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25話 それぞれの使用人達の思い。
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わたしはファーラ様を幼い頃からを知っている。
準男爵の娘として生まれ、貧しい生活の中、侯爵家で12歳で侍女見習いとして働き始めた。
学校へ通いながら働くことはとても大変だった。
それでも可愛らしいファーラ様のお世話は心癒された。
精神的に病み娘を愛さない奥様。愛人に夢中で家族を顧みない旦那様。
いつも寂しそうに過ごしているファーラ様に少しでも笑って欲しくて頑張ってお世話をした。
わたしに懐いてくださるファーラ様が唯一のわたしの癒しになり誠心誠意仕えたいと思っていた。
なのに奥様はファーラ様の目の前で自殺した。
ファーラ様は精神が不安定になり部屋から出てこない日々が続いた。なのに旦那様は全く娘を思いやることもなかった。
わたし達使用人はずっとファーラ様を心配したが見守るしかなかった。
そんな中旦那様は喪も明けていないのに、愛人のステラ様と娘のティア様を屋敷に連れ込んだ。
「この二人はわたしの大事な家族だ。大切に扱え」
「あ、あの、ファーラ様が落ち込んで部屋から出てこられません。心配なのですが……」
侍女長と執事の訴えに返した冷たい言葉。
「何を我儘をさせているんだ、無理やり部屋から引き摺り出してこい。鞭でも打てば我儘もなくなるだろう」
「大丈夫です。旦那様はぜひお二人を大切してください」
みんな旦那様の独裁的な考えをわかっていた。それでも母親を亡くした娘に多少は愛情があると思っていた。
なのに愛情などなかった。
叩いたり殴ったり。無理矢理まだ10歳過ぎの娘に仕事をさせたり。
だけど誰も止めることもファーラ様を助けることもできなかった。
かと言って辞めて仕舞えば、ファーラ様を助けることができなくなる。
みんなグッと堪えて仕事をした。
旦那様や奥様の言いつけ通りに、ファーラ様の食事は質素で貴族令嬢のものではない。
学校も使用人が使う馬車に乗せた。
だけどわたし達は隠れてファーラ様を守った。
こっそり食事を差し入れて、屋根裏部屋には暖かい寝具をバレないように持ち込んだ。傷の手当てもしっかりとして、使用人用の馬車も少しでも乗り心地がいいように古いクッションを作り直して、座り心地の良い座席にした。
わたしが許せなかったのは露骨に酷いことをする両親よりも、そんなことに気が付かない脳内花畑のティア様だった。
悪意などこの世にないと思い込み、ファーラ様も幸せに暮らしていると疑わない。
どう見たって痩せこけて疲れ切っているファーラ様、そんなファーラ様をどこを見れば幸せだと思えるのだろうか?
あんな酷い言葉を浴びせているのにお父様はお優しい人だと思い込んでいるティア様。
見ているだけでイライラする、ファーラ様がどんな辛い目に合っているのか分からせてやりたい。全てぶちまけてその幸せそうな顔を絶望の顔に変えてやりたい。
そんな時たまたまチャンスが訪れた。
旦那様が倒れて寝込んだ。ファーラ様は公爵家の仕事を全て任されて家令や執事達といつもバタバタ仕事をしていた。学業も忙しいのにどんなに大変なことか。
それなのに脳内花畑のティア様はいつも通り、のほほんと過ごしていた。
「お父様、大丈夫かしら?」
「お義姉様、お忙しそうね」
ほんと、この馬鹿、目の前から消えて欲しい。
そんな時、フランク様と抱き合っているところをファーラ様が見てしまった。
傷つき涙するファーラ様。フランク様はなんであんな馬鹿娘を庇うのか。
馬鹿娘は怪我をして歩けない。適当にしておいてと言われたので、部屋から出さないと決めた。
部屋から出なければファーラ様を煩わせない。
食事はファーラ様が食べていたものを与えた。
もちろんファーラ様は私たちが差し入れしていたからそこまで痩せこけることはなかった。
だけどティア様には誰も差し入れをしようとはしなかった。
ついでにわたし達はファーラ様のものを隠した。ティア様のせいにするために。
そしてほんの少しファーラ様を後ろから押した。怪我をさせてしまって後悔したがこれもティア様のせいにした。
全てティア様を悪人にするため。
そして何故かフランク様とティア様の婚約の話が上がった。
それぞれの屋敷で働く使用人同士にも仲の良い関係や繋がりはある。
フランク様と婚約していた侯爵家の使用人とわたしが働く公爵家の使用人はそれぞれお互い顔見知りで親しくしていた。
