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20話
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「ティア、勝手にフランクのところへ行ったそうだな」
クロード様がわたしの部屋に来て、とてもお怒りだった。
「ごめんなさい……心配だったのです」
「……俺が酷いことをしていると思っていたんだろう?」
「うっ……ちょっとだけ…確かめたかったんです、この目で」
「生きているのか?死んでいるのか?」
「死んでいるとは思っていませんでした。ただ体調が悪いと言うのがどのくらいなのか……」
「で、どう思ったんだい?」
クロード様は呆れたような顔をしてわたしを見た。
「わたし……少しでも看護をしてはいけませんか?あそこは人があまり居なくて寂しすぎます」
「……知られるわけにはいかないんだよ。俺とフランクが入れ替わっていることを」
「だけどクロード様はこの屋敷で使用人として雇われていたのですよね?どうしてそんなに似ているのに今まで誰にもバレなかったのですか?」
「そんなの決まっているだろう。誰にも会わない場所で働かされていたからさ。もちろん髪の毛も染められたし眼鏡もかけていたしね」
「どんな場所で?」
「ずっと……ゴミ係だよ。誰もいない時間にゴミを集めて……それを処理する。もちろん汚物とかもね。使用人の中でも一番嫌がられる仕事を何年もさせられたよ」
「……酷い……お爺さんは…助けてはくれなかったんですか?」
ーーあっ、思わずお爺さんの名前を出して口を綴じた。
「君がお祖父様と仲がいいのはわかっているよ」
「………ですよね?」
ーー知らないわけないわよね。
「あの人にはなんの力もないよ。父上よりも義母の方が家格も上だし義母に逆らえる人はいなかったからね」
「そうなんだ……だから……」
ーーでも今は領地に追いやられているのでは?
「君ってよく顔に出るよね?素直なのはいいけど貴族令嬢としては失格だね。ファーラは顔色を変えることがないから君には彼女の気持ちなんて全くわからなかっただろう?」
「………はい」
ーー何も言い返せない。わたしはいつも自分が幸せだから周りもみんな幸せなんだと思っていた。ううん、周りのことなんて考えていなかった。
だって、誰かが不幸でいるなんて思ったこともないもの。
「父上と義母が領地へ行ったのはもちろんあの二人の弱みを握ったからさ。有無を言わせず領地送りさ。今はフランクが侯爵当主を受け継いでいるんだ。だからティア、君は侯爵夫人なんだよ」
「でも……貴方はフランク様ではないわ。ずっとフランク様として生きるの?クロード様はいなくなってもいいのですか?」
「クロードなんて最初っからどこにもいないよ。ずっといない者として扱われてきたんだ」
「そんなことない……わたし離れに住んでいる時……見つけたんです……たぶんお母様の日記なんだと思います」
わたしはクロード様に手渡そうと思って離れから持ってきていた。
ただ、夜わたしの部屋に来られるのはちょっと、かなり、抵抗があるのでいつ渡そうかと考えていたところだった。
「母の日記?そんなもの書いているなんてあり得ないよ。見たことない」
「台所の棚に隠すように仕舞ってました」
「見せて」クロード様は日記をパラパラとめくり少しだけ読むと「母の字だ」と呟いた。
「わたし……少ししか読んでいません、あ、勝手に読んでごめんなさい。でもそこには息子への愛情がたくさん込められています」
「だけど……一度も俺の名を書いていないよね?」
クロード様は日記をめくりながらずっと文字を追っていた。
「それは……お爺さんが言っていました。クロード様の名を呼ぶとクロード様は義母のガレット様に折檻されると。だから名を呼ぶのをやめたと。それはお爺さんも貴方のお父様もみんな貴方を守るためだったと……」
「そんなの言い訳だよ、俺の名はここでは消えてなくなったんだ」
「でもその日記にはたくさんの愛情が……」
『あの子が今日お花を摘んでプレゼントしてくれた』
『お喋りが上手になって素敵な話し相手になってくれているわ』
『熱が下がらない。なんとかしなきゃ』
『とても頭のいい子で自分の立場をわかってくるている。ごめんなさい、わたしのせいで辛い思いをさせて』
『愛しているわ、いつも苦労をかけてごめんね』
『10歳の誕生日おめでとう、生まれてくれてありがとう』
たくさんの言葉を残している。わたしはこれが誰のものなのか、誰に書かれたのかわからなかったけど、この人に会った時クロード様だとわかった。
だって本当はとても優しい人だもの。
領地に追いやったのは父親と義母だけ。
お爺さんには何もしていないし、フランク様にも手厚い看護をしてあげていることがわかった。
ただ秘密を守らなければいけない、だから最低人数だけの使用人しか置いていなかっただけ。今も治そうと薬を探して回っているのも本当だと思う。
