2 / 146
2話 ラフェ
しおりを挟む
◇ ◇ ◇ ラフェ
憔悴の中、これからどうしたらいいのか考えなければいけない。
両親はもう亡くなっている。
兄さんは結婚して家族がいる。そこに身重のわたしが帰れば負担になってしまう。
エドワードの両親と話さないといけない。
仕事中の事故なので、国から遺族のためのお金が毎月支払われると聞いた。
そのお金で子供を育てるしかない。
悲しみの中、生きていくため現実の生活がわたしを苦しめる。
騎士爵をまだ受ける前のエドワード、もらえる額も少ない。
わたしが働けば何とかやってはいけるだろう。そんなことを考えながら過ごしているからか食欲も湧かない。
悪阻のせいなのか精神的なせいなのかいつもフラフラして寝込んでばかりだ。
アーバンが心配して毎日離れのわたしの家に顔を出してくれる。
「ラフェ、これ好きだっただろう?」
新鮮な林檎を持ってきてくれた。
「ありがとう、でも食欲がないの。テーブルに置いててちょうだい、後で頂くわ」
「そんなこと言って食べないつもりだろう?ラフェが食べ終わるまでここに居るからな」
「わかったわ、食べるから心配しないで!」
「………もう三ヶ月も経ったんだ……そろそろ気持ちの整理をしてお腹の赤ちゃんのためにも前に進もうよ。俺も協力するから」
「アーバンだって彼女がいるでしょう?ベルさんが怒るわよ?わたしのことなんて放っておいても大丈夫だから」
アーバンは付き合い出した彼女がいる。
わたしも何度か会ったことがある2歳年下の騎士団で事務の仕事をしている女の子。
とても可愛らしい素直な女の子。
「ベルだって分かってくれている。兄さんがいなくなって今が大変な時だって納得してくれている。ラフェ、頼むから俺に頼ってくれ。俺は幼馴染で友人で義弟なんだ」
「ダメだよ、アーバンにだけは頼れない。お願いだからそっとしておいて欲しいの」
わたしはアーバンを拒絶した。
わたしとエドワードの婚約は子供の時に結ばれたものだった。彼と結婚することは決まっていた。
エドワードのことは兄のように慕っていたし、恋ではなかったけど家族としてずっと暮らしていけると思っていたし……今はエドワードを愛していた。
だからこそアーバンには頼りたくなかった。アーバンにはアーバンの人生がある。いくら仲が良くても恋人に勘違いされてしまうような行動は避けたい。
わたしとアーバンは学生の時から何かと勘違いされていた。
わたしの婚約者がアーバンの兄と知らない同級生にどれだけ酷いことを言われただろう。
「アーバンと婚約しているわけでもないのに何でそんなに仲良くしているの?平凡で取り柄もない子のくせに!」
「アーバンに優しくしてもらっているからってつけ上がらないで!幼馴染って言うだけでしょう!」
「休みの日にアーバンの家に遊びに行ったと聞いたわ!何であんたみたいな目立たない子が仲良くしているの?一度自分の姿を鏡で見てみたら?」
アーバンは頭も良くて背も高い。
さらに剣術に優れていて女の子に優しい。
そんな彼を女子が放っておくわけがない。とにかくモテた。
だから出来るだけ関わらないようにしていたのに、彼は平気でわたしに話しかけてきた。
おかげで学生の間は女子たちにどれだけ嫌味や意地悪をされたか……
思い出しただけでゾッとする。
平凡で家族は兄だけのわたしと、騎士爵を持つ父親が居てかっこよくてモテるアーバン、幼馴染とは言えわたしの分が悪い。
思い出すだけでうんざりだ。もうあんな酷い目に遭いたくない。
エドワードとの婚約のことを(隠してはいなかったけど言ってもいなかった)女子たちが知った後は、エドワードも憧れの騎士として人気があったのでやっかみが酷かった。
結局学生の間は、美形の兄弟のせいで仲の良い友人以外にはかなり酷い目に遭わされた。
だからアーバンがわたしに優しくしてくれるのはわたしにとってはあまり好ましくない。
そんなわたしの心情を知らないアーバンはとても優しくしてくれる。
§
エドワードが行方不明になって半年。
エドワードの両親から告げられた。
「今月いっぱい待って……エドワードの死亡届けを出そうと思う。そして葬儀をしてやりたい。ラフェは生きていると信じてくれているのだが騎士団の方からもきちんとするようにとお達しがきている」
「ラフェはここで暮らすか実家に帰るか好きにしていいのよ?わたし達の娘だと思っているんだから甘えてくれてもいいの、あと少しで赤ちゃんも産まれるわ。わたし達は貴女の意思を尊重するわ」
俯いて泣くことしかできなかった。現実を受け止められない。だけどお腹はどんどん大きくなっていく。どうすればいいのだろう。
憔悴の中、これからどうしたらいいのか考えなければいけない。
両親はもう亡くなっている。
兄さんは結婚して家族がいる。そこに身重のわたしが帰れば負担になってしまう。
エドワードの両親と話さないといけない。
仕事中の事故なので、国から遺族のためのお金が毎月支払われると聞いた。
そのお金で子供を育てるしかない。
悲しみの中、生きていくため現実の生活がわたしを苦しめる。
騎士爵をまだ受ける前のエドワード、もらえる額も少ない。
わたしが働けば何とかやってはいけるだろう。そんなことを考えながら過ごしているからか食欲も湧かない。
悪阻のせいなのか精神的なせいなのかいつもフラフラして寝込んでばかりだ。
アーバンが心配して毎日離れのわたしの家に顔を出してくれる。
「ラフェ、これ好きだっただろう?」
新鮮な林檎を持ってきてくれた。
「ありがとう、でも食欲がないの。テーブルに置いててちょうだい、後で頂くわ」
「そんなこと言って食べないつもりだろう?ラフェが食べ終わるまでここに居るからな」
「わかったわ、食べるから心配しないで!」
「………もう三ヶ月も経ったんだ……そろそろ気持ちの整理をしてお腹の赤ちゃんのためにも前に進もうよ。俺も協力するから」
「アーバンだって彼女がいるでしょう?ベルさんが怒るわよ?わたしのことなんて放っておいても大丈夫だから」
