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痛い。
心が痛い。
付き合いだして数ヶ月。
彼の心はわたしにはない。わたしのことなんか好きじゃないのをわかっているのにいまだに諦めきれない。
いつもの彼なら約束の時間には来ていた。
いつもの彼なら「次はいつ会える?」と優しく聞いてくれた。
でも今の彼は「遅れてごめん」といいながらも、『心ここに在らず』と言う感じ。
そわそわと外を見ている。目の前にわたしがいるのに、店の外をみている。彼女の姿を探しているのだろうか。そろそろ彼女の仕事が終わる時間だものね。
大きな溜息をついた。だけど彼は気づきもしない。
飲みかけのコーヒーを一気に飲み干すと静かに席を立った。
それにすら気が付かない彼。
わたしはもう彼に声をかけることも出来ず、そっと店を出て行った。
その後のことなんて知らない。
家に帰ると一人暮らしの部屋はとても寂しい。
だけど、彼と一緒にいても寂しいのなら一人の方がマシなのかもしれない。
家の中を見渡す。彼との結婚を夢見て慎ましく生活していた。少しでも貯金を増やし結婚式を挙げたい。
なんの約束もまだしていないのに。バカな夢を見ていた。
もうそんな日は来ないのに。ううん、彼ももうここに来ることはないだろう。
彼の仕事はこの街の警備隊の騎士。
街を守るために働いている。
彼とは幼馴染でずっと一緒に育って来た。
わたしは彼が好きだった。ずっとずっと好きだった。
だから15歳の時に彼が騎士になるため村から出ると聞いた時、わたしも迷わず村を出てこの街で働くことに決めた。
わたしにとってはものすごく頑張った。人見知りのわたしが知らない世界に飛び込んだんだもの。
彼を追って村を出てきたと思っているのは自分だけ。だって街に来たのはわたしだけではないもの。他に何人もの同級生がこの街で就職していた。
わたしはただの幼馴染だった。
もちろん恋人でもなんでもないわたしは彼と一緒に暮らしているわけではなかった。
わたしは子爵家のメイドとして働きだした。
田舎の学校に通っていたわたしは字や計算は得意で勉強が好きだった。
だから村長さんが子爵家で働けるように紹介状を書いてくれた。
優しい旦那様と可愛い坊ちゃま。
仕事はやりがいがあってとても楽しい。
同僚達もみんな優しくて人見知りで人付き合いの苦手なわたしに優しく接してくれた。
わたしは本が好きで、学校の片隅にある小さな図書室に置いてあった本をいつも読んで過ごした。
全てと言っても数百冊くらいしか置いていない、小さな小さな名ばかりの図書室。
田舎の生活は自分で本を買えるほど豊かな生活ではない、貧しい暮らし。
だから学校を卒業して15歳になればみんなどこかに働きに行かなければいけない。
田舎にある町の商店のどこかの店で働くか、実家の農作業などの仕事を手伝うか、大きな街に出て働くか。
わたしの幼馴染の名はロード。
村では一番の男前で優しくて頭もいい。剣だって村一番だった。わたしの憧れの人だった。
ロードの家は村ではお金持ちだった。だから剣術も教わっていたし、平民なのに家庭教師もいておぼっちゃまだった。
そんなロードと幼馴染でいることが自慢だった。近所に住んでいたわたしは幼い頃はよく一緒に遊び、一緒に学校にも通った。人見知りのわたしが唯一安心して心を許せる友達だった。
彼とは兄妹みたいに育った。
わたしは彼に恋心が芽生えた……けど……ロードはわたしを妹のように思っていたのだと思う。
『ダリア、そこ危ない!気をつけて歩いて!』
『どこがわからない?ここ?仕方ないな、よく聞いて教えてあげるから』
『誰がダリアを泣かせた?ゆるさないから!』
『僕がダリアを守ってあげるからね』
わたしは守られてばかり。ちょっと鈍臭くておっちょこちょいで、人よりワンテンポ遅いわたしは揶揄われやすかった。
だからロードにとってわたしは恋愛対象外だったんだと思う。
12歳になって隣村の学校に通い始めた。わたしの仲の良い友人はロードと、同じ村の数人の女の子だけだった。
みんな隣村の学校に通い出すと、新しい友人を作り楽しい学校生活を送った。
わたしだけ……上手く友人を作れなくて村の友人達がいない時はいつもポツンと一人になってしまう。
ロードもそばにいない時は本ばかり読んで過ごした。
学校でロードが友達に囲まれている時わたしは一人図書室にこもってばかりいた。そして図書室からそんなロードを眩しそうに見るだけだった。
仲間外れにされているわけではない、馴れない人たちとどう接していいのかわからなくて、戸惑ってしまうので、それなら一人でいようと思ってしまう。
そんなわたしに気がついていつも優しく手を差し伸べてくれたロード。彼の優しさが好きだった。
わたしが大きなこの街で働くことを決めたのもロードが警備隊の騎士になると知ったから。
この街でロードの姿を遠くからでもみていたい。そう思っていたのに……ロードはわたしと付き合うようになった。
きっかけは……
たまたま……仕方なく?
ただ、女の子達が寄ってきて煩わしかったから?
