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47話。
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「ダリア、ぼくとおさんぽしようよ」
絵本作家として子爵家で過ごし始めた。
合間に坊っちゃまとの時間を作り、のんびりと過ごす。
夜の本の読み聞かせもまた始めた。そして昼間も数時間は坊っちゃまと一緒に過ごす。
体は随分良くなったけど、右足が完全に治らずまだ少し引き摺ってしまう。
坊っちゃまはそれを知っているからなのか、自分が散歩をしたいのか、毎日のようにわたしを散歩に誘ってくれる。
と言っても、まだ街を歩くのは怖くて屋敷の敷地の中を歩いたり、庭を歩く程度。それでもじっとして過ごすよりもリハビリになる。
ときには、ミサさんと三人で散歩をする。
手を繋いで歌を歌いながら歩く。
「ねぇ、ダリア、つぎのえほんはいつできるの?」
「うーーん……いま描いてるところなので、まだまだ、です」
「そっかぁ、たのしみにまってるね」
「はい!」
「ねぇ、あのおそらのくもって、どうしてぼくについてくるの?」
「えっ?」
「ほら、いっぱいあるいたのに、くもさんはいなくならないの」
「ふふっ、坊っちゃまのことがお好きなのでしょうね」
「ええ?くもさん、ぼくのことがすきなの?」
「はい、わたしも坊っちゃまが大好きですよ?」
「おんなじだね、ぼくも、ダリアがだいすき」
「ありがとうございます。くもさんも、坊っちゃまが笑うお顔を見ていたいのかもしれませんね?」
「ぼくの?へへっ、じゃあ、い~っぱい、ダリアとわらわなきゃ、ねっ?」
「坊っちゃまといると楽しいのでずっと笑顔でいられます」
坊っちゃまと毎日過ごせるのが楽しい。
カリナさんから受けた暴力は今もまだ夢でうなされてしまうことがある。体の傷も痕が残っているし、右足は完全ではない。
だけど、この屋敷の中にいる間は守られている気がする。
退院してからはロードは顔を出すことがなくなった。入院中は毎日のようにわたしの面会に来ていたらしい。
わたしはロードと会うことを嫌がったし、ミサさん達が会わないようにしてくれた。
向き合わなければ。
わかってるのに。
ーー坊っちゃまの笑顔が眩しい。純粋で素直で、気持ちのまま、わたしに笑顔を向けてくれる。
わたしもあと少しだけ坊っちゃまのそばにいさせてもらったら……
夜になると坊っちゃまの部屋に行き絵本を読む。すぐに坊っちゃまはスヤスヤと眠りについた。
その可愛い寝顔を見るだけで癒される。
部屋を出ようとした時、旦那様が坊っちゃまの部屋に入ってきた。
「ダリア、リオンはもう寝てしまったのかい?」
「たった今……とてもぐっすりと」
「あー、残念だった」
がっかりした旦那様の顔が気の毒なのになんだか可愛らしく感じて思わずクスッと笑った。
「うん?僕変な顔をしているかい?」
「い、いえ、違います。今の顔がなんだか坊っちゃまに似ていてつい……」
「怒っていないよ。そうか……リオンに似ているのか……嬉しいね。リオンはどちらかと言うと亡くなった妻に似ていると思っていたからね」
「奥様ですか?」
「ダリアは知らないか……妻はリオンに似ていたんだ。明るくてね、いつも笑顔で周りまで明るい気持ちにさせてくれる人だったんだ」
「素敵な人だったのですね」
「そうだね……」
少し寂しそうな顔をして微笑んだ。
「ダリア……君は……ロードを愛しているんじゃないのか?僕が口出すことではないけど……大切な使用人なんだ、幸せになって欲しい。
お互いもし想いあっているのならすれ違わず話し合ってみることも大切だと思うよ。ロードは一度ここに会いにきた。だけど退院したばかりのダリアの状態では会わせることは出来ないと判断して来ないでくれと拒んだんだ。
ロードには、自分とまず向き合ってやるべきことをやるように伝えた」
「やるべきこと?……ですか?」
