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27話
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◇ ◇ ◇ ラフェ
「ラフェの事情はある程度聞いてる」
グレン様がすまなそうに頭を掻いた。
「ううん、みんな親切な人達です。だからグレン様やアレックス様にわたしのことを話してなんとかしてもらおうと思ったんだと思います」
多分近所の人たちは、貴族でお金のあるアレックス様達ならわたしを救い出せると思ってわたしの事情を話していた。
おばちゃんがすまなそうにわたしに「ごめんね、あんたのこと色々聞かれたから話してしまった。あの人達は貴族でもいい人たちに見えたんだ」とわたしに謝りながら話してくれた。
みんなの気持ちもわかるのでわたしはなにも言い返せなかった。
兄さんと友人だと言うアレックス様。
それだけのことなのにわたしのことを心配してくださりなにかと力になってくださる。
「俺さ、そろそろアレックス様と領地に戻るんだ。アルには会えなくなる……アルのことつい可愛がったけど、変に期待させてごめん」
「わたしの方がお世話になって感謝しかありません。お二人がずっと王都で暮らすことはないことくらいわかっていました」
ーーうん、元の生活に戻るだけ。
それだけ……
「そっか、………うん、まだもう少しはこっちにいる。だけど向こうに帰る準備で忙しくなるからアルには会いに来ることが減りそうだ。差し入れは屋敷の誰かが持ってくるから安心して」
「もう大丈夫です。洋裁の仕事もなんとか順調に進んだのでお金も入ってきました。体調も戻ったし、心配しないでください」
「無理していない?」
「大丈夫です」
「わかった、また王都を立つ前にはアルに会いに来る」
「はい、ありがとうございました」
ーーわたしの中ではこれでお別れのつもりでいた。もう会うことはない、そう思っていた。
◇ ◆ ◇ エドワード
「シャーリー、オズワルドにたまには会いに行ってはくれないだろうか?」
毎日自分のことで忙しいシャーリーに母親としての自覚を持ってほしい。
そう思って頼んでみた。
「リオ、わたしは貴族よ?子育ては乳母や侍女達に任せるのが一番よ。オズワルドのことはもちろん可愛いと思っているわ。だけどわたしも色々と忙しいの」
「しかし出かける前に少しだけでも会うくらいは出来るはずだろう?」
「さっきも言ったわ、わたしは忙しいのよ」
これ以上言っても無駄なんだろう。シャーリーは聞く耳を持たない。
「もういいよ」
「リオもたまにはわたしとお出かけしましょうよ」
「やめてくれ、俺はまだ山ほどの仕事が机に置かれているんだ。君のように遊んで回る暇なんてないんだ」
「リオったら酷いわ。わたしが遊んで回っていると言うの?わたしは大切な社交を貴女の代わりにしているのよ?」
「そうは見えないが?」
「貴方は記憶をなくしてるから社交をするにしても知らない人たちばかりでしょう?だからわたしが代わりに頑張っているのよ」
記憶を取り戻したい。だけどオズワルドのことやシャーリーのことも大切だ。
もし記憶を取り戻して気持ちが変わってしまったら?他に愛する者がいたとしたら?
突然二人を蔑ろになどしたくない。
それに俺のせいでもしかしたら周りに迷惑をかけることになるかもしれない。今の俺には家庭があり息子もいる。
それに沢山の責任のある仕事もある。
今さら記憶が戻っても、以前のところで暮らすことはできないだろう。
ならばこの領地に骨を埋め、領民のため家族のためここで暮らすしかない。
だけどシャーリーを愛しているのに、彼女の行動に我慢できない時がある。
仕事が終われば俺に甘えてくる可愛い妻。いまだに二人だけで過ごす甘い時間。
オズワルドを可愛いと思うが仕事が終わってから一人で面倒を見ることは無理だ。結局あの子は乳母達使用人に預けることになる。
仕事の合間に会いに行き、少しだけでも抱っこしたりオムツを変えてあげたりと出来るだけ接する時間を作るようにしている。
そして久しぶりに執務室を出て、街中の視察中、シャーリーの姿を見かけることになる。
友人という名の男数人と歩く姿を。
俺は多少は疑ってはいたがまさか女性が全くいない男達だけの中にいてあんなに楽しそうに、そして親密にベタベタと男を触りながら話す妻を呆然として見つめてしまった。
「旦那様?どうなさいましたか?」
俺は声をかけられてハッとした。
「いや、もう少し詳しい話を聞きたい、中に入って話そう」
店の当主との話し合いをすることにして慌てて店の中に入った。あんな妻の姿を人に見られたくなかった。
夜シャーリーとの話し合いをしようと待っていた。
「リオどうしたの?」
疲れて眠たそうにしているシャーリー。
「ふふ、今夜もリオに抱かれたいわ」
誘ってくる艶かしい妻。いつもなら思わず抱いてしまう。
だが今夜はそんな訳にはいかない。
「君は昼間なにをしているんだ?社交とは男達とベタベタしながら歩くものなのか?」
「ヤキモチ?今日はみんなで新しくできたレストランで食事をしただけよ、あと私に似合うネックレスをプレゼントしてもらったの」
「男達と遊んで?」
「嫌な言い方ね?リオが忙しくて構ってくれないから仕方がないでしょう?」
「そういう問題ではないだろう?」
「もうそんなくだらない話はやめて!それよりも時間がもったいないわ、ねっ?」
シャーリーは誤魔化すように俺にキスをしてきた。
もうこれ以上何を言っても話し合う気はないようだ。