ーーーよくわからない。
心が痛い。
付き合いだして数ヶ月。
彼の心はわたしにはない。わたしのことなんか好きじゃないのをわかっているのにいまだに諦めきれない。
いつもの彼なら約束の時間には来ていた。
いつもの彼なら「次はいつ会える?」と優しく聞いてくれた。
でも今の彼は「遅れてごめん」といいながらも、『心ここに在らず』と言う感じ。
そわそわと外を見ている。目の前にわたしがいるのに、店の外をみている。彼女の姿を探しているのだろうか。そろそろ彼女の仕事が終わる時間だものね。
大きな溜息をついた。だけど彼は気づきもしない。
飲みかけのコーヒーを一気に飲み干すと静かに席を立った。
それにすら気が付かない彼。
わたしはもう彼に声をかけることも出来ず、そっと店を出て行った。
その後のことなんて知らない。
家に帰ると一人暮らしの部屋はとても寂しい。
だけど、彼と一緒にいても寂しいのなら一人の方がマシなのかもしれない。
家の中を見渡す。彼との結婚を夢見て慎ましく生活していた。少しでも貯金を増やし結婚式を挙げたい。
なんの約束もまだしていないのに。バカな夢を見ていた。
もうそんな日は来ないのに。ううん、彼ももうここに来ることはないだろう。
彼の仕事はこの街の警備隊の騎士。
街を守るために働いている。
彼とは幼馴染でずっと一緒に育って来た。
わたしは彼が好きだった。ずっとずっと好きだった。
だから15歳の時に彼が騎士になるため村から出ると聞いた時、わたしも迷わず村を出てこの街で働くことに決めた。
わたしにとってはものすごく頑張った。人見知りのわたしが知らない世界に飛び込んだんだもの。
彼を追って村を出てきたと思っているのは自分だけ。だって街に来たのはわたしだけではないもの。他に何人もの同級生がこの街で就職していた。
わたしはただの幼馴染だった。
もちろん恋人でもなんでもないわたしは彼と一緒に暮らしているわけではなかった。
わたしは子爵家のメイドとして働きだした。
田舎の学校に通っていたわたしは字や計算は得意で勉強が好きだった。
だから村長さんが子爵家で働けるように紹介状を書いてくれた。
優しい旦那様と可愛い坊ちゃま。
仕事はやりがいがあってとても楽しい。
同僚達もみんな優しくて人見知りで人付き合いの苦手なわたしに優しく接してくれた。
わたしは本が好きで、学校の片隅にある小さな図書室に置いてあった本をいつも読んで過ごした。
全てと言っても数百冊くらいしか置いていない、小さな小さな名ばかりの図書室。
田舎の生活は自分で本を買えるほど豊かな生活ではない、貧しい暮らし。
だから学校を卒業して15歳になればみんなどこかに働きに行かなければいけない。
田舎にある町の商店のどこかの店で働くか、実家の農作業などの仕事を手伝うか、大きな街に出て働くか。
わたしの幼馴染の名はロード。
村では一番の男前で優しくて頭もいい。剣だって村一番だった。わたしの憧れの人だった。
ロードの家は村ではお金持ちだった。だから剣術も教わっていたし、平民なのに家庭教師もいておぼっちゃまだった。
そんなロードと幼馴染でいることが自慢だった。近所に住んでいたわたしは幼い頃はよく一緒に遊び、一緒に学校にも通った。人見知りのわたしが唯一安心して心を許せる友達だった。
彼とは兄妹みたいに育った。
わたしは彼に恋心が芽生えた……けど……ロードはわたしを妹のように思っていたのだと思う。
『ダリア、そこ危ない!気をつけて歩いて!』
『どこがわからない?ここ?仕方ないな、よく聞いて教えてあげるから』
『誰がダリアを泣かせた?ゆるさないから!』
『僕がダリアを守ってあげるからね』
わたしは守られてばかり。ちょっと鈍臭くておっちょこちょいで、人よりワンテンポ遅いわたしは揶揄われやすかった。
だからロードにとってわたしは恋愛対象外だったんだと思う。
12歳になって隣村の学校に通い始めた。わたしの仲の良い友人はロードと、同じ村の数人の女の子だけだった。
みんな隣村の学校に通い出すと、新しい友人を作り楽しい学校生活を送った。
わたしだけ……上手く友人を作れなくて村の友人達がいない時はいつもポツンと一人になってしまう。
ロードもそばにいない時は本ばかり読んで過ごした。
学校でロードが友達に囲まれている時わたしは一人図書室にこもってばかりいた。そして図書室からそんなロードを眩しそうに見るだけだった。
仲間外れにされているわけではない、馴れない人たちとどう接していいのかわからなくて、戸惑ってしまうので、それなら一人でいようと思ってしまう。
そんなわたしに気がついていつも優しく手を差し伸べてくれたロード。彼の優しさが好きだった。
わたしが大きなこの街で働くことを決めたのもロードが警備隊の騎士になると知ったから。
この街でロードの姿を遠くからでもみていたい。そう思っていたのに……ロードはわたしと付き合うようになった。
きっかけは……
たまたま……仕方なく?
ただ、女の子達が寄ってきて煩わしかったから?
ーーーよくわからない。
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