「彼は警備隊を辞めるかもしれない。そう思ったんだ。もちろん辞める辞めないは自由だと思う。だけど、ここで辞めてしまえば逃げてしまうことになる。後悔して欲しくない」
「後悔……?」
「僕も以前は騎士団にいた人間だ。これからは保安庁の補佐官として外から騎士団や警備隊の手伝いをすることになった。ロードには頑張って欲しい。彼は優秀な人材だと思っている。こんなことで潰されて逃げて終わらせたくはない」
「旦那様も騎士団にいらっしゃったのですか?」
「妻と結婚する前はね。結婚してこの子爵家に婿入りしたんだよ……今は子爵としてそして官僚として働いている。今回の騎士団のやり方には僕自身も思うところがある。僕は外から、騎士団の今の腐った考えを変えていく手伝いをするつもりだ。そして中からはバイザード卿達、若手が頑張ってくれると思う。そこにロードもいてくれると僕的にも助かるんだよ」
ーーわたし……何も知らない。だってロードに聞いた話はカリナさんに近づくために恋人になったことだけ。仕事だとは聞いたけど、そんな騎士団の変革なんて詳しい事情までは知らない。
「ダリア、ロードは今僕の言葉にどう動くべきか、君とどう向き合っていくべきなのか、悩んで……動き始めたと思うんだ。
君もこれからどうするのか考えて結論を出さないと逃げてばかりでは何も解決しないよ。まだまだ体も心も治っていないのはわかってる。すぐに動き出しなさいと言ってるんじゃないよ。でもね、ダリア、もったいないと思うんだ。君にはたくさんの可能性がある。それを潰してしまうのはね」
「もったいない?わたしに可能性がある?わたしなんか……そんなの何処にもありません……」
「絵も上手で話を考える才能もある。努力家で真面目、一生懸命だから周りから愛されてるだろう?それを僻むような人も確かにいる。だけどそれ以上に君を大切に思ってくれる人もいるんだよ。君に今必要なのは自分を認めてあげること、『わたしなんか』と言うのはそろそろ卒業しないといけないね」
旦那様の言葉が頭の中から離れない。
旦那様は無理強いをしたわけではない。
わたしに考えてみてと、言ってくださったのだ。
絵本作家として子爵家で過ごし始めた。
合間に坊っちゃまとの時間を作り、のんびりと過ごす。
夜の本の読み聞かせもまた始めた。そして昼間も数時間は坊っちゃまと一緒に過ごす。
体は随分良くなったけど、右足が完全に治らずまだ少し引き摺ってしまう。
坊っちゃまはそれを知っているからなのか、自分が散歩をしたいのか、毎日のようにわたしを散歩に誘ってくれる。
と言っても、まだ街を歩くのは怖くて屋敷の敷地の中を歩いたり、庭を歩く程度。それでもじっとして過ごすよりもリハビリになる。
ときには、ミサさんと三人で散歩をする。
手を繋いで歌を歌いながら歩く。
「ねぇ、ダリア、つぎのえほんはいつできるの?」
「うーーん……いま描いてるところなので、まだまだ、です」
「そっかぁ、たのしみにまってるね」
「はい!」
「ねぇ、あのおそらのくもって、どうしてぼくについてくるの?」
「えっ?」
「ほら、いっぱいあるいたのに、くもさんはいなくならないの」
「ふふっ、坊っちゃまのことがお好きなのでしょうね」
「ええ?くもさん、ぼくのことがすきなの?」
「はい、わたしも坊っちゃまが大好きですよ?」
「おんなじだね、ぼくも、ダリアがだいすき」
「ありがとうございます。くもさんも、坊っちゃまが笑うお顔を見ていたいのかもしれませんね?」
「ぼくの?へへっ、じゃあ、い~っぱい、ダリアとわらわなきゃ、ねっ?」
「坊っちゃまといると楽しいのでずっと笑顔でいられます」
坊っちゃまと毎日過ごせるのが楽しい。
カリナさんから受けた暴力は今もまだ夢でうなされてしまうことがある。体の傷も痕が残っているし、右足は完全ではない。
だけど、この屋敷の中にいる間は守られている気がする。
退院してからはロードは顔を出すことがなくなった。入院中は毎日のようにわたしの面会に来ていたらしい。
わたしはロードと会うことを嫌がったし、ミサさん達が会わないようにしてくれた。
