上 下
27 / 60

27話。

しおりを挟む
「ダリア?」

 書庫で朝から夕方までの時間を過ごす日々が続いた。どうしてもみんなと顔を合わせることが怖くなってしまった。

 わたしのことをみんなが嫌ってる?そんな訳ない。わかってても怖くなった。

 それに侍女長が調べてわかったのだけど、わたしに会いにくる人たちに対しても、先輩達は追い払っていたらしい。

 出版社の人たちは仕事なので通してくれたけど、ロードやジャックさんのことは追い払っていたと聞いた。村の友人も来てくれていたと聞いた時はショックだった。

 住んでいた家に居ないからと心配して働いている屋敷の方へと顔を出してくれていたらしい。

 ロードに対しては、わたしが嫌がって会いたがらないかのように言って断っていたらしい。

 これは先輩を含め、以前交際を断った子爵家の使用人の人がグルになっていたと聞いた。

 ロードからの連絡が全く途絶えた原因は、わたしと話すのが嫌だったとか別れ話が面倒だったとかではなく、ただ単に妨害されていたかららしい。

 これらは全て侍女長が旦那様に伝えて、徹底的に調べてくれてわかったこと。

 古くからの使用人はみんな優しい人が多いのは確か。だけど新しい使用人達は自分達の中で仲間意識が強く結託しているところがあった。

 働き出して2年のわたしはそれなりに馴染んでいたと思っていたのに、ここでもやはり馴染めなかったようだ。

 “真面目すぎて融通が利かない。利用するには扱いやすいがうえの人達に好かれて可愛がられるのも気に入らない”

 と言うのがわたしの評価らしい。

 旦那様は調査が終わりわたしを部屋に呼んだ。
「ダリア、色々すまなかった。君が真面目に働くことをよく思わないと言うのは彼らの僻みだ。君は悪くない。ただ……うちの屋敷で働くのが嫌だと思うなら他の屋敷を紹介しよう。もちろん僕としては君にはこれからも働いて欲しいと思っている」

「………考えさせてください」

 わたしは即答することが出来なかった。

 今回、先輩達はみんな紹介状を書いてもらえず即刻クビになった。

 これはわたしが旦那様に聞かれて望んだこと。嫌な思いもしたけど、優しくしてもらったこともたくさんあった。
 だから警備隊に突き出すのはやめて欲しいと頼んだ結果。

 ただもしまたわたしに対して恨んで何かすることがあればその時は犯罪者として警備隊に引き渡すと先輩達には伝えていると旦那様が教えてくれた。

「本来なら警備隊に突き出すところだが、彼らに一度だけチャンスを与えることにした。ダリアの望みでもあるからな」


 すぐに新しい使用人達が入り屋敷の仕事は周り出した。

 先輩達はこの屋敷を出て行く時に、
「ダリアごめんなさい」と泣き腫らした顔で謝ってくれた。

 わたしに対しての悪感情は、嫉妬からきたもの。でもそれが全てではない。わたしのことを可愛がってくれたのも事実。

 だけど先輩達に『許します』と言えるほど心も広くはなく頭を下げることしか出来なかった。
 先輩達は、これから働くところに苦労することになる。たぶんもうこの街にはいられないだろう。

『そんな甘い処分でいいのか?』
 旦那様は渋い顔をしたけど、わたしの気持ちを汲んでくれた。

 そして、今は、雑用の仕事は早朝に出来ることだけして、日中は書庫に篭り、本の整理や破れた本の修理などをして過ごしている。

 他所で働くことは、一からまた人間関係を築かなければいけない。それはわたしにとって大変なことになるので今は人と関わらない仕事をさせてもらっている。

 でも坊っちゃまの本の読み聞かせだけは相変わらず続けている。

「ダリア、あたらしいえほんは?もうできた?」

「申し訳ございません、もう少しお待ちくださいね」

「うん!たのしみにしてるよ!」

 坊っちゃまの変わらない笑顔に癒されながら元気を取り戻して行く。




 ロードやジャックさんにもまた向き合わなければいけない。

 『幼馴染』でしかないわたし。(偽)の恋人役もそろそろ終わらせて、気持ちを切り替えよう。

 ジャックさんにはお世話になったのに、門前払いをしてしまった。
 旦那様も貴族であるジャックさんにきちんと謝罪したと話してくれた。
 わたしも謝らなければいけない。そして、ジャックさんと気軽に呼ぶのもこれで終わり。

 ロードとの関係が終われば、ジャックさんではなくバイザード様とお呼びしなくてはいけない。気軽に接してくれたのはロードとの関係を心配してくれたからだと思う。

 旦那様が教えてくれたのだけど、ジャッ……ううん、バイザード様は侯爵家の次男で子爵位を受け継いでいるとても高貴なお方なのだ。

 そんなことも知らずに図々しくも、さん付けで呼んでいた。


 そして、もうすぐ初めての絵本が出来上がる。

 出来上がった絵本は、まず坊っちゃまに見てもらう予定。

 ずっと楽しみにしてくれている坊っちゃま。

『ダリア!はやくよんで!』
 そんな声が聞こえてきそう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

処理中です...