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33話  アーバン

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 ◇ ◆ ◇  アーバン

 俺と父上は頭を抱えていた。

 借金の支払いまで四日しか残っていないのに母上は優雅にお茶を飲んでいた。

「美味しい」
 
 高級な茶葉で淹れられた紅茶は匂いもとても良く、俺のところまで匂いがきた。

 普段ならその匂いに俺も飲みたいと思うのだろうが、今の気分はイライラしてそんな気分にすらならなかった。

 こんな時優秀な兄貴が生きていてくれたら。母上もここまで酷いことにはなっていなかっただろうか。

 俺と父上がお金のことは任せっきりだったし、社交のことも口では注意してもさほど気にしていなかった。

 先ほど来た借金取りの金額だけではなく、あと数軒借金を抱えているらしい。このままではこの家は売りに出すしかないだろう。

 売ったところですぐに金が入ってくるわけではない。安く叩き売るか四日後にこの屋敷を奪い取られ、残りの借金をどうにか返すか……

「兄上のところに頭を下げに行ってくる」
 父上が頭を抱えて伯父上のところへ向かった。

 父上も母上に怒りたいのは山々だがそれよりも今は借金をどうにかするほうが先だ。
 母上は全て白状したからスッキリしたようでにこやかにされている。

「母上、もうこんな贅沢な紅茶を飲めるのは最後だと思ってください」

「何故?」
 キョトンとして俺を見た。

「お金がないからですよ」

「もう嫌だわ、アーバンったら。エドワードが死んだおかげで借金は無くなったの。そして次はエドワードが生きているとわかったから借金がなくなったの。
 今回はアーバンと夫にバレたから借金がなくなるわ。
 だから次も大丈夫よ。また借りればいいの、お金がないのなら、ね?」

 クスクス笑いながら話す母上の顔はひどく歪んでいた。


 そして………

 俺は母上の発言に驚いた。

「今なんと言いました?」

「えっ?なんのことかしら?」

「エドワードが生きていることがわかったから?借金がなくなった?どう言う意味ですか?兄上は行方不明になり亡くなっていますよね?」

「ふふ、エドワードは記憶を失っているらしいの。ここに訪ねて来た時は驚いたわ」

「訪ねて来たとは?いつのことですか?」

 俺の体は驚きた怒りで震えていた。

 この人は俺の母親なのに、右の手はぎゅっと握りしめて殴りかかりたい気持ちになっていた。

「いつだったかしら?貴方はエドワードではないと言って追い返したのよ。そのおかげで借金がなくなったの。ほんとエドワードは長男としてきちんとわたしの役に立ってくれたわ」

「ラフェを追い出して兄貴のお金を全て巻き上げたくせに?」

「人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。ラフェにはずっと優しくして来たわ。親の愛情が必要な子供の時にわたしが面倒を見てあげたの。だからわたしが困っている時に恩を返すのは当たり前のことでしょう?」

「貴女はそんなことを思ってラフェの面倒を見ていたのですか?」

 信じられなかった。あんなにラフェを可愛がって娘のように愛情をかけていたのに。

「違うわよ娘のように可愛いと思っていたわ。だけどね、自分が豊かだから人に愛情はかけられるのよ?自分が苦しい時は無理。そんなものでしょう?
 今までしてあげたのだから返すのは当たり前。そのおかげでアーバンだって今までこの屋敷で贅沢に暮らしていけたのよ?」

「俺は落ち着いたらラフェを迎えに行くつもりでした。だから必死で働いて少しでも昇進して金を稼いで、ラフェとアルバードに会いに行こうと……」

「アーバンったら、そんな口先だけの言葉言ってもダメよ。だってもう二年も経っているのよ?」

「そうですね、俺は……ラフェ達を迎えに行くと言って二年も放っていました。………母上、話を逸らさないでください。兄貴のこと話してください」

「失礼ね?逸らしていないわ!
 ある伯爵家の執事が来てエドワードのことを知らないと言えば借金を返してくれると言われたの。
 さらにエドワードは死んでいなかったことがわかれば国にエドワードの死亡で受け取ったお金を返さないといけなくなると言われたの」


「お金のために兄貴はいないものとされたのですか?」

「違うわ、エドワードは優秀で伯爵令嬢がエドワードを気に入ってくれているらしいの。二人は恋仲なのよ。だからエドワードの幸せでもあるの。騎士爵でしかない我が家の息子でいるより伯爵家の婿として暮らす方が幸せなの」

「生きているのならラフェとアルバードは?どんなことをして裏で手を回したんだ?」

「知らないわ。だけど伯爵家でもかなり裕福なところだと思うわ。あれだけの借金を簡単に返してくれたのだもの。夫の伯爵家とはえらい違いだわ」

「調べてくる」

「だめよ!アーバンはエドワードが生きてると知らないのよね?騎士団ではエドワードは死んだことになっていると言うことでしょう?裏でどうなっているかわからないけど、引っ掻き回さないで!」

「母上、本当はどうなっているのか知っているのですね?白状してください」


「初めは……裏で手を回して生きていたことを騎士団に告げて返金すると執事は言ってたの。
 だけど……本当はなにもしていないみたい。
 わたしを脅したかっただけなのよね、騎士団に知られたら返金しないといけないと言ってね。
 エドワードの素性を本人に知られたくなかったみたい、向こうも慌ててわたしの口を塞ぎたかったみたい」

 ふーっと息をついて思い出しながら語った。

「エドワードはこのまま死んだことにして、新しく記憶のない人として戸籍を作ったらしいの。
 そのあとは知らないわ。
 エドワードは死んだことにさえしていれば今まで通り遺族給付金が入るし、後のことは知らない。エドワードが幸せに暮らしているのだから心配はしていないわ」

「貴女はそれでも母親ですか?」




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