【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ

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23話

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 ◆ ◆ ◆  エドワード

 仕事の忙しさもオズワルドの可愛いらしい笑顔に癒され、何とか頑張れる日々が続く。

 そんなある日、ミィナが執務室に慌ててやってきた。
「旦那様、オズワルド様が熱が!ぐったりしております」

「医者は?」

「今呼びにいってもらっております」

「わかった……この仕事を終わらせたら急いでオズワルドのところへ行く。シャーリーは?」

「奥様は今日は友人と隣町へ遊びに行くとのことで先ほどお出かけになりました」

「…………わかった。とにかくしっかり世話を頼む」

 俺はどうしても急いで終わらせなければいけない仕事を急ぎ終わらせてオズワルドの部屋へ向かった。

「オズワルドは?医者はなんて言っていた?」

「まだ原因はわかりません。熱はだんだん上がってきています。ぐったりしてぐずるどころか寝てばかりいます」

「オズワルド……」
 赤ちゃんのオズワルドの柔らかい頬をそっと優しく撫でた。

 少し近づいただけで体温の熱さを感じる。

 どんなにキツくても話すことができない赤ちゃん、ぐったりして虚な姿にかける言葉が出ない。

「薬は?」

「解熱剤を取りあえずもらったので飲ませました。また夕方往診に来てくれるそうです」

 俺はオズワルドのそばに時間が許す限りいた。何もしてはあげられないが声をかけてやるしかなかった。

 そして、午後からの仕事で人に会わなければいけなかったので

「何かあったらまたすぐに連絡をくれ」

 そう言うと部屋を出ていった。

 こんな時シャーリーがそばに居てくれたら。

 シャーリーはオズワルドに時折り会いには行ってはいるのだが、それは機嫌がいい時だけ。

 普段はオズワルドに近寄ろうとはしない。何度となく苦言は言っているのだが、聞こうとはしない。
 俺が婿入りしていなければもう少し強く出られたのだろうが、シャーリーの方が立ち位置が上なので何も言えなくなる。

 自由奔放で明るい。それが可愛いと思っていたはずなのにまさかその性格に悩まされるとは。

 今はオズワルドが治るのを祈るしかない。

 夕方、医者に会うことができた。

「熱さえ下がればいいのですが。赤ちゃんの場合原因が分かりにくいので、病名はわからないのです、風邪とは違うようですし」

「ハッキリとはしないのですね」

 俺は一晩オズワルドと過ごすことにした。

 乳母のミィナは授乳の時間だけ入れ替わり部屋に入って世話をしてもらうことになった。

 そしてオズワルドがぐずり授乳の時間になったので入れ替わろうとした時、

「オズワルドの部屋にどうしてミィナとリオが二人っきりで過ごしているの?」

 シャーリーが夜の11時頃帰ってきて俺たち二人の姿を見て怒り出した。

「シャーリー、誤解だ。俺はオズワルドと寝るためにこの部屋にいるんだ。ミィナは授乳のために今入ってきて入れ替わろうとしていただけだ」

「そうです奥様」ミィナは驚きとシャーリーの怒った姿が怖かったみたいで青い顔をして震えていた。

「ふうん、男と女が二人でいて何もなかった?そう言うのかしら?」

「当たり前だ。オズワルドが熱を出しているんだ!そんなことよりシャーリーも心配だからオズワルドに会いにきたんだろう?」

「オズワルドが熱?違うわ、リオがオズワルドと一晩寝るなんて聞いたから変だと思って部屋に来たの!そしたら浮気しているんだもの」

「はあ……ミィナともう一人隣の部屋にメイドがいる。その子に聞いてみろ!今授乳のために入れ替わろうとしていただけだと」

 ミィナが慌てて隣の部屋からメイドを連れてきた。
「奥様、私たち二人で控えていますので、奥様の思ったようなことは何もありません」

 もう一人もシャーリーの剣幕に怖がりながらも証言してくれた。


「ふうん、だったらリオ、オズワルドはその二人に任せて寝室に戻ってきて!私一人で眠るなんて寂しいわ」

「オズワルドが熱が高いんだ。まだ下がらない、そばに一緒にいてあげよう。親子三人で!」

「えっ?嫌よ!明日は新しい劇を観に行く約束をしているの。うつされたら困るわ」

「君って人は……」

「ねえそれよりリオ、私寂しいの、一緒に寝ましょうよ、オズワルドには二人もついているのだから心配なんて要らないわ」

 俺の腕を掴んで甘えるように引っ張って部屋から連れ出された。

 本当は腕を振り払い怒ればいい。

 そう思うのに、それが出来ない。

「オズワルドのこと頼む。何かあったら深夜でもいいから連絡してくれ」

 シャーリーは一度言い出したら言うことを聞かない。仕方なく俺は大人しく自分たちの寝室で眠ることにした。

 シャーリーはその夜も俺を激しく求めた。

 俺は機械のようにシャーリーを抱いた。

 愛してやまないシャーリーのはずなのに、目の前にいる女に欲情することなく、仕方なく義務で抱いているに過ぎなかった。

 それでもシャーリーは欲に溺れ一人その行為を楽しんでいた。



 ◇ ◆ ◇  アーバン

 実家の様子がおかしいことに気がついたのは変な男達がちょくちょく顔を出していることからだった。

「もう少し待ってください」
「いいかげんにしてくれないか?あっ?」

 そんな会話が聞こえてきた。

「ただいま」

 俺は気づかなかったふりをして部屋に入っていった。

「母上、お客様?」

「ええそうなの」

 動揺している母上。

 目つきの悪い男が二人俺を見てニヤニヤと笑う。

「息子さんですか?」母上にニヤけながら意味深に聞いている。

「この子には関係ないの、余計なことは言わないで」

「関係あるでしょう?俺たちは困っているんですから」

「どう言うご用件でしょう?」
 何となくわかってはいたが、仕方なく尋ねた。

「あんたの母親はかなり借金を抱えているんですよ、そろそろ返済してもらわないとうちも困るんです」

「……どれくらいの金額なんですか?」

「アーバン、やめて!聞かないで!」

 俺はこの時母上の借金の金額と我が家の実情を初めて聞かされた。





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