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12話 2年後。
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◇ ◇ ◇ ラフェ
アルバードは2歳半。
お話が上手で元気な男の子に育った。
「かあしゃん、おなかすいたぁ」
「もう少し待ってね、あと少しでお仕事終わるから」
頼まれていた縫い物があと少しでひと段落する。
「わかったぁ」そう言うと小さな椅子に必死で上り腰掛けた。
「おなかすいたぁ♪のどかわいたぁ♪かあしゃんおしごとぉ♪あとぉすこしぃ♪」
とよくわからない歌を歌い出した。
「アルったらわかったわ。スープを温めてくるわね」
「やったぁ!」両手を上げてにこにこ笑顔のアルバード。
テーブルの上の縫い物をサッと隅に片付けて
「触らないでね、危ないから」と一声かけてキッチンへ向かう。
朝の残りの野菜のたくさん入ったスープと朝焼いたパンとお隣のおばちゃんからもらった卵を目玉焼きにしてアルバードの前に置いた。
「いっただきまっす」
嬉しそうにフォークを上手に持ちスープを口に入れている姿に癒された。
「かあしゃんは?」
「かあしゃんはお腹空いてないからアル先に食べてね」
「はあい」
アルはお腹いっぱいになりうとうとし始めたので抱っこして寝かしつけてベッドにそっと置いた。
早く縫い物を終わらせてお店に持って行かないと。
この前アルバードが熱を出して数日間寝込んで仕事が出来なかった。
だから予定していたお金が入ってこない。
アルバードにはひもじい思いをさせたくなくてなんとか食べさせているがわたしの分まで食べ物はない。
家の裏の小さな畑にはその日食べられるだけの野菜は育てている。後で何か野菜でも食べよう。
蓄えは多少残っているけどアルバードのために残しておかないといざと言う時病院にすら罹ることが出来なくなる。
だから稼いだ分だけで出来るだけ生活をしている。
エドワードが亡くなってアルバードが産まれた。
遺族給付金と保証金は全て義両親が貰うことになった。
家を出て行く前日……
アーバンがベルさんを送り出した後、義母が離れに来た。
真っ青な顔をしてひどく疲れ切っていた。
「どうしたんですか?」
「投資していた商会が金を持って逃げた……離れを建てる時の借金もまだ残っているし、このままではこの家も爵位も失くなってしまうわ」お義母様が項垂れて話した。
「ラフェ、お願い。エドワードの保証金と遺族給付金をしばらくわたし達に譲ってもらえないかしら?」
「……は、はぁ」
どう返事をすればいいのだろう。わたしもアルバードを育てるために遺族給付金は欲しい。
保証金はこの離れを建てる借金に払わないといけないことはわかっていた。だけどそのお金だけで十分足りるはず。
遺族給付金は必要ないのでは?と思い聞いてみた。
「毎月の給付金は……どうして必要何ですか?」
「今まではエドワードが足りない分を生活費として入れてくれていたのよ、だけどそれがないから……苦しいのよ」
しがない騎士爵の地位。お父様は立派な騎士だけど元々伯爵家の次男、貴族としての生活に慣れていた。男爵令嬢だったお義母様には節約なんて言葉はなかったようだ。
華やかな生活とまではいかなくても貴族としての付き合いを大事にすればお金はいくらあっても足りない。そう足りなかったのだろう。
だから怪しい商会に騙されてお金を持って逃げられてしまった。
わたしは幼い頃から義両親にはとても優しくしてもらった。二人が助けてくれなければ今のわたしはいなかった。
だったら答えは一つ。
エドワード様の亡くなってもらえるお金は全て義両親に譲るしかない。
そう決心して義母に「明日この離れを出て行きます。エドワードのお金は自由にお使いください」
そう言ってわたしは必要なものを荷造りして早朝誰にも言わずこの家を出て行った。
元々出て行くつもりだった。それが早まっただけ。
多少の蓄えはあった。
兄さんはわたしが結婚する時「旦那には内緒の金も持っていたほうがいい」と言ってこっそりお金を持たせてくれた。
お義姉さんには内緒だったらしい。
「絶対バレないようにしろよ、このお金は両親が死ぬ前にお前に残していたものだからな」と言って渡してくれた。
いつもお義姉さんの顔色を窺いながら過ごして来た。悪い人ではない。でも子育てとわたしという小姑が居て大変だったんだと思う。
イライラして怒られることが多かった。
そんなお義姉さんを兄さんは怒ることも諌めることもなかった。
わたしには「少しは気を遣ってくれ」と言うばかりの人だった。
だからわたしは人の顔色を窺いながら過ごすことが当たり前になっていた。
エドワードとの婚約もいつかは解消されるだろうと思って過ごしたし、アーバンが好きだと言う思いも誰にも知られてはいけないと思って過ごした。
いつも周りにビクビクしながら生きて来た。
そして、今やっと自由に過ごすことができている。
ただ子供が幼いので外に働きに行けない。だから友人が嫁いだ洋服屋さんで縫い物の仕事をもらいなんとか暮らしている。
「お金が足りなかったら言ってね」
友人のエリサはいつも心配してくれる。
「大丈夫、貯金はあるから心配しないで」
いつもそう言って返事をした。
「さあ急ごう、明日の朝までに仕上げればお金をもらって買い物に行けるわ」