そこで一番古い使用人である執事から教えてもらったのがフランク様の病気のこと、義弟がいてフランク様になっているということだった。
準男爵の娘として生まれ、貧しい生活の中、侯爵家で12歳で侍女見習いとして働き始めた。
学校へ通いながら働くことはとても大変だった。
それでも可愛らしいファーラ様のお世話は心癒された。
精神的に病み娘を愛さない奥様。愛人に夢中で家族を顧みない旦那様。
いつも寂しそうに過ごしているファーラ様に少しでも笑って欲しくて頑張ってお世話をした。
わたしに懐いてくださるファーラ様が唯一のわたしの癒しになり誠心誠意仕えたいと思っていた。
なのに奥様はファーラ様の目の前で自殺した。
ファーラ様は精神が不安定になり部屋から出てこない日々が続いた。なのに旦那様は全く娘を思いやることもなかった。
わたし達使用人はずっとファーラ様を心配したが見守るしかなかった。
そんな中旦那様は喪も明けていないのに、愛人のステラ様と娘のティア様を屋敷に連れ込んだ。
「この二人はわたしの大事な家族だ。大切に扱え」
「あ、あの、ファーラ様が落ち込んで部屋から出てこられません。心配なのですが……」
侍女長と執事の訴えに返した冷たい言葉。
「何を我儘をさせているんだ、無理やり部屋から引き摺り出してこい。鞭でも打てば我儘もなくなるだろう」
「大丈夫です。旦那様はぜひお二人を大切してください」
みんな旦那様の独裁的な考えをわかっていた。それでも母親を亡くした娘に多少は愛情があると思っていた。
なのに愛情などなかった。
叩いたり殴ったり。無理矢理まだ10歳過ぎの娘に仕事をさせたり。
だけど誰も止めることもファーラ様を助けることもできなかった。
かと言って辞めて仕舞えば、ファーラ様を助けることができなくなる。
みんなグッと堪えて仕事をした。
旦那様や奥様の言いつけ通りに、ファーラ様の食事は質素で貴族令嬢のものではない。
学校も使用人が使う馬車に乗せた。
だけどわたし達は隠れてファーラ様を守った。
こっそり食事を差し入れて、屋根裏部屋には暖かい寝具をバレないように持ち込んだ。傷の手当てもしっかりとして、使用人用の馬車も少しでも乗り心地がいいように古いクッションを作り直して、座り心地の良い座席にした。
わたしが許せなかったのは露骨に酷いことをする両親よりも、そんなことに気が付かない脳内花畑のティア様だった。
悪意などこの世にないと思い込み、ファーラ様も幸せに暮らしていると疑わない。
どう見たって痩せこけて疲れ切っているファーラ様、そんなファーラ様をどこを見れば幸せだと思えるのだろうか?
あんな酷い言葉を浴びせているのにお父様はお優しい人だと思い込んでいるティア様。
見ているだけでイライラする、ファーラ様がどんな辛い目に合っているのか分からせてやりたい。全てぶちまけてその幸せそうな顔を絶望の顔に変えてやりたい。
そんな時たまたまチャンスが訪れた。
旦那様が倒れて寝込んだ。ファーラ様は公爵家の仕事を全て任されて家令や執事達といつもバタバタ仕事をしていた。学業も忙しいのにどんなに大変なことか。
それなのに脳内花畑のティア様はいつも通り、のほほんと過ごしていた。
「お父様、大丈夫かしら?」
「お義姉様、お忙しそうね」
ほんと、この馬鹿、目の前から消えて欲しい。
そんな時、フランク様と抱き合っているところをファーラ様が見てしまった。
傷つき涙するファーラ様。フランク様はなんであんな馬鹿娘を庇うのか。
馬鹿娘は怪我をして歩けない。適当にしておいてと言われたので、部屋から出さないと決めた。
部屋から出なければファーラ様を煩わせない。
食事はファーラ様が食べていたものを与えた。
もちろんファーラ様は私たちが差し入れしていたからそこまで痩せこけることはなかった。
だけどティア様には誰も差し入れをしようとはしなかった。
ついでにわたし達はファーラ様のものを隠した。ティア様のせいにするために。
そしてほんの少しファーラ様を後ろから押した。怪我をさせてしまって後悔したがこれもティア様のせいにした。
全てティア様を悪人にするため。
そして何故かフランク様とティア様の婚約の話が上がった。
それぞれの屋敷で働く使用人同士にも仲の良い関係や繋がりはある。
フランク様と婚約していた侯爵家の使用人とわたしが働く公爵家の使用人はそれぞれお互い顔見知りで親しくしていた。
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