たろの短編や番外編。

たろ

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さよならのかわりに ブロアとセフィルの恋ーーあなたを愛していますーー

海の見える家。

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「潮風が気持ちいがいいわ」

 一人、ベランダに出て海を見下ろす。

 この街に来たのは偶然だった。

 お父様に追い出され先生のところに薬をもらいに行くと、その日泊まるように言われた。

 そこにいた患者さんが明日退院して国に帰ると言う。海の見える屋敷に住むエイリヒさんと娘のミリナちゃんを紹介してもらった。

 エイリヒさんはエイリヒ商会の当主でいろんな国を回っているらしい。今回はたまたま近い国をまわるのでミリナちゃんも連れていたら、ミリナちゃんが高熱で倒れせんせいが診て一週間ほど入院をしていた。

 やっと退院ができて国に帰るとのことで、まだ完治はしていないのもありミリナちゃんのためにゆっくりと国へ向かう彼らに、ついて行けばいいのではとわたくしは紹介してもらった。

 そこにはもちろん先生もついてきてくれた。エイリヒさん達は先生も一緒だと聞いてとても喜んでいた。

 愛娘がまた体調を崩したらと心配していたらしい。流石に商会の仕事も詰まっていてこれ以上この国に留まることもできず、帰るしかないと決断したところだったのでわたくしが加わることはむしろ喜んでもらえた。

 共に旅をしていてとても気さくで優しいエイリヒさんと人懐っこいミリナちゃん達と仲良くなったわたくしはしばらくエイリヒさんの屋敷でお世話になることになった。

 旅の疲れかわたくしもミリナちゃんも高熱を出して二人して先生のお世話になってしまった。

 ミリナちゃんは数日ですっかり元気になったのだけどわたくしはなかなかベッドから起き上がることができなかった。

 そのためしばらく先生と二人ご厄介になることになった。

 そして気がつけばサイロとウエラもこの屋敷に現れたのだ。

 何も伝えていなかったはずなのに…追い出された時二人は(無理やり)休暇を言い渡されていてわたくしのそばにいなかった。

 わたくしも何も伝えるつもりはなく二人に今までの感謝だけを手紙に書き残し去った。
 でも二人はわたくしのことを探してここに辿り着いた。

 二人はかなり疲れ果てて……

「まぁ!お二人はブロアさんのお知り合いなんですね?ぜひゆっくり過ごしてください!」

 ミリナちゃんは二人に興味津々、新しいお客様に喜んでくれて二人とも仲良く散歩に行ったり街に出かけたりしていた。

 もうわたくしの使用人ではない。二人は友としてそばにいてくれた。

「ブロア様……そばに居させてください」
 二人はわたくしが何を言っても帰ろうとはしなかった。仕事はやめてきた、貯金はあるのでしばらく働かなくても大丈夫だから、わたくしと共にいたいのだと言ってくれた。

 わたくしにはもう家族はいない……だけど二人がわたくしの家族として死ぬまで過ごしてくれる。もうそれだけで十分…….生きてきてよかったと思える。
 わたくしは残念ながらこの国に来てからあまり体調が良くなくてベッドで過ごすことが増えた。

 みんながいなくなった静かな時間、ベランダから見える海を眺めるのが今は唯一の楽しみ。

 先生はわたくしの治療薬を完成させるんだと頑張ってくれている。

「先生、お歳なんだから無理しないで……もうわたくしは十分幸せなのです」

 そう言うと悲しそうに「わたしより先に死ぬな、死ぬのにも順番がある、ブロア様は必ず助ける」と言ってくれる。

 わたくしのもう一人の大切な家族……

 死ぬことがわかってから大切な人が増えた。本当はもう大切な人なんて作りたくなかったのに……ミリナちゃんの愛らしい笑顔をわたくしの死によって曇らせるのは気の毒で……

「サイロ、ウエラ、わたくしそろそろこの屋敷を出てどこか海の見える家に引っ越しをしたいと思っているの……二人はついてきてくれるかしら?わたくし……もう一人で歩くことも出来なくなってきたわ……迷惑をかけるけどあと少しわたくしと共に過ごして欲しいの」

「どこまでもついて行きますよ。お嬢は寂しがりなんですから……でもミリナちゃんは理解しています、理解していてブロア様と過ごしたいと思っています……彼女の気持ちも考えてあげてください」
 サイロは少し怒っていた。

「わたしもミリナちゃんがブロア様の前では必死で明るく過ごしているのを見ていて涙が出そうです。ミリナちゃんは10歳ながらにお母さんの死を経験しています、ブロア様の体調も理解してそれでも笑っています……そんなミリナちゃんを置いて出て行くのは絶対ダメです!」

「ミリナは知っているのね………わたくしはミリナにまで気を遣わせて……ダメな大人ね……」

「そんなことないです!ミリナちゃんが言ってました。お父さんは仕事が忙しくていつも一人でお留守番なのだと。使用人達がたくさんいてくれるから寂しくはないけど、ブロア様がいてくれるとそれだけで安心するのだと、家族のように思えるのだと言ってました」

「ミリナちゃんにわたくしの最期を見せたくないと思ったの……だけど……少しでも元気で……ミリナちゃんと笑って過ごしたいわ」




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