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55話。
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きっかけは男の子の言葉から。
貧しい子達は学校に行けない。そんな子達が週に一回でもいいから来てくれたらいいなと思い、始めた勉強会。
貴族の方達はお金持ちなんだとつくづく思った。定期的に寄付をくださるので、お腹を空かせた子供達にパンを配ることもできた。痩せ細って食事すらできていない子も来るようになった。勉強をするために来るというより何か食べに来る方が多いけど、そんな子は孤児院で保護したりと、わたしが思ったよりも活動の内容が濃くなってきている。
「ダリア、次の当番はいつ?」
「今週はもうないわ。来週かな」
ロードが勉強会に顔を出した。
「そっか、じゃあ、明日隣町に出かけない?」
「どうしたの?」
「隣町に新しく越してきた母子家庭の親子がいるんだけど、子供が熱が下がらないらしいんだ。薬を持って顔を出そうかと思うんだけど、やっぱり女性がいた方が行きやすいだろう?」
「あっ……うん、そうだよね……今日行った方がいいんじゃない?」
「時間は?」
「大丈夫だよ」
わたしは他の人にこちらの仕事をお願いして隣町へと向かった。
途中、野菜を少し買った。
「なんで野菜?」
「パンは教室から持ってきたのがあるし、野菜ならスープとかにも使えるし、パンより日持ちするから子供もだけどお母さんも助かるかなと思って」
「ダリアもうなんだか主婦みたいになってるよね」
ロードがケラケラ笑いながら馬車の運転をしている。わたしは隣に座って「失礼ね」と少しムスッとした。
わたしとロードはいつの間にか、幼馴染に戻っていた。
下ばかり向いていたわたしは、気がつけば人が怖くなくなっていた。
相手を怖いとか、わたしみたいなのと話すのなんて嫌だろうとか、自分から嫌われる前に先に逃げてしまって人と関わろうとしなかった。
でも今は……この勉強を教えるための教室を維持するには、下を向いてばかりだと何も出来ないと気づいた。
自分に自信がついたとか、人見知りが治ったというよりは、やるしかないから。
あんなに苦しんでいた、人との関わりが今は気にならなくなった。
隣町の親子の家に着くと、すぐに家の中に入らせてもらった。
暗くてジメジメしてあまり物がない寂しい家の中。
「あ、あの…あなた達は太陽の家から来られた方達ですよね?」
母親は恐々とわたし達に話しかけてきた。
「はい。ビルに助けを求めたシャーリーさんですよね?お医者様に症状を伝えてお薬をもらってきました」
ロードがすぐに薬を渡した。
母親は「そうです」と答えるとすぐに女の子のところへ連れて行ってくれた。
痩せ細って衰弱していた。
様子を見て症状が酷ければすぐに診療所へ連れて行き入院させるしかない。だけど限られた予算の中で一人でも多くの人を助けるためには、まずは薬を飲ませてみることから始める。
ルールを作り、無理せず人助けをする。
これはバルス子爵から教わった。
『ダリア、僕たちの力は無限じゃない。出来ることから始めるんだよ』
母親は急いで薬を飲ませた。
「食欲が出たら、少しでも食べられそうなら食べさせてあげてください」
パンと野菜を置いて帰ることにした。
「明日また顔を出しに来ます。もし急変したらビルに言ってください」
「ありがとうございます」
馬車に乗り込む。
「ロード、あのお家、物が少なかったよね」
「ああ、旦那さんの借金のせいで離婚したらしい。なんとか家をみつけて二人で生活を始めたばかりだとビルが言ってた」
ビルさんは隣町で働く警備隊の人。一緒にボランティアをしている仲間。
「みんなに声をかけて日用品や服を集めてみる?」
「そうだな。あのままじゃ病気が治っても生きていくのは大変だろう」
ボランティアの仕事は昼の間の数時間と決めている。
午前中は坊っちゃまの勉強を教えて昼間は“太陽の家”で勉強を教えたりこうして困っている人の家を訪問したりしている。
夕方からは絵本の仕事。