俺は抱く気になんてなれず「寝るから」と言って初めて彼女からの誘いを断った。
「ラフェの事情はある程度聞いてる」
グレン様がすまなそうに頭を掻いた。
「ううん、みんな親切な人達です。だからグレン様やアレックス様にわたしのことを話してなんとかしてもらおうと思ったんだと思います」
多分近所の人たちは、貴族でお金のあるアレックス様達ならわたしを救い出せると思ってわたしの事情を話していた。
おばちゃんがすまなそうにわたしに「ごめんね、あんたのこと色々聞かれたから話してしまった。あの人達は貴族でもいい人たちに見えたんだ」とわたしに謝りながら話してくれた。
みんなの気持ちもわかるのでわたしはなにも言い返せなかった。
兄さんと友人だと言うアレックス様。
それだけのことなのにわたしのことを心配してくださりなにかと力になってくださる。
「俺さ、そろそろアレックス様と領地に戻るんだ。アルには会えなくなる……アルのことつい可愛がったけど、変に期待させてごめん」
「わたしの方がお世話になって感謝しかありません。お二人がずっと王都で暮らすことはないことくらいわかっていました」
ーーうん、元の生活に戻るだけ。
それだけ……
「そっか、………うん、まだもう少しはこっちにいる。だけど向こうに帰る準備で忙しくなるからアルには会いに来ることが減りそうだ。差し入れは屋敷の誰かが持ってくるから安心して」
「もう大丈夫です。洋裁の仕事もなんとか順調に進んだのでお金も入ってきました。体調も戻ったし、心配しないでください」
「無理していない?」
「大丈夫です」
「わかった、また王都を立つ前にはアルに会いに来る」
「はい、ありがとうございました」
ーーわたしの中ではこれでお別れのつもりでいた。もう会うことはない、そう思っていた。
◇ ◆ ◇ エドワード
「シャーリー、オズワルドにたまには会いに行ってはくれないだろうか?」
毎日自分のことで忙しいシャーリーに母親としての自覚を持ってほしい。
そう思って頼んでみた。
「リオ、わたしは貴族よ?子育ては乳母や侍女達に任せるのが一番よ。オズワルドのことはもちろん可愛いと思っているわ。だけどわたしも色々と忙しいの」
「しかし出かける前に少しだけでも会うくらいは出来るはずだろう?」
「さっきも言ったわ、わたしは忙しいのよ」
これ以上言っても無駄なんだろう。シャーリーは聞く耳を持たない。
「もういいよ」
「リオもたまにはわたしとお出かけしましょうよ」
「やめてくれ、俺はまだ山ほどの仕事が机に置かれているんだ。君のように遊んで回る暇なんてないんだ」
「リオったら酷いわ。わたしが遊んで回っていると言うの?わたしは大切な社交を貴女の代わりにしているのよ?」
「そうは見えないが?」
「貴方は記憶をなくしてるから社交をするにしても知らない人たちばかりでしょう?だからわたしが代わりに頑張っているのよ」
記憶を取り戻したい。だけどオズワルドのことやシャーリーのことも大切だ。
もし記憶を取り戻して気持ちが変わってしまったら?他に愛する者がいたとしたら?
突然二人を蔑ろになどしたくない。
それに俺のせいでもしかしたら周りに迷惑をかけることになるかもしれない。今の俺には家庭があり息子もいる。
それに沢山の責任のある仕事もある。
今さら記憶が戻っても、以前のところで暮らすことはできないだろう。
ならばこの領地に骨を埋め、領民のため家族のためここで暮らすしかない。
だけどシャーリーを愛しているのに、彼女の行動に我慢できない時がある。
仕事が終われば俺に甘えてくる可愛い妻。いまだに二人だけで過ごす甘い時間。
オズワルドを可愛いと思うが仕事が終わってから一人で面倒を見ることは無理だ。結局あの子は乳母達使用人に預けることになる。
仕事の合間に会いに行き、少しだけでも抱っこしたりオムツを変えてあげたりと出来るだけ接する時間を作るようにしている。
そして久しぶりに執務室を出て、街中の視察中、シャーリーの姿を見かけることになる。
友人という名の男数人と歩く姿を。
俺は多少は疑ってはいたがまさか女性が全くいない男達だけの中にいてあんなに楽しそうに、そして親密にベタベタと男を触りながら話す妻を呆然として見つめてしまった。
「旦那様?どうなさいましたか?」
俺は声をかけられてハッとした。
「いや、もう少し詳しい話を聞きたい、中に入って話そう」
店の当主との話し合いをすることにして慌てて店の中に入った。あんな妻の姿を人に見られたくなかった。
夜シャーリーとの話し合いをしようと待っていた。
「リオどうしたの?」
疲れて眠たそうにしているシャーリー。
「ふふ、今夜もリオに抱かれたいわ」
誘ってくる艶かしい妻。いつもなら思わず抱いてしまう。
だが今夜はそんな訳にはいかない。
「君は昼間なにをしているんだ?社交とは男達とベタベタしながら歩くものなのか?」
「ヤキモチ?今日はみんなで新しくできたレストランで食事をしただけよ、あと私に似合うネックレスをプレゼントしてもらったの」
「男達と遊んで?」
「嫌な言い方ね?リオが忙しくて構ってくれないから仕方がないでしょう?」
「そういう問題ではないだろう?」
「もうそんなくだらない話はやめて!それよりも時間がもったいないわ、ねっ?」
シャーリーは誤魔化すように俺にキスをしてきた。
もうこれ以上何を言っても話し合う気はないようだ。
俺は抱く気になんてなれず「寝るから」と言って初めて彼女からの誘いを断った。
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