【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ

文字の大きさ
上 下
26 / 146

26話  ラフェ

しおりを挟む
 ◇ ◇ ◇  ラフェ

 やっと元の生活に戻れた。

 アルバードを見守りながら洋裁の仕事に励んでいる。

 怪我をして寝込んで2週間以上も仕事ができなかったわたしにエリサは少しでも多くと、仕事を回してくれた。

 縫い物が仕上がるまでお金は入らないので貯金を切り崩し生活をすることにした。

 隣のおばちゃんや近所の人たちが裏庭の畑の世話をしてくれていたおかげで野菜は枯れずにすんだ。もう感謝しかない。

 さらに何故かグレン様が毎日料理を届けてくれた。

「あの……わたしにはお返しすることはできません。なのでもう十分していただいたのでこれ以上は……」

「気にするな、俺がしたいからしてるんだし。ま、それにこの料理はアレックス様の屋敷の料理人がアルのために作ってるから俺は運んでくるだけなんだけどね」


「ギュレン、りょおりちょおにおいしいって、いってね」

「わかった、今度屋敷に遊びに来い」

「うんいくっ」

 アルはグレン様が遊びに来るのをいつも楽しみに待っている。

 でもわたしはあまりにも懐きすぎて心配だった。
 辺境伯のアレックス様がずっと王都にいるわけはない。
 側近であるグレン様ももちろん帰ってしまうだろう。

 その時にアルバードはとても悲しむ。
 母親であるわたしは、どうしてもアルバードが悲しむ姿は見たくないと思ってしまう。

 二人が顔をくっつけて絵本を読んでいる姿、木の剣でグレン様と打ち合いをしながら遊んでいる姿、抱っこされている姿、これが当たり前の光景になりつつあるからこそ、とても怖く感じた。

 わたしは頼ってはいけない。甘えてはいけない。
 だってこの人達は赤の他人。
 あまりにも当たり前のようにわたしに手を差し伸べてくれるから勝手にそれをいいように捉えてしまっている。

 グレン様が顔を出すのが当たり前になっていたしアレックス様も時折来てはみんなでお茶をするのが当たり前になりつつある。



 アルバードを寝かせている時

「ギュレンすき、あしたもくる?」
 と聞かれた。

「うーん、グレン様もお仕事をされているからアルバードに毎日会いに来るのは難しいと思うの」

「どうして?なんで?ギュレン、アルのことすきっていったよ?」

「うん、グレン様はアルバードが大好きよ。だけど、グレン様もずっとは無理なの」

「おかあしゃん、いじわる、むりじゃない!」

 アルバードは泣き出した。

 だけど、だからと言って毎日来るのは無理だろう。今だって時間を作って無理して来てくれていることがわかる。時間もまちまちだし、来てもすぐ帰ることも多い。

 わたしと話すことなんてあまりない。

「悪いっ、これ置いて帰る!アル、明日はゆっくり遊べるからな!」
 と、慌てて帰ってしまうこともある。

「わかったぁ!」
 アルバードはグレン様の顔を見たら満足みたいで次の日に遊べることを期待して我儘を言わずに待っている。


 グレン様が時間に余裕があったみたいで、アルバードとしっかり遊んでくれた。おかげで満足してアルバードは疲れて昼寝をした。

「ラフェ、アルの奴、ぐっすり眠ったぞ」

「グレン様、お忙しいのにいつも遊んで頂いてありがとうございます」

「俺が好きでアルと遊んでるから気にするな。ラフェも体の調子が随分と良くなったみたいでよかったな」

「はい、みんなのおかげです。それにグレン様とアレックス様が助けてくださらなければ今頃どうなっていたか。アルバードと暮らせているのはお二人のおかげです」

「たまたま居合わせただけだ。ラフェの運が良かったんだと思う。俺たちが街を見回っていたからな」

「グレン様って見かけによらず子供がお好きなんですね」

「見かけってどう言う意味だ?」

「だってどう見ても子供好きには見えませんもの」

 アレックス様はカリスマ性があり豪快に見えるけど実は周りをよく見ていてとても細やかな人だ。

 グレン様は見栄えがいい。顔もかっこいいし背も高くとても目立つし人を惹きつけてしまう人だ。
 多分女性には不自由していないと思う。アーバンやエドワードは爽やかで優しくてモテていたけど、グレン様は少し危険な感じがするし態と口が悪い話し方をする。それがまた魅力なんだろう。なのに女性にはとても優しいので、近所のおばちゃんからも人気がある。

 もちろんご近所の独身女性も気になっている人は多いみたい。

「遊び人にしか見えない?」

「そこまでは言いませんが」

 親しくなってからお二人のこともなんとなく聞いている。

 兄さんと同じ歳のアレックス様は34歳。

 そしてグレン様は28歳。

 グレン様のお母様はアレックス様の乳母をしていたらしい。
 アレックス様と同じ歳の赤ちゃんを産んだけど体が弱くすぐに亡くなって、代わりに乳母としてアレックス様のお世話をしたらしい。

 その後もう一人男の子を産んだあとグレン様が生まれた。グレン様の両親は辺境伯家の使用人として今も働いているそうだ。そしてグレン様も幼い頃からアレックス様の近くで育ち今は側近として仕えている。

 そんな話をグレン様がしてくれた。

 ちなみにアレックス様には奥様と13歳の息子さんと10歳の娘さんがいる。今は辺境伯領地で暮らしているそうだ。

 グレン様は独身らしいのだけど、自分のことはあまり話したがらない。

「まあラフェにどう思われても仕方ないけどあんたには第一印象が悪かったからな」

『あんた見てるとイラつく!一人で不幸を背負っているみたいな顔してさ』

 体調が悪いくせに意地を張っているわたしに向けた言葉。

「ううん、わたし、誰にも頼れない、一人で頑張らなきゃって意地張ってます。でもそうしないと生きていけないんです」


 
しおりを挟む
感想 473

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

処理中です...