葉を素直に聞いて、いい子で待っている。

 そして何故かわたしも、彼からの手紙の返事を待っている。

 うん、多分、二月も顔を合わせていたのに会うことがなくなったから寂しいのだろう。
 ーーうん、そうなんだと思う。

 だってわたしの周りにはいなかった、あんな雑で豪快で人懐っこい人。

 エドワードは優しくて穏やかな人だった。そばにいるだけで暖かい気持ちになる。

 アーバンは言い合いも出来るし気兼ねなく話せる幼馴染。だけど乱暴な言葉は使わないしやっぱりいつも優しく接してくれた。

 あんな印象深い人はいなかった。

 だから、いなくなってちょっと寂しいだけ。

「おかあしゃん、ギュレンのくれたえほん、よんでくださいっ!」

「うん、アルの好きな騎士様とお姫様のお話ね」

「はい!ギュレン、きししゃま、だからすき」

「ふふ、なんでもグレン様なのね?」

「うん、あいたいね」

 アルバードはいつか会えると笑顔で待っていた。







しおりを挟む
感想 473

あなたにおすすめの小説

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます

ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

上辺だけの王太子妃はもうたくさん!

ネコ
恋愛
侯爵令嬢ヴァネッサは、王太子から「外聞のためだけに隣にいろ」と言われ続け、婚約者でありながらただの体面担当にされる。周囲は別の令嬢との密会を知りつつ口を噤むばかり。そんな扱いに愛想を尽かしたヴァネッサは「それなら私も好きにさせていただきます」と王宮を去る。意外にも国王は彼女の価値を知っていて……?

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...