フランク様は言った。
「クロードがごめんね……全て悪いのは僕なんだ」と。
クロード様がわたしの部屋に来て、とてもお怒りだった。
「ごめんなさい……心配だったのです」
「……俺が酷いことをしていると思っていたんだろう?」
「うっ……ちょっとだけ…確かめたかったんです、この目で」
「生きているのか?死んでいるのか?」
「死んでいるとは思っていませんでした。ただ体調が悪いと言うのがどのくらいなのか……」
「で、どう思ったんだい?」
クロード様は呆れたような顔をしてわたしを見た。
「わたし……少しでも看護をしてはいけませんか?あそこは人があまり居なくて寂しすぎます」
「……知られるわけにはいかないんだよ。俺とフランクが入れ替わっていることを」
「だけどクロード様はこの屋敷で使用人として雇われていたのですよね?どうしてそんなに似ているのに今まで誰にもバレなかったのですか?」
「そんなの決まっているだろう。誰にも会わない場所で働かされていたからさ。もちろん髪の毛も染められたし眼鏡もかけていたしね」
「どんな場所で?」
「ずっと……ゴミ係だよ。誰もいない時間にゴミを集めて……それを処理する。もちろん汚物とかもね。使用人の中でも一番嫌がられる仕事を何年もさせられたよ」
「……酷い……お爺さんは…助けてはくれなかったんですか?」
ーーあっ、思わずお爺さんの名前を出して口を綴じた。
「君がお祖父様と仲がいいのはわかっているよ」
「………ですよね?」
ーー知らないわけないわよね。
「あの人にはなんの力もないよ。父上よりも義母の方が家格も上だし義母に逆らえる人はいなかったからね」
「そうなんだ……だから……」
ーーでも今は領地に追いやられているのでは?
「君ってよく顔に出るよね?素直なのはいいけど貴族令嬢としては失格だね。ファーラは顔色を変えることがないから君には彼女の気持ちなんて全くわからなかっただろう?」
「………はい」
ーー何も言い返せない。わたしはいつも自分が幸せだから周りもみんな幸せなんだと思っていた。ううん、周りのことなんて考えていなかった。
だって、誰かが不幸でいるなんて思ったこともないもの。
「父上と義母が領地へ行ったのはもちろんあの二人の弱みを握ったからさ。有無を言わせず領地送りさ。今はフランクが侯爵当主を受け継いでいるんだ。だからティア、君は侯爵夫人なんだよ」
「でも……貴方はフランク様ではないわ。ずっとフランク様として生きるの?クロード様はいなくなってもいいのですか?」
「クロードなんて最初っからどこにもいないよ。ずっといない者として扱われてきたんだ」
「そんなことない……わたし離れに住んでいる時……見つけたんです……たぶんお母様の日記なんだと思います」
わたしはクロード様に手渡そうと思って離れから持ってきていた。
ただ、夜わたしの部屋に来られるのはちょっと、かなり、抵抗があるのでいつ渡そうかと考えていたところだった。
「母の日記?そんなもの書いているなんてあり得ないよ。見たことない」
「台所の棚に隠すように仕舞ってました」
「見せて」クロード様は日記をパラパラとめくり少しだけ読むと「母の字だ」と呟いた。
「わたし……少ししか読んでいません、あ、勝手に読んでごめんなさい。でもそこには息子への愛情がたくさん込められています」
「だけど……一度も俺の名を書いていないよね?」
クロード様は日記をめくりながらずっと文字を追っていた。
「それは……お爺さんが言っていました。クロード様の名を呼ぶとクロード様は義母のガレット様に折檻されると。だから名を呼ぶのをやめたと。それはお爺さんも貴方のお父様もみんな貴方を守るためだったと……」
「そんなの言い訳だよ、俺の名はここでは消えてなくなったんだ」
「でもその日記にはたくさんの愛情が……」
『あの子が今日お花を摘んでプレゼントしてくれた』
『お喋りが上手になって素敵な話し相手になってくれているわ』
『熱が下がらない。なんとかしなきゃ』
『とても頭のいい子で自分の立場をわかってくるている。ごめんなさい、わたしのせいで辛い思いをさせて』
『愛しているわ、いつも苦労をかけてごめんね』
『10歳の誕生日おめでとう、生まれてくれてありがとう』
たくさんの言葉を残している。わたしはこれが誰のものなのか、誰に書かれたのかわからなかったけど、この人に会った時クロード様だとわかった。
だって本当はとても優しい人だもの。
領地に追いやったのは父親と義母だけ。
お爺さんには何もしていないし、フランク様にも手厚い看護をしてあげていることがわかった。
ただ秘密を守らなければいけない、だから最低人数だけの使用人しか置いていなかっただけ。今も治そうと薬を探して回っているのも本当だと思う。
フランク様は言った。
「クロードがごめんね……全て悪いのは僕なんだ」と。
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