屋敷の自室に帰るといつもぐったりとしてしまう。坊っちゃまの本の読み聞かせはそれでもやめない。
わたしにとって唯一の癒しでもある。
坊っちゃまとお話ししながら、楽しい絵本の世界に入り込めるのは楽しみでもある。
「ダリア、ぼく、えほんをよんであげる」
坊っちゃまはもうすぐ5歳になる。
少しだけ覚えた字を一生懸命読んでくれる。
絵を見ながら想像したお話しになって読み進めていく。もう文字があることは無かったことになってる。
絵本に書いてある話とはかなりズレているけどとても楽しいお話になってる。
「うんとー、カエルがね、ゲロっていっててね、はっぱがぶわぁって、なるの」
カエルの冒険のお話しなんだけど、体も使って、手や足が動きながら読んでくれるお話しはとても面白い。
「ダリア!どう?おはなし、ちゃんとわかったぁ?」
「はい!とても楽しいお話しでしたね」
「うん!カエルがね、おさんぽするおはなしなの」
ーーうん?お散歩?冒険だったはずなのに。
坊っちゃまは頑張って最後まで読み切ることができて満足げな顔をしている。
「いつか坊っちゃまがお話ししてくれた絵本が書けたらいいな」
今日、また一つ、新しい夢ができた。
坊っちゃまの想像する素敵な物語を絵本に描けたら楽しそう。
絵本と坊っちゃまが話しながら読んでくれた絵本の内容があまりにも違いすぎて、それが楽しくて。
大人は絵本をそのまま話しを読むだけなのに、子供は絵からどんどん想像を膨らませて、文章なんて無視して全く違う内容へと変えていく。
もう天才としか言いようがない!
一人廊下をニヤニヤしながら歩いて部屋へ戻ろうとした時、旦那様にお会いした。
「ダリア、どうした?」
「は、はい。変な顔してました?」
「いやいや、楽しそうな顔をしてたよ」
「楽しそう………お見苦しい顔をお見せしました……実は……」
さっきの坊っちゃまの話を旦那様に伝えた。
「へえ、僕もリオンに絵本を読んでもらいたくなったな」
「ふふ、今度お時間あったらご一緒にいかがですか?」
「そうだね、うん、楽しみが増えたな」
旦那様もお忙しくても坊っちゃまとの過ごす時間を楽しみにされている。
旦那様と顔を合わせて思わず微笑みあった。
貧しい子達は学校に行けない。そんな子達が週に一回でもいいから来てくれたらいいなと思い、始めた勉強会。
貴族の方達はお金持ちなんだとつくづく思った。定期的に寄付をくださるので、お腹を空かせた子供達にパンを配ることもできた。痩せ細って食事すらできていない子も来るようになった。勉強をするために来るというより何か食べに来る方が多いけど、そんな子は孤児院で保護したりと、わたしが思ったよりも活動の内容が濃くなってきている。
「ダリア、次の当番はいつ?」
「今週はもうないわ。来週かな」
ロードが勉強会に顔を出した。
「そっか、じゃあ、明日隣町に出かけない?」
「どうしたの?」
「隣町に新しく越してきた母子家庭の親子がいるんだけど、子供が熱が下がらないらしいんだ。薬を持って顔を出そうかと思うんだけど、やっぱり女性がいた方が行きやすいだろう?」
「あっ……うん、そうだよね……今日行った方がいいんじゃない?」
「時間は?」
「大丈夫だよ」
わたしは他の人にこちらの仕事をお願いして隣町へと向かった。
途中、野菜を少し買った。
「なんで野菜?」
「パンは教室から持ってきたのがあるし、野菜ならスープとかにも使えるし、パンより日持ちするから子供もだけどお母さんも助かるかなと思って」
「ダリアもうなんだか主婦みたいになってるよね」
ロードがケラケラ笑いながら馬車の運転をしている。わたしは隣に座って「失礼ね」と少しムスッとした。
わたしとロードはいつの間にか、幼馴染に戻っていた。
下ばかり向いていたわたしは、気がつけば人が怖くなくなっていた。
相手を怖いとか、わたしみたいなのと話すのなんて嫌だろうとか、自分から嫌われる前に先に逃げてしまって人と関わろうとしなかった。
でも今は……この勉強を教えるための教室を維持するには、下を向いてばかりだと何も出来ないと気づいた。
自分に自信がついたとか、人見知りが治ったというよりは、やるしかないから。
あんなに苦しんでいた、人との関わりが今は気にならなくなった。
