【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ

文字の大きさ
上 下
30 / 146

30話

しおりを挟む
 ◇ ◇ ◇  ラフェ


「おい、アル、公園へ行くぞ」

 わたしが縫い物をしていると突然グレン様が訪ねてきた。

「こうえん?いきたいっ!」

 アルバードはグレンさ様の顔を見るなり遊んでいた積み木を投げ捨てて走ってグレン様の足に絡みついた。

「ぎゅれん、あそぼっ、いこぉ」

「アル、危ないだろう!いきなり抱きついてくるな!よっしゃ!抱っこしてやろう」
 そう言うとヒョイっとアルバードを抱き上げて優しく頬を撫でた。

「きゃっ、くすぐったい、ギュレン」

 久しぶりに会えたグレン様に甘えるアルバード。
 もうそろそろこの王都を離れるのだろう。だからアルバードに会いに来たのだろうとすぐにわかった。

「ラフェ、お前は忙しいんだろう?ほら、ここに昼食置いとくからきちんと食えよ。アルは俺が公園に連れて行くから、頑張って仕事をしていろ」

「グレン様ありがとうございます。アルバードの我儘をあまり聞かないでください。たぶん久しぶりに会えてアルバードは甘えてしまうと思います」

「おかあしゃん!アルいいこするよ?ギュレンいいこがすきって」

「おう、グレンはアルが我儘でもいい子でも大好きだぞ。今日は特別だからいっぱいアルの言うこと聞いてやる」

「やっ、たあ!」

 親子でもないのに本当の親子のように仲良しの二人。わたしはグレン様に頭を下げてまた仕事に戻った。

 毎日頑張って洋裁の仕事をしても家賃を払ってアルに食べさせるのがやっとの毎日。

 アルのいないこの時間少しでも捗らせようと指を必死で動かした。




 ◆ ◇ ◆  グレン



「おいアル!待て、走るな!」

 小さな手が俺の手を必死で握りしめ、嬉しそうな顔をして見上げる。





 ラフェを初めて見た時驚いた。

 俺の死んだ妻に面影が似ていた。

 よく見たら全く違う。なのに妻のマキナを思い出させた。

 アレックス様はそんな俺の視線を追って、俺の肩を叩いた。

「おい、あの娘、男達に連れ込まれようとしてるぞ。なにボーッと突っ立ってるんだ。助けに行かないと酷い目に遭わされるぞ。王都なのになんでこんなに治安が悪いんだ!
 ほら見てみろ、助けてと言ってるのにみんな見て見ぬ振りだ。酷いもんだ」

 アレックス様が俺に声をかけた。

 ハッと我に返り慌てて助けに入った。


 ラフェは宿屋の前で必死で抵抗していた。

「やめて!手を離して!なんでこんなことをするんですか!」

「うるせえなぁ、黙れこの女」

 ラフェのお腹を一人の男が蹴り上げた。

 俺はカッとなって殴りかかろうとした。

 アレックスが「待て、タイミングが悪い。今行けばあの娘さらに殴られるぞ」
 娘のすぐそばにまだ一人の男がいていつでも殴ったり蹴ったりできる状態だった。

「おい、殺すのは犯ってからだ」

「そうだ、楽しんでからあとはその辺に殺して捨てればいいんだ」

「勿体無いぜ、売って金にしよう」

「まあ、これだけ綺麗なら高く売れるか」

「いや、三人で死ぬまで犯すのも楽しそうだぜ。クスリを手に入れてたっぷり飲ませればこの女も俺たちの言うことしか聞かなくなるんじゃないか」

 ラフェから少し離れて三人が話し出したところに俺たちが助けに入った。


「へぇ、男三人で女を犯すんだ?」

 力なく倒れていたラフェ。その姿を見るだけでマキナを思い出す。

「あいつら最低だね」
「うわあ、顔も最低」
 俺は気持ちを抑えながら軽い口調で話す。

「お前らふざけんなよ」
 男達三人が怒鳴り始めた。

「ふざけているのはあんた達だろう?」
「そうだそうだ!女を連れ込もうとしているくせに」

 男達三人を俺は蹴り上げ、殴りつけ簡単に倒した。口先だけの男達、弱い女子供にしか強気な態度を取れない最低な奴らだ。


「ほんと、こう言う奴って口だけで実は弱いんだから、ねえ、アレックス様」

「グレン、さっさとそいつら連れて行け」

「ったく、俺こんな汚い男達触るよりそこの綺麗な女の子がいいんだけど、ねえ?」

 ラフェを見てにこりと笑った。

「あ、あの、助けていただいてありがとうございました、本当に助かりました」
 必死で頭を下げるラフェ。

 ラフェのことが気になったが俺は男達を警備隊の詰め所に連れて行った。

 簡単な事情を説明してあとは近くにいた俺の部下に後処理は頼んだ。



 気になって急いで屋敷に戻った。

 ラフェが玄関を出て帰ろうとしていた。

「おい、何歩いて帰ろうとしているんだ?」

 帰ってきたばかりの俺はラフェのふらつく体を支えて抱き止めた。

「フラフラしてるじゃないか?こんな状態でアレックス様が一人で帰そうとしたのか?」

「違います、息子が待っているんです、早く帰らなきゃ泣いています」

「一人で?」

「隣のおばちゃんの家で待ってます。みんなにも迷惑かけてしまいます」

「あーーー、もう、息子が心配なんだ?自分の体は?そんなふらついて家に帰るの?歩けるわけでもなく?」

「…………どこかで辻馬車を見つけます」

「ねぇ?あんたさ、アレックス様なり俺なり、ここの使用人なり、誰でもいいからあの襲われている時みたいに「助けて」って大きな声出しなよ。そしたらみんななんとかするよ。なんで一人で必死になるんだ?
 あんた見てるとイラつく。一人で不幸を背負ってるみたいな顔してさ」


「そんな……助けていただいてありがとうございます、帰ります」

 俺の手を振り解いて玄関を出た。

 ラフェの傷ついた顔。俺は口が悪い。

 まだ会ったばかりの男にこんなことを言われて傷ついたのだろう。
 ほんと俺って女に優しくできないんだよな。
 それにマキナと重なってしまってつい強く言ってしまった。


 

 







しおりを挟む
感想 473

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

愛してくれない婚約者なら要りません

ネコ
恋愛
伯爵令嬢リリアナは、幼い頃から周囲の期待に応える「完璧なお嬢様」を演じていた。ところが名目上の婚約者である王太子は、聖女と呼ばれる平民の少女に夢中でリリアナを顧みない。そんな彼に尽くす日々に限界を感じたリリアナは、ある日突然「婚約を破棄しましょう」と言い放つ。甘く見ていた王太子と聖女は彼女の本当の力に気づくのが遅すぎた。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

処理中です...