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33話 ファーラ編

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 ティアが離縁することを親に伝えなければいけない。

 最近随分と体調を取り戻したお父様。公爵としての仕事にも復帰して始めは大人しくしていたのに……

 やはり元の性格は変わらない。


「ファーラ貴様、ステラをあんな何もない領地へ追いやってくれたな!なんて酷いことをしてくれたんだ」

「もうこちらにお戻りになっているでしょう?元気そうでなによりですわ。そろそろ約束通り公爵の座を退いてお二人で領地でごゆっくりお過ごしくださいませ」

「ふざけるな!そんな約束はもう反故だ!お前が出て行け!」

「あら?良いのですか?わたしが公爵代理の間に貴方が今まで隠してきた裏帳簿、どこにあると思っているのですか?」

 お父様はその言葉に顔を青くして重たい机を引き摺って動かした。
 床に這いつくばり板を一枚外すと中を除く。

「ない!ファーラ!どこにやったんだ!あれがもし誰かの手に渡ればわたしだけではない、この公爵家自体の存続にもかかわるんだぞ!」

 顔を真っ赤にして怒鳴り上げるお父様。

 わたしはこの人の何が怖かったのかしら?
 愛情を欲したことも確かにあった。

 殴られたり怒鳴られたり、その度に心は折れていった。

 そしてわたしに掴み掛かり襟首を掴んだ。

 ーーあ、殴られる。
 目を瞑って殴られる覚悟をした。

「ぐっふぁ」

 目を開けると……
 お父様の顔が……鼻から血が出て赤くなっていた。

 振り返るとそこにはフランク様とクロードがいた。

「ほんと無茶しすぎだろう?」
 クロードが呆れながらお父様をもう一発殴った。

「ごっほぉ」
 ーーうんかなり痛そう。

「クロード、こんな奴でもまだ一応公爵様なんだ。暴力はダメだよ」

 そう言いながらフランク様は足で転がっていたお父様のお腹を蹴り上げた。

「ぐえっ」

「あ、そんなところにまだ居たんですね」
 フランク様は爽やかな笑顔でお父様に言った。

「貴様ら、何をするんだ!どうなるのかわかっているのか?」

「貴方はもうすぐ捕まりますよ」

「はっ?わたしが捕まる?何をしたと言うんだ」

「裏帳簿……」
 わたしがボソッと言うと、ハッとした顔をしてわたしを睨み怒鳴り出した。

「貴様、あれをどこへやったんだ?」

「……財務大臣をしているお母様の従兄弟のおじ様に?」
 わたしはにこりと微笑んだ。

「ふ、ふざけるな!そんなことをすればお前だって自滅するんだぞ」

「ティアが貴方達を選ぶなら少しだけ様子をみようかと思っていました。でもティアは貴方達を選ばなかった。………そのあと………わかったことがあります。
 貴方はわたしを使い捨てにしようと画策していましたよね?貴方がバレそうになっている美術品の贋作の売買や水増しされた助成金の受け取り、全てわたしの所為にして罪をわたしになすりつけるつもりでしたよね?」

「ち、違う、わたしはそんなつもりはなかった……」

「わたしはこの一年、公爵代理の仕事をしながら貴方の罪の証拠も集めて来ました、でもまさかわたしに罪を着せようとするなんて……」

「くそっ、せっかく優しくしてやったのに、恩を仇で返しやがって」

「お父様、違いますわ。今までされた事をお返しして差し上げただけですわ。ふふ、そうそう、貴方の愛する妻もご一緒に捕まることになりますから仲良く牢の中でもお過ごしください」

「ステラが何をしたと言うんだ?」

「わたしのお母様に毎日のように素敵なお手紙を送って下さっていたみたいですね。そのおかげでお母様は自殺に追い込まれたんです」

「は?どう言うことだ?」

「もうすぐ騎士団がやって来ます。その間の少しの時間ですがどうぞお読みください」



『貴女の夫はわたしだけを愛しています』
『わたしを抱く時毎回愛していると囁いてくれます』
『わたしの娘はティアだけ、いつもそう言ってくれます』
『貴女の所為で結婚できなかった。死ねばいい、消えてなくなれ』
『今夜もわたしとティアと三人仲良く過ごしました。幸せな時間を私たち親子に頂いてありがとうございます』
『貴女さえいなければ…』
『まだ生きているのですか?貴女に生きる価値はありますか?』
『そろそろ死んでは如何ですか?』
『愛されないで生き続けることは虚しいこと。恥ずかしくはありませんか?』



「これは……?まさかステラが?」

「あら?お父様、ご存知なかったのですか?お父様が書かせたのかと思っていましたわ。この手紙は……お母様がわたしに渡すようにと弁護士さんに預けていたそうです。
 わたしが公爵の名を継ぐことがわかったので渡されました。
 この手紙を全て読んだ時のわたしの気持ちがわかりますか?領地で夫婦二人静かに暮らさせようなんて甘いこと考えたわたしがバカでしたわ」

「ステラは心優しい女性だ。お前の母親のように冷たい傲慢な女じゃない」

「この手紙を読んでもそう思うなら貴方の頭もお花畑なのでしょうね」




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