隣町の親子の家に着くと、すぐに家の中に入らせてもらった。
暗くてジメジメしてあまり物がない寂しい家の中。
「あ、あの…あなた達は太陽の家から来られた方達ですよね?」
母親は恐々とわたし達に話しかけてきた。
「はい。ビルに助けを求めたシャーリーさんですよね?お医者様に症状を伝えてお薬をもらってきました」
ロードがすぐに薬を渡した。
母親は「そうです」と答えるとすぐに女の子のところへ連れて行ってくれた。
痩せ細って衰弱していた。
様子を見て症状が酷ければすぐに診療所へ連れて行き入院させるしかない。だけど限られた予算の中で一人でも多くの人を助けるためには、まずは薬を飲ませてみることから始める。
ルールを作り、無理せず人助けをする。
これはバルス子爵から教わった。
『ダリア、僕たちの力は無限じゃない。出来ることから始めるんだよ』
母親は急いで薬を飲ませた。
「食欲が出たら、少しでも食べられそうなら食べさせてあげてください」
パンと野菜を置いて帰ることにした。
「明日また顔を出しに来ます。もし急変したらビルに言ってください」
「ありがとうございます」
馬車に乗り込む。
「ロード、あのお家、物が少なかったよね」
「ああ、旦那さんの借金のせいで離婚したらしい。なんとか家をみつけて二人で生活を始めたばかりだとビルが言ってた」
ビルさんは隣町で働く警備隊の人。一緒にボランティアをしている仲間。
「みんなに声をかけて日用品や服を集めてみる?」
「そうだな。あのままじゃ病気が治っても生きていくのは大変だろう」
ボランティアの仕事は昼の間の数時間と決めている。
午前中は坊っちゃまの勉強を教えて昼間は“太陽の家”で勉強を教えたりこうして困っている人の家を訪問したりしている。
夕方からは絵本の仕事。
屋敷の自室に帰るといつもぐったりとしてしまう。坊っちゃまの本の読み聞かせはそれでもやめない。
わたしにとって唯一の癒しでもある。
坊っちゃまとお話ししながら、楽しい絵本の世界に入り込めるのは楽しみでもある。
「ダリア、ぼく、えほんをよんであげる」
坊っちゃまはもうすぐ5歳になる。
少しだけ覚えた字を一生懸命読んでくれる。
絵を見ながら想像したお話しになって読み進めていく。もう文字があることは無かったことになってる。
絵本に書いてある話とはかなりズレているけどとても楽しいお話になってる。
「うんとー、カエルがね、ゲロっていっててね、はっぱがぶわぁって、なるの」
カエルの冒険のお話しなんだけど、体も使って、手や足が動きながら読んでくれるお話しはとても面白い。
「ダリア!どう?おはなし、ちゃんとわかったぁ?」
「はい!とても楽しいお話しでしたね」
「うん!カエルがね、おさんぽするおはなしなの」
ーーうん?お散歩?冒険だったはずなのに。
坊っちゃまは頑張って最後まで読み切ることができて満足げな顔をしている。
「いつか坊っちゃまがお話ししてくれた絵本が書けたらいいな」
今日、また一つ、新しい夢ができた。
坊っちゃまの想像する素敵な物語を絵本に描けたら楽しそう。
絵本と坊っちゃまが話しながら読んでくれた絵本の内容があまりにも違いすぎて、それが楽しくて。
大人は絵本をそのまま話しを読むだけなのに、子供は絵からどんどん想像を膨らませて、文章なんて無視して全く違う内容へと変えていく。
もう天才としか言いようがない!
一人廊下をニヤニヤしながら歩いて部屋へ戻ろうとした時、旦那様にお会いした。
「ダリア、どうした?」
「は、はい。変な顔してました?」
「いやいや、楽しそうな顔をしてたよ」
「楽しそう………お見苦しい顔をお見せしました……実は……」
さっきの坊っちゃまの話を旦那様に伝えた。
「へえ、僕もリオンに絵本を読んでもらいたくなったな」
「ふふ、今度お時間あったらご一緒にいかがですか?」
「そうだね、うん、楽しみが増えたな」
旦那様もお忙しくても坊っちゃまとの過ごす時間を楽しみにされている。
旦那様と顔を合わせて思わず微笑みあった。
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