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2話。
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メイド仲間と仕事帰りに食事をしようと食堂に行き席に着いた。
ふと気がつくと奥の席でロード達警備隊の騎士の人たちも食事に来ていた。
席が離れていたのでお互い頭を下げるだけ。
「ねぇねぇ、あの人達警備隊の人でしょう?カッコよくない?」
「わたしも思った。あの赤茶色の髪の人、めちゃめちゃタイプなんだけど」
「ダリアは興味ないわよね。幼馴染が大好きなんだもの、ねっ?」
幼馴染が好き。片思いだけど。
それはメイド仲間も知っていた。
職場である子爵家の使用人の男の人に何度か告白をされたことがあった。その度に「好きな人がいるから」と断ってきた。
「どんな人?」と聞かれたけど、ハッキリとしたことは誰にも話していない。
「優しくてかっこいい人。わたしの憧れなの」
もしロードを見ればみんなが好きになってしまうかもしれない。なんて思っちゃったから……わたしのものでもないのに。
それに鈍臭いわたしには彼とは釣り合わないもの。ずっと片思いをし続けるものだと思っていた。
食事をしていたら酔っ払ったロードの先輩に絡まれてしまった。
「へぇあんたがロードの幼馴染?なんか思ったのと違うんだな」
「ほんと、ロードはとにかく女にモテる。なのにこの幼馴染は地味でオドオドしてるぞ」
こ、怖い。
どうして絡まれるの?
メイド仲間が「一緒に飲みませんか?」とロード達に声をかけた。お互い酒がすすみかなり出来上がっていて、ワイワイと騒いでいた。
わたしはお酒は嗜む程度だったけど、騎士さん達が「おら、飲め!呑め!」と無理矢理グラスにお酒を注ぐ。
仕方なく一口二口飲んだ。
そんなわたしの反対側の端っこにはロードとそれに群がるメイドの仲間達。6人のうち3人がロードにべったりくっついて楽しそうに話しながら飲んでいた。
そしてわたしの周りには何故か他の騎士さん達が5人、わたしを囲むように座っている。
「この地味子ちゃん、よく見ると可愛顔をしてるな」
「えっ?どこが?」
「この子絶対化粧したら化けると思う」
「おっ、ちょっと、上を向いてみろ」
俯いているわたしの顔を触ろうと手が近づいてきた。
ビクッとしたわたし。
もう嫌だ。
泣きそうになったわたしにロードが叫んだ。
「先輩、やめてください。ダリアは人見知りで泣き虫なんです」
「ああ?泣き虫?」
一人の男の人がわたしの顔を覗き込んだ。
「うわっ、ほんとだ!泣いてる!」
「もうダリアを泣かせないで!この子は私たちの可愛い後輩なんだから!」
メイドの先輩が慌ててわたしの横に来てわたしを抱きしめた。
ーーーむ、胸が!先輩のおっぱいが顔にむぎゅって。
「あんまりにも反応しないから平気なのかと思ったんだ。ごめんごめん」
騎士さん達が慌てて謝ってくれた。
わたしは首を横に振り「大丈夫です」と消え入りそうな声で答えた。これが精一杯だった。
「ダリア、帰るぞ」
ロードは突然わたしの腕を掴んで「俺たちの分です」と言ってお金を置いて「行こう」とわたしを引っ張って店の外に連れ出した。
「ダリア、なんで嫌なことは嫌だと言わないんだ」
「ご、ごめんなさい、ロードに迷惑かけて」
「違うだろう?怒ってるわけじゃない!」
「だってたくさん男の人が話しかけてくるからどうしていいのかわからなかったの」
「だったら俺に助けを求めたらいいだろう?」
