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35話 ラフェ
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◇ ◇ ◇ ラフェ
「おかあしゃん、ギュレン、こないね」
「うーん、忙しいんじゃないかしら?」
あれからグレン様は顔を出すことはなかった。辺境伯領へ旅立ったのだ。
だけど週に一度はグレン様からだと言って食べ物やアルバードに絵本やおもちゃを送ってくれる。
受け取るのを断ろうとしたのだが、使用人さん達が「返されると困る」と本気で困った顔をされるので、素直に受け取ることにした。
届けてくれる使用人さんに、グレン様にお礼の手紙をお願いすると、快く「お届けしておきます」と言ってくれた。
手紙の中身はわたしからの礼状とアルバードの絵なのだけど。
「ギュレンにおてがみ、かいていい?」
ギュレンげんき~?だいすきぃ~♪♪
いつもの変な歌を歌いながら紙にぐるぐると丸やギザギザの模様をかいたりして、満足いくと
「おかあしゃん、これ!ギュレンに」
と、嬉しそうに渡された。
「なんて書いたの?」
「アルげんきぃ!ギュレンげんきぃ!いつくる?」
「そっか、アルバードは元気だと伝えたいのね」
「うん、ギュレンがアルいいこしてたら、くるって!」
「グレン様はアルバードの友達だものね」
「そうなの」
ーーもう会えないかもしれない。
人のことなんてお構いなしでやって来るグレン様。
『アル、今日は何しようか?』
豪快に笑い、アルを軽々と抱き上げ、子供と本気で一緒に遊んでくれる。
わたしにも気兼ねなく当たり前のようにスッと入り込んできた。
『ラフェ、もっと甘えろ』
『辛い時は辛いと言え!』
『ほら、それも食え!そんな痩せてたら抱き心地が悪いだろう?』
『な、なに、言ってるんですかっ!』
『おう、悪い悪い。俺が抱く訳じゃないぞ、お前の新しい男が!と言う意味だ!』
そう言って屈託なく笑うグレン様。
人の心にズカズカ入り込むグレン様は、厚かましいし口は悪いし、最初は苦手だった。
だけどアルバードを見つめる目はとても優しくて、そしてたまに悲しそうにしていた。
そんなグレン様の様子が気になっている時、アレックス様がボソッと教えてくれた。
『あいつは三年前に嫁さんが出産で命を落としたんだ。お腹の子供も嫁さんも助からなかったんだ。それからはなんに対しても無気力で笑うこともなかった。アルのおかげで生きる気力が湧いてきたみたいなんだ。
ラフェ、あいつを助けると思って今だけはここに通わせてもらえないか?』
『アルもグレン様のおかげで毎日が楽しいみたいです。ただ……いずれはここを離れてしまうグレン様に懐きすぎるとアルバードがショックを受けると思うのです』
『わかってる。だからお互いが離れられなくなる前に旅立つつもりだ』
『ではそれまでの間だけ』
だけどやっぱりアルバードはグレン様が忘れられない。
でも泣いて探し回ったりしないし泣いて駄々をこねることはない。
「ギュレンがいいこしてたら、くるって」
アルバードはグレン様のその言葉を素直に聞いて、いい子で待っている。
そして何故かわたしも、彼からの手紙の返事を待っている。
うん、多分、二月も顔を合わせていたのに会うことがなくなったから寂しいのだろう。
ーーうん、そうなんだと思う。
だってわたしの周りにはいなかった、あんな雑で豪快で人懐っこい人。
エドワードは優しくて穏やかな人だった。そばにいるだけで暖かい気持ちになる。
アーバンは言い合いも出来るし気兼ねなく話せる幼馴染。だけど乱暴な言葉は使わないしやっぱりいつも優しく接してくれた。
あんな印象深い人はいなかった。
だから、いなくなってちょっと寂しいだけ。
「おかあしゃん、ギュレンのくれたえほん、よんでくださいっ!」
「うん、アルの好きな騎士様とお姫様のお話ね」
「はい!ギュレン、きししゃま、だからすき」
「ふふ、なんでもグレン様なのね?」
