上 下
28 / 146

28話

しおりを挟む
 ◆ ◆ ◆  エドワード


「………………エドワード?」

 俺の顔を見て突然話しかけてくる男がいた。

「え?俺はリオだけど?」

 知らない男は俺とあまり歳が変わらないように思えた。

「あっ……エドワードは行方不明になって死んだんだ…すまない、あまりにも似ていたから」

 そう言うとその知らない男は去って行こうとした。

 俺は銀行へ融資の話しをしに行く途中だった。
 約束の時間までにはまだ少しある。

「待ってください」

 その男を引き止めた。

『エドワード』その名は俺の本当の名前かもしれない。そう思ったのに訪ねたら違うと言われた。

 だけどこの見知らぬ男はものすごく驚いた顔をして俺を見た。

 そして呟いた言葉を聞き逃さなかった。

「生きてる?まさか?」そう言ってから「エドワード?」と呼んだのだった。

 いまだに記憶は戻らない。もうそれでいいと思って過ごしていた。

 新しいリオとしての人生を歩んでいる。シャーリーは我儘なところもあるが俺のことを愛してくれている。
 それだけは本当だとわかるし、そんなシャーリーが俺も好きだしオズワルドのことも可愛くて仕方がない。

 俺なりに幸せな暮らしを続けている。

 だけど、『エドワード』と言われたら、俺が本当は誰なのか知りたい。

 俺はエドワードなのか?違うと聞いていたのに。

「あの、実は記憶がないのです。エドワードという人とわたしは顔が似ているのでしょうか?」

 その男は「エドワードとは同級生でした」と言われた。

 少しだけ会話をして明日改めて会おうと約束をして別れた。

 もしかしたら俺はやはりエドワードなのかもしれない。

 何故なら先ほどの男“アダム”さんが教えてくれたエドワードの特徴が俺に類似していた。

 語学が堪能で、騎士だった。歳もほぼ同じくらいの26歳、明るめの茶色い髪で少し癖毛があり、瞳の色はコバルト色で身長は高め。

 類似しているどころかそっくりだ。

 だけど、バイザー家に訪れた時、使用人は俺の顔を見てもなんの反応もなかった。
 母親らしき婦人も驚いた顔すら見せず「違う」と言われた。

 あの時、俺はシャーリーの護衛として働き、その合間に訪れた。

 自分の身元がハッキリしていないこともありシャーリーの護衛としての仕事は辞めていなかった。その後も自分の身元を探しに行こうとしたがなかなか休みがもらえずこの領地について来ていつの間にかシャーリーを愛するようになり結婚していた感じだった。

 その時はそれが自然に感じていた。

 そうお互い愛し合い結ばれたのだ。

 次の日、もう一度アダムさんに会って話しを聞くまでは。






 ◇ ◆ ◇  アーバン


 母上は借金の返済に追われていた。

 兄貴が亡くなって商会に騙され逃げられ我が家の貯金はほぼ失ったが兄貴の死亡保証金で穴埋めされたと聞いていた。

 母上が贅沢さえしなければ暮らしは楽なはず。
 なのに贅沢はやめられないようで父上からも口酸っぱく言われていつも「うるさい!」と怒っている姿ばかり見ていた。

 しかしどう見てもガラの悪い男達が我が家に出入りする姿は異常にしか見えない。

「あんたの母親はかなり借金を抱えているんですよ、そろそろ返済してもらわないとうちも困るんです」

「……どれくらいの金額なんですか?」

「アーバン、やめて!聞かないで!」

 母上は必死で止めようとしたが俺は無視した。
「教えてください」

「あんたの母親は1000万ペルン借りて返済していないもんだからもう今じゃ利子が付いて2200万ペルンになってるよ」

「あ、貴方達が勝手に高額な利子を付けたんじゃない!わたしは返すのはゆっくりで大丈夫だと言われたから借りたのよ!そんな利子が高いなんて借りる時聞いていなかったわ」

「何言ってるんだ?おばさん?ほらここに借用書があるだろう?自分がサインして印を押したんだ。本物の書類だ、裁判でも警備隊にでも訴えたって俺たちは困らないぜ」

 俺はその借用書を受け取り、じっくりと読んだが確かに利子のことも書かれていたし期限もゆっくりどころか借りて半年以内に返すと記されていた。

「母上、この借用書は正式なものです」

「アーバン、そんなのおかしいわ。この紙にサインすれば1000万ベルン貸してくれるとミラー夫人が教えてくれたの。だからサインしたの」

「何も読まずにですか?」

「だってミラー夫人が大丈夫、安心してって言ったもの」

「おばさん、あんたがなにを言おうと騙されようと関係ない。さっさと2200万ベルン返してくれないならこの屋敷は俺たちのものだ」

「嘘!この屋敷はバイザー家のものよ!出て行って!お金はすぐに用意するから!アーバン、ね?助けてくれるわよね?」

「ちっ、だったら期限ギリギリ、あと四日間待つ。その時に全額返済できなければこの屋敷は差し押さえさせてもらうからな、お・ば・さ・ん!」

「わかったわ、だから出て行きなさい!なにがおばさんよ!わたしは貴族夫人なのよ!」

母上は男達が出て行ってからすぐに俺を見てにこりと微笑んだ。

「アーバン、早くお金、お金を用意してちょうだい」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女があなたを思い出したから

MOMO-tank
恋愛
夫である国王エリオット様の元婚約者、フランチェスカ様が馬車の事故に遭った。 フランチェスカ様の夫である侯爵は亡くなり、彼女は記憶を取り戻した。 無くしていたあなたの記憶を・・・・・・。 エリオット様と結婚して三年目の出来事だった。 ※設定はゆるいです。 ※タグ追加しました。[離婚][ある意味ざまぁ] ※胸糞展開有ります。 ご注意下さい。 ※ 作者の想像上のお話となります。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

私がいなければ。

月見 初音
恋愛
大国クラッサ王国のアルバト国王の妾腹の子として生まれたアグネスに、婚約話がもちかけられる。 しかし相手は、大陸一の美青年と名高い敵国のステア・アイザイン公爵であった。 公爵から明らかな憎悪を向けられ、周りからは2人の不釣り合いさを笑われるが、アグネスは彼と結婚する。 結婚生活の中でアグネスはステアの誠実さや優しさを知り彼を愛し始める。 しかしある日、ステアがアグネスを憎む理由を知ってしまい罪悪感から彼女は自死を決意する。 毒を飲んだが死にきれず、目が覚めたとき彼女の記憶はなくなっていた。 そして彼女の目の前には、今にも泣き出しそうな顔のステアがいた。 𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷 初投稿作品なので温かい目で見てくださると幸いです。 コメントくださるととっても嬉しいです! 誤字脱字報告してくださると助かります。 不定期更新です。 表紙のお借り元▼ https://www.pixiv.net/users/3524455 𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

処理中です...