「だってロードはみんなと楽しそうに話してたから邪魔したら悪いと思ったの」
「だって、だってって言い訳ばかり。先輩達は酔っ払って絡んでたんだ。あのままあそこに居たらお前誰かに持ち帰られてたかもしれないぞ」
「持ち帰るって?」
よくわかんないことを言うロードにキョトンとした。
「あーー、もういい!ダリア、お前は今から俺の恋人、彼女だ!」
「へっ?なに、それ?」
いきなりの展開に頭がついていかない。
「ロード、大丈夫?かなりお酒を飲んでいたから変なことを言い出したのね?」
「違う!思ったんだ。お前にちゃんと好きな人ができるまで俺が虫除けになってやる!俺もいい加減うんざりしてたんだ。女達が仕事してても話しかけてくるし、仕事の邪魔でしかない」
「えっ?それって、恋人のフリ??」
「………うん、まぁ、そう言うことかな………………お前を放っておくと、いつ他の男に取られるか気が気じゃないしな」
ロードが小さな声でボソボソ言っていたけど聞き取れなかった。
そう、こうして一年前、わたしはロードの(偽)彼女になった。
彼女になって変わったこと。
次に会う約束が出来ること。
ーー今までは何か用事がないとロードには会えなかったもの。
休みを合わせて一緒にお出かけすること。
ーーロードが『ダリアの休みはいつ?』と聞いてくれる。そしてそれに合わせて仕事の休みをとってくれる。
知らない女の人から歩いているだけで声をかけられるようになった。
ーーこれはいい意味ではない。ほぼロードに好意を寄せている女性達。
「ブスのくせに!」とか
「ロードと昨日は一緒に過ごしたのよ」とか
「ロードの背中のほくろいくつあるか貴女は知ってるの?」とか
これは「わたしはロードと寝たことがあるのよ!」と言いたいのだろう。
わたしに意地悪く言ってくる。
ロードは確かにモテる。
(偽)恋人になるまでロードがどんな恋愛をしてきたのかはわからない。いくら同じ街で過ごしていてもたまに用事で会うことしかなかったもの。
「野菜が届いた」とか「村のみんなで会おう」とか、悲しいかな自分から用事を作らない限り同じ王都に居ても会えることなんてほとんどなかった。
だから(偽)恋人としては、今の幸せは仮のものなのだから。
どんな酷いことを言われても「はあ、そうですか……」と答えるしかなかった。
ふと気がつくと奥の席でロード達警備隊の騎士の人たちも食事に来ていた。
席が離れていたのでお互い頭を下げるだけ。
「ねぇねぇ、あの人達警備隊の人でしょう?カッコよくない?」
「わたしも思った。あの赤茶色の髪の人、めちゃめちゃタイプなんだけど」
「ダリアは興味ないわよね。幼馴染が大好きなんだもの、ねっ?」
幼馴染が好き。片思いだけど。
それはメイド仲間も知っていた。
職場である子爵家の使用人の男の人に何度か告白をされたことがあった。その度に「好きな人がいるから」と断ってきた。
「どんな人?」と聞かれたけど、ハッキリとしたことは誰にも話していない。
「優しくてかっこいい人。わたしの憧れなの」
もしロードを見ればみんなが好きになってしまうかもしれない。なんて思っちゃったから……わたしのものでもないのに。
それに鈍臭いわたしには彼とは釣り合わないもの。ずっと片思いをし続けるものだと思っていた。
食事をしていたら酔っ払ったロードの先輩に絡まれてしまった。
「へぇあんたがロードの幼馴染?なんか思ったのと違うんだな」
「ほんと、ロードはとにかく女にモテる。なのにこの幼馴染は地味でオドオドしてるぞ」
こ、怖い。
どうして絡まれるの?