「うん、あいたいね」
アルバードはいつか会えると笑顔で待っていた。
「おかあしゃん、ギュレン、こないね」
「うーん、忙しいんじゃないかしら?」
あれからグレン様は顔を出すことはなかった。辺境伯領へ旅立ったのだ。
だけど週に一度はグレン様からだと言って食べ物やアルバードに絵本やおもちゃを送ってくれる。
受け取るのを断ろうとしたのだが、使用人さん達が「返されると困る」と本気で困った顔をされるので、素直に受け取ることにした。
届けてくれる使用人さんに、グレン様にお礼の手紙をお願いすると、快く「お届けしておきます」と言ってくれた。
手紙の中身はわたしからの礼状とアルバードの絵なのだけど。
「ギュレンにおてがみ、かいていい?」
ギュレンげんき~?だいすきぃ~♪♪
いつもの変な歌を歌いながら紙にぐるぐると丸やギザギザの模様をかいたりして、満足いくと
「おかあしゃん、これ!ギュレンに」
と、嬉しそうに渡された。
「なんて書いたの?」
「アルげんきぃ!ギュレンげんきぃ!いつくる?」
「そっか、アルバードは元気だと伝えたいのね」
「うん、ギュレンがアルいいこしてたら、くるって!」
「グレン様はアルバードの友達だものね」
「そうなの」
ーーもう会えないかもしれない。
人のことなんてお構いなしでやって来るグレン様。
『アル、今日は何しようか?』
豪快に笑い、アルを軽々と抱き上げ、子供と本気で一緒に遊んでくれる。
わたしにも気兼ねなく当たり前のようにスッと入り込んできた。
『ラフェ、もっと甘えろ』
『辛い時は辛いと言え!』
『ほら、それも食え!そんな痩せてたら抱き心地が悪いだろう?』
『な、なに、言ってるんですかっ!』
『おう、悪い悪い。俺が抱く訳じゃないぞ、お前の新しい男が!と言う意味だ!』
そう言って屈託なく笑うグレン様。
人の心にズカズカ入り込むグレン様は、厚かましいし口は悪いし、最初は苦手だった。
だけどアルバードを見つめる目はとても優しくて、そしてたまに悲しそうにしていた。
そんなグレン様の様子が気になっている時、アレックス様がボソッと教えてくれた。
『あいつは三年前に嫁さんが出産で命を落としたんだ。お腹の子供も嫁さんも助からなかったんだ。それからはなんに対しても無気力で笑うこともなかった。アルのおかげで生きる気力が湧いてきたみたいなんだ。
ラフェ、あいつを助けると思って今だけはここに通わせてもらえないか?』
『アルもグレン様のおかげで毎日が楽しいみたいです。ただ……いずれはここを離れてしまうグレン様に懐きすぎるとアルバードがショックを受けると思うのです』
『わかってる。だからお互いが離れられなくなる前に旅立つつもりだ』
『ではそれまでの間だけ』
だけどやっぱりアルバードはグレン様が忘れられない。
でも泣いて探し回ったりしないし泣いて駄々をこねることはない。
「ギュレンがいいこしてたら、くるって」
アルバードはグレン様のその言葉を素直に聞いて、いい子で待っている。
そして何故かわたしも、彼からの手紙の返事を待っている。
うん、多分、二月も顔を合わせていたのに会うことがなくなったから寂しいのだろう。
ーーうん、そうなんだと思う。
だってわたしの周りにはいなかった、あんな雑で豪快で人懐っこい人。
エドワードは優しくて穏やかな人だった。そばにいるだけで暖かい気持ちになる。
アーバンは言い合いも出来るし気兼ねなく話せる幼馴染。だけど乱暴な言葉は使わないしやっぱりいつも優しく接してくれた。
あんな印象深い人はいなかった。
だから、いなくなってちょっと寂しいだけ。
「おかあしゃん、ギュレンのくれたえほん、よんでくださいっ!」
「うん、アルの好きな騎士様とお姫様のお話ね」
「はい!ギュレン、きししゃま、だからすき」
「ふふ、なんでもグレン様なのね?」
「うん、あいたいね」
アルバードはいつか会えると笑顔で待っていた。
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