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8話。
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部屋に戻ると急いで机に絵の具を並べた。
予定より多めの絵の具。
これだけあれば坊っちゃまが喜んでくれるだろう。
4歳になる坊っちゃまにあげようと思っているのは、お父さんと息子が冒険に出る話。
本当は優しいお母さんの話を書こうと思ったけどまだお母さんが恋しいであろう坊っちゃまにはまだ早いかなと思った。
わたしは両親がいない。おばあちゃんが内職をしながら育ててくれた。
いつもおばあちゃんがお話をしてくれた。そこには作り話の優しいお母さんやお父さんの話がたくさんあった。もちろん全て想像でしかないけど、聞くのがとても楽しみだった。
だけどみんなが両親と仲良くしている姿を見ると悲しくて寂しくなった。そんな時はおばあちゃんの体にくっついて顔を埋めて甘えた。
ロードは寂しそうにしているとわたしの手を黙っていつも握ってくれていた。そしてロードのお母さんが「ダリアいらっしゃい」と言って両手を差し出してわたしを抱きしめてくれた。
おかげでわたしは寂しかったけど、愛情だけはたくさんもらって育ったと思う。人見知りが激しくて慣れるのに時間はかかるけど仲良くなれば話すのも平気だし、今の職場はおじちゃんやおばちゃんの年齢の人が多いのでとても気楽に働ける。若い先輩達もみんな優しい。
坊っちゃまのお父様は忙しいし、お母様は亡くなっているけど、優しい使用人に恵まれているからいつもニコニコしている。
だけどやっぱりまだ幼いのでお母さんを思い出す話は書けない……だから大好きなお父様と冒険に出る話を書いた。
あとは絵に色を塗るだけ。
そして明日は朝早く起きて、りんごで作った天然酵母で時間をかけて発酵させたパンを焼く予定。料理長さんたちが途中は様子を見てくれている。
うん、とても助かってます……感謝!
さっきのロードの様子はとても気になるけど、今は坊っちゃまのこと。
夢中で作業をした。なんとか仕上がって乾かすためにベッドに絵を広げて置いた。
その間わたしは夕食を取るために、使用人たちの食堂へ向かった。
「お腹空いた」
トレーに料理を乗せて席についた。
「ダリア、絵本は完成したの?」
先輩が話しかけてきた。
「あと乾かして文字を入れて、纏めれば終わりです」
「あんまり遅くまで起きてたら明日起きれないわよ」
「そうなんですけど……ついあともう少しあともう少し、と思うと手が止まらなくて……」
「ダリアの絵本は完成度が高いものね。坊っちゃまはいつもとても楽しみにしているわ。毎回こんなお話だったってみんなに説明してくれるのよ」
「ほんとですか?そう言ってもらえると嬉しいです」
「あっ、ところで今日ダリアの彼氏が訪ねてきていたわよ。なんだか思い詰めているように見えたわ」
ーーーわたしと別れ話するのに緊張してたのかしら?