向き合わなければ。
わかってるのに。
ーー坊っちゃまの笑顔が眩しい。純粋で素直で、気持ちのまま、わたしに笑顔を向けてくれる。
わたしもあと少しだけ坊っちゃまのそばにいさせてもらったら……
夜になると坊っちゃまの部屋に行き絵本を読む。すぐに坊っちゃまはスヤスヤと眠りについた。
その可愛い寝顔を見るだけで癒される。
部屋を出ようとした時、旦那様が坊っちゃまの部屋に入ってきた。
「ダリア、リオンはもう寝てしまったのかい?」
「たった今……とてもぐっすりと」
「あー、残念だった」
がっかりした旦那様の顔が気の毒なのになんだか可愛らしく感じて思わずクスッと笑った。
「うん?僕変な顔をしているかい?」
「い、いえ、違います。今の顔がなんだか坊っちゃまに似ていてつい……」
「怒っていないよ。そうか……リオンに似ているのか……嬉しいね。リオンはどちらかと言うと亡くなった妻に似ていると思っていたからね」
「奥様ですか?」
「ダリアは知らないか……妻はリオンに似ていたんだ。明るくてね、いつも笑顔で周りまで明るい気持ちにさせてくれる人だったんだ」
「素敵な人だったのですね」
「そうだね……」
少し寂しそうな顔をして微笑んだ。
「ダリア……君は……ロードを愛しているんじゃないのか?僕が口出すことではないけど……大切な使用人なんだ、幸せになって欲しい。
お互いもし想いあっているのならすれ違わず話し合ってみることも大切だと思うよ。ロードは一度ここに会いにきた。だけど退院したばかりのダリアの状態では会わせることは出来ないと判断して来ないでくれと拒んだんだ。
ロードには、自分とまず向き合ってやるべきことをやるように伝えた」
「やるべきこと?……ですか?」
「彼は警備隊を辞めるかもしれない。そう思ったんだ。もちろん辞める辞めないは自由だと思う。だけど、ここで辞めてしまえば逃げてしまうことになる。後悔して欲しくない」
「後悔……?」
「僕も以前は騎士団にいた人間だ。これからは保安庁の補佐官として外から騎士団や警備隊の手伝いをすることになった。ロードには頑張って欲しい。彼は優秀な人材だと思っている。こんなことで潰されて逃げて終わらせたくはない」
「旦那様も騎士団にいらっしゃったのですか?」
「妻と結婚する前はね。結婚してこの子爵家に婿入りしたんだよ……今は子爵としてそして官僚として働いている。今回の騎士団のやり方には僕自身も思うところがある。僕は外から、騎士団の今の腐った考えを変えていく手伝いをするつもりだ。そして中からはバイザード卿達、若手が頑張ってくれると思う。そこにロードもいてくれると僕的にも助かるんだよ」
ーーわたし……何も知らない。だってロードに聞いた話はカリナさんに近づくために恋人になったことだけ。仕事だとは聞いたけど、そんな騎士団の変革なんて詳しい事情までは知らない。
「ダリア、ロードは今僕の言葉にどう動くべきか、君とどう向き合っていくべきなのか、悩んで……動き始めたと思うんだ。
君もこれからどうするのか考えて結論を出さないと逃げてばかりでは何も解決しないよ。まだまだ体も心も治っていないのはわかってる。すぐに動き出しなさいと言ってるんじゃないよ。でもね、ダリア、もったいないと思うんだ。君にはたくさんの可能性がある。それを潰してしまうのはね」
「もったいない?わたしに可能性がある?わたしなんか……そんなの何処にもありません……」
「絵も上手で話を考える才能もある。努力家で真面目、一生懸命だから周りから愛されてるだろう?それを僻むような人も確かにいる。だけどそれ以上に君を大切に思ってくれる人もいるんだよ。君に今必要なのは自分を認めてあげること、『わたしなんか』と言うのはそろそろ卒業しないといけないね」
旦那様の言葉が頭の中から離れない。
旦那様は無理強いをしたわけではない。
わたしに考えてみてと、言ってくださったのだ。
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