可愛いアルバードのためなら多少の空腹も、寝ずにする仕事も苦にはならない。
アルバードは2歳半。
お話が上手で元気な男の子に育った。
「かあしゃん、おなかすいたぁ」
「もう少し待ってね、あと少しでお仕事終わるから」
頼まれていた縫い物があと少しでひと段落する。
「わかったぁ」そう言うと小さな椅子に必死で上り腰掛けた。
「おなかすいたぁ♪のどかわいたぁ♪かあしゃんおしごとぉ♪あとぉすこしぃ♪」
とよくわからない歌を歌い出した。
「アルったらわかったわ。スープを温めてくるわね」
「やったぁ!」両手を上げてにこにこ笑顔のアルバード。
テーブルの上の縫い物をサッと隅に片付けて
「触らないでね、危ないから」と一声かけてキッチンへ向かう。
朝の残りの野菜のたくさん入ったスープと朝焼いたパンとお隣のおばちゃんからもらった卵を目玉焼きにしてアルバードの前に置いた。
「いっただきまっす」
嬉しそうにフォークを上手に持ちスープを口に入れている姿に癒された。
「かあしゃんは?」
「かあしゃんはお腹空いてないからアル先に食べてね」
「はあい」
アルはお腹いっぱいになりうとうとし始めたので抱っこして寝かしつけてベッドにそっと置いた。
早く縫い物を終わらせてお店に持って行かないと。
この前アルバードが熱を出して数日間寝込んで仕事が出来なかった。
だから予定していたお金が入ってこない。
アルバードにはひもじい思いをさせたくなくてなんとか食べさせているがわたしの分まで食べ物はない。
家の裏の小さな畑にはその日食べられるだけの野菜は育てている。後で何か野菜でも食べよう。
蓄えは多少残っているけどアルバードのために残しておかないといざと言う時病院にすら罹ることが出来なくなる。
だから稼いだ分だけで出来るだけ生活をしている。
エドワードが亡くなってアルバードが産まれた。
遺族給付金と保証金は全て義両親が貰うことになった。
家を出て行く前日……
アーバンがベルさんを送り出した後、義母が離れに来た。
真っ青な顔をしてひどく疲れ切っていた。
「どうしたんですか?」
「投資していた商会が金を持って逃げた……離れを建てる時の借金もまだ残っているし、このままではこの家も爵位も失くなってしまうわ」お義母様が項垂れて話した。
「ラフェ、お願い。エドワードの保証金と遺族給付金をしばらくわたし達に譲ってもらえないかしら?」
「……は、はぁ」
どう返事をすればいいのだろう。わたしもアルバードを育てるために遺族給付金は欲しい。
保証金はこの離れを建てる借金に払わないといけないことはわかっていた。だけどそのお金だけで十分足りるはず。
遺族給付金は必要ないのでは?と思い聞いてみた。
「毎月の給付金は……どうして必要何ですか?」
「今まではエドワードが足りない分を生活費として入れてくれていたのよ、だけどそれがないから……苦しいのよ」
しがない騎士爵の地位。お父様は立派な騎士だけど元々伯爵家の次男、貴族としての生活に慣れていた。男爵令嬢だったお義母様には節約なんて言葉はなかったようだ。
華やかな生活とまではいかなくても貴族としての付き合いを大事にすればお金はいくらあっても足りない。そう足りなかったのだろう。
だから怪しい商会に騙されてお金を持って逃げられてしまった。
わたしは幼い頃から義両親にはとても優しくしてもらった。二人が助けてくれなければ今のわたしはいなかった。
だったら答えは一つ。
エドワード様の亡くなってもらえるお金は全て義両親に譲るしかない。
そう決心して義母に「明日この離れを出て行きます。エドワードのお金は自由にお使いください」
そう言ってわたしは必要なものを荷造りして早朝誰にも言わずこの家を出て行った。
元々出て行くつもりだった。それが早まっただけ。
多少の蓄えはあった。
兄さんはわたしが結婚する時「旦那には内緒の金も持っていたほうがいい」と言ってこっそりお金を持たせてくれた。
お義姉さんには内緒だったらしい。
「絶対バレないようにしろよ、このお金は両親が死ぬ前にお前に残していたものだからな」と言って渡してくれた。
いつもお義姉さんの顔色を窺いながら過ごして来た。悪い人ではない。でも子育てとわたしという小姑が居て大変だったんだと思う。
イライラして怒られることが多かった。
そんなお義姉さんを兄さんは怒ることも諌めることもなかった。
わたしには「少しは気を遣ってくれ」と言うばかりの人だった。
だからわたしは人の顔色を窺いながら過ごすことが当たり前になっていた。
エドワードとの婚約もいつかは解消されるだろうと思って過ごしたし、アーバンが好きだと言う思いも誰にも知られてはいけないと思って過ごした。
いつも周りにビクビクしながら生きて来た。
そして、今やっと自由に過ごすことができている。
ただ子供が幼いので外に働きに行けない。だから友人が嫁いだ洋服屋さんで縫い物の仕事をもらいなんとか暮らしている。
「お金が足りなかったら言ってね」
友人のエリサはいつも心配してくれる。
「大丈夫、貯金はあるから心配しないで」
いつもそう言って返事をした。
「さあ急ごう、明日の朝までに仕上げればお金をもらって買い物に行けるわ」
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