メイド仲間が「一緒に飲みませんか?」とロード達に声をかけた。お互い酒がすすみかなり出来上がっていて、ワイワイと騒いでいた。
わたしはお酒は嗜む程度だったけど、騎士さん達が「おら、飲め!呑め!」と無理矢理グラスにお酒を注ぐ。
仕方なく一口二口飲んだ。
そんなわたしの反対側の端っこにはロードとそれに群がるメイドの仲間達。6人のうち3人がロードにべったりくっついて楽しそうに話しながら飲んでいた。
そしてわたしの周りには何故か他の騎士さん達が5人、わたしを囲むように座っている。
「この地味子ちゃん、よく見ると可愛顔をしてるな」
「えっ?どこが?」
「この子絶対化粧したら化けると思う」
「おっ、ちょっと、上を向いてみろ」
俯いているわたしの顔を触ろうと手が近づいてきた。
ビクッとしたわたし。
もう嫌だ。
泣きそうになったわたしにロードが叫んだ。
「先輩、やめてください。ダリアは人見知りで泣き虫なんです」
「ああ?泣き虫?」
一人の男の人がわたしの顔を覗き込んだ。
「うわっ、ほんとだ!泣いてる!」
「もうダリアを泣かせないで!この子は私たちの可愛い後輩なんだから!」
メイドの先輩が慌ててわたしの横に来てわたしを抱きしめた。
ーーーむ、胸が!先輩のおっぱいが顔にむぎゅって。
「あんまりにも反応しないから平気なのかと思ったんだ。ごめんごめん」
騎士さん達が慌てて謝ってくれた。
わたしは首を横に振り「大丈夫です」と消え入りそうな声で答えた。これが精一杯だった。
「ダリア、帰るぞ」
ロードは突然わたしの腕を掴んで「俺たちの分です」と言ってお金を置いて「行こう」とわたしを引っ張って店の外に連れ出した。
「ダリア、なんで嫌なことは嫌だと言わないんだ」
「ご、ごめんなさい、ロードに迷惑かけて」
「違うだろう?怒ってるわけじゃない!」
「だってたくさん男の人が話しかけてくるからどうしていいのかわからなかったの」
「だったら俺に助けを求めたらいいだろう?」
「だってロードはみんなと楽しそうに話してたから邪魔したら悪いと思ったの」
「だって、だってって言い訳ばかり。先輩達は酔っ払って絡んでたんだ。あのままあそこに居たらお前誰かに持ち帰られてたかもしれないぞ」
「持ち帰るって?」
よくわかんないことを言うロードにキョトンとした。
「あーー、もういい!ダリア、お前は今から俺の恋人、彼女だ!」
「へっ?なに、それ?」
いきなりの展開に頭がついていかない。
「ロード、大丈夫?かなりお酒を飲んでいたから変なことを言い出したのね?」
「違う!思ったんだ。お前にちゃんと好きな人ができるまで俺が虫除けになってやる!俺もいい加減うんざりしてたんだ。女達が仕事してても話しかけてくるし、仕事の邪魔でしかない」
「えっ?それって、恋人のフリ??」
「………うん、まぁ、そう言うことかな………………お前を放っておくと、いつ他の男に取られるか気が気じゃないしな」
ロードが小さな声でボソボソ言っていたけど聞き取れなかった。
そう、こうして一年前、わたしはロードの(偽)彼女になった。
彼女になって変わったこと。
次に会う約束が出来ること。
ーー今までは何か用事がないとロードには会えなかったもの。
休みを合わせて一緒にお出かけすること。
ーーロードが『ダリアの休みはいつ?』と聞いてくれる。そしてそれに合わせて仕事の休みをとってくれる。
知らない女の人から歩いているだけで声をかけられるようになった。
ーーこれはいい意味ではない。ほぼロードに好意を寄せている女性達。
「ブスのくせに!」とか
「ロードと昨日は一緒に過ごしたのよ」とか
「ロードの背中のほくろいくつあるか貴女は知ってるの?」とか
これは「わたしはロードと寝たことがあるのよ!」と言いたいのだろう。
わたしに意地悪く言ってくる。
ロードは確かにモテる。
(偽)恋人になるまでロードがどんな恋愛をしてきたのかはわからない。いくら同じ街で過ごしていてもたまに用事で会うことしかなかったもの。
「野菜が届いた」とか「村のみんなで会おう」とか、悲しいかな自分から用事を作らない限り同じ王都に居ても会えることなんてほとんどなかった。
だから(偽)恋人としては、今の幸せは仮のものなのだから。
どんな酷いことを言われても「はあ、そうですか……」と答えるしかなかった。
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