「そうですか……」
「………彼…警備隊の騎士だったわよね?」
「はい、そうです」
「…………言っていいのかわからないけど……何度か買い物の時に見てしまったの。とても綺麗な女性と街を歩いているところ……ダリア、大丈夫?騙されていない?」
ーーーうん、カリナさんと歩いている姿、わたしも何度か見ています。
だけどそんなこと答えるのは惨めだから、「大丈夫…ですよ?」と答えた。
笑っていたつもりだったけど、先輩がちょっと眉を顰めたので笑えてなかったかもしれない。
なんだかちょっと惨めだけど、付き合ってるんじゃなくて付き合ってもらってる立場としてはロードが何をしようと何も言えない。
「何か相談したいことがあったらいつでも聞くわ。そんな顔しないの」
先輩はそう言ってわたしの頭をポンっと優しく叩いた。その手がなんともあったかくて気がついたら泣いてしまっていた。
「ぐすっ……失恋したら……ケーキ食べたいです」
「了解、そんなことにはならないように祈ってるわ」
予定より多めの絵の具。
これだけあれば坊っちゃまが喜んでくれるだろう。
4歳になる坊っちゃまにあげようと思っているのは、お父さんと息子が冒険に出る話。
本当は優しいお母さんの話を書こうと思ったけどまだお母さんが恋しいであろう坊っちゃまにはまだ早いかなと思った。
わたしは両親がいない。おばあちゃんが内職をしながら育ててくれた。
いつもおばあちゃんがお話をしてくれた。そこには作り話の優しいお母さんやお父さんの話がたくさんあった。もちろん全て想像でしかないけど、聞くのがとても楽しみだった。
だけどみんなが両親と仲良くしている姿を見ると悲しくて寂しくなった。そんな時はおばあちゃんの体にくっついて顔を埋めて甘えた。
ロードは寂しそうにしているとわたしの手を黙っていつも握ってくれていた。そしてロードのお母さんが「ダリアいらっしゃい」と言って両手を差し出してわたしを抱きしめてくれた。
おかげでわたしは寂しかったけど、愛情だけはたくさんもらって育ったと思う。人見知りが激しくて慣れるのに時間はかかるけど仲良くなれば話すのも平気だし、今の職場はおじちゃんやおばちゃんの年齢の人が多いのでとても気楽に働ける。若い先輩達もみんな優しい。
坊っちゃまのお父様は忙しいし、お母様は亡くなっているけど、優しい使用人に恵まれているからいつもニコニコしている。
だけどやっぱりまだ幼いのでお母さんを思い出す話は書けない……だから大好きなお父様と冒険に出る話を書いた。
あとは絵に色を塗るだけ。
そして明日は朝早く起きて、りんごで作った天然酵母で時間をかけて発酵させたパンを焼く予定。料理長さんたちが途中は様子を見てくれている。
うん、とても助かってます……感謝!
さっきのロードの様子はとても気になるけど、今は坊っちゃまのこと。
夢中で作業をした。なんとか仕上がって乾かすためにベッドに絵を広げて置いた。
その間わたしは夕食を取るために、使用人たちの食堂へ向かった。
「お腹空いた」
トレーに料理を乗せて席についた。
「ダリア、絵本は完成したの?」
先輩が話しかけてきた。
「あと乾かして文字を入れて、纏めれば終わりです」
「あんまり遅くまで起きてたら明日起きれないわよ」
「そうなんですけど……ついあともう少しあともう少し、と思うと手が止まらなくて……」
「ダリアの絵本は完成度が高いものね。坊っちゃまはいつもとても楽しみにしているわ。毎回こんなお話だったってみんなに説明してくれるのよ」
「ほんとですか?そう言ってもらえると嬉しいです」
「あっ、ところで今日ダリアの彼氏が訪ねてきていたわよ。なんだか思い詰めているように見えたわ」
ーーーわたしと別れ話するのに緊張してたのかしら?
「そうですか……」
「………彼…警備隊の騎士だったわよね?」
「はい、そうです」
「…………言っていいのかわからないけど……何度か買い物の時に見てしまったの。とても綺麗な女性と街を歩いているところ……ダリア、大丈夫?騙されていない?」
ーーーうん、カリナさんと歩いている姿、わたしも何度か見ています。
だけどそんなこと答えるのは惨めだから、「大丈夫…ですよ?」と答えた。
笑っていたつもりだったけど、先輩がちょっと眉を顰めたので笑えてなかったかもしれない。
なんだかちょっと惨めだけど、付き合ってるんじゃなくて付き合ってもらってる立場としてはロードが何をしようと何も言えない。
「何か相談したいことがあったらいつでも聞くわ。そんな顔しないの」
先輩はそう言ってわたしの頭をポンっと優しく叩いた。その手がなんともあったかくて気がついたら泣いてしまっていた。
「ぐすっ……失恋したら……ケーキ食べたいです」
「了解、そんなことにはならないように祈ってるわ」
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