アーバンは付き合い出した彼女がいる。
わたしも何度か会ったことがある2歳年下の騎士団で事務の仕事をしている女の子。
とても可愛らしい素直な女の子。
「ベルだって分かってくれている。兄さんがいなくなって今が大変な時だって納得してくれている。ラフェ、頼むから俺に頼ってくれ。俺は幼馴染で友人で義弟なんだ」
「ダメだよ、アーバンにだけは頼れない。お願いだからそっとしておいて欲しいの」
わたしはアーバンを拒絶した。
わたしとエドワードの婚約は子供の時に結ばれたものだった。彼と結婚することは決まっていた。
エドワードのことは兄のように慕っていたし、恋ではなかったけど家族としてずっと暮らしていけると思っていたし……今はエドワードを愛していた。
だからこそアーバンには頼りたくなかった。アーバンにはアーバンの人生がある。いくら仲が良くても恋人に勘違いされてしまうような行動は避けたい。
わたしとアーバンは学生の時から何かと勘違いされていた。
わたしの婚約者がアーバンの兄と知らない同級生にどれだけ酷いことを言われただろう。
「アーバンと婚約しているわけでもないのに何でそんなに仲良くしているの?平凡で取り柄もない子のくせに!」
「アーバンに優しくしてもらっているからってつけ上がらないで!幼馴染って言うだけでしょう!」
「休みの日にアーバンの家に遊びに行ったと聞いたわ!何であんたみたいな目立たない子が仲良くしているの?一度自分の姿を鏡で見てみたら?」
アーバンは頭も良くて背も高い。
さらに剣術に優れていて女の子に優しい。
そんな彼を女子が放っておくわけがない。とにかくモテた。
だから出来るだけ関わらないようにしていたのに、彼は平気でわたしに話しかけてきた。
おかげで学生の間は女子たちにどれだけ嫌味や意地悪をされたか……
思い出しただけでゾッとする。
平凡で家族は兄だけのわたしと、騎士爵を持つ父親が居てかっこよくてモテるアーバン、幼馴染とは言えわたしの分が悪い。
思い出すだけでうんざりだ。もうあんな酷い目に遭いたくない。
エドワードとの婚約のことを(隠してはいなかったけど言ってもいなかった)女子たちが知った後は、エドワードも憧れの騎士として人気があったのでやっかみが酷かった。
結局学生の間は、美形の兄弟のせいで仲の良い友人以外にはかなり酷い目に遭わされた。
だからアーバンがわたしに優しくしてくれるのはわたしにとってはあまり好ましくない。
そんなわたしの心情を知らないアーバンはとても優しくしてくれる。
§
エドワードが行方不明になって半年。
エドワードの両親から告げられた。
「今月いっぱい待って……エドワードの死亡届けを出そうと思う。そして葬儀をしてやりたい。ラフェは生きていると信じてくれているのだが騎士団の方からもきちんとするようにとお達しがきている」
「ラフェはここで暮らすか実家に帰るか好きにしていいのよ?わたし達の娘だと思っているんだから甘えてくれてもいいの、あと少しで赤ちゃんも産まれるわ。わたし達は貴女の意思を尊重するわ」
俯いて泣くことしかできなかった。現実を受け止められない。だけどお腹はどんどん大きくなっていく。どうすればいいのだろう。
114
お気に入りに追加
3,819
あなたにおすすめの小説

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~
夏笆(なつは)
恋愛
ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。
ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。
『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』
可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。
更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。
『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』
『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』
夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。
それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。
そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。
期間は一年。
厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。
つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。
この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。
あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。
小説家になろうでも、掲載しています。
Hotランキング1位、ありがとうございます。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」
ねむたん
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。
学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。
その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる